12月、UFCデビュー戦でいきなりフライ級タイトルマッチに挑む朝倉海選手「UFCチャンピオンになって、来年UFCを日本に持ってきたい」
12月8日(日)開催、UFC 310のセミメインイベントでUFCデビューを飾る朝倉海選手にインタビュー
──いよいよ念願の試合が実現したという心境かと思いますが、ジュリアナ・ペーニャ選手との一戦に向けての思いを聞かせてください。準備は万全といったところでしょうか。
もちろん!まさしくこの試合はずっと待ち望んでいた試合で、11年前にしていたかもしれない試合をがやっとできるっていう意味で、いつものような、6〜8週間くらい前に対戦オファーを受けて意志を聞かれるのような類の試合とは全然違う。どうして今までジュリアナと戦えなかったかも分からないし、本当にずっと待ち望んできた試合です。それがユタ州で行われるっていう、つまりみんながここ数日話題にしているけれど高地での試合になった。自分はコロラドで生まれ育っているから標高としては下がっているし、慣れたものだし、高地トレーニングももちろんしてきました。とてもいいファイトキャンプを過ごせたと思っているから、準備はしっかり整っています。
──ご自身のファイトキャンプではどんなトレーニングパートナーがいましたか?
コロラド州のスプリングのジムに通いながら、デンバーまで週2回通っていて、柔術、レスリング、キックボクシングに特化した5人のコーチがいるのだけれど、自分専用のキャンプのような感じで、トレーニングパートナーを都度連れてきて、家族や友達もずっと近くにいられる環境で取り組んでいます。
──ジュリアナ・ペーニャ対策を、言える範囲で教えていただけませんか?
実際、試合でコントロールできることって、自分の側のことだけだって思うんですよね。ジュリアナとはTUFで一緒に過ごした経験があって、お互いを敵視したりもしたしで、よく知っている相手だから、いつものように自分がやるべきことをこなしてきたという感じですね。映像も色々見たけれど向こうの試合を見て実際に分析したりするのはコーチやチームメイトの仕事で、彼らがしっかり準備をしてくれているから、自分自身のことに集中していました。自分の映像もたくさん見たんです。というのは、どうやったら自分に勝てるのか。それが今回のキャンプのテーマでもあったから。自分自身についてをひとつずつ紐解いていって変える必要があるところは修正してきた。そういう取り組みによって、これまでなかった自分の引き出しを増やすことができたと思うから、本当にいいキャンプになったという実感があります。
──TUFの話題も出ましたが、当時を振り返ってあの経験はどのように今に活きていますか?
UFCに入れるかもしれないという重要な機会としても本当にいい経験だった。この格闘技のパイオニアでもある二人の有名なコーチ(ロンダ・ラウジーとミーシャ・テイト)が立っていて、本当に唯一無二の経験だったと思っています。TUFのいいところは、やっぱりあくまでも『創られた世界』だということだと感じているんです、TVのリアリティショーだから、見せたいように編集しているし、逆にそのことで選手たちのアスリートであるという側面以外の部分も見せる事ができる。あと、自分自身がとても家族を大事にしているというのがひとつあって、そんな家族の元を離れるというのは、自分にとって快適な空間領域からは引き剥がされて、非日常の世界に飛び込み、閉じ込められるということ。それが自分の夢に集中することにつながっていて、食べることや眠ること、トレーニングしてリカバリをして、そうやって何人もの同じ夢を持った同じような選手たちと一緒に過ごすというのは本当にユニークな経験だし、二人のコーチと何人もの女子選手が集まり、始まりから進化を追って見ていくというのはすごいことだし、次へ向かうためのひとつの節目のようなものとして、いい経験になっています。
──そのTUFで、ラケル選手のチームメイトに日本と馴染みの深いロクサン・モダフェリ選手の姿もありました。
ロキシーは本当にいい子。TUFのトライアウトに行ったときのことを思い出すけど、ロキシーはいつものままというか、無垢で陽気な、ちょっとおどけた様子でストレッチをしていて。自分としては、まだ他の女子選手のことはよく知らないまま、言われるがままトライアウトに飛び込んだ感じだったから、これ全然意地悪な意味じゃないんだけど、ロキシーのその姿を見て、「あそこにいるのは、学校の先生か何か?」って聞いたの(笑)。オチとして彼女は実際先生やってるから結果当たってたんだけど(笑)。でも当時、彼女が他団体でチャンピオンになったこともそうだし、築いていたキャリアを何も知らなかった。他の選手たちともそういう環境で出会えたのは嬉しかったし、その中にロキシーがいたことっていうのは、彼女は本当に陽キャだしポジティブで、彼女のニックネームの『ハッピー・ウォリアー』と呼ぶにふさわしい人柄だから、あのシーズンのTUFに色んなミックスした要素が加えられたんじゃないかと思っています。
──今も女子格闘技界で活躍を続けているキャット・ジンガーノであったり、レズリー・スミスなどとキャリア初期に戦ってきましたね。その当時を振り返って、10年以上経って女子格闘技が今のように注目されるとは考えられましたか?
