『少女は卒業しない』主演・河合優実。死に物狂いの高校時代と、デビュー後5年間の変遷
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『少女は卒業しない』主演・河合優実。死に物狂いの高校時代と、デビュー後5年間の変遷

2023.04.21 12:00

役柄によって全く印象を変えながらも、強い存在感を残す、俳優・河合優実。

2019年のデビュー以降、ものすごい勢いで映画、ドラマ、舞台で欠かせない存在となり、『PLAN 75』『ある男』『愛なのに』『冬薔薇(そうび)』など、昨年公開した出演作数は8本にものぼります。

少女たちの卒業式までの2日間を描く直木賞作家・朝井リョウによる原作を、中川駿が監督した『少女は卒業しない』で初主演を果たした彼女に、本作への思いと、高校卒業後のデビューから5年間の変遷を聞きました。

感覚を大事にしながら、みんなで一緒につくるという開かれた現場

——本作の脚本を読んだときの印象を教えてください。

河合:せっかく映画にするんだから、映画なりの意味を持たせようという中川さん(監督)なりの着地点があるなというのが大きな印象でした。答辞という原作にない大きな要素を加えていたり、原作から大胆に書き換えをされていたので。

——河合さんの読む答辞のシーンが印象的でしたが、そこについて原作者である朝井リョウさんとも対話されたとか。

河合:ちょうど答辞のシーンの撮影前に朝井さんがいらしていただけで、そのシーンの話をしたわけではなかったと思います。

原作小説があって、それを2時間という映画にするために監督である中川さんが脚色するわけですけど、原作者である朝井さんはそれをどういう風に読むんだろう?「少女は卒業しない」を書いた原点には何があったんだろう?といったことをせっかくの機会に聞きたくて、対話というよりインタビューするみたいなスタンスでお話を伺いました。

——そのインタビューを経て、何か掴めたことはありましたか?

河合:ありました。言語化はできないんですが、大事な部分の壁にタッチして帰ってきたみたいな感触はありました。現場に入る前に、中川さんが、「自分の感覚を大事にしてほしいし、一緒につくっていきたいから何でも言ってください」と出演者みんなに言ってくださっていたので、それを踏まえて、現場でもみんなでいろいろと話しながらつくっていくことができたと思います。

——セリフの一つひとつに高校生の日常のリアリティがあるように感じましたが、そこには出演者のみなさんの意見が反映されているのでしょうか。

河合:舞台挨拶やプロモーションでお話を聞いていても、各自がしゃべっていた言葉がそのまま使われているように、語尾や言い回しはみんな適宜変更していたと思います。ただ、そもそも中川さんの言葉の感覚が、かなり高校生のものと近かったのかなと。台本の段階から違和感のないセリフだと感じていました。

過去に監督した作品でも学校の話を描いていらっしゃるし、今の若者の言葉を捉えるのが得意な方なんだなと。話していても、あまり世代差を感じないように接してくださいます。

——河合さんご自身が高校を卒業されたのは4年前ですが、高校時代に戻りたいという気持ちもありますか?

河合:戻りたいとは思わないかもしれません。すっごく楽しかったんですが、これ以上できないっていうくらいやり尽くしました(笑)。

『少女は卒業しない』河合優実さん_03(変更予定)


死に物狂いで全てをやり切った、青春時代の感情

——ご自身の青春時代を言葉で表現するとしたら、どんな言葉が思い浮かびますか?

河合:死に物狂い(笑)。やりたいことは全部やろうという欲張りな時代でした。3年間でやりたいことには自分のキャパシティが全然足りてないので、時間がいつも足りないという感覚があって。だから、何かを削らなきゃいけないのに、興味のあるものを全部ぐっちゃぐちゃにして手を出す、ということがなぜかあの時は成立していたんですよね。すごくエネルギーがあったし、それをもう最大限に利用していたと思います。

——最も記憶に残っている、当時の感情は?

河合:胸が熱くなるみたいな感じ。そう感じさせてくれる人たちが、周りにたくさんいたんです。もちろん、いろんなタイプがいましたけど、これって楽しいよねということを周りと確認しながら、みんなで共有する人が多く集まる環境だったと思います。そういう高校時代を過ごせたから、たぶん、今この仕事をしているという気がします。

——本作に取り組む中で、個人的な思い出が蘇ることはありましたか?

河合:答辞を読んだことですかね。最初に脚本を読んだ時は、個人的な経験とリンクしてピンとくることはなかったんです。撮影前の準備期間に読み直していたら、そういえば答辞読んだじゃん自分、とはたと気づいて。その時の空気は意外と覚えていないけれど、自分が卒業生を代表して、過ごした3年間をどういう文章にしようかと考える時間はすごく楽しかった記憶があります。

——答辞を読まれるということは、高校時代は、リーダー的な役割だったんでしょうか。

河合:引っ張っていく立場に置かれることは、多かったと思います。最初は、誰も手を挙げない時に「じゃあ、私やります」と挙手するところから始まって、「今年も優実がやるんでしょ」みたいなポジションが卒業するまで続いたという感じでした。

いつも状況を観察して、これを言った方が話が進むな、という時には行動してしまう性格なので、結果、リーダー的なポジションになっていて。例えば、みんなこう思ってるのに誰も言わない時とかが、すごく気持ち悪いんですよ。言えばいいじゃん、と思ってしまう方ではありますね。

原動力は、作品づくりが、演技が楽しいという気持ち

——状況を観察して、意見してきた経験は今の仕事に生きているのではないでしょうか。

河合:そうですね。今お話をしていて、撮影現場も教室みたいなものかもしれないと思いました。みんなの願いが一斉に叶う状況はあんまりない中で、どうにか前に進めていくわけですから。とはいえ私はプロデューサーでもなければ、監督でもないので、 何か摩擦があったときに前に進めるのは自分の仕事ではありません。

ただ、一俳優という立場であっても、ただ演じて終わり、じゃなく、そこに参加して、一緒につくっているからできることもあるし、できないこともあるんじゃないかとは考えています。

——デビューから4年が経ち、仕事に対する考えに変化はありましたか?

