アルネ・スロット新監督のもと、見事プレミアリーグ2024-25のタイトルをつかんだリヴァプール。その中心で輝きを放った1人が、生え抜きのMFカーティス・ジョーンズである。昨季はリーグ戦38試合中33試合に出場し、3ゴール4アシストを記録した。
リヴァプールで生まれ育ち、アカデミーからトップチームへと駆け上がった“スカウス”(リヴァプールなまりの英語)の少年。頂点に立った瞬間をどう感じ、激動のシーズンをどう戦い抜いたのか。これまで出会った恩師たちへの感謝、新体制へのたしかな手応え、新たなシーズンへ向けた静かなる闘志。本人の言葉の数々から、ジョーンズの現在地を紐解く。
「チャンスをつかめると確信した」。16歳が分岐点に
──プレミアリーグ王者になった気分、改めて今はどう感じていますか?
ジョーンズ:もう、すべてですね。子どもの頃からの夢でした。どのチームにいるかは関係なく、誰もが夢見ることです。でも、それをここリヴァプールで達成できた。僕はスカウスの少年で、ずっとアカデミーを上がってきました。そして、すべてが現実になったんです。トップチームの一員として試合に出て、プレミアのチャンピオンになった…。言葉にするのは、今も難しいですね。
──これでプレミアリーグ優勝は2度目ですね。優勝が決まったトッテナム戦、フルタイムのホイッスルが鳴った瞬間の感情を言葉にできますか?
ジョーンズ:「やったぞ、ついにやり遂げた」と。シーズン当初、監督とスタッフが別のリーグから来て、それはチームにとって大きな変化でした。そして、僕たちは若いチームでもあります。正直、誰も僕たちがこうなるとは思っていなかったんじゃないでしょうか。
──あなたはリヴァプールファンとして、これまで様々な光景を見てきたと思いますが、今季優勝が決まった後のファンの盛り上がりは、これまでに見たことがありましたか?
ジョーンズ:いえ、あんな光景は初めてです。あれは僕が感じた中でも、最も特別な出来事のひとつとして心に残るでしょう。ファンからの愛情と感謝を、肌で感じることができました。
いつも言っていることですが、僕はチームとクラブの大きな一部、つまり土台のような存在になれたらと願っています。ここに来る若い子どもたちが僕を指さして「彼みたいになりたい」と言ってくれるような、そんな存在になりたいんです。もちろん、まだそこまで到達したわけではありません。道は長いですし、自分の足場を固めている最中です。でも、いつか振り返ったときに「あれが始まりだった」と言える日が来ればいいなと思っています。
──あなたはアカデミーを駆け上がって、今の地位を築きました。本当に見事な道のりです。アカデミーに入る前、子どもの頃はどんな子だったのですか?
ジョーンズ:いつでも、本当にずっと、ボールを蹴っていましたね。学校でも、「僕にはサッカーしかない。唯一のプランはサッカー選手になることだ」といつも言っていました。子どもの頃って、先生や親から「サッカー選手になれないかもしれない。難しいことだからプランB、C、Dを持ちなさい。いい成績を取りなさい」と色々言われるじゃないですか。でも僕はいつも「いや、僕はサッカー選手になる」と言い張っていました。
成長するにつれて、年上をリスペクトしつつも、少しいたずら好きで、やんちゃな部分もありました。でもそれは今も変わらなくて、そのエネルギーを別のことにも上手く使えるようになっただけかもしれません(笑)。
──そのエネルギーを、上手くサッカーに向けられるようになったと(笑)。
ジョーンズ:ええ、そうです(笑)。誰かに気まずい思いをさせないように、上手くコントロールしています。でも振り返れば、僕は良い子だったと思いますよ。ただ夢があって、それを叶えるためなら何でもしたかったんです。
──「自分はプロになれるかもしれない」と、夢が現実味を帯びてきたのはいつ頃でしたか?
