『ウイングマン』「その熱量」の肯定
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『ウイングマン』「その熱量」の肯定

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「ウイングマン観てる?」

ここ2ヶ月くらい、私が最も他人に問いかけている言葉である。次点で仕事中に使う「クレジットカードはタッチですか?差し込みですか?」だ。

せっかくなので読者貴兄にも聞いておこう。

君はドラマ『ウイングマン』を観ているか?

もしまだ観ていなければ今すぐ観てほしい。この記事はU-NEXT SQUAREさんから出るわけだし、ここで「『ウイングマン』を観るならU-NEXTで!」と言えれば格好がつくのだが、『ウイングマン』はDMM TVで独占見放題・独占配信されているためそうもいかない。他社の宣伝になってしまい少々気まずいが、DMMユーザーの方はご自分のアカウントから、そうでない方は現在TverやYouTubeテレ東ドラマ公式チャンネルで第1話が無料配信されているので、そこからとにかくまず観てほしい。

10月に第1話を視聴した時点で私は原作漫画も読んでいなかったしアニメも観ていない、特撮オタク、略して特オタ仲間の口から時々タイトルを聞いたことがある程度の、前情報及び作品知識ゼロの状態であったが、それでもめくるめく『ウイングマン』の世界に爆裂にブチ上がり、圧倒され、最後には気づかないうちに涙すら流すほど強く心を揺さぶられたのだ。

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©桂正和/集英社・「ウイングマン」製作委員会

この記事をクリックしてくださったほとんどの方がご存知だと思うが一応おさらいすると、ドラマ『ウイングマン』の原作となっているのは1983年から1985年に『週刊少年ジャンプ』で連載されていた桂正和先生による同名の漫画作品であり、『夢戦士ウイングマン』としてアニメ化やゲーム化もされた桂先生の代表作のひとつだ。

筆者の世代では桂先生といえば、実写と見紛うほどリアルタッチな人物描写が美しい恋愛漫画『I"s』の方がブームになっていたため、『ウイングマン』も桂正和作品だと知った時はその作風の違いに驚いたのだが、 桂先生が大の特撮ファンであるのは読者の間では周知の事実であったようだ。

漫画連載当時から桂先生と同じく「特オタ」だった友人が「当時は中学生や高校生になってもヒーロー番組を観ているのは異端だった。今と違ってネットも普及してなかったから誰にも言えなかったし、同じ趣味の友達もいなくて孤独だった。そんな時、天下の『ジャンプ』で俺みたいなやつが主人公の漫画が始まったんだよ。“健太は俺だ”って思ってのめり込んだ。だから『ウイングマン』は特別な作品だっていう特オタや、今特撮の仕事に関わっている人たちで『ウイングマン』に影響された人は多いはず」と熱く語ってくれたが、そんな多くの人の「夢」の始まりともなった伝説的名作が40年という時を超え、ヒーローアクション映像の第一人者、坂本浩一監督によって実写ドラマ化されたのが『ウイングマン』なのである。

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©桂正和/集英社・「ウイングマン」製作委員会

まず特筆したいのはキャスティングの素晴らしさだ。主演を務めるのは人気急上昇中の若手俳優、藤岡真威人さん。筆者は『仮面ライダー ビヨンド・ジェネレーションズ』の本郷猛役で彼の存在を知り、『君とゆきて咲く~新選組青春録~』の沖田総司役でその身体能力の高さや、自然体で真っ直ぐな演技が印象に残った俳優だった。今年の夏に開催された同作のファンミーティング「君とゆきて咲く~夏の宴~」で藤岡さんのお姿を生で拝見した時には、そのあまりの美貌とご本人の天真爛漫さに「天使だ……この世に天使がいる……!」と慄いてしまったのだが、健太を演じている時はきちんと「筋金入りのヒーローオタク」に見えるのがスゴイ。

ヒロインの一人であるアオイ役の加藤小夏さんも、異次元世界からやってきた健太と共闘するバディであり、一つ屋根の下で健太と暮らすうち、彼に仄かに惹かれ始めるという難しい役どころのアオイを豊かな表現力で演じている。

ここに菊地姫奈さん演じる、もう一人のヒロイン小川美紅が加わった三角関係も本作の見どころであり、両想いだと分かった相棒の健太と友人の美紅を「年上のお姉さん」として見守ろうとしつつ、ふとした瞬間に自分の淡い恋心が沸き上がり、傷ついたりもどかしい気持ちになってしまうアオイさんがもう切なすぎて毎週胸が張り裂けそうである。また、健太たちの担任である松岡先生を『仮面ライダーリバイス』で主人公たちを支え続けた母 幸実役の映美くららさんが、北倉先生役をウルトラマンゼロの声優でもお馴染み宮野真守さんが演じるなど、若手俳優が多い『ウイングマン』の世界観をベテラン勢がグッと引き締めてくれているのも魅力だ。

