テレビでなく、映画だからできること。「TBSドキュメンタリー映画祭2024」
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テレビでなく、映画だからできること。「TBSドキュメンタリー映画祭2024」

2024.03.12 12:00

数々のニュース番組を手がけるTBSが、映画を通して伝えたいことを伝える場。『戦場記者』『ヤジと民主主義 劇場拡大版』をはじめ、注目作を次々に輩出し続ける「TBSドキュメンタリー映画祭」の第4回目が、いよいよ3月15日より開催される。U-NEXTで配信中の過去上映作品の見どころに続き、まもなく開催されるTBSドキュメンタリー映画祭2024の注目作を、大久保竜プロデューサーにうかがった。

全国各地から、渾身の一作が集まった映画祭

──「TBSドキュメンタリー映画祭2024」がいよいよ開幕されますね。今年も多様な作品が並んでいますが、監督たちはみなさん、普段からドキュメンタリーを作る部署にいらっしゃる方たちなんでしょうか?

大久保:いえ、普段はそれぞれ別の部署で働いている人がほとんどです。『最後のMR BIG~日本への愛と伝承〜』の川西全監督は、最前線で活躍する政治記者ですし、『坂本龍一 WAR AND PEACE 教授が遺した言葉たち』の金富隆監督は「サンデーモーニング」のプロデューサー。『方舟にのって~イエスの方舟45年目の真実~』の佐井大紀監督は、現在放送中のドラマ『Eye Love You』のプロデューサーです。みなさん、自分の上司を説得して、普段の仕事の合間に新たな撮影をしたり、過去に撮り溜めたものを編集したりして作品をつくっているんです。そういうものすごい熱量を持った人たちが集まるのが、この映画祭の特徴かなと思います。

──「TBSドキュメンタリー映画祭」で作品を発表されることが、監督たちにとってもひとつの目標になっているわけですね。

大久保:ドキュメンタリーの場合は撮影に何年もかかることが多いですし、この映画祭を機に、自分の人生を投影した渾身の1本をつくりたい、という気持ちはあるのかもしれません。セレクションをする立場としても、「どうしてもやらせてください」という彼らの熱量にいつも圧倒されます。それぞれの部署で長年経験を積んできたような人たちが、いちディレクターとしてやりたい、と直接訴えてくるわけですから。

──「TBSドキュメンタリー映画際2024」は全国6都市で開催されますが、札幌限定上映の『102歳のことば~生活図画事件 最後の生き証人~』や、福岡限定上映の『魚鱗癬と生きる〜遼くんが歩んだ28年』など、地方限定上映の作品がいくつかありますね。

大久保:HBC北海道放送や福岡のRKB毎日放送など、地元の放送局が制作した作品ですね。自分たちの身近な方たちや問題を扱っていることもあり、まずは地域の人たちにお届けしたい、ということでこういう形になりました。ただ、いずれ全国での上映につなげていくことももちろん考えています。

現在公開中の『ヤジと民主主義 劇場拡大版』(山﨑裕侍監督)も、2023年の映画祭開催時には北海道限定で上映されましたが、そこでの評判が東京や関西方面にも届き、全国興行につながったという実績があります。

同じく昨年の映画祭で上映したRKB制作の『シーナ&ロケッツ 鮎川誠と家族が見た夢』も、8月から全国公開されました。今回も、地方限定上映から全国での興行につながっていく作品は出てくると思いますよ。

自分の人生や家族、社会を見つめ直す

──今回の上映作品は「ソーシャル・セレクション」「ライフ・セレクション」「カルチャー・セレクション」という3つの部門に分かれています。「家族の形や身体的な障害など多様な生き方や新たな価値観を描く」ライフ・セレクションでは、元TBSアナウンサーで報道記者の久保田智子さんによる初監督作『私の家族』が上映されます。

大久保:彼女が特別養子縁組で娘さんを家族に迎えた実体験を5年間撮影していて、ほぼ自叙伝と言っていい作品だと思います。一度TBSのドキュメンタリー番組「解放区」で放映されたものを映画としてまとめ直した作品ですが、映画では、テレビでは話せなかったことも含めて、家族の姿や彼女自身の思いが、よりじっくり描かれているんじゃないでしょうか。久保田監督は、去年の映画祭で何度も劇場に見にきてくれて、そこで自分もここで作品として発表したいと決意したようです。家族全員が出演している本当に大事な作品ですから、どういう場所でどういう人たちに向けて見せるのかまで、しっかり考えたかったんでしょうね。

──もともとこの映画祭は、過去の映像アーカイブを活かしたいという方針から始まったそうですが、今回上映される『方舟にのって~イエスの方舟45年目の真実~』は、まさに過去の映像アーカイブから生まれた作品といえますか?

