知ることは生きること──アニメ『薬屋のひとりごと』社会に立ち向かう猫猫の姿が心に刺さる注目エピソード3選
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知ることは生きること──アニメ『薬屋のひとりごと』社会に立ち向かう猫猫の姿が心に刺さる注目エピソード3選

2023.12.08 18:00

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  • 『薬屋のひとりごと』EP01
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  • 『薬屋のひとりごと』#4 恫喝
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Web小説の投稿プラットフォーム「小説家になろう」発のライトノベルが原作のアニメ『薬屋のひとりごと』。2023年10月より放送が開始され、話題となっています。

本作では、架空の後宮を舞台に、薬学の知識でトラブルを解決して、次第に重宝される立場となっていく主人公・猫猫(マオマオ)の姿を描き出しています。

今回はそんな「知識は身を助く」という言葉を体現しているかのような猫猫の、翻弄されながらも踏ん張る姿が心に刺さる、3つのエピソードをご紹介します。

①自分の身を守るということ──第1話「猫猫」

中世の中国を思わせる世界を舞台にした『薬屋のひとりごと』。春を売る花街で薬師として働いていた猫猫は、人買いにさらわれて売り飛ばされた後宮で下働きをすることに。

『薬屋のひとりごと』EP01
©日向夏・イマジカインフォス/「薬屋のひとりごと」製作委員会

猫猫は後宮の下女という立場でしたが、ある時、皇帝の寵愛を受ける妃たちが親子共々毒に蝕まれていることに気付き、匿名で忠告します。そのことから、宦官の壬氏に、猫猫の教養や資質を見抜かれてしまうのでした。そして、猫猫のおかげで助かった上級妃の玉葉に、毒に詳しいことを買われて毒味役の侍女として雇われることとなるのです。

毒の正体は、化粧のために当時使われていた白粉(おしろい)に含まれていた鉛(なまり)でした。真相を知った玉葉は言います。「無知は罪ですね」と。壬氏も「もっと早くに気づいていれば多くの命が救えたかもしれない」と後悔します。

『薬屋のひとりごと』EP01
©日向夏・イマジカインフォス/「薬屋のひとりごと」製作委員会

無知は罪──とても厳しい言い方ですが、皇帝を戴く独裁国家、しかもその子孫繁栄のための場所である後宮という場所にあっては、それはたしかに原理原則だと言えるのでしょう。

他人を蹴落とし、自分の子孫を繁栄させなければならない状況で、自分の身を守るのは自分の知恵と機転だけです。これが『薬屋のひとりごと』の通奏低音として作品を貫くテーマでもあります。裏を返せば、知ることは生きることに繋がることをも示しています。

ある者は猫猫の忠告に従い母子ともに命を取り留め、ある者は忠告に気付くことなく赤子を失う。知恵を授かる機会をどう受け止めるかで、文字通り明暗の分かれた象徴的な第1話でした。

②「バカ」大人しかった猫猫の剣幕の理由──第4話「恫喝」

『薬屋のひとりごと』#4 恫喝
©日向夏・イマジカインフォス/「薬屋のひとりごと」製作委員会

薬学の知識を買われるようになった猫猫は、帝の命令で、上級妃の1人である梨花の看病をすることに。梨花とは、第1話で猫猫の忠告を無視して(というか気付かなかったと思わせる描写がありました)、結果的に帝の後継たる息子を失ってしまった妃その人でした。

その失意から病に倒れ衰弱しきっている様子の梨花を、猫猫は何とかしなければなりません。帝の命を果たせなければ、明日首が繋がっている保証はないのですから。

ですが、優しく迎えられた玉葉の侍女とは違って、梨花の侍女たちは身分の低い猫猫を蔑み、邪魔者扱いします。

『薬屋のひとりごと』#4 恫喝
©日向夏・イマジカインフォス/「薬屋のひとりごと」製作委員会

栄養と消化の良いお粥を持って行っても「梨花様に下賎の食べ物を食べさせる気!?」と、叩き落とされる始末。衰弱しきった梨花が妃用の豪華な食事を受け付けるはずもないのですが、侍女たちは変わらずそれを与えようとしては当然失敗し、梨花の衰弱死はもう時間の問題でした。

しかし衰弱の思わぬ原因が発覚して、事態は急転直下します。毒であることが発覚して以降は禁じられていたはずの白粉を、「美しくあってほしい、本人もそう望んでいるはず」と思った侍女が梨花に使い続けていたことが明らかになったのです。

『薬屋のひとりごと』ep04
©日向夏・イマジカインフォス/「薬屋のひとりごと」製作委員会

それまでは大人しく従っていた猫猫は、それに気付いた途端にブチ切れて侍女に強烈なビンタをかまし、彼女の愚行を恫喝します。その剣幕に圧倒された侍女たちは、その後は猫猫の指示に従うようになって、梨花は無事回復に向かっていくのでした。

