TREASURE、大熱狂のツアーファイナルレポート「この愛を全部表現するまで…」
3月3日にKアリーナ横浜にて行われた「2024 TREASURE TOUR [REBOOT] IN JAPAN」ツアーファイナルの模様をお届けします!
2023年6月29日に開催された東京ドームワンマンライブをもって解散し、その活動に終止符を打ったBiSH。
2015年から約8年間にわたって届けられた作品たちは、長い時が経っても色褪せることなく、これからも多くの人々を魅了し続けることだろう。今回はBiSHの清掃員(※BiSHのファンの呼称)でもある筆者が、夢の東京ドームで有終の美を飾るまでの軌跡を、そこへ至るまでのライブを軸にお届けしていく。
BiSHは、セントチヒロ・チッチ、アイナ・ジ・エンド、モモコグミカンパニー、ハシヤスメ・アツコ、リンリン、アユニ・Dの6人からなるガールズグループ。「新生クソアイドル(Brand-new idol SHiTという言葉からBiSHと命名)」として、2015年3月に結成された。
2016年からは、メジャーデビューを期に「楽器を持たないパンクバンド」としての活動を開始。メジャー1stアルバム『KiLLER BiSH』に収録された『オーケストラ』をはじめ、『プロミスザスター』『PAiNT it BLACK』『stereo future』等、ヒット曲のリリースを重ねていった。
ライブ活動にも精力的に取り組み、全国各地のライブハウスに加え、横浜アリーナや幕張メッセ展示場、大阪城ホール、国立代々木競技場第一体育館等でもワンマンを開催。ロックフェスやイベントにも多数出演した。
BiSHの軌跡を振り返るうえで、数々のライブ映像は貴重な存在である。
なぜなら、同グループは結成から解散に至るまで、一貫してライブ活動に心血を注ぎ続けてきたからだ。メンバーのセントチヒロ・チッチは、BiSHにとってのライブをこう表現している。
「6人の個性って、こういう(取材の)場所で出していても伝わらないこともたくさんあるというか。みんなのその日の体調、その日の気持ち、最近の関係、すべてがライブに出ると思うんです。(中略)素直な気持ちを表現してるから、清掃員も素直でいられるんじゃないかなっていう。熱量が生まれ出たのは、ライブがBiSHの生き様を映すところになっていたからかなって思う」(『ROCKIN'ON JAPAN 2023年7月号』より引用)
楽曲、振り付け、衣装、映像、照明、音響、6人の個性、割れんばかりの声援と拍手……すべての要素が混ざり合い、毎回思いがけないほど大きなエネルギーに生まれ変わる。愛と情熱が詰め込まれたライブ作品、その一つひとつの見どころを紹介していく。
2016年6月から10月にわたり行われた単独ツアーの最終公演。会場は2023年1月に『BiSH 解散パーチー 中夜祭』で再び訪れることになる日比谷野外音楽堂だ。
セットリストはアンコール含め全21曲。最大の見所はやはり、代表曲の一つとなった『オーケストラ』を披露した場面だろう。12人の弦楽器奏者たちによるストリングスに合わせてのパフォーマンスは、解散が訪れるその日まで、清掃員たちの間で語りぐさになった。セントチヒロ・チッチはこの時について、のちにこう表現している。
「6年前にはじめて野外でやったあの時の『オーケストラ』が、たくさんの人に出会うきっかけになった。今日こうしてあなた方に出会えたのも、この曲が私たちを連れて行ってくれたのかもと思っています」(『BiSH OUT of the BLUE』より)
清掃員たちがサプライズで掲げたサイリウムの光が照らすなか、野音の空に響き渡った『オーケストラ』。その記憶は解散の日まで追い風となって、6人の背中を押し続けたに違いない。
BiSH初となる幕張メッセでの単独公演。全国20ヵ所を巡るツアーのファイナルとして開催され、約7,000人を動員した。
幕開けを飾ったのは、前項で触れたBiSHの代名詞『オーケストラ』。その後は、グループ史上最大のヒットの一つとなった『プロミスザスター』、解散までライブの鉄板曲であり続けた『GiANT KiLLERS』、モモコグミカンパニー作詞の『Nothing.』などの名曲が披露された。セットリスト全体を見ると、『帝王切開』と比較してより厚みと彩りを増していることがわかる。
