カニバリズム、毒親、イジメ……少女たちが変わってゆく、少女変容系ホラー5選
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カニバリズム、毒親、イジメ……少女たちが変わってゆく、少女変容系ホラー5選

2024.06.28 18:00

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Xにて映画紹介などしているゆいちむが、魅惑のサブジャンル「少女変容系ホラー」について5作品を厳選して見どころなどを紹介します。

はじめに/女の子たちが変わってゆく、「少女変容系ホラー」とは?

心も体も大人へと変化してゆく少女たちの思春期は、みずみずしくも大人へと変化してゆく事への漠然とした不安や憂鬱、そして性の目覚めが混在する危うい過渡期と言えるでしょう。

そんな危うさを帯びた多感な少女たちが、人肉を食べたり、毒親から抑圧されたり、凄惨ないじめを受けたりしながら変わってゆく……なんだかゾクゾクしませんか?

言わずもがな、ホラー成分との相性は抜群です。

今回はそんなゾクゾクさせてくれる作品たちを、「少女」と「変容」という要素に絞ってピックアップしてみました。

一部ネタバレを含んでいますので、ご了承ください。

①『RAW~少女のめざめ~』(2016)

RAW~少女のめざめ~
© 2016 Petit Film, Rouge International, FraKas Productions. ALL RIGHTS RESERVED.

過保護なベジタリアン一家に育った少女が、「ウサギの腎臓」を強制的に食べさせられた事をきっかけに、徐々にカニバリズムの衝動へと目覚めてゆく、美しくもグロテスクな思春期ホラー。

初めて親元を離れ、進学先の獣医科大学の寮で暮らすことになった16歳の少女ジュスティーヌ。

彼女はある日、学校の伝統的な通過儀礼として全身に血を浴びせられ、さらには強制的に「ウサギの腎臓」を食べさせられてしまう。

初めて肉の味を知ったその日を境に、ジュスティーヌは肉に対する異常な欲望を抑えられなくなってゆく……

人肉を食す行為、カニバリズムについてはこれまでホラージャンルを中心に数多の映画で描かれていますが、食人嗜好への目覚めを「社会的なタブー」としてのみならず、「自己探求への入り口」として位置付けている点が特徴的です。

単なる成長の物語ではなく、本能に抗いながらも自身と向き合い、何者なのかを知ってゆく。

未知のものに対する恐怖や不安が、繊細な思春期心理と共に描かれているのが味わい深いです。

劇中ではデリケートゾーンの除毛や放尿などのフェティッシュなシーンに加え、交通事故外傷による脳挫傷や、肉が剥がれ落ちた太ももなど、あらゆるシーンが生々しい質感で描かれていますが、これらの一見露悪的になってしまいそうな要素を品良く作中に落とし込んでしまう手腕には脱帽です。

映画を観終わった時、あなたにとって本作は感動的な愛の物語となるでしょうか。

それともゾッとする話となるでしょうか。

カニバリズムという要素のメタファーや、家族の繋がりにも注目して観ていただきたい一本です。

②『ブルー・マインド』(2017)

ブルー・マインド
© 2017 tellfilm GmbH & Zurcher Hochschule der Kunste ZHdK

身体が徐々に人魚へと変態してゆく少女の視点から、思春期の葛藤と解放を描いたエモーショナルで切ない現代のおとぎ話。

両親の仕事の都合で新しい街へと引っ越してきた15歳の少女ミア。

両親へのいら立ちと、大人の女性へと変化してゆく事への漠然とした不安を募らせた彼女は、クラスの不良グループと共に悪い遊びに手を染めていく。

そんな中、初潮を迎えたある日、衝動的に熱帯魚を口にしてしまった彼女の身体に、不気味で不自然な変化が起こり始める。

今回紹介している作品の中ではとりわけて「エモい」作品です。

大人へと成長してゆくことを、人魚への変態として表現している点がとても美しいと思います。

徐々に人間離れし、魚のような特徴を帯びてゆく身体の変化に戸惑いや恐怖を感じる主人公は、その事象から目を逸らすかのように飲酒や喫煙、ドラッグにまで手を染め、次第に精神を病んでゆきます。

