2024年1月4日から連続2クールで放送されているアニメ『ダンジョン飯』。シリーズ累計発行1000万部超の人気を誇る漫画が原作です。
『ダンジョン飯』はその名の通り、ダンジョン×グルメジャンルの作品です。九井諒子による原作漫画は2023年に完結し、一貫したテーマを描き切ったラストに絶賛の声が集まっています。
しかもアニメ制作は、『SSSS.GRIDMAN』や『プロメア』などで知られる、高いクオリティのアニメーション表現を追求するアニメスタジオ・TRIGGERが担当しています。アニメ化でさらに盛り上がりを見せるだろう、この世紀の傑作。その魅力をご紹介します。
冒険ファンタジーは古今東西の定番で、なかでもダンジョンに潜って冒険をする作品の数は膨大です。『メイドインアビス』や『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』など、近年の人気作だけでも挙げていけば枚挙にいとまがないほど。
異世界を舞台にダンジョンの踏破に挑む冒険者を描いた『ダンジョン飯』は、ファンタジー作品としてはなんら珍しくはありません。『ダンジョン飯』の異色さは、ジャンルのかけ合わせにあります。
冒険ファンタジーと並ぶ定番にして、あらゆるジャンル・あらゆる表現形式において人気を誇るのが「グルメもの」です。説明は不要だとは思いますが、古今東西グルメジャンルは王道で、近年でも『孤独のグルメ』『きのう何食べた?』『舞妓さんちのまかないさん』など、実写でも漫画・アニメでも鉄板の人気を誇ります。
グルメジャンルの中でも変わり種だと、狩猟やジビエを扱った『山賊ダイアリー』や『クマ撃ちの女』、自らのペットを題材にした特殊な実録グルメ漫画『アタマの中のアレを食べたい』などが挙げられます。その中でも“異世界で魔物を倒しそのまま調理して食べる”というぶっ飛んだ設定の『ダンジョン飯』は、その極地だと言えるでしょう。
魔物は、“歩き茸”のような「そりゃ美味いだろうな」というものから、“動く鎧”のような「そんなもの食えるの?」というものまで多種多様です。それらを、様々な方法で調理し、活路を切り開いていきます。
『ダンジョン飯』では、「冒険要素」と「グルメ要素」が、ダンジョンに挑むために栄養のある魔物たちを調理して力をつけなければならないという強い必然性で結び付けられています。
ダンジョンを進むために空腹度に気をつけてちゃんとお腹を満たす、というのはいわゆるローグライト系のゲームでも馴染みのある要素です。しかしゲームでも珍しいゲテモノ料理をモチーフにした『ダンジョン飯』の発想は秀逸でしょう。
さっきまで目の前で行く手を阻んでいた魔物たちが、細やかな調理の工程を経て、自分たちに養分を提供してくれる美味しそうな(グルメ漫画なので、ここが重要です)料理に姿を変える。その様は、素朴な驚きをもたらしてくれます。
いかに美味そうにゲテモノ料理をアニメで描くか、この点においてTRIGGERという圧倒的クオリティを誇るアニメスタジオの技術が生きています。
物語は、主人公・ライオスの妹であるファリンが、ダンジョンでの冒険中にレッドドラゴンに食べられてしまうところから始まります。
特別な魔法がかけられて魔力が充満するダンジョンでは死んだ者も蘇生できるのですが、ドラゴンの胃の中で完全に消化されてしまえばそれも不可能になります。
そのため、一度は魔法でダンジョン外に脱出したライオスは急ぎ妹を救出に向かうのですが、手持ちの資金も底を尽きていました。
前提として、ダンジョンに潜るには武具や食料、薬などを用意して挑む必要があります。先立つものがない一行は、ライオスの唱えた「迷宮内で自給自足する」という愚挙に付き合う羽目に。
大事な妹を失ってしまった、というストーリーのきっかけは、ともすれば悲壮感を漂わせてしまいかねません。しかし、『ダンジョン飯』は全体としてコメディ調で、ライオスら一行は緊迫感は持ちつつも、その旅自体を楽しんでもいるため、シリアスパートもありますがその多くは軽快で楽しい旅路にもなります。
面白いのは、魔物好きのライオスが序盤から覗かせる真っ直ぐな欲望でしょう。「ダンジョンを踏破して妹を助けるために、仕方なく魔物を食い繋ぎながら冒険する」という建前を、「それはそれとして魔物が好きすぎてどんな味がするのか興味を隠しきれない」という本音が食い破る瞬間が多々あります。
ライオスが心の内を明かす「ずっと黙っていたが俺は魔物が好きだ 姿や鳴き声 どんな生態をしてるのか」はまだわかるとして、「そのうち味も知りたくなった」への飛躍についていける人はそう多くないでしょう。