印象深いのは、アンコール後のMCで語られた6人の言葉だ。メジャーデビューからわずか1年強でたどり着いた大舞台。喜びと情熱、戸惑いが混じり合ったかのような一つひとつの言葉に、6人の心境が映し出されている。
なかでも、リンリンが力強く紡いだ「明日からは幕張メッセに立ったBiSHを見下せるくらいの人間になれるように、また新しく一歩一歩進んでいきたい」という言葉には、その後の6人の活躍につながったであろう確固とした意気込みが滲み出ていた。
BiSHが初めて横浜アリーナに降り立った、記念すべき単独公演。およそ12,000人を動員した同ライブが、当時のBiSHをまた一つ、次のステージへと引き上げたことは間違いないだろう。
同グループが初めてオリコン週間シングルランキング1位を獲得した『PAiNT it BLACK』、のちの解散ライブでも披露された『HiDE the BLUE』など、全22曲を披露。この頃にはすっかり定番となった『beautiful さ』の「トゲトゲダンス」も、1万人を超える清掃員がともに踊ったのはこれが初めてだった。
終盤には一人ひとりがマイクを握り、率直な気持ちを言葉に乗せる。この日まさかのソロデビュー決定の一幕もあったハシヤスメ・アツコは、未来への決意を力強く語った。
「立ちたい場所はいっぱいある。そこに立つまでは死ねない。でもBiSHにいれば、それが夢じゃなくなったと思う。皆さんと一緒に成長して、より大きな場所を目指したいです」
『NEVERMiND TOUR RELOADED THE FiNAL』の開催から1年強。BiSHが満を持して、再び幕張メッセの舞台に戻ってきた。
前回よりもさらに規模の大きな9・10・11ホールを会場に、約17,000人の清掃員たちが集結。ストリングス隊を含む総勢30名のバンド編成、解散ライブでも演出を担当した山田健人による映像、円形のステージと紗幕への投影……BiSHチームにとって初となる試みがいくつも組み込まれ、グループとしての新たな一面と可能性を示した公演となった。
なかでも個人的に度肝を抜かれたのが『My landscape』。バンド、映像、ステージ、そのすべての魅力がギュッと凝縮されたパフォーマンスは、映像越しでも目に焼き付くほどの荘厳さを生み出していた。
極めつけはクライマックス。締め括ったのは、まさかのあの曲だった。圧巻とも言える急展開は、見るものを最後の一瞬まで惹きつける。このグループだからこそ成しうる終わり方に、BiSHがBiSHである所以を改めて実感するほかなかった。
BiSH初となる大阪城ホールでの単独公演。首都圏を飛び出し関西の地で、12,000人の清掃員たちが会場へと駆けつけた。
個人的に特に魅了されたのは、オープニングから身にまとっていた白いガウンを脱ぎ捨て真っ赤な衣装で熱唱した『SHARR』と、解散するその日まで圧倒的な表現力をもって観客の視線を釘付けにし続けた『FREEZE DRY THE PASTS』。
大阪出身のアイナ・ジ・エンドは、目標としてきた大阪城ホールでのライブを実現した心境を、生まれ育った地への愛を最大限に詰め込みながら言葉にした。
「叶うはずがないと思っていた夢、城ホールにいっぱいの清掃員さんたちがいること、まだ夢の中にいるみたいです。これからもBiSHは、そんな夢叶うわけないやろと言われても、どんどん最高を更新していきたいと思うので、よかったら皆さんついて来てください」
毎年夏の恒例フリーライブ『TOKYO BiSH SHiNE』。6度目となった今回はコロナ禍の影響を受け、同グループ初の無観客ライブとなった。
BiSHには、毎回のライブで序盤に披露する6人それぞれの「挨拶」がある。慣れ親しんだフレーズの中に、この日は少しのぎこちなさが見えたことが、筆者の印象に深く残っている。結成以来、ツアーを中心に絶え間なくライブを続けてきたBiSHにとって、同年3月から続いた自粛の日々がとても長い時間であったことを、まるで示すかのような瞬間だったからだ。
コロナ禍を受けてリリースしたメジャー3.5thアルバム『LETTERS』の楽曲を中心に、披露されたのは全17曲。ラスト3曲はお馴染み『BiSH-星が瞬く夜に-』の3連発だ。無観客ならではの演出で、曲中6人がセット内を縦横無尽に駆け回る。弾ける6人の笑顔から、当時生きる勇気を受け取った人も少なくなかったはずだ。
