「錆びない人でありたい」歌手・俳優として走り続けた柴咲コウの現在地
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「錆びない人でありたい」歌手・俳優として走り続けた柴咲コウの現在地

柴咲コウの全国ツアー『柴咲コウ CONCERT TOUR 2023 ACTOR'S THE BEST』のセミファイナル、ファイナルの2公演がU-NEXTで独占ライブ配信されました。昨年から続く音楽活動20周年のアニバーサリーイヤーを締め括ると同時に、今年7月に芸能活動25周年を迎えた記念碑的作品として企画されたニューアルバム「ACTOR’S THE BEST ~Melodies of Screens~」の制作に至った心境の変化を皮切りに、実に4年半ぶりとなる全国ツアーへの思いを柴咲さんにお聞きしました。

——「ACTOR’S THE BEST ~Melodies of Screens~」は、柴咲さんが俳優として出演してきた映画やドラマの主題歌、挿入歌をご自身でカバーしたアルバムです。この作品を制作しようと思った経緯を教えてください。

柴咲:1998年から芸能活動をしてきて、今年25周年なんです。これまでの作品を振り返るという意味合いと、2002年に歌手デビューし、昨年から20周年の節目を迎え、歌い続けられたこと。この2つができること、続けてこられたことを、きちんと形にしたいと思いました。

——俳優デビュー25周年ですが、コウさんにとって、どのような25年でしたか。

柴咲:月並みな言葉ですが「あっというま」でした。過ぎてしまえば本当に光のように一瞬の積み重ねが人生なのだなと思います。

——その25年間の中で、これまでは「自分の願いや祈りを自分の言葉で歌う」音楽活動と、「与えられた役柄を全うする」俳優業をある程度は分けて考えていると感じていました。歌手と俳優を融合された表現に挑むことに、心境の変化や決意はありましたか。

柴咲:今となっては個性と扱われるものも、自分の中では混ざらないようにという想いがありました。当時は、変な先入観にもなりかねないと思っていたからでしょうか。自己表現の場である“歌うこと“というアーティスト活動と、俳優としての比重がどうなれば心地良いかを探っていたところもあります。今は、それぞれが自分の中で溶け合って新たな価値観を持ち始めている。そんな感じです。

柴咲コウさん_02
©Les Trois Graces Inc.

——柴咲さんにとって、音楽活動はどのような位置を占めていますか。俳優業や声優業はもちろん、環境特別広報大使をはじめ、幅広いフィールドで表現活動をされています。

柴咲:そうですね。音楽活動は、内省的になれるとともに、お客様の前で披露するアウトプットのときには、今でも自信のなさがまとわりつきます。内側の自分を吐露しているので当然ともいえますが、「見て、聴いて!」と張りきれないのが私の持ち味ともいえるのかもしれません(笑)。歌うことは、使命感や達成感というよりも、より素の自分に近い心の依り所のような大切な空間です。

——素の自分をさらけ出す度合いが高くなる歌とお芝居の場を行き来することで、ご自身にとって、どんな循環をもたらしているでしょうか。

柴咲:本来の自分から逸脱せず、それがある意味、自身の軸となっていると思います。と、同時に、「まだまだだな」と痛感する場面もあり、より一層成長したいという欲につながります。そのどれもが必要材料で、互いを高め合っているのだと思います。そして、使命感に行き過ぎず、常に“楽しい”を更新できていることがなにより大切ですね。

——新作では、ご自身が俳優として出演してきた映画『バトル・ロワイアル』や『着信アリ』、ドラマ「Dr.コトー診療所」などの主題歌や挿入歌をカバーしています。これまでに数多くの作品に参加されてきた中で、選曲はどのような基準で行いましたか。

柴咲:純粋に“歌いたい”という直感的に思ったことを大切にしました。そして、聴いている方にも「あーこんな作品にも出演していたなあ」と回顧してもらい、ご自身の当時のことを振り返るきっかけにもなるような曲を、と思い選びました。

