ドラマ『たとえあなたを忘れても』松井玲奈インタビュー「人生の小さなハードルを乗り越えていく物語」
シェア

ドラマ『たとえあなたを忘れても』松井玲奈インタビュー「人生の小さなハードルを乗り越えていく物語」

その切なすぎる物語が大きな反響を呼んでいるドラマ『たとえあなたを忘れても』。堀田真由さん演じるピアニストの夢に挫折した主人公・河野美璃と、萩原利久さん演じる記憶障害を抱える青木空の2人が織り成すヒューマンラブストーリーが、美しい神戸の街を舞台に綴られていきます。本作で松井玲奈さんは、生活の苦しい美璃が、ピアノ講師を辞めてアルバイトをする携帯ショップで、彼女の上司となる森亜弓を演じています。作品ごとにまったく異なる印象の多彩な役柄を演じ分ける松井さんに、今回の役柄や浅野妙子さんによる脚本の魅力などを、その幅広い活動に込めた想いも含めて語っていただきました。

美璃にストレスを与える役回りだけど、ただ厳しいだけの人ではない

──『たとえあなたを忘れても』は浅野妙子さんによる脚本ですが、どんなところに魅力を感じましたか?

松井:ラブストーリーとしての切なさに魅了されましたし、抽象的な表現ですが、すごく透明感があって、瑞々しさを感じる脚本だと思いました。それは、美璃と空の関係性が、とてもピュアで混ざり気のないものとして描かれているからかなと。また、どの登場人物にも人生の中の小さなハードルがいくつもあって、みんなそれをちょっとずつ乗り越えながら物語が進んでいくという構成が、とても素敵だなと思いました。美璃と空の2人だけに障壁があるわけではなく、周りの人たちにも小さなつまずきがあって、そこから起き上がっていくのをくり返すことで、より物語にリアリティを感じられるように描かれている。それぞれの登場人物がどうなっていくのかがすごく気になる脚本だと思いました。

──森亜弓という役を演じる上で、どんなことを意識されていますか?

松井:亜弓は、堀田さんの演じる主人公の美璃がアルバイトをする携帯ショップの上司で、亜弓には彼女なりの正しさや働き方があるため、仕事に不慣れな美璃には厳しく接してしまう。美璃はずっとピアノをやってきて、ある意味閉じた世界で生きてきた中、亜弓から社会人の洗礼のようなものを受けるんです。そんな美璃にストレスを与える役回りですが、スタッフの方々からは、亜弓を「ただ厳しいだけの人にしたくはない」とも伺っていました。彼女にも多面性やいろんな感情があるはずですから、厳しさの中にも人間らしいグラデーションを感じてもらえるように心掛けました。物語の前半では、かなりきつい印象や強い人だと印象づけられるよう、特に棘のある視線や言葉のかけ方などを意識したので、撮影現場で私の芝居を見たスタッフさんから、「怖いよ~」「貫禄があって、お局感がある」などと言われることも多かったです(笑)。

たとえあなたを忘れても_松井玲奈さん_01
©ABCテレビ

──森亜弓という人物を演じてみて、どんな魅力を感じていますか?

松井:亜弓にも彼女が越えるべき人生のハードルがあり、彼女が日々それとどう向き合い、どんな思いで働いているのか。それはいずれ明かされると思いますし、彼女の生き方に私は逞しさを感じています。


元気な堀田さんの懐の深さに飛び込むような気持ちで演じている

──主人公・美璃役の堀田真由さんと共演した印象を教えてください。

松井:撮影現場で初めて会った日に、すごく大きな声で「おはようございます!」と言っていただけたのが、すごく嬉しかったですね。私が高圧的に接するお芝居をしなければいけないので、どうコミュニケーションを取ったらいいだろうと思っていたんです。でも堀田さんの方から両手を広げるような感じで元気に挨拶してくださったので、その懐の深さに飛び込むような気持ちでお芝居させていただいています。ただ、携帯ショップのシーンでの美璃は、しょんぼりしていたり、表情が暗く元気のない姿ばかりでしたから、撮影現場では堀田さんの朗らかな表情を見る機会が少ないんです。なので、撮影の合間に堀田さんの笑顔が見られると安心しますし、第1話を観て「美璃ちゃんはこんなに表情豊かだったんだ!」という衝撃がありました。撮影合間の待ち時間では、滋賀県出身の堀田さんが劇中では標準語を使わないといけないので、「周囲の関西弁につられないか心配です」という話をしてくれたり、私も関西弁を教えてほしいといったことを話していますね。

──確かに亜弓は、関西弁を喋らないといけない役ですね。

松井:これまでも関西弁で演じる機会は何度かあったのですが、今回は携帯ショップ内で、お客さまに対応している姿や、美璃の周囲で他の店員と何かやりとりしている様子をアドリブで撮ることも多く、用意されていない台詞を関西弁で喋るのがすごく難しかったです。言葉自体は頭に浮かんでも、口から発する音が関西弁として合っているのかわからなくて。撮影に参加されているエキストラの方々が、関西出身の方ばかりだったので、イントネーションの間違いなどを教えていただくこともありました。次第に「関西出身なの?」と聞かれたり、「お上手だね」と褒めてもらえるようにもなりましたが、最初は「ここはアドリブでいきます」と言われると、どうしたものかと思いながら演じていましたね(笑)。

──第1話を観て、特に印象深かったシーンはありますか?

