大人気映画からドラマへ『ベイビーわるきゅーれ エブリデイ!』髙石あかり「ちさととして、ただそこにいればいい」
映画『ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ』も9月27日公開。ちさとを演じる髙石あかりさんに聞いた作品の魅力とは。
2年に1回、秋になると、世界各国、全国各地から大勢の映画人たちがこぞって山形市に駆けつける。目指すは、「山形国際ドキュメンタリー映画祭」。名だたる巨匠から注目の新人まで、厳選されたドキュメンタリー映画が上映され、作り手と観客が交流する映画の祭典だ。最近では、ドキュメンタリーとしては異例の大ヒットを記録したフレデリック・ワイズマン監督『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』など、ここでの上映がきっかけで劇場公開につながり、その後大きなムーヴメントを起こした作品は数知れない。今回で18回目となるこの映画祭の歴史や見どころについて、映画祭事務局長の畑あゆみさんにお話をうかがいました。
━━まずは、山形国際ドキュメンタリー映画祭の成り立ちについて教えてください。
畑:映画祭の第1回が開催されたのは1989年、山形市の市制100周年記念行事としてスタートしました。それ以来、2年に1回、10月に開催するという形で現在まで続けています。
映画祭の設立には、ドキュメンタリー映画作家の小川紳介さんの存在が大きく関わっています。小川さんは、山形市の隣にある上山市に「小川プロダクション」の拠点を構えて映画製作を行っていた方で、上山市で撮影した『ニッポン国古屋敷村』が1982年にベルリン国際映画祭で国際批評家連盟賞を受賞し、その名前は山形でもよく知られていました。
当時、アジアにはドキュメンタリーを専門とする映画祭がまだありませんでしたが、小川プロの映画に心酔する人々や、自主上映活動をする若者たちが日本全国に大勢いた熱い時代でもありました。そういう状況のなかで、世界の最先端のドキュメンタリーを上映する場をつくろう、それにはこの東北の山深い温泉地こそ相応しいじゃないかと、小川さんとも相談しながらこの映画祭が立ち上げられました。
━━以前、山形国際ドキュメンタリー映画祭に行って驚きましたが、映画祭期間中は、さまざまな国や地域から映画人たちが集まり、本当に濃密な空間が出来上がっていますよね。
畑:私は2001年からボランティアとして映画祭に参加し始めたんですが、やはり最初はその活気に驚きました。温泉地である地方の街に、海外の映画作家たちはもちろん、東京の映画業界の方々や、山形の映画好きの人たち、国際的なイベントに興味がある地元の若者から、これを機に山形の日本酒を売りたいという方々まで、本当に多様な人たちが集まり、映画を観ては毎日じっくりと語り合う。この特殊な時間と空間の広がりが、山形国際ドキュメンタリー映画祭の一番の魅力だと思います。
━━上映作品の監督たちも各地からいらっしゃるんですよね。
畑:場合によっては来場が叶わない方もいらっしゃいますが、上映される映画の監督たちにはできるかぎり会場に来てもらい、自ら作品をプレゼンし観客との対話に応じる時間を設けています。監督と観客のコミュニケーションを深め、映画の作り手たちに何か新しいものを得て帰ってもらうのが、映画祭の当初からの基本理念なんです。
━━プログラムには、「インターナショナル・コンペティション」と「アジア千波万波」という大きな2つの柱があります。今回のコンペ部門では、フェミニズムを代表する作家としても著名なトリン・T・ミンハ監督の新作や、ウクライナ出身の監督たちによる作品などが上映されます。そしてアジア千波万波では、『セノーテ』の小田香監督の新作をはじめ、アジア各国の作品が並んでいます。2つの部門の違いは何でしょうか?
