“映画監督への登竜門”として知られる「ぴあフィルムフェスティバル」とは?名監督、名作が目白押しの映画ファン必見インタビュー
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“映画監督への登竜門”として知られる「ぴあフィルムフェスティバル」とは?名監督、名作が目白押しの映画ファン必見インタビュー

2023.09.21 15:00

1977年にスタートし、今年で45回目を迎える「ぴあフィルムフェスティバル(PFF)」。“映画監督への登竜門”として広く知られる本映画祭ですが、自主映画のコンペティション「PFFアワード2023」には全国から557本の応募があり、うち22本が入選。現在開催中の東京開催に加え、10月14日(土)からは京都でも上映。と同時に、U-NEXTのプラットフォームで10月31日(火)まで配信も行われています。また、「イカすぜ!70~80年代」と題した特集企画では、観る機会の少ない貴重な作品を紹介。他の映画祭とは一線を画したラインナップで多くの映画ファンに支持されるPFFの魅力と今年の見どころを、1992年よりディレクターを務める荒木啓子氏と、「PFFアワード1997」で『鬼畜大宴会』が準グランプリに輝いた熊切和嘉監督に語っていただきました。


怒られると思った企画『鬼畜大宴会』で熊切監督が準グランプリ

━━改めて、まずはお二人がPFFに関わった経緯からお伺いします。

荒木啓子ディレクター(以下、荒木):イギリスのブリティッシュ・カウンシルと大使館と一緒にすすめる映画祭「UK90 イギリス映画祭」という企画で、ニコラス・ローグ監督とイギリスの新人監督、今では巨匠になっている人たちの特集、そして、モンティ・パイソン特集で構成された企画のお手伝いをしたのが始まりですね。その頃、第15回の「ぴあフィルムフェスティバル」を東宝と一緒にやることが決まった。自主映画こそ作ったことはありませんが、日本の自主映画は凄いと思っていて、海外に紹介してチャンスを作りたいと感じていたところにPFFディレクターの声がかかりました。

熊切和嘉監督(以下、熊切):そんな経緯があったなんて、初めて聞きました。僕は大阪芸術大学の卒業制作作品『鬼畜大宴会』がPFFに入選、準グランプリをいただいてから。学生運動グループの内部崩壊による惨劇を描いた青春群像劇ですが、大学に企画を出した時は怒られると思いました。ところが当時、教授だった中島貞夫監督から思い切ってやれと背中を押されて。

荒木:『鬼畜大宴会』は大騒ぎになりましたよね。劇場公開にまでこぎつけた、あの時の盛り上がりは凄かったです。

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審査基準はなし!16人の選考員がひたらすら語り合うコンペティション

━━コンペティションに審査の基準はあるんですか。

荒木:全くないです。入選作品を決める役を引き受けてくれる、セレクション・メンバーが毎年16人ぐらいいて、1次審査では手分けして1作品を3人以上で観ることをルールにしています。1次審査も2次審査も、この16人がすごいと思うものを、なぜすごいのか、なぜ推したいのかをひたすら語ってもらう苦行(笑)。自分の作品ですら、話すことには慣れないでしょう?

熊切:今でも作品について語るのは苦手です。だから撮っているというのもあります(笑)。2015年に最終審査員5人のうちの一人として立ち会った時も、議論し合うタイプの5人ではなかったので、お互い自分の思うことだけ話しましたが、なんとなくまとまりました。

荒木:奥ゆかしい5人でしたよね(笑)。賞もグランプリ、準グランプリ、審査員特別賞3本の5つなので、5人の審査員それぞれの一押し作品が受賞してほしいというのがPFFの方針。喧々諤々と、熱くなる雰囲気はありません。グランプリのあるコンペとしてやっていますが競争はしたくない。競争よりも、多くの作品に光を当てたいと考えています。

そもそもPFFは長さなどの制限が一切ないので、すごく短い作品があったり長尺の作品があったり、ジャンルもアニメーションがあったりドキュメンタリーがあったりするので、意見はまとまらないんです(笑)。グランプリを決めることが審査会議の課題ですが、割と自然に決まります。

熊切:僕たちの時も自然に決まりました。特別な映画だって感じがあった。実際、グランプリを受賞した杉本大地さんの『あるみち』にはその鮮烈さに打ちのめされました。絶対自分では撮れない。あの瑞々しさはとても新鮮で、僕としても一押しでした。

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配信で流れることが、応募者のモチベーションのひとつに

荒木:最近は映画関連の学校に行っていない人も多いですが、自由な感じがいい。肩書きもバラバラ。スマホで撮影して応募する人も増えました。スタッフやキャストもネットですぐ見つかる。オーディションしている人も多かった。昔じゃ考えられないですね。

