韓国映画『脱走』主演イ・ジェフンにインタビュー!「私にとって一番幸せを感じる空間、それは映画館です」
『脱走』の劇場公開を記念して来日したイ・ジェフンさんに役作りや、ご自身の夢などについて伺いました!
6月20日(金)、自由に生きることを夢見る北朝鮮軍人の脱走劇を描いた韓国映画『脱走』が劇場公開となった。脱走兵ギュナムを演じたのはイ・ジェフン、ギュナムを執拗に追跡する高官ヒョンサンを演じたのはク・ギョファンだ。
ドラマ『復讐代行人〜模範タクシー〜』シリーズで復讐代行人として暗躍するタクシー運転手や、ドラマ『捜査班長1958』の破天荒な若手刑事など、正義心を持った役を演じることの多いジェフンは、いかなる状況に陥っても決して諦めずに全力疾走し続けるギュナムを熱演。本作の撮影中、ジェフンは人生で最も極端な食事制限を行い心身共に苦痛だったと明かしており、その全身から滲み出た極限状態が作品にリアリティやスリルをもたらしている。
一方、ドラマ『D.P.―脱走兵追跡官―』シリーズでの飄々としている軍人や、映画『新感染半島 ファイナル・ステージ』における狂気を秘めた無法者組織の指揮官など、“予測不能さ”が魅力のギョファンは、親しい兄貴分と無慈悲な軍人という二面性を持ち合わせたヒョンサンを見事に消化。ギュナムの揺るがぬ信念を突きつけられるたび、余裕と気品でひた隠しにしてきた本心が見え隠れして哀しみを誘う。
本作は追う者と追われる者/夢追い人と夢敗れた者、と明確な対比構造の物語となっているが、主演2人の持ち味や演技力がそこに大きく影響しているのは言うまでもない。異なる個性の2人だからこそ傑作が生まれたのだろう。
そんなイ・ジェフンとク・ギョファンが6月17日、『脱走』の劇場公開を記念して来日。舞台挨拶イベントの翌日に帰国、という過密スケジュールの中、合同取材の時間が設けられることに。彼らの素顔を少しでも引き出せたら、といくつか質問を投げかけてみた。この記事では、ク・ギョファン編をお届けする。
――イ・ジョンピル監督がギョファンさんのことをとても褒めていらっしゃったのですが、『脱走』出演の経緯について教えていただけますか?
ク・ギョファン:元々イ・ジョンピル監督のファンで、今回初めてオファーをいただけたので、「お!褒められたいっ」と思って出演しました。なので、先ほど仰った結果を得るために出演したことになります…、というのは冗談です(笑)。
良い脚本を選ぶことも大切ですが、それ以上に良い監督さん、良い俳優さんたちとご一緒することが重要だと思っています。俳優のイ・ジェフンさん、監督のイ・ジョンピルさんは、私にとって大切な愛する方たちなので、参加することができ、とても光栄に思っています。あと、私が演じたリ・ヒョンサンという人物に会ってみたい、という気持ちもあり、出演を決めました。
――リ・ヒョンサンというキャラクターをどのように構築していきましたか?