エンディングのMCでは、突然訪れた世界の変化を前に、6人が今感じる想いを言葉にしていく。アイナ・ジ・エンドが紡いだ「私たちはこうしてライブを続けていく。元気でも元気じゃなくてもいいので、生きていてほしいです。早くまたライブで、めっちゃ近い距離で会いたいです。また会いましょう」という約束は、再会を待ち望む清掃員たちにとって、何よりの希望となったに違いない。
実に332日ぶり。クリスマスの聖なる夜に、全員が待ち望んだ有観客でのライブが復活した。
この日のライブはメンバーたちの「ただいま」、そして「おかえり」の言葉から始まった。披露された1曲目は、コロナ禍に清掃員へ向けてつくられた曲『LETTERS』。歌詞に込められた「生きていれば必ずまた会える」というメッセージが、6人の歌声に乗って会場中に響き渡る。客席がカメラに映されると、そこには涙ながらに再会を実感する清掃員の姿があった。
アンコールを含む全28曲。これまでの鬱憤を晴らすかのようなBiSHらしい力強く、熱量に満ちたステージだった。「あなたたち清掃員がいてライブが本物になる」(リンリン)、「以前は当たり前だったけれど、今は奇跡のような時間をありがとう」(モモコグミカンパニー)と、全員が再会への感謝を噛み締めながら清掃員に語りかけた姿も、忘れがたい光景の一つだろう。
2019年11月には解散が決定していた一方で、この時点ではまだ正式発表は行われていない。いま思えば、そうした中だからこそ抱える想いもあったはずだ。セントチヒロ・チッチは後に「一つ一つの歌詞がすごく自分に響いて、自分たちの歌に泣いている瞬間も多かった」とこの日を述懐した。様々な想いが交わり、一つになったという意味でも、BiSHと清掃員にとって記念すべき一夜になったことは間違いない。
「暇なお正月でBiSHを丸ごと楽しんで欲しい」をテーマに、2021年元旦に配信された映像作品。BiSHがそれまでにリリースしてきた全93曲を、歴代の衣装を着用しながら、8時間にわたって一つずつ披露するという企画だ。
作品ではライブ映像と新作コントに加え、BiSHのプロデューサー・渡辺淳之介とメンバーとの個別対談も収録。オーディションの裏話から、結成初期ならではのエピソードまで、このグループのルーツをより深く知れる内容が満載となっている。
そのトーク内容からは、私たちでは計り知れないBiSHとそれを支えるスタッフたちの努力や葛藤が垣間見えた。「すべてのことに意味があって、それが私たちの道だったんだと気づいた」と言葉にしたのは、結成時からグループを引っ張り続けるセントチヒロ・チッチ。様々な角度からBiSHの歴史に触れられるという意味でも、貴重な作品の一つとなった。
2021年5月〜12月にわたって開催された、「BiSH SPARKS」の名前を冠した全国各地でのアリーナライブ。
名古屋では初となるアリーナ規模のワンマンライブとなった、『EPiSODE 4 at 日本ガイシホール』。2021年リリースの新曲『ZENSHiN ZENREi』『in case…』『STAR』を含む全21曲を披露した。
およそ2年ぶりの大阪城ホール単独公演となったのは『EPiSODE 6』。2年前を思い浮かべながら、アユニ・Dが率直な想いを口にしたMCが印象深い。
続く『EPiSODE 1 at セキスイハイムスーパーアリーナ』は、東北・宮城の地で行われた2daysライブ。この公演は、一人ひとりが個性丸出しの中にも、確かな結びつきの強さを感るBiSHらしさがあふれたステージだったように感じる。
『EPiSODE 2 at 真駒内セキスイハイムアイスアリーナ』は、アユニ・Dの出身地・北海道では初となるアリーナ規模でのワンマンライブ。この日がいかに全力で、盛り上がりを見せたライブだったかは、最後のMCでリンリンが「実は楽しくてはしゃぎすぎて、足がずっとつっていた」と明かしたことからも伝わるはずだ。
BiSH史上最大規模を記録した野外ワンマンライブ。2万人あまりの清掃員たちが、富士急の夜空のもと大集合した光景は、壮観の一言に尽きる。
もちろん、披露されたパフォーマンスも疑いの余地なく素晴らしいものだった。『ぴょ』『LiE LiE LiE』『サヨナラサラバ』など、2022年12ヶ月連続リリースの楽曲を含む全19曲。伝説となった『帝王切開』@日比谷野音を彷彿とさせる『オーケストラ』は、清掃員の心に様々な感情や思い出を呼び起こさせたに違いない。
