【お笑い評論家・ラリー遠田レビュー】満島ひかりと劇団ひとり…異色タッグのスリリングな展開が味わえるコント
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【お笑い評論家・ラリー遠田レビュー】満島ひかりと劇団ひとり…異色タッグのスリリングな展開が味わえるコント

劇団ひとりと満島ひかりが出演するU-NEXTオリジナルコンテンツ『ひかりとひとり』の収録を観覧した。彼らは観客を前にして3本のコントを披露した。出演者は2人だけで、セットや小道具も必要最小限に抑えられている。ごまかしのきかない状況で彼らの演技力や表現力を純粋に味わうことができた。

バラエティ番組などで芸人と俳優がコントを演じるときには、芸人が複数いるのに対して俳優は1人だけ、という人数編成になることが多い。芸人同士で作っているコントの世界観の中に「お客様」として俳優が加わる形になるため、良くも悪くも「お笑い」寄りの空気になりやすい。

しかし、今回の企画では、劇団ひとりと満島ひかりが一対一で向き合っているため、そこまでお笑い寄りの空気にはならない。どちらかと言うと劇団ひとりも俳優的な素養のある芸人であるため、「お芝居」寄りの空気になることも考えられる。

このコントは「お笑い」なのか、「お芝居」なのか。いざ蓋を開けてみると、芸達者な2人が互いに主導権を奪い合いながら展開していくようなスリリングな舞台がそこにはあった。

お互いが演じ手として空気を探り合いながら、技を仕掛けていき、相手がどう出るかを見極めて次の手段に出る、というような緊張感のあるやり取りを楽しむことができた。

以下、一本一本のコントの内容を簡単に紹介しながら、見どころを解説していきたい。

【以下ネタバレあり、要注意】

1本目は「最後のタイムリープ」。ビルの屋上で思い詰めた表情の女性が今まさに身を投げようとしている。そこに知人の男性が現れて飛び降り自殺を止めようとする。彼は頭に手ぬぐい、背中に羽根、上半身裸で下半身はビキニ水着、という珍妙な格好をしている。

実は、男性は何度もタイムリープを繰り返して、その度に彼女の自殺を止めようとしては失敗していた。そのまま120回目を迎えた彼は自暴自棄になり、わざと変な格好をして自殺阻止に臨むことにした。そこから事態は思わぬ方向へと進んでいく。

自殺しようとする女性役の満島が緊張感のある雰囲気を作っているところに、おかしな格好の劇団ひとりが現れてその空気を打ち砕く。そこから展開される2人の会話劇の中では、それぞれの心情の変化が表情や行動に現れていて見ごたえがあった。

現場では満島が客席に背を向けている場面が多く、その表情がうかがい知れなかったのだが、本編の映像ではそこもはっきり映し出されている。

ひかりとひとり_05
©TBS

2本目は「START&STOP」。カフェで兄と妹が向き合って話をしている。兄は真剣な口調で話をするが、妹はスマホを見ながら渋々話に付き合っている。

兄は人のためになることをしたいと思い、衝動的に勤め先の会社を辞めていた。妹はこの決断に猛反対する。厳しい口調で兄の言うことを何から何まで否定し続ける。兄が反論しても妹はさらに強い言葉を返して、兄を黙らせてしまう。勝手に会社を辞めたことで兄は自分の妻に怒られていた。実のところ彼は「妻を説得してほしい」と妹に相談に来ていたのだ。

1本目のコントとは打って変わって、満島が弁の立つ強気な女性を演じる。兄と妹という近い関係性だからこそ、彼女の言葉には一切の容赦がない。劇団ひとりが演じる兄は、いかにも頼りない雰囲気をかもし出していて、自分で自分の首を絞めるような行動に走ってしまう。妹の表面的な厳しさの中にある優しさを満島が見事に表現していた。

ひかりとひとり_03
©TBS

3本目は「ウォーキング」。休日の朝、スポーツウェアの男性と普段着の女性がウォーキングの準備をしている。2人は会社の同僚。男性は若手社員たちをウォーキングに誘っていたが、軒並み断られていた。そんな彼を哀れに思った女性が1人でウォーキングに参加することにしていた。

ひかりとひとり_01
©TBS

男性は女性に上から目線でウォーキングの心構えや魅力を語るが、上手くいかないことが重なり、何度も情けない姿をさらけ出してしまう。ウォーキングはストレス解消になると語っていた男性だが、トラブル続きで徐々にいら立ちを隠せなくなる。

2本目とは対象的に動きのあるコントだったので、ここぞという場面での劇団ひとりが演じる男性の感情の爆発が面白かった。満島の演じる女性は、男性に対して最初は同情的だったのだが、徐々に不満をつのらせていく。その心情の変化をきめ細かい演技で表現していた。

ひかりとひとり_02
©TBS

3本のコントに共通しているのは、劇団ひとりが哀愁漂う情けない人間を演じているところだ。もともと劇団ひとりのコントにはそういうものが多い。必死で生きているのになぜか空回りしてしまうキャラクターを演じるのがよく似合っている。

三者三様の人騒がせな人物に巻き込まれる側の女性を演じる満島は、必死に抵抗したり、驚きあきれたり、怒りをぶつけたりする。その感情の揺れ動きも見どころの1つになっていた。

今回の収録観覧を通して、芸人と俳優が向き合う二人芝居形式のコントには、芸人同士の演じるコントとは違う魅力があるというのを改めて思い知らされた。


『ひかりとひとり』

ひかりとひとり
©TBS

屈指の表現力でコミカルな芝居にも非凡な才能を発揮する満島ひかりと、芸人としてはもちろん、映像監督としても高い評価を手にする劇団ひとりが、「2人きりで」「観客を前に」「一発本番で」繰り広げるコント番組。

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