ジョーンズ:僕は子どもの頃からこの“ゲーム”が大好きだったので、自分が上手いかどうかなんて気にしていませんでしたし、わかりもしませんでした。ただ、足元にボールが欲しかっただけなんです。ピッチに立っても、スタンドに誰がいるかなんて気にしませんでした。クラブのディレクターが見に来ていて「アピールしなきゃ」なんてことも、どうでもよかったんです。
今の子どもたちや親御さんには、それをわかってほしいですね。子どもに無理やりサッカーはさせられない。男の子でも女の子でも、本人が心からやりたいと思わないとダメなんです。
だから、自分がどれくらいうまいかなんて、たぶん16歳までわかっていませんでした。
──本当に?16歳まで、ですか?
ジョーンズ:16歳のときに「コインが落ちた」というか、「あ、俺、本当にチャンスがあるぞ」と思える瞬間が来たんです。物事がうまく噛み合い始めた時期ですね。そこで初めてゲームを理解し、勉強し始めました。周りの声も耳に入るようになり、クラブの偉い人たちと話す機会もあって、「クラブの重要な人物が僕を気に入ってくれているんだ」と気づく。それを母に話すと「それは良いことよ」と言ってくれる。そうやって全部がつながって、「俺はチャンスをつかめる」という確信に変わったんです。
──先ほどお母さんの話が出ましたが、その存在はどれくらい大きかったですか?
ジョーンズ:僕はあまり裕福ではない地域の出身なので、他の道に進んでしまう可能性もありました。でも、母が本当にすごかった。僕が毎日練習に行けるように、そして学校にも行けるように、常に正しい道へ導いてくれました。凍えるような寒い日も、雨の日も雪の日も、母はいつも練習場に連れてきてくれました。
だから今、僕が何かを成し遂げた姿を見せられるのは、本当に嬉しいです。もちろん、自分がなりたい、なれると信じているレベルにはまだ届いていませんが、母が家でテレビを見たり、スタジアムで僕のプレーを見たりできる。母がどれだけ大変な努力を積み重ねてきたかを知っているからこそ、それは特別なことなんです。母がしてくれたことには、感謝してもしきれません。
生え抜きゆえの難しさ。ハードワークを支えるマインドセット
──16歳で「いける」と思った頃、スティーヴン・ジェラードがU-18の監督に就任しました。あなたのような地元の選手にとって、あのクラスのレジェンドが指導者としてやって来るというのは、どんな経験でしたか?
ジョーンズ:彼は僕のコーチであり、アイドルでもありましたが、同時に僕たちが築いた関係は、友情に近いものでした。彼はいつも僕を座らせて、できる限り正直に話をしてくれました。そのおかげで、さらに次のステップに進めたと思います。
ただ最初に話したときの会話は、正直良いものではありませんでした。彼の話し方はめちゃくちゃ率直で、大声でしたしね(笑)。少し怒られもしました。
──振り返ってみて、その経験は必要だったと思いますか?
ジョーンズ:いま思えば、絶対に必要なことでした。彼は経験豊富だから、僕がそういう厳しい言葉でもちゃんと受け止められるタイプだとわかっていたんでしょう。あれが、今の僕を形作った出来事の一つです。
ファーストチームに上がると、いつも良いプレーができるわけではないし、ファンから色々と言われることもあります。でも、僕を知っている人ならわかると思いますが、僕には「気にしない」という姿勢があるんです。好かれようが嫌われようが、僕は毎日「自分が一番だ」ということを示し続ける。そうすれば、いつか必ず結果はついてきます。
もっと信頼と愛情を得て、補強でやってきたどんな選手よりも自分が優れていると常に証明したい。それが僕の変わらない姿勢であり、マインドセットです。そして、スティーヴンは僕が子どもの頃から憧れてきた人で、彼自身も同じマインドを持っていました。
──彼もあなたと同じスカウスで、チームのキャプテンでしたからね。
ジョーンズ:そうなんです。「誰を補強で連れてこようが、俺がこのチームの中心なんだ」というタイプの選手でした。それを世界に示すには時間がかかりますが、彼が僕をその道に導いてくれた。「何があってもそのマインドを失うな、自分自身を見失うな」と。
──その文脈で伺いますが、初めてファーストチームでプレーしたFAカップの試合は、そうしたお世話になった人々への恩返しという気持ちもありましたか?
