「TBSドキュメンタリー映画祭」。その成り立ちとイチオシの過去作品とは
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「TBSドキュメンタリー映画祭」。その成り立ちとイチオシの過去作品とは

2024.02.20 12:00

数々のニュース番組を手がけるTBSが、映画を通して伝えたいことを伝える場。貴重なアーカイブ映像や、日本全国の記者たちが新たに取材した映像をもとにした映画を集めた「TBSドキュメンタリー映画祭2024」が、今年も開催される。

2021年に始まった本映画祭は、『戦場記者』『ヤジと民主主義 劇場拡大版』をはじめ、その後の劇場公開につながる人気作を次々に輩出し、映画界でも今大きな注目を集めている。第4回の開幕を目前に控え、映画祭で過去に上映された15作品の配信が決定。

「TBSドキュメンタリー映画祭」のこれまでの歩みと、今回の配信作品の見どころを大久保竜プロデューサーに伺った。

『三島由紀夫VS東大全共闘〜50年目の真実〜』の成功が後押しした映画祭

──3月15日から、第4回目となる「TBSドキュメンタリー映画祭2024」が全国6都市の劇場で順次開催されます。2021年に映画祭が始まったきっかけのひとつには、2021年に公開された『三島由紀夫VS東大全共闘〜50年目の真実〜』の成功があったそうですね。

大久保:はい。『三島由紀夫vs東大全共闘』は、TBSが保存していた当時の記録映像からドキュメンタリー映画にまとめた作品ですが、ドキュメンタリーでは異例の興行収入2億円以上という成績を記録したことで、過去の取材映像やアーカイブにはもっといろんな可能性があるんじゃないか、という盛り上がりが社内で出てきたんです。

これまで、取材した映像はそのときのニュースで使われなければなかなか使い道がなかった。でも映画という形にすれば、膨大な映像コンテンツを報道以外の場で発信していけるかもしれない。こうして、オリジナルの貴重なアーカイブ映像の新たなIP展開の可能性を模索する部署を立ち上げたのが、映画祭のきっかけでした。

──当初はアーカイブ映像をもとにした映画祭という方針だったんですね。

大久保:貴重なアーカイブを発表する場として、実験的に映画祭をやってみようという感じでした。ところが、社内で映画祭をやりますとアナウンスをしたら、報道局を中心に記者やディレクターたちからどんどん企画が集まってきたんです。「本当はこれを作品にまとめたいと思っていた」「このテーマで取材をしてみたい」という思いを抱える人たちがこんなにいるのかと、発案者である私たちも驚かされました。記者たちの熱量に押されて、彼らが持ち寄った新作を上映する映画祭に変わっていったんです。

──それぞれの上映作品の選定基準は何かあるんでしょうか?

大久保:応募作の中から、作り手の熱意の高い順番で選んでいます(笑)。

日曜日の深夜に放送している「解放区」というドキュメンタリー番組で反響が大きかったものを中心に、3月のドキュメンタリー映画祭で改めてサイズ感を上げて上映する、というのが、基本方針です。テレビでの放送時は基本45分くらいに収める必要がありますが、映画祭のときは70分くらいに広げられる。追加取材を行ったり、テレビでは入れられなかった映像を加えたり、よりゆったりとした編集をすることができる。もちろん、この「解放区」の流れに限らず、違う形で出来上がった作品もあります。放送コードを意識せずより詳細な表現ができるのも、映画版の強みです。

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配信作品のなかでも今見ておくべきイチオシ作品は

──テレビ放送の場から映画館での上映に場所が移り、今回は初めて配信が行われます。

大久保:回を重ねるごとにいろんな形に発展してきて、本当に嬉しいんです。これまでも、2022年の映画祭で発表された須賀川拓監督の『戦争の狂気 中東特派員が見たガザ紛争の現実』が後に『戦場記者』という作品として一般公開されるなど、映画祭での上映から単独興行に結びつくことも増えてきて、地上波→映画祭→単独興行→配信という、大きな流れが出てきたと思います。

──今回配信される15作品はどのようにセレクトされたんでしょうか?

大久保:過去の映画祭で上映されたものから、まずは見やすそうなもの、テーマがはっきりしていて選びやすそうな作品を重視して選びました。そこで気に入った作品があれば3月15日から始まる映画祭にも足を向けてもらえたらなと。

──特におすすめの作品はありますか?