それは『ダンジョン飯』の世界でも同じで、ごく普通の感覚を持っているメンバーは、当たり前ですが魔物を食べる行為を嫌がります。しかし、同じくファリンを救いたい一心で、渋々ライオスに同道します。このバランスも巧みで、ライオスに感情移入できない多くの視聴者を代弁してメンバーたちが「こいつはサイコパスだ!」とツッコミを入れてくれるのです。
ライオスの魔物への執着(と人への関心のなさ)は物語の重要な鍵でもあり、アニメが放送されている現在、特に海外からそのサイコパスさが不気味がられるなど様々な反響を呼んでいます。
グルメものであるという以上の、「食」へのこだわりが、『ダンジョン飯』の作品の強度に深く関わっています。
ファリンが食べられる以前から文献などで魔物の調理法や味を調べていたライオスですが、しょせんは机上の空論。実際に魔物を調理して10年以上生活してきたという“魔物食”のエキスパートであるドワーフのセンシが合流し、実践的な料理を教えてくれることに。
恐ろしい姿の魔物であっても実に美味しそうな料理になるまでの工程が、視聴者は誰ひとりその料理を再現できないにも関わらず、丁寧に詳細に描かれます。
魔物ごとの生態と、それに照応する食材としての特性。それらを描写するためには、背景にある物語の世界観がしっかり確立されていることが前提条件です。『ダンジョン飯』のつくり込まれた世界観と、そのもとで描かれる魔物の生態は、原作漫画の巻末コーナー「モンスターよもやま話」でも垣間見ることができます。
そして「ダンジョン飯。それは、“食う”か“食われる”か──そこには上も下もなく、ただひたすらに食は生の特権であった」というキャッチコピーこそが、この作品のテーマすべてを表しています。
前述の通り、そもそも妹がドラゴンに食われたところから物語が始まります。しかもそれも、罠にかかって数日間の食料を失いパーティ全員が空腹だったためうまく力を発揮できなかったのが原因でした。
「食は生の特権である」というメッセージは、実はなかなかにシビアな意味を含有しています。月並みな言い方をすれば、いわゆる「弱肉強食」でもあります。冒険の途上で生物対生物として対峙した際、生き残っていたほうが相手を食する権利を得られるわけですから。
現実世界では、食物連鎖からほとんどはみ出した存在として私たち人間は君臨しています。しかし『ダンジョン飯』では、勝てばその生物を自らの糧にできる一方、人間だって負ければ自然の生態系の中で魔物たちに捕食されるのです。
『ダンジョン飯』がその冒険を通して描いているのは、命が巡る営みを、やや人間性や倫理に欠けるライオスという視点を通すことで、むしろ余計なバイアスを抜きにとてもニュートラルに(ある意味冷徹に)見つめるという非常に骨太なテーマなのです。
同時に、「食」と呼応する重要なもう1つのテーマがあります。作中、シンプルながらある哲学が冗談めかして唱えられます。それは、強くなるために必要な3原則です。
「まず食生活の改善!! 生活リズムの見直し!! そして適切な運動!!」
普通のことすぎて拍子抜けするでしょうか。そう、私たちの現実世界でもしばしば耳にする、最も基本的な健康法と全く同じです。ある種の素朴な肉体礼賛ですが、しかし翻って考えると、それだけが過酷な自然の中で生き物が生存するための唯一の理だとも言えます。しばしば指摘されている通り、この点において、『ダンジョン飯』は自分の心身の健康と向き合う“セルフケア”の問題を扱っている作品であるということでもあります。
ネタバレになってしまうので詳細は明かしませんが、レッドドラゴンに食べられてしまったファリンを助けるために、彼らはその道中で試行錯誤し続けてきた「食」という行為と、あるセンセーショナルな形で向き合うこととなります。
食べることは生きるために必要不可欠な行為であると同時に、当然ですが最も代表的な“欲望”でもあります。彼らはファリンを助けるために、「自分が本当は何を望んでいるのか」という根源的な欲求に向き合うこととなります。それもまた、セルフケアの重要な一歩なのです。
そもそも物語が進むに連れて明らかになっていく通り、このダンジョンそのものが欲望との向き合い方を冒険者に問いかける構造となっているのですが、果たしてこの壮大なテーマがアニメでどのように描かれるのか──筆者も毎週楽しみにしながら視聴しています。
アニメ版はこちらから
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