約40年前に生まれた爆風スランプの名曲にインスパイアされ、原案・中村航さん(小説家)×脚本・髙橋泉さんがオリジナルストーリーを紡ぎ出した、草野翔吾監督による映画『大きな玉ねぎの下で』。お互いの素性を知らずに、手書き文字を通した男女のラブストーリーが、令和の現代と平成初期の過去という二世代を絡めて描かれます。メインストーリーの現代パートで、昼はカフェ、夜はバーになる昼夜別業態の飲食店“Double”の業務連絡用<バイトノート>に綴り合った文章を通して惹かれ合う、就活中の大学生・丈流(たける)と卒業間近の看護学生の美優(みゆう)を演じたW主演の神尾楓珠さんと桜田ひよりさんに、本作の魅力や初共演の印象などを伺いました。
──文通していたペンフレンド同士の恋模様を歌った『大きな玉ねぎの下で』がモチーフの本作では、昼夜別業態の飲食店で、夜のバーでバイトする神尾さん演じる丈流と、昼のカフェでバイトする桜田さん演じる美優が、業務連絡用ノートに書いた手書きの文章を通して、お互いの素性を知らないまま交流する、というアナログな出会いが描かれています。そんな出会いが描かれた脚本について、どんな印象を持ちましたか?
神尾:楽曲の世界観がしっかりと脚本にハマっているなと思いました。今はSNSやマッチングアプリなどで気軽に繋がれるとは思うけど、そういうものがない不便な時代だからこそあった運命的な出会いというものは、今はなくなっているとも思う。だからこそ、楽曲や今回の映画でも描かれているようなアナログな出会いは、すごくうらやましいなと思いました。それに、現代パートと過去パートがすごく入り混じるのに、話の筋が全くぶれないから、混乱することもなく楽しく読みましたね。
桜田:私たちは現代パートを演じていたので、過去パートがどういう風に現代パートと関わり合っていくのかは、ものすごく想像力を膨らませていたのですが、完成された作品を見ると、脚本を読むだけではわからなかったところも多く、たくさんの発見がありました。この映画のように手書きの文字には、SNSなどで文字を打ち込むだけではできない自分の思いみたいなのも相手に伝えることができる気がして、すごくエモいなとも思いました。
──お2人が生まれる以前、約40年近く前のヒット曲から生まれた物語ですが、その世界を演じた現在のお2人は、原曲に対してどんな思いを抱いていますか?
神尾:最初に聞いた時は、大人の恋愛みたいなイメージも多少あったんですけど、今はペンフレンドに対しての恋心とか、待ち合わせのワクワクとか含めて、ピュアさみたいなものがすごく見えるようになりました。
桜田:改めて歌詞の中に込められている切なさみたいなのも、より一層感情移入できるようになりましたし、同じく映画の中にも切ない部分だけでなく、恋愛のワクワク感など、いろいろな感情が混ざりあっているので、映画と一緒に楽しめる曲だなと思います。
──約40年近く歌い継がれている名曲から生まれた映画という、この企画自体も面白い試みですよね。
神尾:そうですね。今この曲を映画化することで、手紙を書く機会が少なくなっている現代の人たちに、この曲と映画がどういう風に伝わるんだろう、どう受け取ってくれるのだろうという興味は、最初からすごくありました。
桜田:実は私の母も、実際に“大きな玉ねぎ”こと“武道館”で、爆風スランプさんのライブを見たことがあるそうなんです。現代だけでなく平成初期も描いていますし、私たち若者世代だけじゃなく、私の親のような幅広い世代の方々にもすごく刺さる映画になったんじゃないかなと思っています。
──それぞれが演じた自身の役柄について、どんな印象を持ちましたか?
神尾:僕の演じた堤丈流は、就活生の気持ちがリアルに反映されていて、将来への不安や先に就職先が決まった友だちに対する焦りが、すごく等身大で描かれているなと。僕も高校時代に、大学に進学するのか、俳優の仕事を続けるのかと、進路に迷って悩んでいた時は、丈流みたいにちょっとひねくれている部分があったり、将来に希望を持てなかった時期がありました。なので過去の自分と重なる部分は共感できたし、自分自身を投影して演じたところがありましたね。マウントを取り合ってしまうところなども、若い世代ならではだと思いました。
桜田:私の演じた村越美優は、猪突猛進なところがあるけど、看護師になるという自分のやりたいことにまっすぐ突き進んでいけるし、疑問に思ったことや言いたいことを素直に口に出せる女の子だなと。そんな夢に向かってまっすぐ進む姿は、すごくかっこよく見えたり、自分も頑張ろうって思わせてくれる存在なんだろうなと思いました。気持ちが表面に出てしまう、わかりやすい女の子だけど、素直に感情を出せるのは仲の良い人だけで、基本的にはあまり弱みを見せないタイプだとも思います。
──桜田さんご自身としても共感できる役でしたか?