まるで彼女の精神状態とリンクするかのように、両足の皮膚は剥がれ青痣のようにどす黒く変色し、脇腹には魚類特有のエラが浮き出てきます。

しかし、ミアの両親は彼女の新しい友達との悪い付き合いを非難するばかりか、ミアの抱える苦悩や身体的な変化には気付かず、彼女の心に寄り添おうともしません。

その一方で、次第に不安定になる彼女の理解者となるのは、親友のジアンナです。

「思ったんだけど……いま時間を止めて、この瞬間を永遠に残せるといいね。それってマジで最高じゃない?」

これはジアンナの台詞ですが、本作を象徴するような台詞だと思いました。

主人公の身体に現れる視覚的な変化に注目しがちですが、両親との関係性、そして親友であるジアンナの存在についても是非注目しながら、この美しくも悲しいダークファンタジーを味わってみてください。

③『ハッチングー孵化ー』(2022)

ハッチング―孵化―
©2021 Silva Mysterium, Hobab, Film i Väst

家族というコミュニティの中で生じる不協和音、そして偽りの「幸福」が剥がれ落ちてゆく様が予想外の展開で描かれるフィンランド産の思春期ホラー。

12歳の少女ティンヤは、完璧で幸せな家族の動画を世界へ発信することに夢中な母親を喜ばせるため、体操の大会優勝を目指す日々を送っていた。

ある夜、森で奇妙な卵を見つけたティンヤはそれを持ち帰り、自身のベッドで温め始める。

やがて、体操競技におけるライバルの出現や、母親の不倫の発覚によってティンヤのストレスと不安が高まった時、少女の流した涙に応えるように卵から奇妙な生き物が誕生する。

家族がテーマとなっていますが、映画の中心で描かれるのはティンヤと母親、この二人の関係が主となります。

花や草木の香りが漂ってきそうな可愛らしい一軒家。

娘を理想的な家庭像のための道具として利用する母親。

その期待に応えようと理想の娘を演じ続ける娘。

一見幸せそうな家庭に潜む、支配と抑圧という歪んだ関係性によって奏でられる不協和音が、奇妙な生き物の孵化と共に描かれます。

ティンヤは完璧主義の母親の期待に応えようと、本当の感情や欲望を抑え込んでいます。

このような背景もあり、この孵化した奇妙な生き物は、彼女が抑え込んできた感情やストレスが具現化したものであると考えられます。

彼女の内面状態を推察するための重要な要素ですので、この生き物が「どのようなムーブをかます」のか、観察してみてください。

SNSというツールを介して目にする他人の世界は、ハイライトまたは虚構であることがほとんどです。

完璧を演じることの息苦しさや、親から愛してもらえないことによる生じる心の闇。

グロテスクなホラー映画のなかで描かれる心理的な葛藤、歪んだ親子関係から生じた少女の心の叫びが痛いほどに伝わってくる作品です。

④『テルマ』(2017)

テルマ
©PaalAudestad/Motlys

信仰深く過保護な両親の元で育てられた少女テルマ。

禁欲と抑圧のフラストレーションから解放されながら、彼女に隠された恐ろしい「秘密」が紐解かれてゆくノルウェー産の思春期ホラー。

ノルウェーの人里離れた田舎町で、信仰心が深く抑圧的な両親のもとに育った少女テルマ。

なぜか彼女には、幼少期の記憶が無かった。

オスロの大学に通うため一人暮らしを始めたテルマは、原因不明の発作に襲われる。

その際、助けてくれた同級生の少女アンニャと親しくなり、やがて初めての恋に落ちる。

募る欲望と罪の意識に苛まれながらも彼女に強く惹かれていくテルマであったが、その想いに反応するかのように、封印されていたはずの「ある秘密」が解放されてゆく……

長年に渡り隠蔽された自身の生い立ちと、「ある秘密」を巡る少女の物語です。

なぜ自分には幼少期の記憶が無いのか。

なぜこれほどまでに厳格な宗教教育を施されたのか。

幼少期に隠されたこれらの秘密の解放と、それを受け入れ変わってゆく過程が物語の主軸になっています。

前述した「RAW~少女のめざめ~」では、カニバリズムという嗜好への目覚めが自己探求への入り口となっていましたが、本作では「初恋」がそれに代わる重要な要素となっています。

