大ヒット公開中の映画『ファーストキス 1ST KISS』で、主人公の松たか子演じるヒロインの若き日の夫に扮している松村北斗。その朴訥でピュアなたたずまいが、世代を問わず女性のハートをキュンキュンさせている。
言わずと知れた人気グループ、SixTONESの一員としても人気を博す彼。やんちゃなイメージのあるメンバーの中では、おっとりと優しい不思議ちゃんキャラで異彩を放つ。読書やアート好きで知的な雰囲気も。
Jr.歴が長く、一度は別のグループでCDデビューもしていて、そもそもの役者デビューは、SixTONES結成の礎となったドラマ『私立バカレア高校』の2012年春まで遡る(このドラマに出演した当時のJr.6人で2015年に結成されたのがSixTONES)。俳優デビューしてほどなくの2012年夏に放送された『黒の女教師』で、連ドラに単独初出演。ドラマ出演2作目にして、生徒役としては筆頭の準主役に抜擢され、当時から役者としての期待度は高かった。
そんな彼が俳優として大ブレイクしたのは、百年にわたる女性の3代記を綴った2021年の連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』だ。上白石萌音扮するヒロイン・安子の戦死した夫・稔を好演して、個人の知名度を爆発的にアップさせた。以来、その独特の個性を生かした役柄で多くの印象深い演技を残している。
ここでは、Jr.時代の初々しい演技から最新作の映画『ファーストキス 1ST KISS』まで、そんな彼の持ち味を存分に堪能できる作品を新旧7本ご紹介。彼ならではの“静”の魅力にハマると、抜け出せないこと必至です!
松村にとっては、Jr.時代の連ドラ単独初出演作。出演2作目にして生徒役の“一番手”に大抜擢され、ドラマ2作目とは思えない堂々とした演技で存在感を放っている。
主演は、当時初のダークヒロインを演じることで、大人の俳優へとイメージチェンジを果たそうとしていた榮倉奈々。榮倉演じる生物教師・夕子と、市川実日子扮する古典教師・すみれ、小林聡美扮する美術教師・彩の3人が、“課外授業”と称して学校で起こるさまざまな問題を“有料で”解決していくさまを痛快に描く中で、そうなるに至った夕子の過去をあぶり出す。
松村が演じたのは、ヒロイン・夕子のクラス3年D組に転校してきた寡黙な生徒・戸田トシオ。第1話から同級生男子の悪どい行為を暴き、クラスで浮いた存在に。第1話のラストで夕子に対してショッキングな行動に出る戸田だが、実は夕子の過去に絡む重要なキャラクターだから。ドラマの縦軸として、観る者をずっとドキドキさせる存在であり続ける。
どこかに暗い影をまとう静かなキャラクターは、彼の個性にぴたりとハマる適役だが、鋭い目つきで反抗的にふるまう演技は、比較的、柔和な役柄の多い今となっては貴重かも。フレッシュかつ貴重なJr.時代の熱演に注目したい。
ちなみに、ほかの生徒役は千葉雄大、広瀬アリス、山﨑賢人、土屋太鳳、大賀、杉咲花、中条あやみと、今となっては再現不可能であろう超豪華な布陣。さらに同僚教師役に鈴木亮平がコミックリリーフとして投入されているところも本作の見逃せないポイントだ。
ラジオから流れる英語講座を縦軸に、女性3代の波乱の日々を百年にわたって紡ぎ出す、2021年のNHKの連続テレビ小説。上白石萌音演じる安子、深津絵里扮するるい、そして川栄李奈演じるひなたという3人のヒロインが世代をリレーしていく構成がダイナミックなドラマの流れを生んだ。
松村が出演したのは、上白石が商店街の和菓子屋「たちばな」で生まれ育ったヒロインを演じる安子編。彼女が恋に落ち、のちに結婚する雉真繊維の跡取り息子・稔役を好演し、松村の役者としての知名度が全国区に。
まず、朝ドラ視聴者の心をドキドキさせたのは、古き良き時代の美丈夫そのもののビジュアル。一筋の乱れもないピシッとした髪型に、詰め襟学ラン姿の凛々しさよ。さらに英語をスラスラしゃべる知性的な姿に、安子と同様ハートを射抜かれた女性が続出した。持ち前の“静”の魅力に、役作りとして硬派な雰囲気もプラスされ、ヒロインの相手役としての好青年ぶりは完璧!