大久保:そうですね。佐井大紀監督自身はまだ29歳の若い監督ですが、劇場公開された『日の丸~寺山修司40年目の挑発~』でも、過去の映像アーカイブをもとに、過去と現在とをカットバックする表現手法を得意とする監督です。『方舟にのって』では、佐井監督が、安倍晋三元総理の銃撃事件を機に過去のニュース映像を調べ始めたことで、日本にはかつて「イエスの方舟」をめぐってこのような騒動があったという事実に行き着いた。若い監督が、自分が知らなかった過去について調べ、それを現在の作品として蘇らせた映画だといえます。

──「ソーシャル・セレクション」で上映される『坂本龍一 WAR AND PEACE 教授が遺した言葉たち』も、TBSの番組『筑紫哲也NEWS23』のアーカイブ映像をもとにした作品ですね。

大久保:はい、TBSには坂本さんとの長年にわたる交流記録が残されていますから。今回上映される作品は、番組ディレクターとして長年坂本さんの担当をされてきた金富隆監督が、ミュージシャンとしての姿はもちろん、坂本さんの「戦争と平和」への想いをフィーチャーした作品になっています。

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報道機関のネットワークならではの層の厚さを生かした作品

──「カルチャー・セレクション」では、さまざまな分野での表現者たちの姿を追った作品が並び、まさに劇場で体感するのにぴったりですね。

大久保:世代やジャンル、撮影対象はバラバラですが、どの作品にも、目標に向かってアーティストたちが懸命に活動をしている様子が映されていて、自分でも見ていて教わることがたくさんあるんですよ。

名古屋を拠点に活動するボーイズグループの姿を追った『カラフルダイヤモンド~君と僕のドリーム~』は、まさに青春グラフティといえる作品ですが、どこにでもいそうな青年たちの悩みや葛藤を通して、自分の若い頃を振り返ったり、今の自分を見つめ直したりできると思います。

『映画 情熱大陸 土井善晴』では、食のアーティストといえる土井さんのつくる料理や食が、スクリーンで存分に楽しめます。大阪のMBS毎日放送で長年「情熱大陸」の制作をされてきた沖倫太朗監督が、「これは劇場でも十分やれます」と熱い思いで言ってくださり、今回初めて映画版の制作が実現しました。

──3つのセレクションのうち、もっとも多い6作品が並んだのは、「人種や戦争、社会問題など現代を取り巻く重要なテーマ」を扱った「ソーシャル・セレクション」です。

大久保:最初から3つのセレクションに分けて応募をかけたわけではないんですが、結果的にこの部門の作品数が多くなったのは、やはり報道局が最初に手を挙げて始めた映画祭だからかもしれません。

毎年、報道機関のネットワークならではの層の厚さを生かした作品がたくさん揃うんです。全国の放送局には、ひとりの記者がずっと追いかけた映像だけでなく、先輩から後輩へと取材を受け継ぎながら何十年も取材を続けているものも多く、「ライフ・セレクション」の『魚鱗癬と生きる ー遼くんが歩んだ28年ー』は、福岡のRKB毎日放送の記者たちが28年間取材をしてきた映像から生まれた作品です。

テレビという形式を超え、映画だからこそ伝えたいこと

──複数の記者たちが長期間の取材を続けられるのは、テレビ局だからこそできることですね。それとは逆に、テレビではできない、映画だからこそできることもあるのでしょうか?

大久保:映画祭への出品作を見ていると、やはり映画だからこそのびのびと自分の表現をしているな、という印象は感じますね。全体の尺が長くなるので、テレビでは泣く泣く切った部分を思う存分に見せられますし、放送コードを意識しなくていいのも大きな強みです。

たとえば戦地を撮影すれば当然のように実際の死体も映り込んでしまうけれど、地上波での放送の場合ではそれは絶対に映せない。良い悪いは別として、実際の記者が取材中に見た現実の風景を、テレビではあたかも存在しないものとして放送している、という現状が事実としてある。それが映画という形になることで、初めて現実のままに伝えることができるわけです。テレビでは伝えきれないものを映画では存分に見せられる、という一面は間違いなくありますね。

──過去の問題を扱っていながらも、どの作品も今につながるテーマを扱っているようにも感じます。

大久保:「今、このことを伝えたい」という思いが強くあるんでしょうね。たとえば『最後のMR.BIG~日本への愛と伝承〜』には、東日本大震災直後に日本でいち早くコンサートをしに来てくれたMR.BIGがついに解散してしまう、その姿を今記録しなければ、という思いがある。

『BORDER 戦場記者×イスラム国』は、すでに解体したと思われているイスラム国の思想は今もずっと続いている、全然終わった話じゃないんだ、という話でもある。

テレビでは、どうしてもその日のニュースとして一番新しくて大きな問題が並べられていきます。監督たちは、日々の新しいニュースをその都度出していきながら、テレビでは出せなかったけれどどうしても気になる問題や、部署は違っても自分が生涯をかけて追いたいテーマみたいなものを、実はみんな抱えているんです。そういう思いを発表できる場として、この映画祭を今後も続けていけたらいいなと思います。

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「TBSドキュメンタリー映画祭2024」公式サイト

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