大人気映画からドラマへ『ベイビーわるきゅーれ エブリデイ!』髙石あかり「ちさととして、ただそこにいればいい」
映画『ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ』も9月27日公開。ちさとを演じる髙石あかりさんに聞いた作品の魅力とは。
『孤狼の血』シリーズの作家・柚月裕子さんの警察サスペンスミステリー小説を映画化した『朽ちないサクラ』が6月21日より公開されます。杉咲花さんが演じた主人公の森口泉が、本来は捜査する立場にない警察の広報職員ながら、親友の変死事件の謎を独自に調査する中で、ストーカー殺人や警察の不祥事の真相、さらには警察組織の深い闇にも迫っていく物語です。
その監督・編集を務めたのが、公開中の『帰ってきたあぶない刑事』で長編映画監督デビューした新鋭・原廣利さん。ドラマ『日本ボロ宿紀行』では撮影監督も兼任した注目の映像クリエイターの原監督に、最新作『朽ちないサクラ』の制作過程や演出の狙い、そして藤井道人監督らと共に所属するBABEL LABELのお話なども交えて語っていただきました。
──『朽ちないサクラ』の監督オファーは、遠藤里紗プロデューサーからだったそうですね。原監督を「エンタメとアートの中間層をうまく狙える人」と高く評価されていて、今回のような骨太なエンタテインメントをやりたいという点でも共鳴しあっていたとうかがいました。
原:遠藤プロデューサーとは2021年のテレビドラマ『RISKY』で初めて組んだ後、サスペンスやミステリーなどの作品も好きだからやってみたいという話や、ポン・ジュノ監督作など好きな作品の話でもお互いにウマがあったんです。その後、遠藤プロデューサーから面白い原作がありますと紹介されたのが『朽ちないサクラ』でした。普段は本を読むのが遅い僕が1日で一気に読んでしまったほど面白くて、これはぜひ映画にしたいなと。ジェットコースタームービー的な感覚で読めたし、全編飽きさせないで一気に見せるような作品は、僕もやりたかった内容でした。
──監督として特に要望したことはありましたか?
原:なるべく桜が咲く時期に撮影したいとお願いしました。タイトルの“サクラ”とは公安警察を指す隠語で、原作には桜そのものの描写はあまりなかったと思うのですが、映像化の際には、実際に登場人物の周囲に桜が咲いている画があると、より立体的になるのかなと。
最初は綺麗に見えていた桜が、主人公・森口泉の心情と重なるようにどんどん怖いものに見えてくる。日本人にとって桜は綺麗なだけでなく、怖さも感じられるから、不穏な雰囲気も出せるだろうと。日本ならではの背景にもなるので、ぜひ桜を活かした画を実際に撮りたいとお願いしました。
──主人公の森口泉役に杉咲花さんをキャスティングされた理由はなんでしょう。
原:最初にお声がけしたのが杉咲さんでした。森口泉という役は、がんばる女性というか、親友が亡くなるきっかけを自分が作ってしまったかもしれないという後悔や苦悩がありながらも、立ち上がって前に進んでいく。弱さもあるけど、強く前に進む主人公のイメージには、目の強さが印象的な杉咲さんがピッタリだなと。それに、2016年の『湯を沸かすほどの熱い愛』で、まだ10代の杉咲さんにすごいパワーを感じて以来、いつかご一緒してみたいとずっと思っていました。
──原作でも森口泉は「幼い顔立ちの割に芯がしっかりしていて明るい」と描写されていました。
原:原作のイメージにも本当にピッタリでしたし、人間らしい弱さと強さを併せ持つ感じなど、彼女だからこそ出せたものが多かったと思います。また、すごく考えて脚本を読み込んでくださるし、座長としても頼りになる方でした。
決定稿前の脚本を杉咲さんに読んでいただいた際、マネージャーさんを通して疑問点のようなものを伺ったので、僕と脚本家やプロデューサー陣が、杉咲さんご本人とお会いして直接お答えする機会も設けさせていただきました。すると杉咲さんの持ってきた脚本と原作にはびっしりと付箋が貼られていたんです。説明して納得していただいたり、こちらも気づかなかった問題点や改善点が見つかったりと、3時間くらいディスカッションしたと思います。
そこで僕が面白いと思ったのは、杉咲さんから聞かれた大半の内容が、自分以外の登場人物や物語自体についてだったこと。普段俳優さんが聞いてくるのは自分の演じるシーンについてだと思うのですが、彼女は自分がどう見えるのかだけでなく、作品全体を見てくれていて、すごく信頼できる素晴らしい俳優さんだと感じました。