やり続けていることで「あ、これはいつか注目されるかもしれない」って思えたタイミングはあったかなと。このスポーツはどうしたって男性のほうが注目されがちだし、女性の選手の中に全てをかけてトレーニングして頑張れる人がどれくらいいるのかと疑問符をつけられがちなのだと思うけれど、そういうなかにあって女子格闘技も成長を遂げてデイナ・ホワイトがようやく機会をくれるようになって……、本当にクレイジーだと思う。14年間この競技をやっているけど、14年前は対戦相手を見つけることすら大変だった。今でも覚えているけど、昔「UFC初の女子ファイターになりたい!」って言ったら笑われたんです。でもその後、UFCが最初に契約をした女子選手10人の1人に自分が入っていたっていうのは、最高なこと。今、UFCの全ての階級がどんどん大きなものになって、UFCだけではなく他の団体も成長していっているのは、本当にすごいと思っています。今まさに成長の過程にある次の世代の女子選手たちなんて、もう「ワオ!」としか言えないくらい。だって、小さい頃から(MMAの)練習を始めているんだから。恐怖でしかない!
──女子格闘技を引っ張ってきた世代として、今王者であるということはどのような意味を持っていますか。ベルトを獲ったことはラケル選手の人生にどのような影響を与えたのでしょうか。
この競技をやっているのはきっと世界の人口の1%くらいの数ですよね。その中で世界チャンピオンになるのはもっと数が少ないでしょう?他のスポーツもそうだけれど、世界チャンピオンになりたいと思っても、大多数の人はなれないまま終わる、それが現実。自分のこれまでのキャリアや歩んできた道のりを振り返ると、自分は別に恵まれていたわけではなくて。本当に自らの努力によって、今のポジションまで這いあがってきた自負があります。その点では自分を誇れる。そんな自分が目標を叶えて今UFC女子バンタム級の王者であるという事実を誰も変えることはできません。それで、何を得られたかといえば、家族の人生を変える事ができたと思う。コロラドで育って、いつか自分の土地や山が欲しい、そこで冒険したり大きな小屋を建てたりと夢見てきたことが実現できました。それを叶えられたのは自分が頑張ったからこそだと思っています。自分の情熱を諦めず追いかけることで、自分の才能を発揮し、夢を叶えることができたと思っています。
──そうやって手にしたベルトを防衛する大切な試合を迎えますが、パートナーのテシア選手が同じイベントで戦うのは、やはり心強いですか?当日は、家族が一堂に会することになるのでしょうか。
今回はコロラドからもフロリダからも、家族全員が来ます。テシアの家族も全員来るし親友たちとかも揃うからもうてんやわんやですね(笑)。テシアと同じ日に戦うことにはすごくワクワクしています。「一緒の日に戦おう」自分が提案したんです。テシアは前回の試合から少し自信を失っているところもあって「どうしたい?戦いたい?」って。そうしたら彼女が「戦う」って決めたから、同じ日に戦えるようリクエストしました。それで、少しでも早くストレスから解放されたいから早めのカードに入れてってテシアは頼んでた(笑)。
──二人で同時に育児もしながらトレーニングキャンプを過ごすのは相当大変だったのではありませんか?
