何かを“知る”ことにきっとつながる──広瀬すず×松下洸平、映画『遠い山なみの光』インタビュー
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何かを“知る”ことにきっとつながる──広瀬すず×松下洸平、映画『遠い山なみの光』インタビュー

2025.08.29 12:00

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戦後間もない長崎。そこには癒えぬ傷を抱えながらも、未来を見つめようと必死に生きる人々がいた。

映画『遠い山なみの光』(2025年9月5日公開予定)では、そんな時代を懸命に生きたある夫婦の姿が静かに、そして力強く描かれている。主人公・悦子を演じた広瀬すずさんと、その夫・二郎を演じた松下洸平さん。初共演となった2人は、この物語から何を受け取り、どう表現したのか。

脚本を初めて読んだ時の印象から、役作りで大切にしたこと、そしてプライベートにも通じる「心を通わせる」ことの難しさまで。本作を通して芽生えた想いを、広瀬さんと松下さんに訊いた。

未来を描く物語。“生きるエネルギー”がそこにある

──お二人は最初に脚本を読まれた時、この物語からどのような印象を受けましたか?

松下:まず「長崎弁だ」と思いました。実はこの作品のすぐ前にも、長崎弁の役での撮影があったので、久しぶりにまた長崎弁をしゃべれることが、純粋に嬉しかったですね。

物語については、戦後間もない長崎を描く作品の中でも、反戦的な意味合いを強く込めたものではないと感じました。 これは単なる戦争映画ではなく、戦争の悲惨さだけを切り取るのでもない。その時代を生きた人たちが、次に何をするかという“未来”を描く物語なのだと受け取りました。

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松下:たとえば、「これからは女性がしっかりと意見を言う時代になる」というセリフがありますが、僕が演じた二郎は、戦争を経験したからこそ“これからどう生きていくか”を模索している。そうした渦中にいる人々が、未来を見るために奮闘する物語なんだと感じました。

登場人物たちは常に戦争の記憶を抱えながらも、それでも前を向いて生きていきたいと願っている。そんな気持ちが、全面的に描かれています。そして、登場人物一人ひとりから湧き上がってくる“生きるエネルギー”は、作品を観終わった後、今を生きる私たちの心にも強く響くものがあるのではないかと思います。

広瀬:私は当時の女性たちの生き方や、難しい環境の中で意志を貫き通そうとする姿勢に強く惹かれました。悦子さんや佐知子さんのように、何かを覆そうとしていくような力強い女性像を、私もぜひ演じてみたいと感じたんです。

もちろん、長崎で何があったのかは演じる以前から史実として知っていました。ただ、具体的にどのような状況で、どんな景色が広がっていたのかまでは、想像がおよんでいないところもあった。だからこそ、私たちはもっと知っていかなければいけないと、演じ終えたいま特に感じています。

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広瀬:私たちの世代やさらに若い人たちが、もっと“知る”ということ。それがすごく大事なのではないかと思いました。先ほど松下さんがおっしゃったように、この作品は戦争映画という枠組みではないかもしれません。そのうえで、この作品が誰かにとって“知る”きっかけのひとつになってほしいと思っています。

監督と試行錯誤した言葉の“濁し方”

──悦子と二郎、それぞれの役を演じる上で、ご自身の心の中で大切にしていたことはありますか?

松下:僕が演じた二郎は、実際に戦地へ赴いた人物です。だからこそ、彼にしか分からない苦しみや痛みがあったはずだと感じていました。 

この映画には、戦地の光景を直接見た人物はほとんど登場しません。渡辺大知くんが演じた高校教師・松田重夫や、二郎くらいです。だからこそ、経験した者にしかわからない痛みや悲しみを、この作品の中にしっかりと残していかなければならないと思っていました。

──特に、三浦友和さん演じる父親との対立は印象的でした。

松下:単なる親子の確執ではなく、戦争に対する思想の違いが根底にあると思っています。僕と三浦さんの会話の節々に、ふたりの価値観の違いが表れていると思います。戦争を実体験した方々が少なくなってきている今だからこそ、そうした考え方の違いがあったという事実を、映画という形で残していくことは、非常に意味があると感じていました。 

劇中のセリフにもある、「自分が戦争に行く時に、万歳で見送る父親の姿が忘れられない」という苦しみ。そういったものもまた、私たちが残していくべきことのひとつなのかもしれないと感じながら、二郎を演じていました。

遠い山なみの光_サブサブ⑤
©2025 A Pale View of Hills Film Partners

──広瀬さんはいかがですか?

