小学生の時、合唱会で流す影絵のスライドを作った。帽子が落ちるシーンに楕円の影をつけたら「中村くんすごい!ぼうし浮いて見えるよ」とクラスの女の子。あの時から僕の表現の奮闘は始まった気がする。
『ルックバック』という映画を見た。絵や漫画を描く小学生、藤野と京本のふたりの物語だ。この映画を見た多くの人と同じように、僕もまた映画の中でかつての自分に出会った。自己表現のめばえ、初動。嫉妬、喜び、あきらめ、たら、れば…。ふたりの運命と眩い姿に、自分ごとのように、一瞬にも何年にも感じる時間をみた。
奇跡のような原作と制作者たちの共鳴で作られたこの映画は、生きる時間の影と光がこまやかにあふれ、近年のダイジェスト倍速文化では消費されない大きな水をたたえている。そして、もういい年齢になった僕も、今この瞬間を懸命に生き、より良いものを作れたらと未来を想ってしまった。
川崎市生まれ。日本大学芸術学部卒業後、ソニー・ミュージックエンタテインメントを経てフリーランス。
著書に『サンタのコ』(MUJI BOOKS)、『どっとこどうぶつえん』『はかせのふしぎなプール』(福音館書店)、『ぷっくり ぽっこり』(偕成社)、『勝手に広告』(佐藤雅彦氏と共著・マガジンハウス)、『明和電機の広告デザイン』(土佐信道氏と共著・NTT出版)、など。
ボローニャ・ラガッツィ賞優秀賞、第20回亀倉雄策賞、毎日デザイン賞、ニューヨークADC銀賞、東京ADC賞、東京TDC賞など受賞。
U-NEXT Kids『ねむるま えほん』にて、絵本『サンタのコ』の読みきかせ配信中。
2024年に観た作品の中で、最も記憶に残っている、人におすすめしたい作品を岡村美波(BEYOOOOONDS)さんに聞きました!