なぜ私たちは『葬送のフリーレン』に共感するのか?普遍性を宿す“看取る”側の物語
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なぜ私たちは『葬送のフリーレン』に共感するのか?普遍性を宿す“看取る”側の物語

2023.10.20 12:00

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  • 『葬送のフリーレン』#1
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2023年9月末に放送開始した、アニメ『葬送のフリーレン』。原作コミックスの人気も高く、『ぼっち・ざ・ろっく! 』の監督としても記憶に新しい斎藤圭一郎さんが手掛けるということもあり、初回から期待が高い今季注目の作品です。

そんな『葬送のフリーレン』の初回放送は、なんと金曜ロードショー。初回2時間SPと題し、4話分が一挙放送されました。金曜ロードショーでアニメが放送されること自体は珍しくありませんが、TVアニメシリーズが放送されるのは史上初。

しかも、『葬送のフリーレン』は、毎週金曜23時の枠で放送される“深夜アニメ”。放送時間からもわかる通り、成人以上のアニメファン向けの作品という位置づけです。その点を含めても、“異例”といえるでしょう。

なぜ深夜アニメが、金曜ロードショーで放送されることになったのか。そこには『葬送のフリーレン』という作品が持つ魅力やメッセージが関わってくると筆者は考えます。本記事では、『葬送のフリーレン』という作品の魅力とともに、金曜ロードショーのような“多くの人に向けた枠”で放送された理由を考察していきます。

『葬送のフリーレン』が新しかった点とは?誰も無関係ではいられない“看取る”側の物語

原作コミックスは累計発行部数1000万部を超える『葬送のフリーレン』は、一言でいえば、世界を救った勇者一行たちの“その後”を描いた冒険ファンタジーです。

『葬送のフリーレン』#1
© 山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

主人公であるフリーレンは、1000年以上の永い時を生きる長命種・エルフの魔法使いです。彼女は、勇者たちと魔王を倒して平和な治世を実現させた立役者。通常の冒険ファンタジーでは魔王との対決がクライマックスですが、『葬送のフリーレン』では、平和を取り戻して王都に凱旋するところから描かれます。

世界を救ったその後の物語を描く手法自体は、前例がないわけではありません。ただ本作が特徴的なのは、人よりもずっと長く生きるフリーレンが主人公となり、彼女にとっては「寿命の短い」仲間たちの老後、そして死に様を描いていく点です。

『葬送のフリーレン』#1
© 山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

10年に及ぶ冒険の末に魔王を倒した後、勇者一行は、それぞれの生活を送ることになります。それから50年後に再会するのですが、1000年以上生きてきたフリーレンにとっては“たった”50年でも、人間にとって50年は大きなもの。再会した仲間たちは年老いており、すでにその生涯を終えようとしていました。フリーレンはこれに困惑し、後悔します。

第1話でかつての仲間である勇者ヒンメルの死と向き合うことに。棺を前に、フリーレンは「人間の寿命は短いってわかっていたのに、なんでもっと知ろうとしなかったんだろう」と涙します。そして、10年の冒険を振り返るかのような旅を始めます。

『葬送のフリーレン』#1
© 山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

続く第2話では2人目の仲間、僧侶ハイターと再会、そしてその死に立ち会うことに。第2話にして早々に、冒険をともにした4人のうち半数の死と向き合うという、言葉にすると過酷な話が展開されます。

しかし仲間たちの死は、必ずしも悲劇とは限りません。なぜなら、彼らは冒険の途上、志半ばで命が尽きたわけではなく、2人とも大往生の末に老衰、つまり寿命で亡くなるからです。

『葬送のフリーレン』#2
© 山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

目立ちたがり屋でナルシストながら、最後の最後まで世界の平和を望み、苦しむ人がいれば手を差し伸べ続けた勇者ヒンメル。現役時代は飲んだくれだったが、10年の冒険を通じて他人を思いやるヒンメルに感化され、老後は戦災孤児を引き取って慎ましく生活していた僧侶ハイター。老後、仲間たちの変わった部分と変わらなかった部分が、フリーレンの視点を通して浮き彫りになっていきます。