上白石演じる安子との身長差もキュン度高し!安子に稔が自転車を教えてあげるシーンや浴衣で夏祭りに繰り出すシーンなど、数々の胸キュンツーショットが印象に残る。なかでも、縁談を持ち込まれた安子が大阪の稔を訪ねるエピソードは神回。自分の外套を安子に掛けてあげて「日が暮れたら寒いんよ」とぽそっと言う稔は、朴訥ながら紳士そのもの!2人が英語で会話を交わし、夕日を眺める流れまで含めて忘れがたい名場面に。
しかし、その稔には、若くして戦死してしまうという悲しい展開が待っている。存命中の稔が全女子をキュンキュンさせる完璧な青年であればあるほど、のちのストーリーの流れの中で「彼さえ生きていてくれれば」と観る者の涙を絞る存在になってしまうのだ。
つまり、安子編の後半は、たとえ画面に登場していなくても常にその存在の大きさを観る者に感じ続けさせたのが稔。彼を知る誰からも惜しまれる…それだけ鮮烈なキャラクターを、大げさな演技に頼ることもなく、あくまでもナチュラルに爽やかに演じ切った松村の力量に改めて感じ入る。
『魔法騎士レイアース』や『X』などの大ヒット作を生んだ創作集団CLAMPの同名コミックを実写化。著名な写真家で、映画監督としても『ヘルタースケルター』や『人間失格 太宰治と3人の女たち』などを手掛けた蜷川実花がメガホンを取った。
人の心の闇に寄り憑く“アヤカシ”が見える能力を憂う高校生・四月一日君尋(わたぬききみひろ)が、対価と交換になんでも願いを叶えてくれるミセの女主人・壱原侑子から、自身の能力をなくす代わりに「いちばん大切なもの」を差し出すようもちかけられる。大切なものがわからない四月一日は侑子のもとで家政夫として働き出すが、そんな彼の目を狙う者が現れ…。
四月一日を演じた神木隆之介を筆頭に、侑子役の柴咲コウやひまわり役の玉城ティナら、美麗なビジュアルのキャスト陣がCLAMPの世界の住人を見事に体現したと話題を呼んだ本作。自身の“祓う”力で四月一日を守ろうとする百目鬼静を演じた松村もまた、その清潔感ある美丈夫ぶりを存分に生かしてこの役を全う。ミリタリー風の制服もスラリとした体躯によく似合う!
クールなキャラクターを印象付けるためにあえて低い声で演じるなど、原作のイメージを損なわない繊細な役作りで独自のダークな世界観に溶け込んでみせた。
なんといってもカッコよかったのは、弓神事の場面やクライマックスの戦いのシーンなどで披露する弓を射る姿。片肌を脱いで、ぎゅっと弓を引いて矢を放つポーズは、見とれてしまうほどの凛々しさ!
