漫画、TVアニメとヒットを続けるHERO・萩原ダイスケ原作の『ホリミヤ』。初のアニメ化から約2年、ついにファン待望となる新作アニメ『ホリミヤ -piece-』が7月より放送開始となりました。今回は前作から引き続いて監督を務めることになった石浜真史さんがインタビューに登場。始まったばかりのアニメを観ながら読むと、より映像や内容が楽しめるお話がたくさん飛び出しました。
——前作のアニメ『ホリミヤ』が卒業シーズンまでのお話で綺麗にまとまっていたので、どんな作品になるのかとワクワクしていたファンも多いかと思います。このような反応をどのように感じていらっしゃいますか?
石浜:『ホリミヤ -piece-』はいったい何をやるんだろうという疑問が出ているような雰囲気もあると伺っていて。前作で最終回まで綺麗に終わらせすぎていましたし、どうしても新作アニメとなると続きをやるという期待もありつつ、卒業後の続きをオリジナルで作るのかなと考える方も多かったようです。まだ内容を言えない頃は「早く言いたい!」とモヤモヤしていましたが、『ホリミヤ -piece-』に関しては近年あまり見ないくらいの積極的にネタバレをしていく宣伝で(笑)。内容がバレてからの反応を見る限りでは、楽しみにしてくれる人たちに納得してもらえたんだと安心しました。
——前作制作時には『ホリミヤ -piece-』を一切想定していない作り方だったというコメントを拝見しました。
石浜:原作のボリューム的に、1クールで終わらせるにはもったいないという印象がそもそもありました。2クールある前提で作るのはダメなのかと確認したくらいなので(笑)。でもその時は13本で完全に作り切るというオーダーで、2期の想定はなかったです。
——描きたかったエピソードは前作制作時から石浜監督の中にはあったのでしょうか?
石浜:めちゃくちゃありました。修学旅行や体育祭といった学校イベントを描けない、そこを飛ばさなきゃいけないという無念さはありました。
——「そこ飛ばすんだ、大胆!」と感じました。
石浜:大胆に見えますよね(笑)。本当はどうしようもない決断だったというのが正しいです。卒業までの感情の流れをしっかり追わなければいけない中で、楽しいイベントが入らないことはすごく残念でしたが、その分、イベントだらけの『ホリミヤ -piece-』は楽しさ全開になっています。前作と今作は違う形でそれぞれの面白さが出ているので、結果的に良かったと感じています。
——コンセプトPVでも「シュワキュンver.」「エモキュンver.」があり、本作でも「キュン」な描写に期待が高まります。本作ならではの「キュン」はどういうところにあると感じていらっしゃいますか?
石浜:人によって「キュン」のポイントは違うと思うけれど、僕も原作を読んでキュンキュンしたので、ちゃんと体感できているようです。言葉にするのは難しいけれど、漫画だからどこか荒唐無稽な表現もまったくないわけではありません。でも原作にはすごくリアリティを感じています。キャラクターの関係性の根本にきちんと信頼関係がある。人と人との距離のあり方がアニメ作品としての予定調和になってくれない感じというのかな。こちらが思うようにキャラクターが動いてくれないのに、全員が思いやりを持っているので、観ている人それぞれ思いの収まり方は違うけれど、なんか収まってくれるという感覚。沸き立つ胸騒ぎみたいなものが『ホリミヤ』のキュンなのかなと思っています。
——ものすごくよくわかります。
石浜:胸がザワザワする距離感がしっかり最後まで描かれている感じがしますよね。例えば、石川(透)と(吉川)由紀の関係性。付き合ってほしいと思う人ももちろんいるとは思うけれど、あれが2人の関係として落とし込めている。『ホリミヤ』の世界ではこれを正解として描き切りましたという潔さ、そんなところがリアリティだと感じて。視聴者が求めているものに迎合しないというのでしょうか(笑)。ストーリーを進めるための便利なキャラクターが全くいないところが、ある種のリアルを出しているのだと思います。
——物語を回すための便利なキャラクターがいないというのは、アニメにする上では難しさになったりしたのでしょうか?