解散の足音が少しずつ近づく中、過去最大級の完成度をもって、新たな歴史を刻んだ一夜。リンリンの「ずっと抱きしめていたい思い出になった」という言葉からも、清掃だけでなくBiSHにとってもかけがえのない公演になったことが感じられる。
なお個人的には、『Hulu BiSH iS OVER』という番組の中でモモコグミカンパニーが当日やりたいと話したものの、他メンバーからは微妙な反応にとどまっていた『CHOP』がしっかりセットリストに含まれていたのは、なんだかほっこりした気持ちになった。
デビュー以来、破竹の勢いでステップアップを続けてきた6人。それだけに、2021年12月に発表された「2023年をもっての解散」には、大勢のファンが驚きを隠せなかったことだろう。
解散発表後も、その勢いがとどまることはなかった。2022年には12ヶ月連続リリースや、27都市29公演をまわる最後のツアー『PUNK SWiNDLE TOUR』などを実施。そして解散日となる2023年6月29日、満を持して夢の一つと宣言し続けてきた東京ドームのステージに立つ。
最初で最後の東京ドームワンマンライブ『Bye-Bye Show for Never at TOKYO DOME』。檜舞台に立った6人が披露したのは、最後にして最高のパフォーマンスだった。
筆者も一人の清掃員として参加したあの日の感動は、言葉を尽くしても言い表しきれるものではない。それほどに心を揺さぶられた、どこまでもBiSHらしく、美しさに満ちた別れだった。
合わせておよそ3時間、全28曲のセットリストで構成された同ライブ。中でも印象的だったのはそのフィナーレを飾った、ラストシングル『Bye-Bye Show』だ。
出会いと別れ、その象徴としての桜にちなんだ同曲が披露されるなか、5万人の清掃員たちが一斉にサプライズでペンライトを掲げ、一面を桜色に染め上げる。その光景は文字通り、会場にいるすべての人々によって生み出されたものだった。
それは同時に、数々の印象深いライブをはじめとした、約8年にわたる活動すべての集大成とも言えるだろう。
以上、現在配信中の作品たちの見どころを駆け足でご紹介した。筆をとりながら、BiSHを通じて芽生えた喜びや寂しさ、感謝の気持ちが駆け巡ったのは言うまでもない。未だ解散を信じがたいほどに、数々のシーンが鮮明に思い出される。文字通り、BiSHはこれまでもこれからも、様々な形でこの世界の中で生き続けていくのだろう。
BiSHの作品から感じたこと、考えさせられたことは数え切れない。なかでも個人的には、変わる勇気と変わらない勇気について、たくさんのことを教わった気がしている。
ライブ映像の数々を見てもわかるように、BiSHは常に変化を繰り返してきた。楽曲も演出もそれ以外の部分も、果敢に新しい挑戦を続けていた。
一方で、結成当初から変わらない、変えない部分もあったと感じる。BiSHの中で「これだけは変えずにいこう」、「大切にしていこう」と共有していた何かが、きっとあったはずだ。6人の表現を受け取る私たちは、変わらない強さと優しさに、BiSHのアイデンティティを見出していたようにも思える。
変わるためにも変わらないためにも、勇気と行動、そしてそれを受け入れてくれる存在が欠かせないと教えてくれた。そうした「変化」の足跡は、ここまで紹介してきたライブ映像の多くから体感できるはずだ。
とはいえこれらの作品は、BiSHの8年間におよぶ活動全体の中では極一部に過ぎないことに、最後に触れておかなければならない。映像化されていない、配信されていないライブの方が圧倒的に多く、紹介してきた配信中の作品についても、伝えきれていないことが山ほどある。
これまで応援してきた人も、これから興味を持つ人も、BiSHが残した音楽や映像を通して、一人ひとりが自分なりの楽しさや寂しさを見つけて、感じることができる。だからこそ、BiSHの魅力は受け取る人の数だけあり、決して尽きることはない。
それはつまり、解散してもなお、どこまでも広がり続けるこのグループの可能性を示していると言えるかもしれない。この記事がBiSHと誰かの新たな出会い、あるいは再会につながる補助線となれば、これほど嬉しいことはない。
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