桜田:私はこの仕事を小さい頃からやっていて、他の進路を考えたことがなかったので、美優のように好きなことに対してまっすぐ進んでいく姿はすごく共感できましたね。
──同じ場所で働いているのに、勤務時間が違うために会ったことがない丈流と美優は、業務連絡用のノートを通した文通や交換日記のような形で惹かれあっていきます。2人の恋模様をどう感じましたか?
神尾:本当にもどかしい2人で(笑)。丈流は相手を勘違いしていたというのもあって、アクションを起こしてくれる友人たちがいなかったら、もどかしいまま終わっていたのかなと(笑)。
桜田:本当に周囲の方々のおかげで関わる機会があったけど、2人だけだったら絶対に発展しないだろうなって思いました(笑)。“ここで素直になれば、いい感じで進展するのに!”って思うようなところでも、お互いがツンツンしちゃっている姿は、すごくかわいらしくもありました。私が友人の立場なら、絶対に「もっと行け!」と言ってますね(笑)。
神尾:本当にそうだよね。素直になれればいいところを変に強がっちゃう2人だからなかなか進展しなくて、もどかしかったですね(笑)。でも、その距離感のようなものも、あの2人らしさが出ていてよかったのかなと思います。
桜田:距離感については、監督ともいろいろお話させていただきました。2人ともさっぱりした性格でもあったので、近づくところは近づくけれど、恋愛に発展させようと意識していないような、絶妙な距離感を狙って撮っていました。
──今回は初共演となりましたが、お互いの印象を教えてください。
神尾:桜田さんはすごく器用で、撮影の合間に普通に喋っていても、本番になるとスッと切り替えられるので、天才だなと(笑)。それに、結構スケジュールが詰まっているような時でも、いつでも“桜田ひより”として明るくいてくれるのは、すごいと思いました。
桜田:最近は意識して明るくしているわけではないですが、前向きな方がみんなに伝染するかなという思いはありますね。ネガティブな感情になってしまうようなこともありますが、基本的にごく一部の人にしか見せないようには心掛けています。でも、押し付けるようなポジティブさもすごく苦手なので、フラットに生きています。
神尾:俳優としても大先輩です。
桜田:大先輩じゃないです(苦笑)。私は神尾さんこそ、器用だなと思いました。撮影が始まった時から、神尾さんが本当に想像していたとおりの丈流で来てくれたので、すごく感覚を掴むのが鋭い方なんだなと。それに、共演する前まではすごく壁が分厚い方なのかなと思っていたけれど、実際にお会いしてみるとすごくフランクな方で、ずっと面白かったです(笑)。会話の流れで、ちょっと小ボケを挟んできたりとか、ツッコんでくれたりするのが、私のツボにめちゃくちゃハマって楽しく撮影していました。
神尾:無意識というか、もう本当に癖みたいなものなんです。高校生の時から、隣の人に聞こえるか聞こえないかくらいの声でボソッとボケるのが好きで、思いついたらちょっと言わないと気が済まない感じで(笑)。別にウケてなくても、独り言のようにボケてます。逆に「面白いことやって」なんて言われると何も出てこなくて。
桜田:私もそれすごい苦手で、どちらかというと同じというか、隣の人にしか伝わらないような小さな笑いを届ける側ですね(笑)。
──共に俳優として大活躍されていますが、ご自身の現状や俳優業への向き合い方をを教えてください。
神尾:どちらかと言うと、僕は俯瞰している感じかもしれないです。今がピークとは思っていませんし、目標設定をしているわけではないですが、この仕事を何十年先もやっていきたい気持ちがあるから、燃え尽きないようにしなきゃいけないというか、先のことも見据えつつやっている感じですね。
桜田:私も意外と俯瞰して見ている方だと思います。去年や一昨年は、結構がむしゃらに駆け抜けていった気がするので、それもすごく自分にとって大事な時期ではあったんですけど、やっぱり先々まで自分のことを考えた時に、その場で前だけ見ているというよりは、分岐点なのか通り道なのか、今の自分がどれくらいのところにいるのか、どこを目指しているのかなど、俯瞰して自分のことは冷静に見ている気がしますね。
──過去パートで描かれる平成初期カルチャーのようなものには、どんな魅力を感じましたか?