石浜:そこも含めて漫画で表現しきっているので、アニメはそれを映像化するだけでいい。「すごいな」と感心しながら原作に忠実に映像化するだけでした。アニメにするからこうしよう、みたいなことを考えなくていいのが『ホリミヤ』という作品。ただただ楽しんで作っていました。原作を読んでいる感覚で映像にする、そこさえきちんとできれば、あの世界観が表現できると考えていました。
——前作は光がとても印象的でした。『ホリミヤ』『ホリミヤ -piece-』での光の使い方について教えてください。
石浜:光を積極的に取り入れようという作り方は、正直やっていないんです。背景担当が綺麗に光を取り入れて描くので、撮影担当もその良さを引き出す、その相乗効果で印象的に見えているのだと思います。彼らの頑張りのおかげです(笑)。ただ、キャラクターがあるキャラクターを見た時に眩しさを感じているという表現をする際には、意識的に光を入れています。光を綺麗に見せるというより、キャラクターの感情がポイントです。
——ほかに演出方法でのこだわりはありますか?
石浜:大きなこだわりとして風の表現があります。漫画を読んでいるとわかるのですが、風が吹いて髪がなびくシーンがすごく少なくて。特にアニメーターは髪をふわっとさせがちなのですが、『ホリミヤ』では安易になびきを作ってはいけないという決まりにしています。本当に意味がある時、「キャラクターの心が動いている時にしか風は吹かない」というのを原作でしっかりとやっている。だから、映像に置き換える時も安易に風が吹く表現を避けています。意味なく綺麗になびくというのは『ホリミヤ』ではやれないし、やっていないです。
——風以外にも演出での決まり事はあるのでしょうか?
石浜:演出的なルールは特に作っていません。原作の良さを理解した手練れのスタッフばかりで、みなさん意味を理解した上で『ホリミヤ』らしい描き方を探ってくださっています。なので、ルールや表現NGなども決めずに作りました。何にもなくてすみません(笑)。
——原作に忠実にというお話もありましたが、それでもアニメ化するからには入れたい表現はあったのではないでしょうか?
石浜:原作にない要素はまったく足していません。最初はアニメならではの武器を作ろうという気持ちもあったと思いますが、それは原作の読み込みがまだ浅かった頃の話です。原作がとにかく優秀なので、どれだけちゃんと映像にするかだけに力を注げばいい。『ホリミヤ』という作品に関しては、映像化する時に足りなくなる要素がないと思いました。もちろん、僕以外の方が監督をしたら別のアプローチになるかもしれません。でも僕がやるなら、『ホリミヤ』は原作をそのまま映像にする、ただそれだけでいいと考えていました。
——そういった考えになる作品は珍しいのでしょうか?
石浜:ここまで「何も足さなくていい」と感じたのは初めてだと思います。漫画でも小説でも、映像との違いは感じるものですが、『ホリミヤ』という漫画に関してはまったくなくて。画やセリフの位置、フォントや吹き出しのサイズも変えて、読み手をコントロールしているような印象があります。このセリフはこう聞こえるんだよ、というのを紙面上で的確に打ち付けている。セリフの間まで紙面上でわかるくらいに描かれているので、本当にありがたかったです。
——誘われている感がありますよね。
石浜:まさにそう。読めば読むほどそう感じました。何より作るのが楽しかったというのが一番ですが、吉岡さんが漫画を読んでいる感覚をそのままシナリオに落とし込んでくださり、そこに画をそのまま描いてくれるスタッフが入り、役者も完璧。きちんとしたインフラが組まれたので、そのまま作ることの苦労はまったくなかったです。
——役者も完璧とのことでしたが、堀京子を演じる戸松遥さん、宮村伊澄を演じる内山昂輝さんなど、キャストの印象をお聞かせください。アフレコで印象に残っていることはありますか?