これら物語の序盤にして明確に提示されるのは、『葬送のフリーレン』は“看取る”側の物語だということです。一見、感情の起伏が乏しいようなエルフのフリーレンですが、その旅を通して、改めて揺れ動く感情の機微が描かれていきます。

『葬送のフリーレン』#1
© 山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

文字にすると、なんと地味な話だろうと思われるかもしれません。しかしその静謐さが、むしろエモーショナルでもあり、決して誰も無関係ではいられない大切な人たちを看取る話であると語りかけてくる。それが、『葬送のフリーレン』の魅力の1つです。

『葬送のフリーレン』#2
© 山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

また、1人の人間の死に様を見届けるということは、その人がどんな人生を歩んできたのかということと同じくらい、死後何を遺すのかを目の当たりにすることでもあります。本作では、それが「後継者」という形で描かれます。

『葬送のフリーレン』#4
© 山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

フリーレンの旅路は、死別した仲間たちの若き後継者たちとともに進んでいきます。これまで一度も弟子をとらなかったフリーレンですが、僧侶ハイターから頼まれ、戦災孤児のフェルンを同道させることに。

『葬送のフリーレン』#5
© 山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

さらには、戦士アイゼンの弟子であるシュタルクも、旅のお供に加わります。ひよっこだった彼ら彼女らの成長は、長命のフリーレンの視点からするとなおのこと、あっという間に映ります。あっという間ながらしかし丁寧に、若き冒険者たちの気付きや経験を重ねる姿が、物語を通して押し付けがましくない形で描かれていきます。

現代日本において、広く共感し得る普遍性を宿す理由

『葬送のフリーレン』#4
© 山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

『葬送のフリーレン』は全編を通して、死(あるいは遺志)というものについて真正面から問いかけます。それも、決して悲劇的にではなく。人と交わることで自分自身が変容していくことがもしも生きることだとするなら、自分を変容させてくれた世界を独り離れて、自分のいない世界に何かを遺すとはどういうことなのか──『葬送のフリーレン』は、死というものをそんな風に描いているように思います。

『葬送のフリーレン』#4
© 山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

日本は超高齢化社会と言われますが、現時点ではまだ、40-50代も人口のボリュームゾーンの一部。家庭を持ち、子供が大きくなったり、両親の介護、あるいは既に看取った人もいたりする年齢です。

“看取る” 側の物語であり、成長を見守る物語でもある『葬送のフリーレン』は、そうした現代日本において最も広く共感し得る普遍性を宿しているともいえるのではないでしょうか。だからこそ、金曜ロードショーという場で広く多くの人へ向けて届けようとされたのではないかと筆者は考えます。

人間よりは長命であるドワーフ種の戦士アイゼンの「人生ってのは、衰えてからの方が案外長いものだ」という台詞や、晩年は戦災孤児を引き取り育てていた僧侶ハイターの、「カッコよく死ぬのも難しいものですな」という台詞など……。一人ひとり、心に残る言葉やシーンが自身の経験やライフステージと照らし合わせ、きっとあるはず。

彼女たちの旅がどういう結末を迎えるのか。否、それ以上に、彼女たちが喪失を辿る旅の過程で何と出会い、何を得ていくのか。最後まで見届けたいと思います。


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『葬送のフリーレン』
© 山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

『葬送のフリーレン』
U-NEXT配信:毎週土曜午前0時、最新話を順次配信中
放送:毎週金曜よる11時、日本テレビ系全国30局ネット「FRIDAY ANIME NIGHT(フラアニ)」にて放送中

【あらすじ】
勇者ヒンメルたちと共に、10年に及ぶ冒険の末に魔王を打ち倒し、世界に平和をもたらした魔法使いフリーレン。千年以上生きるエルフである彼女は、ヒンメルたちと再会の約束をし、独り旅に出る。それから50年後、フリーレンはヒンメルのもとを訪ねるが、50年前と変わらぬ彼女に対し、ヒンメルは老い、人生は残りわずかだった。その後、死を迎えたヒンメルを目の当たりにし、これまで“人を知る”ことをしてこなかった自分を痛感し、それを悔いるフリーレンは、“人を知るため”の旅に出る。その旅路には、さまざまな人との出会い、さまざまな出来事が待っていた―。

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