ク・ギョファン:今回の役作りでは、スタイルにかなりこだわりました。リ・ヒョンサンは、リップクリームを塗ったり、ポマードを髪につけたりと、見た目にこだわっていましたよね。そこで私が得たヒントというのが、彼が非常に臆病な人物で、恐怖や不安、そして弱い気持ちを隠すため、まるで鎧のようにして見た目に気を配っている、ということでした。
リ・ヒョンサンは、ポマードで固めていた髪型がだんだんと崩れ、前髪が落ちてくるにつれて正直になっていきます(笑)。スタイルが乱れると、本心が見える。手が汚れるほど、服が汚れるほど、だんだんと心が剥き出しになっていくのです。
――撮影で印象に残っているエピソードについて教えてください。
ク・ギョファン:ピアノというのは、どうしても長い時間練習してきた人のようには弾けないですよね。短期間で練習してもなかなかできるものではないので、ピアノの先生と一緒にどうしたら上手く見えるかということについて、悩みました。
そこで出た答えは、「勢いで弾くこと」(笑)。なので、あの映画のピアノを弾く姿というのは、私だけの演奏技法だと思ってください。観賞者の関心があまり手元へ向かないようパフォーマンスの方に力を入れ、「もしピアノが上手だったら」という気持ちで弾いていました。あと、実際に演奏する手がクローズアップされる数秒ほどのシーンを上手に弾きたかったのですが、本当に難しく、長い時間をかけて練習しました。
――あの場面は凝視しちゃいますよね。
ク・ギョファン:じゃあ、私の演技力が通じたのですね!
――今回の作品によって、イ・ジェフンさんはク・ギョファンさんと共演するという願いが叶いました。ギョファンさんご自身も喜ばれていましたが、これからの人生において叶えたい夢など、バケットリストについて教えていただけますか?
ク・ギョファン:私が演出した映画でもう一度日本に来ること、です。
――それに関連して伺いたいのですが、昨年marie clair KOREAのインタビューで、2024年内に自身で演出した長編作品をクランクインすると仰っていました。その後、進捗はいかがですか?
ク・ギョファン:おお!その作品ですが、すでに撮影が終了して、現在は編集段階にあります。なので、多分まもなく完成した作品を観ていただけると思います。仮タイトルは、『너의 나라』(日本語訳:あなたの国)です。スチール写真をお見せしましょうか?
(スタッフのスマホを借りてポスター画像を見せて下さる)
必要だったらスチール画像を差し上げましょうか?宣伝してくださいね。載せても良いですよっ!
――『脱走』の話に戻りますが、ジェフンさんとの共演で影響を受けたことについて教えていただけますか?
ク・ギョファン:彼の演技についてはもちろん、情熱を持って作品に取り組む方だと存じていましたが、彼は映画と映画館をとても愛しており、それらについて話す時、目が本当に光り輝いていて、「ああ、自分も好きなことを話す時に目が輝くようになりたいな」と思わされました。
少し付け加えますと、ジェフンさんは芸術系映画を上映する映画館がとても好きで、それらを巡るツアーも行なっています(※ジェフンの映画館紹介YouTubeチャンネル『제훈씨네』を指していると思われる)。私はと言うと、映画を作ることや演出することが好きです。先ほどの『너의 나라』(日本語訳:あなたの国)の話をしていた時に、私の目が輝いていたかどうかが気になりますが……。
――キラッキラ輝いていましたよ!!
ク・ギョファン:(嬉しそうにはにかむ)
――ギョファンさん、ジェフンさん、ジョンピル監督はシネフィル仲間らしいですね?
ク・ギョファン:私の場合、作品を網羅し尽くすようなシネフィルではなく、お気に入りの作品を繰り返し観るタイプです。好きな映画があると、それをお酒のアテにして観るのです。だから、家に一人でいる時は、好きな作品を観ながら呑んだりしています。
――最近は何をご覧になったのですか?
ク・ギョファン:相米慎二監督の『台風クラブ』です。最近、韓国でも再上映されていました。相米慎二監督の魔法のようなロングテイクが大好きなのです。
――ギョファンさんは2022年のELLE JAPANのZOOMインタビューで、「ライターさんの画面がフリーズする今の状況のような映画を撮りたい」と仰っていましたが、最近そのような偶然的な面白さに出会いましたか?
