『正欲』『月』ほか力作ラッシュ!俳優・磯村勇斗のスゴさに迫る
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『正欲』『月』ほか力作ラッシュ!俳優・磯村勇斗のスゴさに迫る

2024.02.13 18:00

「磯村勇斗くん、すごいよね」──近年、業界内でもそんな声を聞く機会が増えた。ひとつは、出演作品ラッシュという「量」。露出が増えればそのぶん認知や注目度は加速するわけで(多くのクリエイターから求められている証明でもある)、「いま来ている感」は醸成されていくが、彼の場合はそれ“だけ”ではない。作品の外れなさ、そして貢献度という「質」がすさまじいのだ。

2023年公開の劇場映画に絞っても、

『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -運命-』
『最後まで行く』
『波紋』
『渇水』
『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -決戦-』
『月』
『正欲』

と、力作だらけ。

しかも、『最後まで行く』で演じたのは綾野剛演じる悪徳監察官を翻弄する青年であり、事件の引き金になる重要人物であり、『東リベ』では主人公・タケミチ(北村匠海)の親友であり闇落ちしてしまうキーキャラクター、『波紋』では主人公の主婦(筒井真理子)と距離のある息子、『渇水』では主人公の水道局員(生田斗真)の後輩と、いずれも物語を牽引する役割を任されている。『月』に関しては障がい者施設の入居者たちを殺傷する犯人、『正欲』については人に言えない“欲”を抱えてもがく青年と、作品の中核を担う難役を演じ切った。

かつ、今年急にブレイク……というわけではなく、2022年公開作では『PLAN 75』や『ビリーバーズ』、『異動辞令は音楽隊!』に『さかなのこ』等々、これまた個性豊かな作品に立て続けに出演。映画好きには各々「面白い作品に出合わせてくれる“間違いない俳優”」がいるだろうが、磯村はその旗手の一人といっていいだろう。「サ道」「サウナーーーズ」といった“サウナ俳優”という側面もあれば、「きのう何食べた?」のような当たり役も持っていて、大のホラー好き&シネフィルであり、故郷の静岡で演劇公演を開催したり、WOWOWのプロジェクト「アクターズ・ショート・フィルム」では短編映画を監督したりと、多彩な活躍を見せている。ステレオタイプな俳優像に留まらない“自由度”を体現させる存在でもあるのだ。

サウナーーーズ2 磯村勇斗×北村匠海
『サウナーーーズ2 磯村勇斗×北村匠海』 © 2021 WOWOW INC.

また、これらのラインナップを見てわかる通り、磯村の出演作は現代社会が抱える問題・課題に斬り込む骨太な作品が多い。初主演映画『ビリーバーズ』は、カルト的な新興宗教団体の信者たちをセンセーショナルに描いた衝撃作で、過激な性描写も盛り込まれている。『PLAN 75』は、満75歳から生死の選択権を与える制度が施行された世界を描いたディストピアものでありつつ、超高齢化社会の現代日本の歪みを突いた作品。『月』は、『PLAN 75』と同じ相模原障害者施設殺傷事件が着想元になっており、『波紋』は東日本大震災による風評被害や介護問題、多様性社会や家父長制を痛烈に皮肉っていて、『渇水』は水道料金が払えない貧困層の生活を見つめている。『PLAN 75』や『渇水』では“公”や“官”の立場で、『月』ではコロナ禍下で区分けされた「エッセンシャルワーカー」でありながら、あおりを食ってしまった存在として──磯村は、万人に優しくない社会に翻弄される人物に己の身体をもって人生を与えてきた。攻めた描写があれど臆せずに取り組む潔さに、ほれ込んだ人々は多いことだろう。

『前科者』の岸善幸監督と再び組んだ最新出演映画『正欲』では、「明日を生きていたいと思えない」青年を繊細に演じている。理解者に出会えず、なかなか周囲にも打ち明けられず、久しぶりに再会した同級生(新垣結衣)と静かに感情を共有していく。“痛み”を過度にデフォルメすることなく、むしろ隠そうとしているのににじみ出てしまうリアリスティックな魅せ方が見事で、観る者にスッとなじませる磯村特有の“質感”の妙を感じられることだろう。社会的なテーマを背負った作品は、時として“役”を“役割”が超えてしまいがちだ。つまり、メッセージやテーマを伝えるための“駒”としての比重が強くなってしまう。そこをいかに役=人間に近づけていくか、血を通わせられるかは俳優の力の見せどころだが、磯村はその部分が傑出しており、一人の人間として成立させながらも、作品全体のバランスを鑑みたポジショニングを行っている。

正欲_メイン
『正欲』 ©2021 朝井リョウ/新潮社 ©2023「正欲」製作委員会


以前彼に取材させていただいた際、俳優として役に深く潜る「主観」と、作品全体を俯瞰して立ち回る「客観」の両面を常に意識している、と話していたが、こうした高いインテリジェンスと表現力に裏打ちされた芝居であればこそ、独自性の強い役どころの“器”になりえているのであろう。彼に演じられる役は幸せなのではないか──。そう思わせるほど深い懐を持ちえた俳優・磯村勇斗。この先も、さらなる活躍を見せていくことだろう。

磯村勇斗さん出演作品はこちらから

磯村勇斗出演作画像

『正欲』

人が生きていくための推進力は何なのかというテーマを炙り出していく衝撃的な物語。

浜に暮らす検事の寺井啓喜は、息子が不登校になり妻と度々衝突している。広島のショッピングモールで販売員として働く桐生夏月は実家暮らしで代わり映えのしない日々を繰り返している。ある日、中学の時に転校した佐々木佳道が地元に戻ってきたことを知る。

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