——出演作の中で、特に思い出深い作品はありますか。

柴咲:映画『バトル・ロワイアル』はやはり、未熟で芸能活動をはじめて間もない自分にとっては衝撃的でした。

——2000年公開の深作欣二作品で、鎌使いの光子(みつこ)役で鮮烈な印象を残しました。現場はどんな雰囲気だったんでしょう。

柴咲:普段、杖をついて歩かれていた深作欣二監督が、撮影中は走って机を転がして、メガホンで叫んでいた。「この人、じいさんのふりをした青年だ」と思いました(笑)。そして、そんな大人の姿を見て、「物事を知ったような気になって気取っている場合じゃない」「自分が今できることは何だろう」と思い知らされたような感覚がありました。

——映画『バトル・ロワイアル』の主題歌「静かな日々の階段を」(Dragon Ash)をカバーしていますが、このアルバムがラップから始まるのも意外でした。

柴咲:当時は、反骨精神がありつつも映画の内容とは打って変わって穏やかな曲だなと思っていましたが、年を重ねた今の自分が歌ってみたら、葛藤したり、足掻いたり、自分を鼓舞しながら、もがいて高めて生きていこうとしている人物を感じ、人の脆さも感じられました。それは、自分自身の内側とも重なるところがあり、音楽のスタイルや表現としては違えど、共感するフレーズばかりでしたね。

——ご自身で特に歌いたかった曲はありますか。

柴咲:平井堅さんの『瞳をとじて』は、当時、平井さんが映画『世界の中心で、愛をさけぶ』の主題歌を歌われ、私はドラマのセカチューの主題歌(『かたちあるもの』)を歌わせていただきました。同じ原作だとしても、異なる俳優・作りであるわけで、2つの作品が混ざらぬよう、なるべくこの曲に触れないようにしていました。あらためて“俳優として、歌い手として”この曲に向き合った。そんな気分で歌入れしました。

——映画版では大人になった朔太郎の恋人、律子を演じていましたが、当時、柴咲さんが書評を書いたことがきっかけで、社会現象と言っていいほどの“セカチュー”ブームが巻き起こったことをどう感じてましたか。

柴咲:過去の自分を振り返ると、必ず“今の自分”でいろいろ補完してしまうので、振り返ることが得意ではないのですが(苦笑)、純粋に、ふと立ち寄った地元の本屋さんで儚げな表紙の小説を手に取り、直感的に「良さそう」と思い購入して読み進めた本が、世の中の人に受け入れられたのは一読者として嬉しかったです。ですが、作家さんにとってそれが良い行いだったのかは分かりません。余計なことだったら申し訳ないです。

——大河ドラマ『おんな城主 直虎』では劇中ではお経を詠んでましたが、サントラの第3集に収録されていて、総集編のエンディングで流れた「わたしが竜宮小僧だったとき」が収録されています。役として歌うことは、柴咲コウとして歌うこととどんな違いがありますか。

柴咲:お経はまた特殊な分野ですから、歌うように発音した感覚です。「わたしが竜宮小僧だったとき」は、特に“役として”歌ったわけではありません。ただ、そこはかとなく少女性のようなものが押し出された形となりました。それは「直虎」(次郎法師)という役柄によるところだと思います。

——変わり種としては、ディズニー映画『クルエラ』の日本版エンドソング「コール・ミー・クルエラ」も入ってます。

柴咲:短めの尺ですが、ガラッと雰囲気が変わり、舞台で踊り歌っているようで、面白かったですね。

——RUI「月のしずく」や福山雅治さんとのユニットKO +「最愛」「ヒトツボシ」など、ご自身が歌ってきた主題歌や挿入歌も織り交ぜたアルバムが完成して、ご自身ではどんな感想をいだきましたか。

柴咲:今回は、その年代その年代を堪能してもらいたいという思いから、リリース順に並べています。なのに、まあ当然“現在”の私が“現代”のアレンジで歌うので、リリースが20年前だとしても全く新しい曲へと昇華しています。自身の曲はあえて歌い直しをしていないので、そちらは歌い方を含めてその時代感が出ていると思いますし、リリース順に並べていても一辺倒になっていない、良い意味で凸凹感が出ているかと思います。

柴咲コウさん_01
©Les Trois Graces Inc.