──脚本を固めていく上では、実態があまり知られていない公安警察をきちんと理解することも重要だったようですね。
原:警察署内で働いているけれど警察官ではなく、あくまで広報課の職員だった泉が、親友の不審死をきっかけに事件の真相を探る中で公安の闇に迫っていく物語です。原作では公安の真の目的をあえて明確には描いていないところもある。原作では読者の想像に委ねている部分を、映像では実際に描いて見せないといけない部分もあるし、原作を映像作品としてアレンジする上でも、公安のロジックを明確に理解しないとできない作品だと思いました。そのため、原作者の柚月裕子先生に疑問点を問いあわせたり、公安警察について取材もしました。
──今回のように原作のある作品を映像化する際に、特に大事にされていることや意識されていることはありますか?
原:自分が原作を最初に読んだ時の気持ちや感情を大切にしたいし、文字から伝わってきた雰囲気をちゃんと出したいと思っています。今回は、全編飽きさせない展開と、見えない怖さや不穏な感じを大切にしたいなと。また、0から1を生み出した原作者の方が作品に込めた思いは、しっかり汲みとりたいとも思いました。
──原監督は、『朽ちないサクラ』の約1ヵ月前に公開された『帰ってきたあぶない刑事』で長編映画監督デビューされましたが、両作の撮影時期は近かったのでしょうか?
原:オファーをいただいたのも近い時期でしたが、『帰ってきたあぶない刑事』は、若いスタッフたちで“僕らなり”の新しい『あぶデカ』を作れるのであればやらせていただきたいとお受けしました。
それで一昨年の10月から『帰ってきたあぶない刑事』を撮り始めたのですが、途中でロケの予定場所が使えなくなり、半年以上撮影を休止することになったので、結果としては、『朽ちないサクラ』の方が先に完成しました。監督作が続いたことはすごくありがたいことですし、次の監督作品に繋げていかなきゃダメだし、2作品共にヒットさせたいと思っています。
──サスペンスミステリーの『朽ちないサクラ』とアクションコメディの『帰ってきたあぶない刑事』はまったく異なるテイストですが、刑事ものの映画を連続して撮ったことにはメリットも感じましたか?
原:撮影方法や見せ方の部分などは特に活かせるものがありました。例えば『朽ちないサクラ』で車が横転するカーアクションも、準備の仕方や撮り方は『帰ってきたあぶない刑事』での経験を活かすことができました。逆に『朽ちないサクラ』をやったからこそ、『帰ってきたあぶない刑事』に活かせたこともあります。
また、音楽の聴かせ方やアクションシーンの見せ方など、双方にうまく相互作用や相乗効果を活かすことができ、作品はまったく違うけどいいエッセンスのようなものは両方に入っていると思います。
──両作は一見真逆のようで、誰もが楽しめるエンタテインメント作品であることや、映画らしいスケール感、奥行のある広い画と役者の表情や芝居をじっくり見せるアップの画が的確にある画作りなど、観客の見たいものをきちんと見せてくれる心地良さに共通点を感じました。
原:どちらもエンタテインメントとして作ることは意識していました。画作りでも常にお客さんが見たいものを心掛けていて、ひとつのシーンに対して基本的にヨリとヒキの画はすべて撮るし、切り返しなども含めていろんな画角やサイズで撮るようにしています。
撮影現場ではヒキの広い画だけでいいと思っても、編集段階で観客の見たい画と違うのではと気づくこともある。現場では長回しのワンカットでいいと思える魔の時間のようなものもあって、現場も瞬間的には盛り上がったりもするんですが、編集室に入って冷静になると、全然違ったなっていうことも結構あるんです。いい作品を作り上げるすべての責任を背負うのは監督なので、毎回、後悔のないように撮ることを心掛けています。
──『朽ちないサクラ』では、杉咲さんのアップも印象深くて効果的でしたね。
原:目の強さが印象的な杉咲さんって、やっぱりヨリのアップで撮りたくなるし、観客も彼女の表情をじっくり見たくなると思うんです。結局は作品によって違うとは思いますが、、観客の見たいものが重要かなと。クリストファー・ノーラン監督の『オッペンハイマー』を見ても、めちゃくちゃアップを多用しているし、カット割りも多くて早いし、音楽もずっと鳴っている。『オッペンハイマー』を見て勇気づけられたような気持ちになりましたね。
──原監督は、藤井道人監督が立ち上げた、監督やプロデューサーたちのクリエイター集団“BABEL LABEL(バベルレーベル)”に所属していますが、そこから受ける刺激も多いのでしょうか?