熊切:僕は同じ学校からいい人を探しました。スタッフもその後、プロになって活躍している人は多いです。

荒木:大阪芸大のゴールデンエイジですよね。PFFアワードに入選した22作品は配信もされるんですよ。自主映画が配信されるなんて、昔は想像したこともなかった。入選した監督も上映より配信のほうが嬉しかったりするんじゃないのかなって反応です。「U-NEXTで流れます」ってすぐ言うんですよ(笑)。

熊切:そんなことになっていたんですか。全然知らなかった。

荒木:映画を配信で観るライフスタイルはしっかり根付いていると思います。だから映画館で上映される、映画館に誘うのが初めての体験だったりする監督も多いんじゃないかな。そういったことも含めて、映画祭は彼らにとって驚きだと思います。

熊切:僕も今、子どもが生まれて映画館に行けなくなっていることもあり、配信で観ることが多くなりました。しかも逗子に住んでいるので、なかなか都心まで映画を観に行くことができなくなってきた。何でもあるし、古い映画がいつでも観られるのはすごい。

荒木:気軽に映画を観られることって素晴らしいですよね。そういった状況を鑑みて、PFFの特集企画は“時代”で切りました。配信で観ると、時代を考えないで観ていることが多い。あえて70年代、80年代にどんな映画があったかを紹介しています。

若い監督に向けて企画される招待作品プログラム

━━では、PFFのもう一つの柱である特集企画、招待作品部門の見どころをお願いします。

熊切:僕も特集上映のところは特に聞きたいです。「山中瑶子監督『あみこ』への道」は『ポゼッション』『ホーリー・マウンテン』を上映するんですね。僕も同じような映画が好きだったので非常に気になりました。

荒木:山中監督はかなり映画を観ているんですよ。今の若い監督たちは相当映画を観ている。それを伝えたいなと思っていつも招待作品を作っています。「こういった作品を観ておくと創作に絶対プラスになるよって」いう作品をプログラミングしていますが、その意図がなかなか伝わらない(笑)。山中監督と熊切監督が同じ指向だというのも面白いですね。

熊切:『あみこ』はまだ観ていないので楽しみです。

荒木:山中監督は長編映画の企画が進んでおられるようで、各方面から期待される女性監督です。今年のPFFアワードは女性が少なめですが、一昨年は半分が女性監督でした。しかも受賞者8人のうち7人が女性。私がディレクターになった時は、女性監督が珍しく騒がれたんですが、今は誰も話題にしない。実は女性の活躍に何の興味もない日本の実態がよく分かりました(笑)。そういった学びが毎年あります。

熊切:女性監督も多くなりましたが、プロデューサーも女性が増えたと思います。新作『658km、陽子の旅』のプロデューサーの2人は女性です。

荒木:塩田明彦監督がみつめる相米慎二の少年少女」もすごく面白いと思います。塩田監督は映画の解析がとてもうまい。相米監督が描いた少年少女、彼らの生と死がいかに自分たちの世代に影響を与えているか。熊切さんは少し下の世代ですが、是枝裕和監督や岩井俊二監督たちの世代に相米監督が与えた影響については、塩田監督が長年温めてきた課題のようです。

熊切:『ションベン・ライダー』『どこまでもいこう』『お引越し』の3本が上映されますね。

荒木:去年は小ホールしか使えなかったんですが、今年は大ホールが使えるので力が入ります。

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追悼だけでは終わらない自主作品上映

荒木:昨年亡くなった日比野幸子プロデューサーはPFF応募作品の保存、長編映画の製作、海外部門の立ち上げなどPFFの礎をつくった人でもあります。60年代から8ミリ作品の紹介や上映をずっとやっておられて、今回上映する『杳子(ようこ)』は幻の作品と言われていましたが、70年代に8ミリでしか撮ったことのない伴睦人監督の16ミリ作品。原作は芥川賞受賞作で、伴監督が古井由吉さんに直接交渉して原作権を獲得し、当時伝説のモデルだった山口小夜子さんを主演に口説いて撮ったセンセーショナルな作品ですが、長らく行方不明で。

今回、フィルムが見つかり、撮影した渡部眞さんの監修でデジタル化が実現しました。渡部さんも早稲田大学で自主映画をつくっていた方で、森田芳光監督の『の・ようなもの』の撮影を担当。自主映画からスタートした森田監督をはじめ、自主映画仲間の映画を撮ることでプロになっていっていきました。熊切さんと一緒に作っていた人たちがプロになったようなバックグラウンドだと思うんですね。その流れは確実に今もある。