『君の名は』『天気の子』とヒット作を連発するアニメーション監督・新海誠が手掛けた冒険ファンタジー。この作品も国内興行収入149.4億円の大ヒットを記録した。災いを招く扉を閉めるため、女子高生のすずめが奮闘する物語。ヒロインのすずめの声は、1700人の中からオーディションで選ばれた原菜乃華がみずみずしく演じている。
そして、本作ですずめと行動を共にする扉の“閉じ師”の青年・草太の声を演じたのが松村。彼が出演した2023年公開の映画『キリエのうた』の岩井俊二監督が、新海監督の前で松村の演技を褒めたことをきっかけに本作のオーディションに呼ばれ、見事この役を獲得したという。松村の役者としての評価が如実に伝わるエピソードだ。結果、本作で声優初挑戦とは思えない堂に入った声の演技を披露し、彼のファンのみならずアニメファンにも高い評価を得ることに。
初対面時にすずめが思わず二度見するほどの美麗なルックスの持ち主・草太のキャラクターが、松村自身のイメージと重なることも評価のうちであろうが、なんといっても魅力的なのは彼の声質。基本は甘い声なのに、ちょっとハスキーに掠れた成分もあって、なんとも耳心地がいい。滑舌も気にならず、難解な祝詞をすらすら唱えるシーンも実に自然だ。
それでいて普段の松村の声ともまた違う魅力を放っているのがすごいところ。その理由は、自身の多くの演技経験からくる表現力の賜物であろう。“生真面目かつ勤勉で、閉じ師の職務に忠実。さらに心根も優しい”という草太の人物像を声の演技だけできちんと表現している。しかも、青年から別の姿に変えられてからも、その感情がしっかり観る者に伝わるところはさすが。
この秋には、新海監督の同名アニメーション映画が原作の実写映画『秒速5センチメートル』でも主演を務める松村。こちらでは、どんなお芝居が見られるのか楽しみ!
『ホタルノヒカリ』などのヒット作を手掛けたひうらさとるの同名コミックを、本作でGP帯の連続ドラマで初主演を果たすことになった松本若菜主演で映像化。徹底的に家事をしない独身ワーキングウーマン・西園寺一妃と、年下の訳ありシングルファーザー・楠見俊直とが、“偽家族”として一軒家で同居することに!…という、漫画チックな設定を笑いと涙で描き出すハートフルなラブコメディ。
この楠見というキャラクターは、演じる松村自身の持ち味がハマりにハマった人物像。
どう見ても某社がモデルであろう、アメリカの一流企業・パイナップル社から、松本扮する主人公・西園寺さんがプロダクトマネージャーを務める家事効率化アプリの制作会社「レスQ」にやってきた天才エンジニアという設定からして、知的な松村のイメージにぴったり。
何やらスラスラと流暢に英語をつぶやきながらパチパチとノートパソコンのキーボードを叩く…という、その登場シーンからして、歌舞伎だったら「よ、待ってました!」と声をかけたくなるような安定感なのである。
一見クールで感情が表に出ない楠見だが(この感じもまた松村にぴたりとハマっている)、実は不器用なだけで内面は優しく情緒も豊か。死別した元妻との間の一人娘・ルカを愛情深く育てている。
回が進むごとにあらわになってくる、そんな彼の愛情深さもまた、優しく柔らかな佇まいの松村自身の持ち味にバッチリとハマっている。
ルカ役の子役・倉田瑛茉とのかわいいツーショットに癒やされた女子も続出!
原作は『そして、バトンは渡された』で2019年の本屋大賞を受賞した瀬尾まいこによる同名小説。これを『ケイコ 目を澄ませて』で毎日映画コンクール日本映画大賞・監督賞ほか5部門を制覇した三宅唱監督が、『カムカムエブリバディ』以来の再共演となる松村北斗と上白石萌音をW主演に迎えて映画化し、話題を呼んだ。
原作にオリジナルの要素を加えたストーリーの主人公は、PMS(月経前症候群)で月に1回、自分のイライラをコントロールできなくなる藤沢さんと、いつ発作が起こるかわからないパニック障害を抱え、生きることに投げやりになっている同僚・山添くん。それぞれが心の問題を抱え、希望の職種から離れて転職した先の中小企業「栗田科学」を舞台に、恋人でも友達でもない2人がお互いの病気に寄り添いながら、助け合うようになっていく姿を、丁寧な日常の描写を重ねて紡いでいく。
