『ゆびさきと恋々』が尊い…!共感を集める理由とは?
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『ゆびさきと恋々』が尊い…!共感を集める理由とは?

2023.12.30 15:00

講談社「デザート」で連載中のマンガ『ゆびさきと恋々』は、累計発行部数380万部突破(電子版含む)のヒット作。各種マンガ賞を受賞したほか、2024年1月6日からはTVアニメの放送もスタートします。

主人公の糸瀬雪は、生まれつき耳が聴こえない大学生。ある日、雪が電車で外国人に道を聞かれて困っていたところ、助けに入ってくれたのが同じ大学に通う波岐逸臣(なぎ・いつおみ)でした。この時から、雪は逸臣が気になり始めて……。

初恋のときめきをギュッと詰め込んだ『ゆびさきと恋々』。「尊い」「きゅんが止まらない」と話題になった本作に、なぜここまで心惹かれるのでしょう。本記事では、その共感ポイントを探ります。

ゆびさきと恋々_マンガ書影
©森下suu・講談社

初恋の“きゅん”が詰まったピュアな描写

耳が聴こえない主人公の雪は、高校まではろう者(聴覚障がい者)の学校に通い、同級生はわずか数名だったため、恋を知らないまま大きくなりました。そんな雪が高校卒業後、外の世界に踏み出すように大学へ。そして、電車内での出会いをきっかけに、同じ大学に通う先輩・逸臣に惹かれていきます。この恋する気持ち、初恋のドキドキ感が、最大の共感ポイント。年齢や性別、障がいの有無など関係ない、普遍的な恋心が実に細やかに描かれていきます。

自分の気持ちが恋か憧れかと悩んだり、ふとしたひと言を放ったあと「好きって気づかれたかも」と恥ずかしくなったり、メッセージを眺めてベッドで身悶えしたり。逸臣の何気ない言動に一喜一憂する雪の心情は、誰しも覚えがあるはず。

門限が迫る中、1秒でも長く一緒にいたくて待ち合わせのコインランドリーめがけて走り出すシーンなんて、甘酸っぱさ爆発。そう、恋する気持ちがあふれて表面張力を超えると、人は走り出すんですよね……。

また、雪の頭をわしわししたり、不意に手を掴んだりという逸臣のイケメンムーブも、雪が恋に落ちるのも納得のスマートさ。ヘタすればキザな自信家に見えそうですが、海外育ちとあって嫌味がなく、身のこなしに見惚れてしまいます。クールなようでいて、時折はじけるような笑顔を見せるのも100点満点。恋を知らない雪はもちろん、読者の心もズバッと射抜いていきます。

しかも、雪は純粋な性格とあって、恋の駆け引きも打算もなし。混じりけのないピュアな思いがページからあふれだし、読んでいるだけでほわほわ温かな気持ちに。そのまっすぐな恋心を見守るうち、きっと彼女を応援したくなるはずです。


音のない世界に生きる主人公と、世界を旅する彼。知らない世界が重なり合う尊さ

逸臣は、バーでバイトをしつつ、お金が貯まるとバックパックひとつで海外に旅立っていく自由人。かつてドイツに住んでいたこともあり、日本語、英語、ドイツ語が話せるトリリンガルです。

広い世界を見てきた逸臣に惹かれる雪ですが、彼は彼で雪だけが知る透明な世界に興味を抱くようになります。複数の言葉を操る逸臣が、「雪の世界に入れて」とたったひとりのために手話を覚えようとする。限られた世界しか知らなかった雪が、いつか逸臣と海外に行くためにアルバイトを始める。違う世界を生きてきたふたりが少しずつ歩み寄り、お互いの生き方を重ね合わせていく過程は、まさに「尊い」のひと言。恋愛マンガではありますが、人と人とが理解を深め、それぞれが影響を与え合うというコミュニケーションの本質が描かれています。

こうしたふたりのまっすぐな姿に、心洗われること間違いなし。ふたりが関係を深めていくさまを見守るうちに、読者の世界も広がっていくでしょう。

巧みな表現が伝える、聴覚障がい者が生きる世界

雪は聴覚に障がいがあるため、コミュニケーション手段は手話、筆談、スマホへの文字入力、口の動きを読む読唇などがメイン。作中では、こうした表現が巧みに取り入れられています。

例えば、逸臣が雪に対して「かわいいな」とつぶやくシーン。誰にも聴こえないような独り言ですが、雪は唇の動きから彼が発した言葉を察してドキドキします。また、「ちゅーしていい?」という問いかけを「ぎゅーしていい?」だと勘違いして、心の準備もないままファーストキスをしてしまうなど、キュンとくるエピソードも。

雪が答えやすいよう「お酒は飲む?飲まない?」など、二択で問いかける逸臣の優しさ、逸臣が友人と大事な話をしている時は、目線をふたりの口元に向けない雪の気遣いなど、ちょっとした振る舞いからもふたりの性格、お互いを想う気持ちが伝わってきます。

相手の口の動きから読み取ったセリフは文字を薄くしたり、うまく読み取れなかった言葉は文字を90度傾けたりと、マンガでは、マンガならではの表現もユニーク。雪が手話で気持ちを伝える場面では、指先から切実な思いがあふれるようです。これらのシーンがアニメではどう表現されるのか、マンガと見比べるのも楽しみのひとつです。

巻末には手話協力のクレジットが記載されており、執筆にあたって著者は入念な取材をされたよう。障がいを感動の材料として消費するのではなく、誠実に描く著者の姿勢も共感を誘う一因かもしれません。

思いが報われる日は来るのか……。ふたりを取り巻く人々の恋心

雪と逸臣を取り巻く人間模様も、見逃せないポイントです。中でも、芦沖桜志(あしおき・おうし)は、小学生の頃から雪を見つめつづけている幼なじみ。手話まで覚えたものの素直になれず、つい意地悪してしまう小学生男子のような大学生です。雪の聴覚について周囲にさりげなく説明する優しさはあるものの、彼女が傷つくのを恐れて狭い世界に閉じ込めようとするふしも。そんな彼の前に、突然逸臣が現れ、雪の心をさらっていくのですからたまったものではありません。

一方、逸臣も高校時代から同級生のエマに思いを寄せられています。過去に逸臣に振られたものの、エマは今も諦めきれないまま。そんな中、逸臣が雪に夢中だと知り、エマの胸に波風が立ちます。

長年にわたる片想いが、今にも散りそうな切なさ。好きな人が自分から遠ざかっていくやるせなさ。でも、ライバルを憎みきれない苦しさ。その心情をつぶさに描いているからこそ、「わかる……、そのつらさ、わかるよ……!」とふたりへの共感が深まっていきます。

さらに、雪の友達・りん、りんが恋する逸臣のいとこの京弥、エマに恋する心など、さまざまな思いが交錯し、重層的な物語が描かれていきます。雪と逸臣の深まる関係はもちろん、登場人物それぞれの思いが行きつく先を見届けずにいられません。

どうでしたか?U-NEXTでは2024年1月6日(土)放送・配信開始のアニメ版はもちろん、原作マンガも配信しています。恋する気持ちが走り出す『ゆびさきと恋々』をぜひお試しください。

アニメ版はこちらから

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©森下suu・講談社/ゆびさきと恋々製作委員会
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