広瀬:悦子さんの感情と心、そして口に出す言葉がつながっていないような感覚を大切にしていました。思っていることと、表に出すことが一致していない。 そこが彼女の抱えるもどかしさのひとつであり、ある意味で自分を殺しながら、何かを隠しながら生きなければならなかった理由だと思います。気づいたら、ずっと嘘をついている状態になっていた。その状況は、考えれば考えるほど、演じる上でとても重要なことでした。

特に夫である二郎さんと家にいる時の関係性に、悦子さんの気持ちが顕著に表れていたと思います。ドキッとするような、ストレートなセリフを急に投げかける場面もありました。その言葉を目を見て言うのか、何か別のことをしながら言うのか。言葉の“濁し方”の塩梅を、監督とかなり話し合ったのを覚えています。 

対照的なふたりが語る、「心を通わせる」難しさ

──作中では、夫婦という近しい関係だからこその“言葉の難しさ”も描かれていました。お二人が普段、誰かと心を通わせる上で大切にしていることはありますか?

松下:人それぞれ大切にしていることがあると思うのですが、僕の場合はなるべく相手を傷つけないように、といつも心がけています。

もちろん、時には傷つけてでも伝えなければいけない瞬間もあると思います。でも僕はもともと、揉め事があまり好きではなくて、人との争いがすごく苦手なんです。なので極力、波風が立たない選択をするようにしています。とにかく、ケンカが苦手で…(笑)。とはいえ、自分の気持ちを抑え続けて言いたいことが言えないのも、それはそれでストレスになるかもしれません。なので、何か自分や相手にとって不都合がありそうなときは、なるべく面と向かって話し合うようにはしています。

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広瀬:私はどちらかというと、松下さんの逆です(笑)。結構はっきり言うタイプですね。もちろん、そうしない場面もありますし、何も考えずに言うわけではありません。そのうえで、言いづらいことであっても、伝えるべきと思ったことは、わりと言葉にできるタイプです。

相手のことを信頼しているから言える、という部分もあると思います。甘えられるというか。だからこそ、悦子さんと二郎さんのように「気づいたら釘を刺されていた」といった関係性も、ある意味では、ひとつの信頼の形なのかもしれないと思っています。

遠い山なみの光_サブサブ④
©2025 A Pale View of Hills Film Partners

松下:結局、人の想いは言葉にしないと100%はわからないですからね。察することはできても、限界がある。二郎さんは、悦子さんに対して言いたいことを言っているつもりで、実は全然言えていない。不器用な人なんだろうなと思いますし、そこはなんとなく、自分も理解できる部分ではあります。

──そうした悦子と二郎の夫婦としての関係性をどう表現するか、現場でお二人が直接話し合うようなことはあったのでしょうか?

松下:実はそこまでありませんでした。今回が初共演ではありましたが、面識はあって、気心が知れた仲でもあったので。もし本当に「初めまして」の関係だったら、多少は役について話すこともあったかもしれません。ですが、今回はそういうのがなくても大丈夫でした。だからこそ、あの夫婦の空気感が自然に作れたような気もしています。

過去を“知る”。そして未来へ伝えていくこと

──この作品で描かれる生きづらさや苦悩は、現代を生きる私たちにも通じる部分があると感じます。もしお二人が、映画の中の悦子や二郎に何か声をかけるとしたら、どんな言葉が思い浮かびますか?

松下:難しいですね。本当に、当時の人たちが抱えていたものの大きさは、計り知れないと思うんです。平和な時代に生きている僕たちには、想像もできないほど辛い経験や光景をたくさん見てきたはずなので。

広瀬:そうですね。何も言ってあげられない、というのが正直なところかもしれません。ただ、先ほども少し触れたように、私たちが少しでも今より“知る”ことに、何か意味があるのではないかと思います。当事者の方にしかわからないことは絶対にある。そのうえで、時代を超えて今の私たちがこの物語に触れる意味があるとすれば、何かを知って、それを次の世代に共有していくことにあるような気がします。

松下:この物語の登場人物たちが見た世界や感じた痛みを、僕たちが引き継いでいく。そして、それをまた次の世代へ伝えていかなければならない。その役割は、とても大きなものだと思います。その使命のために演じたというわけではないのですが、結果的にこの作品が、そういう役割を少しでも担えることを願っています。

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映画『遠い山なみの光』

9月5日(金)TOHOシネマズ日比谷 他 全国ロードショー

日本人の母とイギリス人の父を持ち、ロンドンで暮らすニキ。彼女は、戦後長崎から渡英してきた母悦子の半生を作品にしたいと考える。娘に乞われ、口を閉ざしてきた過去の記憶を語り始める悦子。それは、戦後復興期の活気溢れる長崎で出会った、佐知子という女性とその幼い娘と過ごしたひと夏の思い出だった。初めて聞く母の話に心揺さぶられるニキ。だが、何かがおかしい。彼女は悦子の語る物語に秘められた<嘘>に気付き始め、やがて思いがけない真実にたどり着く──。

原作:カズオ・イシグロ/小野寺健訳「遠い山なみの光」(ハヤカワ文庫)

監督・脚本・編集:石川慶 『ある男』

出演:広瀬すず、二階堂ふみ、吉田羊、カミラ・アイコ、柴田理恵、渡辺大知、鈴木碧桜、松下洸平/三浦友和

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