ジョーンズ:100%、その通りです。僕たち子どもは食事もピッチも、すべてが揃った場所で練習をしていました。誰も見ていないところで膨大な仕事があって、それを誰かがやってくれる。そういう土台があって、僕たちは初めてピッチに立てるんです。
だからこそ、デビューを果たした夜も感傷に浸ることは一切ありませんでした。初出場を果たしたからには、ここに残ってチームの重要な一員になれることを示さなければならない。僕のマインドは常に「成し遂げたことの、その先」に向いています。できるだけ長く、トップレベルでプレーし続けたいですから。
──その次は、ユルゲン・クロップ監督のもとでのリーグカップまで少し待つことになりました。その期間、気持ちを保つことはできましたか?「ローンに行った方がいい」という声もありました。
ジョーンズ:そうでしたね。でも、僕の頭の中では「ローンって、どこへ?」という感じでした。たしかに試合には出ていませんでしたし、同世代の選手がもっと多くの試合に出ているのも知っていました。でも正直、当時僕がいた場所以上に学べる場所がどこにあったかわかりません。
──地元出身の選手は、かえって自分の存在感を示すのが難しいと感じることはありますか?
ジョーンズ:ときどきどころか、ずっとそう思っています。これは誰かを不快にさせずに言うのが難しいんですが、僕の心の中には常に「誰を買ってこようが関係ない。俺はここに残って、毎日そいつより上だと証明する。そいつよりハードワークする。そいつより信頼できると示す」という態度があります。
大きな試合では、僕はたいていメンバーに入っています。それがどれだけ信頼されているかの証拠です。状況が厳しくなったとき、ビッグクラブと対戦するとき、本当に頼りになるのは誰か。ビッグゲームでどうプレーするかが大事なんです。
ジョーンズ:だから、モー(サラー)やヴィルジル(ファン・ダイク)のような選手たちを心から尊敬しています。彼らは大きな舞台でも臆することなく、常に最高のプレーを見せてくれる。僕もそういう選手になりたい。メンタリティも能力もあると思っています。あとはスタッフの信頼を維持し、さらに勝ち取るだけです。アカデミー上がりの選手がここで戦うのは、間違いなく難しい。でも、僕は毎日ハードワークを続けています。
──あなたはマージーサイド・ダービーでのゴールや、キャプテンとしての出場、そしてプレミアリーグ優勝と、大きな飛躍を遂げてきました。そんな上り調子の最中に、ユルゲン・クロップ監督の退任が発表されました。ショックでしたか?
ジョーンズ:ええ、ショックでした。感情が入り混じっていましたね。彼が去る前のシーズンの後半、僕は初めて彼の完全な信頼を得られたと感じていたんです。毎試合起用してくれましたし、たくさん話をしました。長い間コツコツ積み重ねて、ようやく「このチームの大きな一部になれる」という信頼を勝ち取れた。そう感じていた矢先でした。
でも、人生にはそういう時が来ます。家族や子ども、ユルゲンの場合は孫もいます。人生にはサッカーより大事なことがあるんです。僕自身も今は父親なので分かります。ユルゲンは長い間この世界で監督を務めました。ドルトムントで偉業を成し遂げ、ここに来たときは決して良くない状態だったチームを完全に変えました。彼は選手からも、ファンからも、この街からも、まるで「父親」のように愛されている存在です。
スロット監督のサッカーは「さらに合っている」
──そして、アルネ・スロット監督が就任しました。あなたは6週間のオフがあったのに、4週間でチームに戻りたかったと聞きました。それもまた、新しい章にいち早く関わりたいという信念の表れだったのでしょうか?