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©桂正和/集英社・「ウイングマン」製作委員会

キャスティングの秀逸さは『ウイングマン』のキモであるバトルシーンを担うアクションチームも同様だ。

『ウルトラマンメビウス』のウルトラマンメビウス役や『非公認戦隊アキバレンジャー』でアキバレッドのスーツアクターなどを務め、近年ではアクション監督としてもご活躍されている和田三四郎さんがアクションコーディネーターを担当。そして健太が変身するウイングマンのスーツアクターには仮面ライダーやスーパー戦隊シリーズなどに(スーツアクター、あるいは素顔の両方で)多数ご出演され、『ウルトラマンブレーザー』のステージショーでは「リュウマ隊員」としても特撮ファンには知名度の高い橋渡竜馬さんがご登板となっている。

個人的な話で恐縮だが、筆者は橋渡さんがヒーローショーに出演してた頃から応援していたため、橋渡さんが『ウイングマン』で初めて地上波ドラマの主役ヒーローを演じられると知った時は本当に涙が出るくらい嬉しかった。ウイングマンのスーツは、スーパー戦隊に代表されるようないわゆる全身タイツ系でも、インパクトの強い装飾が目を引く仮面ライダー系でも、全身をウェットスーツ生地で覆うウルトラマン系でもない特殊な質感とシルエットなのが凄く新鮮で、またそれをスタイリッシュに着こなし、毎回キレッキレのアクションを披露してくださる橋渡さんがまためちゃくちゃにカッコ良い。

ウイングマンがデザインされたTシャツをはじめ、橋渡さんの身体を3Dスキャンして作り上げたアクションフィギュア「S.H.Figuarts(真骨彫製法) ウイングマン」も発売が決定し、「橋渡さん関連のグッズがこんなに出る日が来るなんて……!」と喜びを噛み締める日々が続いている。

その他にも、キータクラーの怪人態にはスーパー戦隊のショーなどでメインキャラを務めていた清水林太郎さん、アオイのスタントダブルには「鳳神ヤツルギ」シリーズのキャサリン役の山本夢さん、悪の帝王リメル役に『仮面ライダーBLACKSUN』のバラオム怪人態が記憶に新しい坂井良平さん、リメルが健太たちの元へ送り込む刺客ザシーバを『ウルトラマントリガー』の妖艶なる闇の巨人カルミラ役で多くの視聴者を惹きつけた安川桃香さんが演じられることも発表されており、これだけの実力派アクターたちが勢揃いしている『ウイングマン』のアクションチームはまさに「ガチ」の布陣。毎週アッと驚くような大迫力のアクションシーンを展開してくれている。

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©桂正和/集英社・「ウイングマン」製作委員会

コミックス全13巻(愛蔵版では全7巻)に渡る内容を全10話のドラマ版で全て網羅することはできないので、各エピソードをギュッと詰め込んだ形で構成されている『ウイングマン』だが、要素の取捨選択が非常に巧みで、毎回内容が濃いのに一見さんでも観やすい仕上がりになっているのも本作の特徴だ。

漫画版では中学生となっていた健太たちの設定が高校生に変更されていたり、深夜の時間帯と言えど令和の地上波放送では絶対にできないだろう漫画版のお色気シーンの描写も極力抑えられるなど、幅広い層の視聴者が引っ掛かりなく観れる、時代に合わせた改変具合もありがたい一方、健太の「ヒーローが大好き」という誰にも負けない熱い思いや、ずっとヒーローになりたいと願ってきた健太がウイングマンとして脅威に立ち向かう中で、本物のヒーローに成長していくという作品の核となる部分は決してブレていないところに、この実写ドラマ企画がいかに原作に愛とリスペクトを込めて行っているかが伝わってくる。

『ウイングマン』の1話を観た時、私はなぜ初めて出会う彼らの物語に涙したのか。それは、そこに何者かになろうとしてあがく人間のいじらしさ、夢を見ることや憧れに焦がれること、何かを、誰かを好きになってしまうことのどうしようもなさや尊さにあふれているからに他ならない。坂本監督が「ここぞ」というタイミングで劇中でも流してくれるOP主題歌、BLUE ENCOUNTが歌う「chang[e] 」の中の「その熱量は正義だ」という歌詞が、健太たちの青春群像をまぶしく輝かせながら、それを観ている私たち視聴者の胸をも強く叩いてくれる。自分の「好き」は、はたから見れば変わっているかもしれない、理解されないかもしれない。でもそれを愛し抜こうとする人間の姿や、その勇気は、きっとまだ見ぬ誰かの心を救う「ヒーロー」に成り得るのだ。

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