随所にオマージュも!傑作ホラコメ『タッカーとデイル』の韓国版『ハンサム・ガイズ』
シェア

随所にオマージュも!傑作ホラコメ『タッカーとデイル』の韓国版『ハンサム・ガイズ』

2025.09.26 17:00

この記事に関する写真(7枚)

  • ハンサムガイズ
  • ハンサムガイズ
  • ハンサムガイズ
  • ハンサムガイズ
  • ハンサムガイズ

Edited by

唐突だが、筆者は海外旅行中に映画館に行くことが好きである。観光地ではなく日常の延長線上にある映画館に行くことでそこの住民として馴染んでいる気持ちになれるし、「あの日あの時あの場所でこの映画を観ていた」と良き旅の思い出として深く心に残るからだ。なるべく前情報は入れず、直感的に選ぶのが良い。当たっても外れても、酒の肴になる。数週間前にソウルで鑑賞した映画は全く私の好みに合わず、途中で船を漕ぎ出し、気づいたらエンドロール……という久々の大外れ回だったのだが、2024年初夏ソウル旅行中のセレクトは抜群に良かった。

その作品は、映画でもドラマでもよく見かけるイ・ソンミン(ドラマ『財閥家の末息子〜Reborn Rich〜』など)とイ・ヒジュン(ドラマ『殺人者のパラドックス』など)が主演だった。ポスターを見ると、2人の顔は薄汚れていて、それぞれマレットヘアに革ジャン、ロンゲにネルシャツ、とスタイリッシュさの欠片ゼロ。なのに、題名は『핸섬가이즈(Handsome Guys)』という。どうやらコメディのようだし、名優2人が主役なら信用できるかも、と思ってチケットを購入した。

封切り直後の金曜夕方ということもあってか、シートはほぼ満席。映画鑑賞中は客席から笑いが絶えず、私も大いに笑い、ホテルへの帰路でも思い出してはニヤニヤした。だが同時に、「もっと韓国語が分かれば楽しめたのに!」と、超えられぬ言語の壁に悔やんだ。それから約1年半。ようやっと、字幕付きで再観賞できる日がやってきた!嬉しい!!

タイトルはそのまま『ハンサム・ガイズ』で、10月3日(金)から新宿ピカデリーほかで全国公開予定である。

グロい“ピタ◯ラスイッチ”の韓国リメイク版

『ハンサム・ガイズ』の主人公は、長年の貯金をはたき、森の奥深くにある新居に引っ越してきた、自称“タフガイ”のジェピル(イ・ソンミン)と“セクシーガイ”のサング(イ・ヒジュン)。2人はよく自分たちの”ハンサムさ”について褒め合っているが、彼らの強面ぶりは不審人物と疑われるほどで、引っ越しの道すがら出会った大学生グループも怯えさせていた。

ハンサムガイズ

さて、広告写真とは少々異なるも憧れの西洋館を手に入れて幸せいっぱいのジェピルとサングは、その晩、釣りに出かける。そこへ例の大学生グループの一員であるミナ(コン・スンヨン)がやってきて、2人の怪しげな姿を見てひとり錯乱状態に。湖で溺れかけるなどして、ジェピルとサングに助けられる。しかし、気を失ったミナを運ぶジェピルとサングの様子を目撃した彼女の友人たちは、2人を誘拐犯と勘違い。翌日、彼らはミナを救おうとジェピルとサングを襲い始めるーー。

ハンサムガイズ

いかんせん、チケット購入の決め手は「俳優」「ジャンル」「ポスターの雰囲気」であり、それ以外の情報は不明のまま。映画が始まってから、「もしや」と思い始め、途中のゴア描写を見て確信した。これは『タッカーとデイル 史上最悪にツイてないヤツら』(以下、タッカーとデイル)のリメイク版だ、と。そして、鑑賞後にNamuwiki(韓国のウィキサイト)で情報の正誤を確認し、スッキリしたのであった。

『タッカーとデイル』は、2010年公開のアメリカ・カナダ合作のホラーコメディ映画。不審な見た目の中年男性2人組=タッカーとデイルが念願の別荘を手に入れるも、近所でキャンプをしていた大学生グループの一人が溺れているのを助けたら殺人鬼と勘違いされ、トラブルに巻き込まれていくストーリーである。

人間は、一度ネガティブなフィルターがかかるとなかなかそれを取り外せない。大学生たちは、タッカーとデイルの何気ない行動すべてを殺人へと結びつけ、友人を救うために決死の覚悟で挑んでいく。だが、襲いかかるタイミングで2人が振り向いたりしゃがんだりと予期せぬ行動に出るため、大学生たちは勢い余って事故に遭う。実は見た目とは裏腹に心優しいタッカーとデイル。自分たちが殺人鬼と思われているだなんて露知らず、いきなり目の前で自殺していく若者たちにショックを受けて涙目に……そんな勘違いの連鎖が愉快な作品だ。

『ハンサム・ガイズ』は、物語の大筋や登場人物たちの落命シーンなど、『タッカーとデイル』の象徴的なパートをそのまま再現。原作ファンも満足の内容になっている。

独自の“オカルト要素”で面白さUP!