すでにお察しの通り、このエピソードは前述した第1話とある意味では対になっています。

「バカ」「何も考えていない、自分が一番正しいと思って」と侍女を罵った猫猫の怒りは苛烈でした。無知は罪で、知恵を適切に受け止め自らが思考しなければ、その怠惰はいずれ誰かの命を奪うことになる。そんなメッセージが再び、しかも今度は第1話のようなさりげない形ではなくて、猫猫の口から強烈な形で発せられるのでした。

『薬屋のひとりごと』EP04
©日向夏・イマジカインフォス/「薬屋のひとりごと」製作委員会

その後絶望の底にいながらも一命を取り留めた、梨花と猫猫とのやりとりも必見です。

③知識は力を与えるけれど…──第8話「麦稈」

3日間という短い時間ながら、ついに実家に帰って来れた猫猫。しかしそこでも事件が起こります。

『薬屋のひとりごと』ep08
©日向夏・イマジカインフォス/「薬屋のひとりごと」製作委員会

娼館で妓女(ぎじょ)と客が毒を飲んで倒れ、小間使いである幼い禿(かむろ)が薬師に助けを求めに来ました。

『薬屋のひとりごと』ep08
©日向夏・イマジカインフォス/「薬屋のひとりごと」製作委員会

おやじは不在のため猫猫が駆けつけ、迅速な処置で男女は一命を取り留めます。

部屋に散らばった煙草の葉を飲んだ心中かと思われましたが、どうも腑に落ちないものが残ります。重ねて、妓女より症状の重かった男の部屋に忍び込んだ禿が、刃物で男を刺し殺そうとしたのを目撃することに。事情を問いただすと、放蕩の限りを尽くして禿の姉を自殺にまで追いやったのがこの男で、その上慕っていた妓女まで心中で奪われようとしたのが許せなかったとのことでした。

しかし、事の真相は違っていました。この騒動は、水分の性質とあるギミックによる手口を使った、妓女による男の殺害計画だったのです。

『薬屋のひとりごと』ep08
©日向夏・イマジカインフォス/「薬屋のひとりごと」製作委員会

その手口はアニメ本編をご覧いただくとして、猫猫は確かに男の命を救ったことにはなるのですが、嚥下しきれないわだかまりが胸につかえるエピソードでした。

あんなにも戻りたかった花街も、一皮剥けば後宮と変わらない。猫猫は改めてそのことに気付きます。鳥かごに囚われ、閉じ込められた空気に毒されることで人もまた毒そのものになっていくのだ、と。

限りなく正しいと思われる真相にたどり着いた猫猫ですが、考えれば考えるほどすべてが疑わしく感じてしまいます。それに、もう起こってしまった出来事です。助かった男がその後娼館を訴えるのか、あるいは娼館が大事な商品を台無しにしたと脅すのか。事実がどうあれ、猫猫に介入する余地はありません。

『薬屋のひとりごと』ep08
©日向夏・イマジカインフォス/「薬屋のひとりごと」製作委員会

知ることは生きることである。それが『薬屋のひとりごと』のテーマであることは明白ですが、このエピソードはある意味そのアンチテーゼでもあり、逆説的にテーマを問い直す構造になっています。

知識を身につけたとしても、現実や社会構造に果たしてどこまで立ち向かえるのか。それは、まるでその後の猫猫が巻き込まれることになる、大きなうねりを示唆するかのようでした。

花街出身の薬師・猫猫が翻弄されながらも知恵と経験で踏ん張る姿に、共感する視聴者も多いはずです。王道とも言える後宮もので、ちょっとしたミステリー要素と、容姿端麗な壬氏との絶妙な関係も発展を見せる恋愛要素も加わって人気を博しています。

解説してきた『薬屋のひとりごと』のテーマが今後どのような未来を導くのか楽しみです。


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『薬屋のひとりごと』

『薬屋のひとりごと』
©日向夏・イマジカインフォス/「薬屋のひとりごと」製作委員会

放送:毎週土曜24:55より日本テレビ系にて全国放送中
U-NEXT配信:放送終了後、順次配信中

【あらすじ】
大陸の中央に位置するとある大国。その国の帝の妃たちが住む後宮に一人の娘がいた。名前は、猫猫(マオマオ)。花街で薬師をやっていたが、現在は後宮で下働き中である。ある日、帝の御子たちが皆短命であることを知る。今現在いる二人の御子もともに病で次第に弱っている話を聞いた猫猫は、興味本位でその原因を調べ始める。呪いなどあるわけないと言わんばかりに。美形の宦官・壬氏(ジンシ)は、猫猫を帝の寵妃の毒見役にする。人間には興味がないが、毒と薬の執着は異常、そんな花街育ちの薬師が巻き込まれる噂や事件。壬氏からどんどん面倒事を押し付けられながらも、仕事をこなしていく猫猫。稀代の毒好き娘が今日も後宮内を駆け回る。

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