石浜:キャラクターを作る上では、いろいろとディレクションをしてすり合わせていくものですが、一言目からみなさん完璧。高い低いも、しゃべり方がどうとかも一切なしでした。戸松さんはただそのままの堀京子でしたし、内山さんは完全な宮村伊澄になっている。見事にすべてが出来上がっていました。
——『ホリミヤ -piece-』では新キャラも登場します。
石浜:仙石翔の父親役、浪川大輔さんも何も言うことはありませんでした。サービス精神旺盛に見えて、芯は役者バカで本当に芝居を楽しむところがあって。それがキャラクターの魅力として出ています。浪川さんが思う仙石武をやっていただければ、という感じでしたがテストは一発でOK。こちらもまったくディレクションをしていません。
——前作では仙石翔(CV:岡本信彦)は、コンテを描くのが楽しいキャラクターとおっしゃっていました。仙石父も同様でしたか?
石浜:残念ながら仙石父のコンテは担当できなくて。『ホリミヤ』のキャラクターはみんな大好きなので本当は全部描きたかったんですけれどね(笑)。ですが、仙石父も本当に楽しいキャラクターになりました。仙石父と京子の父・堀京介(CV:小野大輔)の声、大輔コンビが完全に噛み合うのが心地良くて。コロナ禍で掛け合いのシーンの収録は一緒にできないこともあったけれど、2人に関しては掛け合いができたし、いわゆるアドリブも見事にやってくれて。やるべき以上のことを入れてくるから本当に素晴らしくてプロだなと感じることばかり。『ホリミヤ』のキャストはみなさん中堅以上の役者さんで安心感もあるし、アドリブも完璧で「敵わない」と思いました。
——学生組だけでなく大人組も楽しみです。
石浜:そうですね、本当に面白いので期待してください!
——石浜監督のOP映像にも期待が高まります。『ホリミヤ -piece-』のOPはどのように作られたのでしょうか?
石浜:普段2期のOPを作る時には1期のOPを受け取る形にしています。ゼロから作ることをしないという癖があって(笑)。今期のOP主題歌「幸せ」(Omoinotake)と前期のOP主題歌「色香水」(神山羊)はテイストが似ているようで違うと感じたこともあり、今回はリンクさせないやり方で行くと決めました。「幸せ」の歌詞の中に“解決しない疑問に答えを求めたけれど、答えは返ってこないとわかっている、だけどその疑問は膨らみ続ける。その情熱を爆発させるために男子は走る。そのエネルギーの持って行き場がなくてダッシュするしかない”という意味の部分があって。その感覚を映像にしました。曲に対してアプローチしたつもりです。『ホリミヤ』には割とちゃんと恋愛があるけれど、そこをそんなに重視して描かなくても面白いという印象があります。「幸せ」を聴いていたら、“恋から始まるけれど、その一歩先の人間の本質にある愛。答えのない愛に翻弄されている彼ら”といったような曲に感じて。今回は映像的な工夫やギミックは排除して、メッセージがどれだけ観ている人に伝わるか、それを表現することで曲の良さ、作品の内容を伝えることにも繋がると思って作りました。
——作品によってアプローチに違いはあると思いますが、石浜監督がOP、ED作りで常に心がけていることを教えてください。
石浜:OPは作品の顔、武器になってほしいという思いが強いので、作品の魅力を込めることに全力投球しています。最初の頃は作品の説明やキャラクター紹介のような作り方をしていましたが、経験を重ねる中で決まりきったフォーマットをクリアしなくても作品の魅力は伝えられるし、顔にもできると思うようになりました。高校1年の頃からミュージッククリップに心酔して、もう30年以上取り憑かれて生きてきました。ミュージッククリップって曲が一番魅力的に聴こえるための映像作りをしているんですよね。アニメのOPも曲とアニメが同化しているものなので、曲を魅力的に聴かせるための映像を作れば、自ずと作品の顔になると考えています。
『ホリミヤ -piece-』視聴ページ
毎週土曜23:30からU-NEXTで最新話を地上波同時配信
『ホリミヤ -piece-』公式サイト
Profile
石浜真史
9月1日生まれ、東京都出身。1990年に『アイドル天使ようこそようこ』の原画でアニメーターデビュー。以降『SPEED GRAPHER』『N・H・Kにようこそ!』などの作品でキャラクターデザインや作画監督を担当し、初監督作は『新世界より』。以降も『ガラスの花と壊す世界』『PERSONA5 the Animation』などの監督を務め、アニメファンから高い評価を獲得している。
前作『ホリミヤ』はこちらから
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