ク・ギョファン:そのインタビュー、覚えています!いつも周りの人にも伝えているのですが、常に準備しておいて、その状況の中で偶然的な出来事と出会いたいと思っています。なので、演技に臨む時にも、とにかく一生懸命準備を行い、現場に入った際に良い偶然と巡り合いたいと思っています。
最近、ヨン・サンホ監督の『군체』(日本語訳:群体)という作品を撮りましたが、そこでも非常に面白い偶然と出会いました。(ヨン・サンホ監督の)『新感染半島 ファイナル・ステージ』は、日本でもたくさんの方に愛された作品だと聞いています。今回の『군체』(日本語訳:群体)も同じぐらいとても面白い作品になっていますので、来年、ぜひ期待してください。
舞台挨拶では、ゴールドの装飾が施された肌触りの良さそうなカーディガンを、オーバル型メガネとカーゴパンツでカジュアルダウンさせた出で立ちで現れたク・ギョファン。
2019年「大阪アジアン映画祭」以来の公式来日とのことで、キョロリと目を動かし興味深げに客席を観察する様子が印象的だった。最後の挨拶の言葉は、「ある場面というのを映像で記録することもありますが、目で記録して忘れられない瞬間というのがあると思います。まさにこの瞬間を私はずっと記憶して、思い出としてこの一日を残したいと思います。<中略>この瞬間を絶対に忘れません。”カチャ”!(シャッターを切る仕草と一緒に)」というもの。控えめにしていたお茶目な顔が現れた瞬間だった。
取材当日は、肩パッド入りの滑らかなブラックスーツに、胸元と指元にシルバージュエリーが輝くラグジュアリーな格好で登場。思わず「お綺麗です」と伝えたら、「あなたは良い人ですね」とのお返事で、謙虚な方なのだろうなと感じた。部屋にいる全員が“取材モード”へと切り替わり、最初に行われたのは、作品に関する定番の質問。ギョファンは真面目そうな表情で回答すると、通訳の方が一通り話し終わるのを待ってから、「冗談です」とネタバラシ。空気が一気に和らいだのは言うまでもない。
その後も、時にはスマホを見せてくれるなど、気持ちの面で近い距離感をもって取材を受けてくれたと思う。きっとPR活動の過程では類似の質問と回答を繰り返すことにならざるを得ないと思うが、彼は、その時向き合う相手とのキャッチボールを活かし、どんな状況でも楽しい場にできる、アドリブの天才なのだろうと感じた。そして去り際、こちらにひらりひらりと手を振る無邪気な姿に、すっかり魅了されたのだった。
1982年12月生まれ。製作から監督、脚本、演技まで全てをこなす多才なアーティストとして注目され、『監督!僕にも DVD をください!』(13)、『フライ・トゥ・ザ・スカイ』(15)など韓国インディーズ映画界で独自の地位を築いてきたク・ギョファン。その実力がメジャー監督からも認められ、ヨン・サンホ監督の『新感染半島 ファイナル・ステージ』(20)、リュ・スンワン監督の『モガディシュ 脱出までの 14 日間』(21)にキャスティングされるなど、今最も多忙な俳優の一人にまで成長した。また、『D.P.―脱走兵追跡官―』(21、23)シリーズ、『寄生獣 -ザ・グレイ-』(24)や、特別出演した『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』(22)などの人気ドラマにも出演し幅広い客層に人気を集めている。本作でク・ギョファンは、ギュナムに対し兄のような優しさと、軍人として容赦のない追跡者という両極端な性格を持つキャラクターを見事に演じている。
ク・ギョファンの作品一覧
新宿ピカデリーほか全国ロードショー
監督:イ・ジョンピル『サムジンカンパニ―1995』
出演:イ・ジェフン「復讐代行人~模範タクシー~」、ク・ギョファン「D.P.-脱走兵追跡官-」、ホン・サビン『このろくでもない世界で』、ソン・ガン『ナビレラ〜それでも蝶は舞う〜』
挿入歌「ヤンファ大橋」:Zion.T
『脱走』イ・ジェフンさんのインタビュー記事はこちら
『脱走』の劇場公開を記念して来日したイ・ジェフンさんに役作りや、ご自身の夢などについて伺いました!
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