誘惑と罪のシンボルとして蛇が登場する場面に象徴されるように、厳しい戒律と共に生きてきた主人公が、欲望の萌芽と罪の意識の狭間で揺れ動く心理がエロティックに表現されている点も魅力的でした。

映画を引き立てる静寂で神秘的なロケーションの数々も素晴らしいです。

静かな森林や湖など、北欧ならではの大自然は寒々しく、透明感あふれる絵画のように魅力的ですが、これらの美しい風景の中へ落とし込まれる残酷な描写の視覚的インパクトも抜群です。

風光明媚な美しさと、冷酷さのコントラストにはゾッとさせられる場面もあるかと思います。

今回紹介している中では、特に「子を持つ親の立場」からの考えが物語へ深く関係している作品です。

親と子、それぞれの想いがどのように交差し、テルマはどのような結末を選択するのか……固唾を飲んで見守りましょう。

⑤『キャリー』(1976)

キャリー
© 1976 METRO-GOLDWYN-MAYER STUDIOS INC.. All Rights Reserved

同級生からのいじめに、母親の宗教狂い……悲惨過ぎる環境に追い込まれた少女の隠された能力が覚醒してゆくあまりに悲しい復讐譚。

冴えない容姿とおどおどした態度から、同級生からいじめられている少女キャリー。

学校ではのけ者にされ、家に帰れば宗教狂いの母親が待っているという劣悪な環境によって、孤独感と閉塞感に苛まれています。

そんな中、いじめの主犯格である少女が陰惨な嫌がらせを思いつく。

高校最後のプロムパーティの夜、舞台に立つキャリーに真っ赤な血が降り注いだ時、彼女の悲鳴が惨劇の合図となる……

この映画は、シャワー中に初潮を経験しパニックに陥ったキャリーがクラスメイトから笑いものにされ、一斉にナプキンを投げつけられる、という胃酸が逆流してきそうな陰惨な場面から幕を開けます。

「月経は罪の象徴」であると信じて疑わない狂信的な母親から、性に関する知識を教えてもらえなかった事が原因でした。

キャリーの抱える孤独と絶望感をたった一場面で浮き彫りにしてしまう、恐ろしくも圧倒される場面です。

アメリカンハイスクールでお馴染みな倫理観の歪んだ同級生や、宗教狂いの母親など、キャリーが心を閉ざすのも納得できる残酷な人々が登場します。

しかし、この作品に登場するのは彼女に対して加害的な人間だけではありません。

キャリーを守ろうとする体育教師や、自らの行いを後悔し償おうとする同級生など、手を差し伸べてくる人々もいます。

ただ、差し伸べられたその手は、最終的にキャリーを救うことが出来ません。

いかにしてプロムの夜に惨劇が起こるのか。

また、そこに至るまでに善意がどのように作用したのか。

これらに注目してみると、キャリーの変容と覚醒によってもたらされる悲しすぎる結末と、やるせない読後感もひとしおです。

普通の高校生になりたかったキャリーと、そうさせなかった悲惨な人的環境。

そして善意が悪意によって打ち砕かれる様子を、少女の変容と大虐殺によって描いた不朽の名作です。

おわりに

大人へと変わってゆく過渡期の精神的な変化や不安、思春期の閉塞感などの普遍的なテーマを描いたこれらの作品は、時に単なるホラー以上の恐怖や悲しみを感じさせてくれます。

成長してゆく先に待つのは家族への帰結もしくは離別か、はたまた大人の階段を登らないのか、孤立した世界で必要なものとは何なのか……そういった点に注目して、作品ごとの変容とその意味を考えてみるのも楽しいのではないでしょうか。

少女たちの息づかいを通じて、思春期の裏側へと想いを馳せてみてください。

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