ジョーンズ:はい、そう感じます。誰もが「まっさらな状態」から始まると思ったんです。えこひいきはなく、監督は見たものだけで判断する。だから、早く戻れば戻るほど、彼に自分を見てもらえる時間が増えると考えました。
今シーズン、僕は10番、8番、6番、前線にサイドバックと、様々なポジションでプレーしました。もちろん、10番か8番で定位置をつかみたいですが、どこで使われても仕事ができると監督が信頼してくれている証拠だとも思っています。
──クロップ監督とスロット監督、両指揮官を1シーズンずつ経験して、違いはどこにありますか?
ジョーンズ:プレスの仕方、運動量、勝利への渇望といった原則はまったく同じです。ただ、ボール保持を目指す度合いが少し違いますね。スロット監督のほうが、もう少しリスクを冒すサッカーと言えるかもしれません。
──そのスタイルの方が、個人的には合っていますか?
ジョーンズ:ええ、さらに合っていると思います。今のチームは常にリスクを冒してでも、ボールを支配するサッカーを志向しています。ボールを持つたびに、必ず急いで攻めなければいけないわけではない。そこが僕にとって有利なんです。僕はボールを持つのが得意で、相手がプレスに来てもボールを保持できるし、テンポをコントロールすることもできますから。
──開幕節のイプスウィッチ戦で、監督は「後半からスイッチが入ったようだ」と話していました。チームとして、新しいスタイルにすぐ適応できたということでしょうか?
ジョーンズ:それも、選手たちのスタイルに合っていたということだと思います。もちろん、マネジメントが巧みだというのもあると思いますが、フットボーラーならどんなスタイルにも適応できなければいけません。監督が「こういうサッカーをするぞ」と言ったら、すぐに対応する。それが長く活躍する秘訣であり、信頼を勝ち取るということなんです。
──チームとしても個人としても、今シーズンのフィジカル的な強さはいかがでしたか?他チームが怪我人に苦しむ中、リヴァプールは比較的安定していました。
ジョーンズ:それは僕たちが自分自身のケアをしっかりしているからです。そうでなければ、勝ち続けることはできません。毎週プレーし、ベストな状態でいたいなら、自分の体をケアする必要がある。時には専門のスタッフを雇い、追加のトレーニングもします。長い日も、きつい日もありますが、リカバリーにつながるすべてのことが重要なんです。
──今シーズン築いた土台の上に、これからさらに積み上げていくことに、どれくらいワクワクしていますか?
ジョーンズ:何時間でも語れますが、結局は行動がすべてです。「自分たちがベストチームだ」と言葉で言っているだけでは、意味がありません。一番いいサッカーをするチームが必ず勝つわけでもないし、一番いい選手を揃えたチームが必ず勝つわけでもない。大事なのは「勝ちたいと強く願うチーム」であることです。僕たちは技術的に優れ、クレバーな若いチームですが、同時に心から勝ちたがっていて、その勝ち方を知っています。
今のチームは全員が勝者で、若くてエネルギッシュ。先発でも控えでも、僕たちはチームとして一つです。シーズン終わりに何を勝ち取ったかがすべてなんです。もちろん、「出るべきだったのに出られなかった」試合は誰にでもあります。2024-25シーズンは、ドム(ソボスライ)も、マッカ(マック・アリスター)も、コーディ(ガクポ)も、そういう経験をしました。でも、不満を言ってロッカールームの雰囲気を悪くするのではなく、「練習でハードワークして、次のチャンスに備える」。それが僕たちが築き上げたチーム文化であり、土台です。
ジョーンズ:僕たちは監督の就任初年度でプレミアリーグを獲りました。だから、これからが本当に楽しみな時期です。もちろんクラブを去る選手もいれば、新しく入ってくる選手もいます。新しく来る選手たちも、このチームを見てワクワクしてくれるといいですね。
──いくらでも話を聞いていたいですが、今日はここまでです。素晴らしいお話をありがとうございました。
ジョーンズ:こちらこそ、ありがとうございました。