松井:美璃が音楽関係の出版社の面接に行く前に験を担ごうと、普段は買えない高いメロンジュースを空のキッチンカーで初めて買うところですね。台詞も少ない短い場面なんですけど、美璃を演じた堀田さんの表情がとても生き生きしているんです。自分たちの日常の中にも、そんなちょっとした験担ぎのために、普段はしないようないいことを自分のためにする瞬間ってあるなと、ふと気付かされのが、とても魅力的で好きでした。

たとえあなたを忘れても_松井玲奈さん_02
©ABCテレビ

振り幅のある多彩な役を任せていただけるのは光栄なこと

──今回演じている森亜弓は、主人公に厳しく接する役回りですが、松井さんは様々な作品で、主演・助演を問わず幅広い役柄を演じていますね。今年だけでも、ドラマ『やわ男とカタ子』ではこじらせ喪女のヒロイン役、ドラマ『ギフテッド』シリーズでは古武術の師範代で舞台俳優の男性役、大河ドラマ『どうする家康』では徳川家康の側室役、映画『緑のざわめき』では元女優の主人公役、映画『生きててごめんなさい』では主人公の先輩の編集者役、劇団☆新感線の舞台『ミナト町純情オセロ~月がとっても慕情篇~』では主人公の妻のヒロイン役などを演じており、テレビアニメ『バブル バス ベイ』ではヨットの主人公の声優まで務めています。ご自身で多種多彩な幅広い役柄を選んでいらっしゃるのでしょうか?

松井:お話をいただいた作品を一つ一つやらせていただいた結果です。振り幅のある多彩な役を任せていただけるというのは、とても光栄ですし、嬉しいことです。「松井さんが演じたらきっと面白くなるだろう」と思って選んでくださったのなら、その気持ちに応えたいですし、作品を観てくださる方にも「松井さんが出ているなら面白そうだから観てみよう」「今度はどんな役だろう」と期待してもらえる俳優になりたいので、常にその時できる自分のベスト・パフォーマンスを目指しています。

──光栄とはいえ、あまりにも振り幅が大きすぎて、たまには戸惑う役もありませんか?

松井:私はなんでもやりますというスタンスですし、面白がっていることのほうが多いです(笑)。いつも自分が演じる役を楽しむことを心掛けていますし、それが観る方にも届いて、面白かったと言ってもらえたら素敵なことだと思っています。

自分に向いていることは、自分よりも周りの方のほうがわかってくれている

──俳優業以外でも、多彩な趣味を活かしたバラエティ番組への出演も多いですし、小説「カモフラージュ」「累々」やエッセイ「ひみつのたべもの」などの執筆業も行っていて、その活動も幅広いですね。

松井:鉄道などの趣味については、「これが好き」「あれが好き」と好き勝手に言っていたら、それを語らせていただける番組への出演依頼をいただけることが時々あって。執筆業に関しても、文章を書くのが好きなら小説を書いてみないかと提案していただいたのがきっかけで書き始めたので、自発的なスタートではなかったんです。でも、自分に向いていることって、自分よりも周りの方のほうがわかってくださっていると思うんです。私の趣味趣向から、「これやってみたら?」「こっちにもおいで」とお声がけをしていただける環境が整っているので、ありがたいことにいろいろなことをやらせていただけているのだと思います。小説の執筆は、私の中で“お芝居をするベクトル”とはだいぶ違うものの、何かを表現するということでは同じようにクリエイティブで楽しかったので、ゆっくりでもずっと書き続けられたらいいなと思っています。

──充実した仕事ぶりが続いていますが、仕事へのモチベーションにされていることはなんでしょう?

松井:観てくださった方の反響かもしれないですね。今回のようなドラマだったら、「毎週楽しみにしてます」「明日はドラマの放送日だから頑張ろう!」などと言ってもらえると、すごく嬉しいですね。特にお客さまの前で実際にお芝居をする舞台では、ダイレクトに反応が返ってくるのが励みになっています。終演後にSNSなどで感想を読むと、皆さんそれぞれ好きな場面が違いますし、いろんな解釈があって、それをすぐに自分で反映して次回に活かせる。どんどんブラッシュアップしていけるのがとても楽しいんです。

たとえあなたを忘れても_松井玲奈さん_05
©ABCテレビ


(プロフィール)
松井玲奈(まつい・れな)
1991年生まれ。愛知県出身。2008年デビュー。映画、ドラマ、舞台、声優など幅広く出演。執筆業やバラエティ番組への出演など、多彩な活動も行う。近年の主な出演作に、映画『ゾッキ』『よだかの片想い』『生きててごめんなさい』『緑のざわめき』、ドラマ『プロミス・シンデレラ』『少年のアビス』『どうする家康』『やわ男とカタ子』『ギフテッド』、舞台『ジュリアス・シーザー』『歌妖曲~中川大志之丞変化~』『ミナト町純情オセロ~月がとっても慕情篇~』など。出演ドラマ『仮想儀礼』が12月3日よりNHK BSで放送されるほか、出演映画『ゴールド・ボーイ』が2024年春公開予定。

たとえあなたを忘れても
©ABCテレビ

ドラマ「たとえあなたを忘れても」
ABCテレビ・テレビ朝日系にて毎週日曜よる10時より放送中
出演:堀田真由 萩原利久 風間俊介 岡田結実 畑芽育 / 松井玲奈 森香澄 / 丸山智己 須藤理彩 加藤貴子 檀れい

Edited by

日本ドラマ インタビューの記事一覧

もっと見る