原:みんなが世界発信というか、海外でも見てもらいたいと思っている人たちの集まりですし、慣れ合うのではなく、刺激しあう関係性なんです。他の作品の話も各々の撮った作品の話もするので、藤井を含め彼らにダサいとかつまんないって絶対に言われたくない(笑)。BABEL LABELにいて、恥ずかしいものを世の中には絶対出したくないって思うんですよね。もちろん観客の方を一番に考えていますが、作っている時に直接浮かぶのはBABEL LABELのメンバーの顔だったりもする。「本当に面白いの?」みたいな感じで聞いてくる彼らに、「絶対に面白いよ!」って、しっかりと胸張って見せられる作品を作りたい。だからこそ妥協できないし、かっこ悪い姿は見せられないと、お互いに競いあっていることが、すごく刺激になっています。
──そのブランド力や知名度も高まってきていると思いますが、ご自身が考えるBABEL LABELの特徴や強みはなんでしょう。
原:映画だから、テレビドラマだから、PVだから、CMだからといった固定観念がなく、それぞれの境界線を引かない人間たちの集団ですから、各メディアの予定調和やセオリー通りには出来たりはしないことはありますが、自分たちがいいと思う独自のアプローチ方法や表現方法は強く持っている。また、プロデューサーや監督や脚本家が、風通し良く一緒になって作ることができる。面白いものを作るためには簡単に諦めないのが、僕らBABEL LABELの強みかなとも思っています。
──2本の自信作を携えて長編映画監督デビューした今、次の目標はありますか?
原:映画監督になることは昔から目標にしていたことですが、デビューしないと映画監督人生も始まらないなという程度で(笑)、映画もテレビドラマも配信も、見せ方に違いはあっても、マインドは同じだと思って撮ってきたので、それほど“デビュー”だと気負ってはいません。目標のひとつには、日本のエンタメの面白さを世界発信していくこともあります。またジャンル的にはアクションエンタメが好きなので、そういう作品をずっとやり続けていきたいし、『パスト ライブス/再会』みたいな大人のラブストーリーも、自分ならどう見せられるかやってみたい。すごく怖がりなのでホラー以外なら(笑)、どんなジャンルでも芯にエンタメがあれば何でもやってみたいですね。
(プロフィール)
原廣利(はら・ひろと)
日本大学藝術学部映画学科出身。先輩だった藤井道人が設立したBABEL LABELに参加し、2011年から映像作家としての活動を開始。広告作品やMV、ドラマ、短編映画などで高い評価を受ける。5月24日から公開中の『帰ってきたあぶない刑事』で長編映画を初監督。CMなど広告作品では監督と撮影を兼任することもあり、2018年のドラマ『日本ボロ宿紀行』では全話の撮影監督を務め、そのうちの2話では監督も兼任。2017年のドラマ『100万円の女たち』では2話分の監督と共に全話の編集も務めた。監督としての主な参加作品に、ドラマ『RISKY』『絶メシロード』『八月は夜のバッティングセンターで。』『真夜中にハロー!』『ウツボラ』など。
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