ハンサムガイズ

だが、『ハンサム・ガイズ』は単なるリメイクに留まらない。最大の違いが、オカルティックな味付けだ。同作冒頭、大学生グループはうっかり黒ヤギを轢き殺してしまう。さらに、彼らの滞在先は、昔、悪霊に憑かれた女がヤギのように走り回って殺人を繰り返していた曰く付きエリアだったことも判明する。

一方、ジェピルとサングの新居は元教会であり、地下には怪しげな魔法陣が描かれ、物件を管理していた昏睡中の神父がその真相を握っていることが分かる。その後、ジェピルとサングvs大学生グループの戦い(?)に、“ヤギの悪霊”が加わることはお察しのとおりだ。

ハンサムガイズ

なお、『ハンサム・ガイズ』に登場する山小屋やその地下、悪霊に憑かれた人の様子や、怖いけれど滑稽にも感じられるギリギリの線でまとめているところなどは、映画『死霊のはらわた』の影響と思われる。

アメリカ産スラッシャー映画と言えば、『悪魔のいけにえ』シリーズや『13日の金曜日』シリーズなど、 “田舎”の“森”や“湖”で、“羽目を外している若者”が、仮面を被った大柄な男性にチェーンソーやマチェーテで襲われがちだ。『タッカーとデイル』で大学生グループが訪れるのは、20年前に若者たちの大虐殺事件が発生したアメリカの森で、近くに湖がある場所。つまり、殺人鬼に襲われそうな条件がすべて揃っていたことから、彼らはタッカーとデイルのことを必要以上に恐れ、殺人鬼と勘違いするまでに至ったのである。

だが、韓国の森や湖に、レザーフェイスやジェイソンのイメージは結びつかない。おそらくそういった理由からも『ハンサム・ガイズ』では、オカルトの要素を加えたのだろう。そして、そのローカライズゆえの工夫が原作超えをするほどの面白さに繋がっているから天晴れである。

オマージュやギャグ盛りだくさんで楽しい

『タッカーとデイル』自体が、『悪魔のいけにえ』『13日の金曜日』といったスラッシャー映画のメタ的なパロディ作品であり、そこに山小屋ホラーや悪魔祓いのエッセンスも大量に振りかけている『ハンサム・ガイズ』。ほかにも、ホラー映画の金字塔『エクソシスト』の“ぐるり一回転”、ほぼ全編パロディで構成された映画『最‘新’絶叫計画』の“ベロベロ悪魔祓い”、不老不死の女性たちを描いたブラックコメディ『永遠に美しく…』の象徴的な“お腹にドーナッツ”など、随所にオマージュが組み込まれているのも観ていて楽しい。

また、忘れてはいけないのが、俳優陣の熱演だ。本作は、もともと物語に備わっていたボタンの掛け違えゆえに生じるおかしみに加え、ギャグパートが大量に散りばめられているので、一度ツボってしまったら最後。ずっと笑い泣きしながら観る羽目になるのだが、それは俳優一人ひとりの演技力によるものが大きい。

ハンサムガイズ

主演の2人=イ・ソンミンとイ・ヒジュの共演作と言えば『KCIA 南山の部長たち』が挙げられるが、同作ではそれぞれ大統領役、大統領護衛室長役を務めており、作品自体も緊張感の漂うものになっていた。

一転して『ハンサム・ガイズ』では、仲睦まじい兄貴分&弟分として抜群のケミストリーを発揮しており、それぞれ顔も動きもはっちゃけまくり。ソンミンの白目ギリギリ上目遣いや、ヒジュンの愛嬌たっぷりダンスなど、ベテラン俳優ならではの豊かな表現力に引き込まれる。ミナ役コン・スンヨン(ドラマ『ファースト・レスポンダーズ 緊急出動チーム』など)も彼ら2人に尻込みすることなく、緩急ほど良いリアクションで魅了する。

ハンサムガイズ

そして、後半から本領発揮していたのが、チェ所長役パク・ジファン(ドラマ『私たちのブルース』など)とナム巡査役イ・ギュヒョン(ドラマ『サムシクおじさん』など)の警官コンビ。ジファン本人が編み出したというチェ所長の奇妙奇天烈な動きは一度見たら忘れられず、運悪く色々と巻き込まれてしまうナム巡査(ギュヒョン)の慌てぶりも笑いを誘う。

ハンサムガイズ

ホラーコメディは真逆の要素を融合させるため、難しいジャンルだと思う。個人的にもホラコメのお気に入り作品は手で数えられるほどしかないのだが、本作は間違いなくそのリストのTOP5。一瞬肝を冷やしたと思ったら笑いのツボを刺激されるという、そのバランス感が絶妙なのだ。

ハリウッドのホラー映画やコメディ映画ですら、日本の劇場公開が見送られることも多い昨今。『ハンサム・ガイズ』を大きなスクリーンで鑑賞できる稀有な機会、みすみすお見逃しなきよう!


『ハンサム・ガイズ』

10月3日(金)新宿ピカデリーほか全国公開

映画『ハンサム・ガイズ』オフィシャルサイト

出演:イ・ソンミン、イ・ヒジュン、コン・スンヨン、パク・ジファン、イ・ギュヒョン

エグゼクティブプロデューサー:キム・ウテク、トーマス・オーグスバーガー、ディーパック・ナヤール、イーライ・クレイグ、モーガン・ユルゲンソン

脚本・監督:ナム・ドンヒョプ

2024年/韓国/カラー/シネスコ/5.1ch/101分/韓国語/原題:핸섬가이즈/英題:Handsome Guys/PG12/日本語字幕:三重野 聖愛/配給:ライツキューブ

© 2024 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & HIVE MEDIA CORP All Rights Reserved.

イ・ソンミンのその他の出演作はこちら


イ・ヒジュンのその他の出演作はこちら


この記事をシェア

この記事に関する写真(7枚)

  • ハンサムガイズ
  • ハンサムガイズ
  • ハンサムガイズ
  • ハンサムガイズ
  • ハンサムガイズ

Edited by

韓国・アジア 特集の記事一覧

もっと見る