松村が演じた山添くんの人物像は、深刻なパニック障害が理由で一流企業から中小企業に転職した人物。と書くと、いかにも苦悩を抱えて眉間にいつもシワを寄せているような芝居を想像してしまうかもしれないが、本作のテイストはあくまでもナチュラル。藤沢さん、山添くんを筆頭に、さまざまな人物が内面に闇を抱いているが、その背景を説明的なセリフで明かすようなことはせず、人間描写の中で観る者にじわじわと想像させるという見せ方を取っている。
松村の演技も、その映画のトーンに寄り添ったもので、登場シーンの覇気のないうつろな表情にしても、それでも垣間見える、おそらくはエリートコースを歩んでいたであろう彼の捨てられないプライドの片鱗にしても、そして、その狭間でもがく、なんとも複雑な心情にしても、あくまでも自然体な静かな演技で、山添くんというキャラクターをリアルに体現してみせる。
『カムカムエブリバディ』以来の上白石との共演となるが、こちらも恋愛に発展するのかと思いきや、全くその気配はなく、それでもどこか同志のような絆でゆるく連帯する2人を心地よい距離感で演じ、その相性の良さを再確認させてくれる。
彼女との助け合いの中で、徐々に生きる希望を取り戻していく山添くんの変化も、松村は繊細に表現。
さまざまな要因から心に圧のかかる生きにくい時代。「栗田科学」という、いわば“理想の職場環境”も含めて、こんなふうに人間関係を築けたら最高だな、と憧れを抱いてしまう。見終わって、心の芯が温かくなる佳作。
監督『花束みたいな恋をした』『怪物』の脚本家・坂元裕二と『ラストマイル』『わたしの幸せな結婚』の監督・塚原あゆ子という稀代のクリエイター同士が初タッグを組んだ、オリジナルストーリーの恋愛映画。松村は、名女優・松たか子と初共演で夫婦役を演じることに。
年齢差カップルの役?と思うのは早合点。ストーリーはタイムスリップもので、松が演じる夫を不慮の事故で亡くした妻・硯カンナが、偶然に15年前に戻り、松村扮する若き日の夫・駈(かける)と出会い、再び恋に落ちるという展開だ。
『時をかける少女』ならぬ“時をかける妻”というユニークな設定ではあるが、背景は令和的。実は、生前の駈とカンナは倦怠期をこじらせて完全なる没交渉になっている。離婚届を出す寸前のタイミングで、駈は命を落としてしまうのだ。しかし、15年前に戻ったカンナは若き日の駈と再び出会うことで、その魅力を改めて見出すことに。そして、そんな駈と恋に落ちたカンナは、何度も過去をやり直すことで駈が死んでしまう未来を変えようとするが…。
何回過去に戻っても、どうしても恋に落ちてしまう夫婦の運命的な関係性が観る者を切なくさせるこの映画。夫を救うために奮闘するカンナを、松が絶妙なさじ加減で切なさの中にちょっとコミカルな雰囲気を加えて好演する一方で、どれだけ年齢差があってもあらがえないカンナへの恋心が生まれてしまう駈を朴訥に真っ直ぐに表現する松村とのバランスがまた素晴らしい。
古生物オタクで研究者を目指しているのに、教授の愛娘からモーションを掛けられても歯牙にもかけないピュアっぷりという駈のキャラクター設定自体も、松村の持ち味である“静”の魅力がビシバシ伝わるハマり役。とある展開でカンナの言動に傷ついてしまった時の切ない表情にも、心揺さぶられる。
駈の数々の胸キュンポイントの中でも、名場面といったら、なんといっても「これ以上、僕をドキドキさせないでください」と駆がカンナに言うシーン。自分の恋心の深さに戸惑うピュアな表情は、キュン度マックス!これを聞くためだけに、何度もタイムスリップしてしまうカンナにも共感度マックス!である。
しかも、撮影時は過去に戻るシーンごとに同じセリフでテイクを重ねているわけで、それを自然かつ繊細な感情表現で何回でもできてしまうというのは、役者としてのスキルが高いからこそ。松村の実年齢より老けた中年の駈を演じるシーンにも、まるで不自然さがないところも見事。
松村北斗出演作はこちら
ドキュメンタリー映画『忘れない、パレスチナの子どもたちを』(2022)、社会派ヒューマンドラマ『オマールの壁』(2013)の配信を開始。2023年より以前のパレスチナの人々の生活を知る一助になるようなパレスチナの市民目線の映画をご紹介します。