河合:変わってきたなと思うのは、それこそ自分はまず演じる立場だけれど、作品をつくって届けている立場でもあることを実感する機会が増えたなと。出演した映画が現実の世界で上映されている、という経験を4年重ねて、ある時代の流れの中でこういう映画が上映されて、観た人々はこんな気持ちになるんだなと、作品の影響を俯瞰して捉えられるようになっているような気がします。

——俳優を続けている原動力ってなんだと思いますか?

河合:突き詰めるとやっぱり、シンプルに楽しいからですね。参加する作品も、演技について考えていることも常々変わってはいますが、ずっと楽しめているという気持ちは変わらない。いろんな役割の人がいて、一緒に作品を生み出すということを楽しんでいますし、演技について言えば、演じる人について考えて、それを体で表現する。内容、密度、方法は毎回異なっても、その行為自体が楽しいんですよね。

——最初は影の多い役が多かったり、本作でも喪失を体験した役柄を演じていますが、その理由はなぜだと思いますか?

河合:えー、見た目とか低めの声じゃないですかね(笑)。始めたばかりの頃は、演技であっても、喪失を経験したり傷つくことは一人の人間にとってすごく大きいことだという実感があまりなかったので、その時しかできない演技をしてきました。

今の方がフィクションとはいえ、大変な状況に陥っている人を演じることに対して、もっと怖くなっていますし、重く受け止めていますね。やったことに後悔はないですが。

『少女は卒業しない』河合優実さん_02


表現を仕事にする者として、時代の価値観を残していくこと

——そんな河合さんの原点にある、影響を受けたカルチャーとは?

河合:ダンスもしていましたし、歌も好きだったので、ミュージカルやショーのようなエンターテイメントを観て興奮する、胸が熱くなるという気持ちは原点にあるかもしれないです。

——最近、読んで、観て面白かったという作品があれば教えてください。

河合:現場に入ってないときは何かしら小説を読んでいるんですが、最近読んだものだと、川上未映子さんの「夏物語」がすごくよかったです。自分がうまく言葉にできないことを言葉にしてくれている。そんな気持ちになりました。

——最後に、河合さんは、自分たちの時代、世代の価値観をどうやって表現していきたいと考えているかを聞かせていただければと思います。

河合:デジタル時代の今は、新しい価値観を自分の中に取り入れたければいくらでも取り入れられます。加えてどんな形であっても声をあげられる時代でもある。それはいいことだけれど、だからこそ逆に、役者だったり、文章を書く人だったり、アーティストだったり、表現を仕事にしている人たちが、時代の価値観を残していくことに大きな役割があると感じています。

役者であれば、映画、ドラマ、舞台といった作品を通してそれを表現する。どんな作品でもいいし、わかりやすい社会的なテーマが描かれていなくてもよくて、各々がある人を演じるという立場で、それぞれの価値観を持ち寄り、そこから何か形として浮かび上がってくる——そこに、俳優の役割というものがあるんじゃないかなと私は思っています。



プロフィール

河合優実

2000年12月19日生まれ、東京都出身。2019 年デビュー。2019年デビュー後、数々の新人賞を受賞。2022年は第14回TAMA映画賞<最優秀新進女優賞>、第35回日刊スポーツ映画大賞<新人賞>、第44回ヨコハマ映画祭<助演女優賞>を受賞。

映画『少女は卒業しない』

『少女は卒業しない』場面写真
© 朝井リョウ/集英社・2023 映画「少女は卒業しない」製作委員会

今日、私はさよならする。世界のすべてだったこの“学校”と、“恋”と。

廃校が決まり、校舎の取り壊しを目前に控えたとある地方高校、“最後の卒業式”までの2日間。別れの匂いに満ちた校舎で、世界のすべてだった“恋”にさよならを告げようとする4人の少女たち。抗うことのできない別れを受け入れ、それぞれが秘めた想いを形にする。ある少女は進路の違いで離れ離れになる彼氏に。ある少女は中学から片思いの同級生に。ある少女は密かに想いを寄せる先生に。しかし、卒業生代表の答辞を担当するまなみは、どうしても伝えられない彼への“想い”を抱えていたー。

※2023年4⽉26⽇(⽔)12時よりアクセス可能

●出演:河合優実 小野莉奈 小宮山莉渚 中井友望 窪塚愛流 佐藤緋美 宇佐卓真 / 藤原季節

●監督・脚本:中川駿 

●原作:朝井リョウ『少女は卒業しない』(集英社文庫刊)

●主題歌:みゆな「夢でも」(A.S.A.B) 

●製作プロダクション:ダブ

●製作:映画「少女は卒業しない」製作委員会(クロックワークス、U-NEXT、ダブ)

●配給:クロックワークス 

●公式HP: shoujo-sotsugyo.com

この記事に関する写真(3枚)

  • 『少女は卒業しない』河合優実さん_03(変更予定)
  • 『少女は卒業しない』河合優実さん_02
  • 『少女は卒業しない』場面写真

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