神尾:やっぱり今の時代よりも制限が少ないというか、すごく自由な感じがしましたね。劇中の過去パート当時は生まれてないものの、僕が物心ついてからの平成の時代を思い返してみても、今より自由だったなと思うんです。今は安全性があるとは思うけれど、プライバシーなどが厳しくなって、かつての自由さみたいものはないのかなと。
桜田:そうですね、やっぱり過去パートの学校のシーンで、今よりもみんな自由な感じでいることに憧れも感じました。もちろん現代ならではのすごくいい部分もありますが、平成には現代よりもみんなのびのびと自分のやりたいことにまっすぐ突き進んでいるようなイメージがあります。
──共に本作のようなラブストーリーへの出演経験も豊富ですが、その魅力とは?
神尾:やっぱり恋愛って、現実世界でもすごく心が動くものですよね。演者としては、どういう風に人を好きになるのかなとか、その心が動く様子を、自分が役柄になって演じられるところがすごく面白いと思っています。
桜田:ラブストーリーといっても、この作品のように胸キュンだけじゃないものも多くて、恋愛映画におけるもどかしさは結構大事な場面だったりすると思うんです。この映画のもどかしさは、もっとこうすればいいのにとか、素直になったらいいのにと、観客の皆さんも巻き込んで楽しめるし、この映画の1番の見どころにもなっていると思います。
──今回の映画からおふたりは特にどんなメッセージを受け取りましたか?
神尾:人との繋がりは本当に儚いものなんだろうなということを感じましたね。今回の映画では、ノートに書いたメッセージや手紙、またはラジオで繋がっていきますが、それらがなかったら多分、交わらなかった2人だし、周囲の方たちの助けがなかったら何も始まらなかったと思うので、人との繋がりがすごく大切だってことを教えてくれる映画だと思いました。
桜田:やっぱり1歩を踏み出す勇気って大事だなと。それは恋愛映画だけじゃないと思うんですけど、踏み出さないと始まらなかったり、伝えられないものもある。自分自身で踏み出すか、誰かに背中を押してもらえるかは人それぞれだと思うんですけど、その1歩が自分の運命も変える大きな1歩だなと感じました。
(プロフィール)
1999年生まれ。東京都出身。2015年に24時間テレビドラマスペシャル『母さん、俺は大丈夫』で俳優デビュー。2022年からはSDGs番組『サスティな!』でMCを務めるなど幅広く活躍中。今作の草野監督とは、2021年の映画『彼女が好きなものは』に続き2作目となる。近年の主な出演作は、映画『20歳のソウル』『恋は光』『カラダ探し』、ドラマ『真夏のシンデレラ』『いちばん好きな花』『くるり~誰が私と恋をした?~』『最寄りのユートピア』、舞台『薔薇とサムライ2 -海賊女王の帰還-』など。出演映画『パリピ孔明 THE MOVIE』が4月25日公開予定。
2002年生まれ。千葉県出身。幼少期からキャリアを重ね、2014年のドラマ『明日、ママがいない』などで注目を集める。2018~2023年には雑誌『Seventeen』の専属モデルとしても活躍。第47回日本アカデミー賞では新人俳優賞を受賞した。今作の草野監督とは、2016年の映画『にがくてあまい』に続き2作目となる。近年の主な出演作は、映画『おそ松さん』『交換ウソ日記』『バジーノイズ』『ブルーピリオド』、ドラマ『silent』『沼る。港区女子高生』『家政夫のミタゾノ(第6シリーズ)』『あたりのキッチン!』『あの子の子ども』など。ドラマ『相続探偵』に出演中(※1月25日から放送開始予定)。
2025年2月7日(金)公開
【STORY】
丈流と美優は、夜はバー、昼はカフェになる「Double」でそれぞれ働いている。
2人を繋ぐのは、連絡用のバイトノートだけ。
最初は業務連絡だけだったが、次第に趣味や悩みも綴るようになった。お互い素性を知らないまま、2人は大きな玉ねぎの下で(武道館)初めて会う約束をするが──。
一方、あるラジオ番組では30年前の文通相手(ペンフレンド)との恋が語られていた。顔は知らないけど好きな人と武道館で初めて会う約束をして...
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