——アルバムのタイトルにはどんな思いを込めましたか。

柴咲:タイトルは分かりやすさ、伝わりやすさを重視しました。まさに「柴咲コウってこういう人」というのがわかる作品になったと思います。今まではカテゴライズされること、「あなたはこういう人」と決めつけられることを嫌っていました。どう見られるかが重要ではなくなってきたからできたのかもしれませんし、あえて「こう見せたい」というところからできたのかもしれません。

——今、世間にご自身を「どう見せたい」と思っていますか。

柴咲:答えになっていないかもしれませんが、錆びない人でありたい。経年変化も美しく、魅せられる自分でいたい。一言「どう見られるかは重要ではない」と、かっこ良く言いたいところでもありますが、見られる職についているのでそうはいかないところもあります(笑)。そして、「好きこそものの上手なれ」です。「好き」「興味がある」ということが大切だと体現していきたいです。

——そして、全国ツアー「柴咲コウ CONCERT TOUR 2023 ACTOR'S THE BEST」が始まってます。実に4年半ぶりとなるツアーが決定した心境を聞かせてください。

柴咲:4年半ぶりに日本全国をまわれることを本当に楽しみにしています。歌手活動20周年イヤーの期間を、20年過ぎても続けていたのは、やはりその年がお客さんとしても、パフォーマーとしても、100%リラックスして開催できる状況ではなかったからです。感覚的には今回のツアーを無事終えられて、節目が終幕するような感じです。

——どんなツアーになりそうですか。

柴咲:「良いものは新しくなれる」。楽曲の美しさとともに、当時の情景が思い浮かぶような、聴いている方が浸れるような、それでいて刺激もあるような印象的なLIVEにしたいです。

——U-NEXTでは2007年のファーストライブから翌年の初の全国ツアー、10周年の日本武道館ライブや2013年の『猫幸音楽会』、2015年の『こううたう』のライブ映像も配信中です。これまでを振り返るようなステージになりますか?

柴咲:そうですね。いわば「四半世紀をめぐる旅」です。そこに、自分の思い出や記憶の扉があり、それを開いていくようなイメージです。自分の人生を巡り、現状辿り着くところとは? 「今、ココ」を思いっきり楽しめるといいなと思っていますし、いらっしゃる皆さんにも、それぞれの心の旅をしていただければと思います。“現在・過去・未来”、それらの時空を駆け巡るような演出にしたいと考えています。

——東京公演はクリスマスイブですね。

柴咲:人々がウキウキするこの日に、ライブコンサートができて、しかも生配信もされるというのは嬉しいことです。キラキラシャンシャンはしていないかもですが(笑)、盛り上がったり、じっくり浸りたい方にご覧いただければと思います。

——ツアーを楽しみにしている皆さんにメッセージをお願いします。

柴咲:今まで柴咲コウのLIVEに来たことがある方も、まだの方も、今回はどんな方にも浸透しやすい曲のラインナップと構成になると思います。それぞれの人生に思いを馳せながら、前を向いて歩いていきたくなるようなLIVE空間にしたいと思っていますので、ぜひ会場に足をお運びください!そして、配信でご覧いただく皆さんには、画面越しにエネルギーを爆発させてください!私の元にしっかり届くはずです!

——最後に今後の目標を聞かせてください。節目を終幕させた先をどう考えていますか。

柴咲:まずは、丁寧に“心”を、“想い”を届けると共に、気負わず冷静さも持ち合わせて、しっかりお客さんとのエネルギーの交じり合いを楽しみたいと思います。

今後についてはこのツアーを無事に終わらせてから、じっくり考えたいと思います。ただ、大人になり、年齢を重ねたからこそできる表現というものがあるのかなと思う今日この頃で。自分自身の、自分に対する先入観を壊しながら、常に新鮮な風をまとい、それをアウトプットしていけるような自分でいたい。やはり“視覚的”かつ“リアルな空間”としての表現を捉えてもらえるLIVE空間は、特別な場所なので——今回のLIVEを終えてからにはなりますが、LIVEの在り方、作り方を益々深めていきたいと思っています。それこそ、ずっとソロアーティストとしてやってきましたが、様々な人と一つの空間を作るようなイベントやフェス作りができたらと想像しています。

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配信開始前、または配信終了しています。
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