大久保:どれもおすすめですが、今見るなら、やはり須賀川拓監督作品の存在は大きいかもしれません。須賀川は特派員として世界中の紛争地を取材してきた人で、今年の映画祭でも、イスラム国のその後を追った最新作『BORDER 戦場記者 × イスラム国』が上映されます。配信では、2023年の映画祭で上映された『アフガン・ドラッグトレイル』を見ることができます。

──『アフガン・ドラッグトレイル』が映すのは、混迷を極めるアフガニスタンでの薬物汚染の実態ということで、なかなかテレビでは紹介される機会がないテーマのように感じます。

大久保:世界でいくつもの戦争や紛争が多発するなかで、テレビのニュース番組はつねに今の事象を追いかけてはいますが、伝えきれないことがあるのも事実なんです。戦争の真っ最中の取材だけではなく、それ以前にどういう状況があり戦争へと至ったのか。戦争が終わったと言われている場所が、今現在どういう状況になっているのか。そうした現実はテレビではなかなか取り上げられないですし、ドキュメンタリー映画という形でこそ見られる映像だと思います。

2021年にアメリカはアフガニスタンから軍を撤退させ戦争終結を宣言しましたが、実際にその地域で暮らす人々がどうなったのか、その後の街はどう変わったのか、テレビではあまり放映されないこともあり、多くの人は知らないんじゃないでしょうか。その実態を映したのが『アフガン・ドラッグトレイル』です。街中にドラッグが充満して人間そのものが廃墟のようになっているような現実は衝撃的ですが、戦争や紛争を考えるうえでは、こうした真実にも目を向けるべきなんですよね。

アフガン・ドラッグトレイル
©TBSテレビ

「TBSドキュメンタリー映画祭2024」にも繋がる過去作品

──須賀川監督のように、すでに興行作品も手がけていらっしゃる監督の別の作品を配信で見られるのは、貴重な機会ですね。

大久保:昨年『日の丸 寺山修司40年目の挑発』が劇場公開された佐井大紀監督が2023年の映画祭で発表した『カリスマ ~国葬・拳銃・宗教~』も、今回初めて配信されます。『カリスマ』では、安倍晋三元総理の銃撃事件をきっかけに政治と宗教の関係を追求した作品ですが、そこから過去のオウム真理教が起こした事件や、当時カルト集団と言われた「イエスの方舟」をめぐる騒動が浮かび上がってきます。

3月の映画祭で上映される佐井監督の新作『方舟にのって〜イエスの方舟45年目の真実〜』は、「イエスの方舟」をさらに詳しく取材した作品ですので、そこに繋がる作品として、『カリスマ』もぜひ見てほしいです。

──他に、今回の映画祭に備えてこの過去作を見ておくとよさそうな作品はありますか。

大久保:川上敬二郎監督が2023年に発表した『サステナ・ファーム トキと1%』ですね。巷に流通している殺虫剤の悪影響を調べるうちに持続可能(サステナブル)な農業とは何か、というテーマに取り込んだ作品です。

映画祭で上映される新作『サステナ・フォレスト ~森の国の守り人(もりびと)たち~』では、今度は農業から森林に舞台を移し、やはり持続可能性をテーマにしています。農業と森林というのはひと続きの問題でもありますから、ぜひ両方見てもらえたらいいのかなと思います。

──今後も「TBSドキュメンタリー映画祭」は上映から配信までさまざまな形で発表の場を広げていく予定ですか?

大久保:ドキュメンタリー映画を見る観客の数でいうと、日本は他の国よりまだまだ少ないように感じるんです。その数を増やすためにも、少しでもドキュメンタリーを見ることの敷居を下げていきたい。テレビの場から映画館での上映に発表の場を移したことで、テレビとはまた違う新たな観客層が生まれてように感じたし、今回こうして配信という新たな形も生まれたことで、よりその幅が広がるんじゃないかと期待しています。配信作には本当に多様なテーマや対象を追いかけた作品がありますから、気軽に楽しく、でもときにはシリアスに、いろんなジャンルのドキュメンタリーをみんなで見る文化をもう少し広げていけたらいいですよね。

配信作品一覧

『アフガン・ドラッグトレイル』

アフガンをむしばむドラッグの闇を映し出すドキュメンタリー。戦争で引き裂かれたアフガンをむしばむ薬物の深部に、「戦場記者」須賀川拓が切り込んでいく。ある橋の下に足の踏み場もないほど中毒者が集まっている様子は衝撃だ。

『それでも中国で闘う理由 ~人権派弁護士家族の7年~』

2015年夏、中国で約300人の人権派弁護士がある日突然拘束された…。人権派弁護士の拘束事件を通し、中国社会の“今”を見つめるドキュメンタリー。中国政府に不都合な存在と見なされた人々と、希望を捨てずに闘う残された家族の7年を追う。