熊切:並行して自主映画でやっていく歴史がスタートした時代でもありますね。それが70年代だった。

荒木:こういった話を含めて、日比野さんと同じく昨年亡くなられた大森一樹監督を追悼する「大森一樹監督再発見」として自主映画時代の9作品と、『女優時代』『悲しき天使』を上映します。と言っても大森監督は80年代、既に商業映画の大監督で、自主映画のイメージはあまりないんですけどね。

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20代で巨匠のような作品を撮った監督たち

熊切:70年代はほかにもいろいろなテーマでやっていますね。

荒木:「20代監督の衝撃作!」ではシャンタル・アケルマン監督の『ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地』とグザヴィエ・ドラン監督の『わたしはロランス』を上映しますが、PFFでは20代で映画監督になった方の初期作品をよく紹介しています。なぜなら20代でデビューするかどうかが才能の分かれ目とよく語られていたから。

「生誕120年・小津安二郎の愛したふたり」では、小津監督の名前を借りて清水宏山中貞雄を紹介しますが、この3人も10代で映画界入りし、20代前半でデビューしている。映画の勃興期はそれが当たり前だったのに、だんだん映画界は会社組織になりデビューが遅くなっていった。

自主映画の監督はもっと若くなっていいと思うので、70年代に20代のデビュー作という特集を組んでいたPFFを見直そうと思っています。考えてみれば、コッポラだって20代で『ゴッドファーザー』を企画し32~33歳で撮っている。お金とチャンスがあれば、ものすごい作品を作る人はいるはず。条件が整えば、映画監督は若ければ若ほどいいんじゃないかと思います。PFFが企画から公開までトータルプロデュースする長編映画プロジェクト、PFFスカラシップもあと5倍くらいの予算があればと夢見てます。

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新しい才能を発掘させ支援するPFFスカラシップ

熊切:そのPFFスカラシップで僕は『空の穴』を作り、商業デビューすることができた。すべてPFFから広がった実感があります。

荒木:PFFスカラシップがスタートしたのは1984年から。昨年亡くなられた斎藤久志監督の再発見プログラムでゲスト出演される風間志織監督が17歳の時に撮った『0×0(ゼロカケルコトノゼロ)』を上映するんですが、この作品がゴダールを彷彿とさせる素晴らしい出来で、彼女に16ミリで作らせたいと始まった制度がスカラシップです。

当時、情報誌「ぴあ」を発行していた出版社ぴあが映画祭に資金をつぎ込み、自主映画から天才を発掘し支援していきたいと。一企業が映画祭を何十年も継続しているのは世界で唯一、PFFだけです。

熊切:僕は北海道の高校生だったので雑誌「ぴあ」は知らなかったんですが、泉谷しげるさんが司会を務めていたNHK-BS2の深夜番組「ヤング・シネマ・パラダイス」が大好きで、そこで塚本晋也監督の『鉄男』がPFFでグランプリを獲得した翌年の作品だと紹介されたのを鮮明に覚えています。さらに『地獄の警備員』を撮った黒沢清監督もPFFで入選しているという。黒沢監督の映画ももちろん素晴らしいし、出演・撮影・照明・編集などすべて自身でこなされる、現代のチャップリン=塚本監督は本当に凄いです。

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選ばずに観ることが最高の映画鑑賞指南

━━最後に、何を頼りに作品を観ていけばいいか、ご指南いただけますか。

荒木:一般的には映画史に残る名作を観ていくことでしょうか。ベスト・テンなどを観て、そこで気になった監督、俳優に広げていくのが入り口だと思いますが、いかがでしょう?

熊切:僕は子供の頃にBSの番組や衛星映画劇場などで観た作品が心に残っていることが多いですね。

荒木:大阪出身の入選監督のひとりは、母親に言われてこたつの上に上がって天井の電球を取り換えていたら、たまたま『ディア・ハンター』がTV放映されていて、電球を変える体勢のまま最後まで観てしまったんですって。そして映画監督になろうと大阪芸大に入学した。偶然の出会いほどパワーがあるものはないと思います。何を観たらいいか選ぶことをやめて、時間がたまたまあった作品を観るといったことを繰り返していけばいいと思います。映画祭はその最高の場所だと思います。

熊切:同感です。PFFで入選した年、確か敬愛するポール・ヴァーホーヴェン監督の自主映画を上映していたんです。ほかデヴィッド・リンチジョン・カーペンターといった名監督の学生時代の作品が上映されていてすごく面白かった。他では観られない作品も多いので、直感で観てみるといいんじゃないかなと思います。

荒木:やはり数を観ないと面白い作品には出会えないですしね。私がお勧めと言っても、その人が気に入るわけでもないし。人それぞれ価値観も違うので、映画を観ること自体を楽しんでいただければいいなと思います。

配信開始前、または配信終了しています。

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