畑:インターナショナル・コンペティションは世界どこからでも応募ができる部門で、基本的には長編のみ、過去2年間につくられた作品が条件です。アジア千波万波の方は、製作年や上映時間を問わず、中東を含むアジアの作品に特化した部門です。
実は第1回目にはまだアジア作品専門の部門を設けていなかったのですが、小川紳介さんや招かれたアジア出身作家たちが、せっかくアジア初の国際ドキュメンタリー映画祭なのだから、YIDFFをアジアの作家たちのネットワークの場にしようとと提案しました。アジアの国の中には、政治的に映画をつくることすら難しい作家たちがたくさんいる、そういう困難な状況にある彼らを励ますような映画祭にしたいと。その後アジアプログラムが創設されました。
━━今回のアジア千波万波の上映作品には、ミャンマーから匿名で参加されている監督たちが2組いらっしゃいますね。
畑:前回の映画祭で大賞を受賞した香港民主化デモを記録した『理大囲城』の監督たちも、やはり匿名での参加でした。山形国際ドキュメンタリー映画祭では、政治的に厳しい環境下にあり作品を発表することがむずかしい監督たちの声を聞くことのできる作品をこれまでも上映してきました。今回はディスカッションも企画していますので、表現や意見を自由に発表できるとはどういうことかを、皆で考えられるような場となるのではないでしょうか。
━━ほかにも、「日本プログラム」や「野外スクリーン!で東北を魅る」をはじめ、さまざまな特集が企画されています。おすすめの企画をご紹介いただけますか。
畑:今回の目玉となる特集の1つは、国立映画アーカイブとの共催で行う「野田真吉特集:モノと生の祝祭」。戦前から1980年代くらいまで活躍した記録映画作家、野田真吉の軌跡を振り返る企画です。野田真吉は、実験的な作品から記録映画、民俗学映画まで、本当に多彩な作品を手がけた作家ですが、これまでなかなかそのキャリアの全貌が紹介される機会が少なかった人でもあり、画期的な特集上映となるはずです。
━━「未来への映画便」という特集も気になります。
畑:これは前回から始まった企画で、映画を鑑賞後、参加者みんなで話し合いながら、映画を観るとはどういうことかを考える若者向けの鑑賞型ワークショップです。実は2020年に一度、過去の受賞作4本を選び若者たちに向けて無料で配信をする「10代のための映画便」という企画をWebサイト上で行ったんです。パンデミックが拡大し、外で映画を見ることが難しくなった時期に、どうにかして若者たちに映画を届けようと始めた企画だったんですが、よい手応えを感じました。そこで前回のオンライン映画祭から、より充実した本格的な内容で映画祭に組み入れました。
━━「ともにある」という特集では、『なみのおと』(酒井耕、濱口竜介)、『津島 ―福島は語る・第二章―』(土井敏邦)、『ラジオ下神白 ―あのとき あのまちの音楽から いまここへ―』(小森はるか)の3作品が上映され、ディスカッションも用意されています。
畑:これは東日本大震災の直後から始めた、震災に関する映像作品を上映していくプログラムです。震災の後の数年間は、映像を通して「震災の実相を知る」ことがこのプログラムの重要な要素でした。あれから12年が経ち、今では震災を経験していなかったり覚えていなかったりする若い世代も増えていますよね。そういう方たちにどう震災経験を伝えていくかが、ここ数年の課題です。
━━今回、U-NEXTでも本映画祭で過去に上映された作品がたくさん配信されますが、ここ数年に上映された作品のなかでおすすめの映画があれば教えてください。
畑:ちょうど今劇場公開されている『燃えあがる女性記者たち』(リントゥ・トーマス、スシュミト・ゴーシュ監督)は、前回の映画祭で観客賞を受賞した作品です。インドの厳しいカースト制、そして女性であることによる差別を受けながらも、意気盛んに活動している女性記者たちの姿から大きな勇気をもらえる映画で、映画祭上映時にも人気が高い作品でした。
U-NEXTで配信される『カマグロガ』(アルフォンソ・アマドル監督)は、前回山形市長賞(最優秀賞)を受賞した作品で、スペイン、バレンシア地方にある再開発が進む地域で、代々タイガーナッツの有機栽培をしてきた農家の話です。西部劇を思わせるような寡黙で硬派な映画ですが、根底には、手仕事に対する敬愛の念や、再開発によって昔ながらの伝統農業が消えていくことへの想いなど、普遍的なテーマがあります。昨年フォーラム山形で上映をした際には、近隣で農家を営む方も見に来られて、興味深くとても共感したとおっしゃっていました。
━━最後に、ドキュメンタリー映画の魅力と、本映画祭の楽しみ方について、畑さんと広報担当の村田さんから、ひと言ずついただけますか。
畑:映画を観るきっかけは本当になんでもいいと思うんです。舞台になった国に興味がある、そこの文化を知りたい、そんな単純な興味からでもいい。実際に映画を観れば、世界のいたるところで自分の暮らしと地続きの生活が営まれていることを体感できると思います。
今回の映画祭では、全8日間で130本の映画を8スクリーンで上映します。何を観ようかな、次はどこに行こうかな、と自分なりの予定を組みながら、街を歩きまわり、山形の美味しいものを食べながら映画を楽しんでもらえたらと思います。
村田:山形国際ドキュメンタリー映画祭っておもしろいと思うのは、その応募基準の自由さです。作り手である監督が「これはドキュメンタリー映画です」と言ったらどんなものでもOK。ときには「これがドキュメンタリーなの?」と驚くような作品が現れたりして、自分のなかの「ドキュメンタリー映画ってこういうもの」という固定概念を覆してくれるのが山形国際ドキュメンタリー映画祭なんです。みなさんにも、ぜひ実際に山形に来て、あるいは過去の上映作品を配信でご覧いただき、多様なドキュメンタリー映画の世界を体験していただけたらと思います。
山形国際ドキュメンタリー映画祭2023 10月5日(木)– 10月12日(木)
公式サイトはこちら
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