『カリスマ ~国葬・拳銃・宗教~』

日本社会のエキストラと主役(カリスマ)に、時を超えてマイクを向ける!監督は、『日の丸~寺山修司40年目の挑発~』でメガホンを取ったTBSドラマ制作部の佐井大紀。国葬、反対デモ、世間を震撼させた永山則夫などについてインタビューをする。

『War Bride 91歳の戦争花嫁』

戦後たった5年で“戦争花嫁”になった女性の真実の愛の物語 戦後、20歳の時に米軍の兵士と結婚し海を渡った桂子ハーン。激動の時代を生きた桂子の人生や生きざま、家族、苦悩、差別などを当時の世相と共に描き出す。

『ダリエン・ルート “死のジャングル”に向かう子どもたち』

コロンビアから陸路で米国を目指すハイチ難民一家を追ったドキュメンタリー。“死のジャングル”と呼ばれる密林地帯「ダリエン・ギャップ」に年間13万人以上の難民が越境を試みる。2歳と6歳の姉妹を抱える家族は無事にアメリカにたどりつけるのか。

『魂の殺人 ~家庭内・父からの性虐待~』

父親から性的虐待を受けてきた女性が告発の声を上げ、戦う姿を追ったドキュメンタリー。実父による性的虐待が子に及ぼす影響、精神的ダメージの大きさが、被害者本人から語られていく。加害者である父親と対峙した際のやり取りは言葉が出てこなくなってしまう。

『サステナ・ファーム トキと1%』

農薬が生物に与える影響に迫り、自給可能な農業のあり方を考えるドキュメンタリー。農薬や殺虫剤が与える自然や動物、人間への影響が科学的に綴られる。それら現実的な事実を示しながら、農薬に頼らない農業を模索する農場の研究結果を紹介していく。

『KUNI 語り継がれるマスク伝説~謎の日本人ギタリストの半生~』

全米デビューを果たした日本人ギタリスト・KUNIの謎に迫るドキュメンタリー。ミステリアスな仮面をかぶり、L.A.メタルブームに沸くミュージックシーンのど真ん中で活躍したギタリスト・KUNI。ロックシーンの最先端を駆け抜けたKUNIの謎に迫る。

『だから私は前を向く 萌々花20歳』

難病と闘う萌々花さんが病気の進行に負けずに自らカメラを回す。先天性の難病「混合型脈管奇形」の発症により「やりたいことは何もない、諦めた…」とカメラに語った6歳の萌々花さん。20歳になった彼女が自分らしく前を向く。

『さっちゃん最後のメッセージ 地下鉄サリン事件被害者家族の25年』

地下鉄サリン事件の被害者とその家族の25年間を映し出すドキュメンタリー。全身麻痺、失明、言語障害、重い障害を負いながらも懸命に生きる女性の姿を通して事件の凄惨さと、被害が続いている現実を訴える。彼女を支える温かい家族の姿が胸を打つ。

『タブレット越しで”最後の別れ” ~いのちと向き合うコロナ最前線』

コロナ禍において混迷を極める医療現場の最前線を追ったドキュメンタリー。患者や患者の家族に寄り添おうと奮闘する川崎市の聖マリアンナ医科大学病院の救命救急センターの医療スタッフたち。終わりの見えない闘いに立ち向かう彼らの姿を追う。

『80/50 ギリヤーク尼崎の自問自答~と、それから』

90歳の大道芸人・ギリヤーク尼ケ崎を追ったドキュメンタリー。ギリヤーク尼ケ崎が88歳で迎えた「路上で踊り始めて50年」の記念公演に至る1年を追いかける。老いや体の衰えと向きあい、何ができるのかを追求する1人の人間の記録。

『影の戦争 アメリカと中東の戦乱十五年』

2003年のイラク戦争を引き起こした、“とある嘘”の真相を暴くドキュメンタリー。戦争によって利益を得る、表に出てこない者たちの姿を明らかにしていく。兵器ビジネスをはじめとした損得勘定によって戦争が計画され、進行していく過程に衝撃を受ける。

『消えた事件、弟の執念』

警察に見放された被害者遺族が事件の真相にたどりつくまでを追ったドキュメンタリー。警察に見放されたと感じた被害者遺族の絶望を目の当たりにする。「兄の死は事故なのか事件なのか」。事件だと確信する弟が執念で明らかにした真相に驚かされる。

『死刑を免れた男達 ~カメラが初めて捉えた無期懲役囚の実態』

塀の中で生きる無期懲役囚の現実を捉えたドキュメンタリー。死刑に次ぐ重罰、無期懲役。現在日本にはおよそ1800人の無期懲役囚がいる。事件への後悔と、被害者への懺悔のはざまで生き続ける無期懲役囚の実態に迫る。

「TBSドキュメンタリー映画祭2024」公式サイト

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