そうですね。だから完全に分業していました。まず私が早朝のトレーニングに行って、その後から彼女がトレーニングに入る。「ひとりの子どもを育てるには村全体の協力が必要だ」ということわざがあるでしょう?その意味が本当に理解できた気がしています。ファイトキャンプ中、母や友人たちがすごくサポートをしてくれた。テシアが朝食を子どもにあげた後、リモートワークをしている友人の家に子供を預けに行く。それから平日の夜は2回くらい母が子どもを預かってくれて、そのまま友人に預けに行ったり。私のトレーニングはテシアより早く終わるから友人の家に私が迎えに行って、子どもの世話をしている間にテシアが帰ってくる、そういう感じでやっていました。今までは私がキャンプの間はテシアが家を守る、彼女がキャンプの間はその逆というふうにやってきたけれど、今回は二人が同時にキャンプに入るということで、あらゆる面で新しいチャレンジになりました。
──さらにラケル選手はベルトを持つ王者でもあります。母としての自分と王者でありファイターとしての自分、そのバランスをどのように保っているのでしょうか。
この競技の選手でいるということは、感情の振り幅が大きくなることを意味してるんです。全てを懸けて戦うから。特にMMAは良い時と悪い時のギャップが大きい。だからうまくいっていないと本当にどん底まで落ちるし、ファイターであることが自己存在証明そのものなわけだから、すごく辛いこともあります。母になってからは、娘の存在が戦う意味になりました。戦うことそれ自体は自分自身の情熱に基づくけれど、戦う目的は娘のためであるという風にバランスをとれるようになったんです。娘がいることで人生での勝利を得られるというか、勇敢であること、強くあること、努力すること、そういったものをこの子に教える存在は自分なのだと教えられるのですよね。まだ15カ月でほとんどのことは分からないけれど、そんな娘の存在が、新たな情熱や、新しいモチベーションであったりと私に火を着つけてくれる。それから、家族にもすごく感謝しています。お互いそれぞれに試合のために役割を分担してきたけれど、今回に関しては二人でファイトキャンプに入ったので、家族や友人とともに全員で育児をしているような感覚でした。そういう環境で夢を追えることに本当に感謝しているし、とてもワクワクするから、そこでバランスが取れているんだと思います。
──最後に日本のU-NEXTを通して応援しているファンの皆さんにメッセージをいただけますか。
私を応援してくれている日本のファンの皆さんへ愛を伝えたいです。また日本に行ける日が待ち遠しいです。今まで行った国の中で大好きな国のひとつです。試合を見てもらえると嬉しいです。ワクワクする夜になると思います!レッツゴー!チーム・ロッキーファン!※ロッキーはラケル選手のニックネーム
12月8日(日)開催、UFC 310のセミメインイベントでUFCデビューを飾る朝倉海選手にインタビュー
フライ級・平良達郎選手にデンバーでその胸中と試合への意気込みをインタビュー
日本時間10月6日(日)に開催される、UFC 307:ペレイラ vs. ラウントリーJr.のセミメインイベントでUFC女子バンタム級タイトルマッチに臨む、同級元王者のジュリアナ・ペーニャ選手。怪我による長期戦線離脱からの復帰戦で、かつてリアリティ番組「The Ultimate Fighter 18」でUFCの舞台を目指すチームメイトとして過ごした経験のあるラケル・ペニントン選手のベルトに挑戦するペーニャ選手が、当時を振り返りつつ、現在の心境を語ってくれました。
9月7日(土)『ONE 168: Denver』でONEのアメリカでの大会には初出場の手塚裕之選手に、心境をうかがいました。
UFCとの契約をかけた『ROAD TO UFC シーズン3』。準決勝に出場する4選手が、目標の舞台をめざして絶対に負けられない戦いに臨む心境を語ります。