ノーマン・リーダス直撃インタビュー『ウォーキング・デッド:ダリル・ディクソン』
『ウォーキング・デッド』スピンオフ『ダリル・ディクソン』ノーマン・リーダスが来日。キャロルとの共演についても語る
ブッカー賞受賞の傑作小説を映像化した海外ドラマ『奥のほそ道 -ある日本軍捕虜の記憶-』が、2025年10月10日(金)よりU-NEXTにて独占配信されます。太平洋戦争下の泰緬鉄道建設を舞台に、日本軍の捕虜となったオーストラリア人軍医の半生を描く本作。
この国際的なプロジェクトに、日本人キャストとして俳優・笠松将さんが出演。命令と個人の信念の間で葛藤する日本軍将校「ナカムラ少佐」という難役に挑みました。
撮影中は監督と何度もぶつかり、完成するまで「面白いかどうかは分からない」と感じていたという笠松さん。しかし、完成した作品を観て「すごく衝撃を受けた」と語ります。
過酷な現場で彼は何を感じ、何を得たのか。その挑戦の軌跡と、作品に込めた思いをうかがいました。
国際的な制作チームが集結した本作。笠松さんへのオファーは、プロデューサーからの直接の連絡だったといいます。
「ちょうどこの作品に入る数ヶ月前にご連絡をいただきました。その時はまだ台本がなかったので、日本語訳された原作を読ませてもらい、とても興味深いものだなと」。
その後、監督とのオーディションを経て出演が決定。しかし、笠松さんが感じていたのは、合格の喜びよりも、これから始まる現場への緊張感でした。
「オーディションに受かる受からないということよりも、作品をやると決まってからの方が『自分が現場で何ができるんだろう』というところの緊張感があったように思います」。
本作は太平洋戦争という歴史的な出来事を扱いますが、笠松さんはその奥にあるテーマに強く惹かれたと語ります。
「どうしても戦争というキーワードが一番前に来ると思うんです。もちろんそうなんですが、そういう状況の中での人間のあり方と、その後に傷を負った人たちの人生があるというところが良い部分だなと思っています」。
彼が演じたナカムラ少佐は、捕虜収容所で捕虜たちと対峙する、複雑な立場に置かれた人物です。
歴史的な背景を持つ役を演じるにあたり、笠松さんが最も大切にしたのは、その時代における「当たり前」の価値観を理解することでした。
「一番は、この時代の中でどういう価値観が当たり前で普通だったのか、というものを大切にしました」。
さらに、監督やスタッフと密な対話を重ね、ナカムラという一人の人間の内面を深く掘り下げていったといいます。
「ナカムラという人物が何を大切にしたくて、どういう風に生きていきたい人なのかというものを監督や現場のいろんな方とお話をして、細かいところまでお互い納得した上でお芝居をしました」。
笠松さんは、本作の登場人物たちが抱える感情は、単純な善悪二元論では割り切れないものだと指摘します。
「僕が演じたナカムラ少佐だけじゃなく、いろんな登場人物たちのいろんな感情が複雑に混ざり合っていて、善悪ではなかなか判断しがたい。その感情の割合みたいなものを整理してそのシーンに臨むということを現場ではとても大切にしていましたね」。
本作のメガホンをとったのは、リアリティの追求で知られるジャスティン・カーゼル監督。その演出は、現場の空気そのものを変えてしまうほど徹底していました。
主人公ドリゴを演じたジェイコブ・エローディをはじめとするオーストラリアの俳優陣は、役作りのために厳しい食事制限を行っていたといいます。
その結果、撮影現場ではキャスト間のコミュニケーションがほとんど生まれなかった、と笠松さんは振り返ります。
「一緒に食事をする機会もなかったですし、連絡を取り合うことももちろんない。現場で話をするのも、こういう監督のやり方に疑問を持っている数人の俳優たちが挨拶を返してくれるぐらいでした」。
それはまさに、監督が追い求めたリアリティ。
国籍も立場も違う捕虜と将校が、同じ場所で「これを達成しないとここから生きて出られない」という共通の目的を持ちながらも、決して交わることのない緊張感。そのものが、現場に再現されていたのです。
「僕のやり方とは違いますが、ただ監督が求めるものはそれ、という中で、撮影とはいえすごく難しい毎日でした」。
そんな極限の環境だったからこそ、ふとした瞬間の交流が、何よりも大きな救いになったといいます。
「彼らの現場での振る舞いや、『お前も日本から来て大変だよな』って一瞬目が合うとか、そういうのだけで僕はすごく救われた瞬間があったし、そういう日々でしたね」。
厳しい環境が作品の緊張感を高め、俳優たちのパフォーマンスを極限まで引き出したのは間違いありません。「僕もオーストラリアの俳優たちにすごく圧倒されました」と語る笠松さんの言葉が、その壮絶さを物語っています。
撮影中は、監督と何度もぶつかったこともあったそうです。
「例えば、2秒ぐらい山を登ってるシーンも2〜3時間ずっと撮ってるんですよ。川をみんなで歩くみたいなのも、ずっと撮ってる。そういう繰り返しの毎日でした」。
先の見えない撮影の中で、「面白いかどうかは出来上がらないと分からない」というのが正直な気持ちだったと明かします。
しかし、完成した作品を観た時、そのすべてが覆されました。
「やっぱり出来上がったものを見た時にすごく衝撃を受けました。自分のやっているお芝居だったり、カメラの前でのパフォーマンスって何なんだろうってすごく考えさせられました」。
その経験は、笠松さんにとってあまりにも大きなものでした。
「このチームとやれた意義はめちゃくちゃ大きいですが、それが全て前向きなものなのかと言われると難しい。でも一度知ってしまったからには、自分自身はそのレベルを追求しなきゃいけないなと思ってしまう」。
苦悩と葛藤の末にたどり着いた境地。それは、俳優・笠松将のキャリアにとって、間違いなく大きな転換点となったようです。
「撮影も終わって時間が経って整理すると、とてもいい経験だったな、という感じですかね。すごく難しいですけど」。
この数年間、国際的な作品へ挑戦する意識を強く持っていたという笠松さん。しかし、本作を経てその考え方にも変化が生まれました。
「あんまり国内、国外というよりかは、何をやりたいか、誰とやりたいかというものをより意識するようになりました。どの国で、どの国の人とやるかとかは、あんまりもう気にしなくなりましたね」。
大切なのは場所ではなく、何を、誰と創るか。その本質に気づかされたのです。
「どっちにしてもいいものっていうのは、日本で撮ってても世界に広がりますし」。
作品と向き合う基準も、よりシンプルになりました。「もう誰が見るかも結構どっちでもいいというか、僕が満足できるかどうかっていう、もうそれだけかなって」。
その純粋な探求心は、自身が演じた役の日本語吹替に挑んだ際にも発揮されました。
「自分が英語で喋ったセリフを、日本語という全然言ったことのないリズムや単語で表現するわけだから、すごく奇妙な体験でした。僕の顔で僕の声を当てた時に、『あ、ハマってる』『ああ、そうか、僕か』っていう、すごい面白い、変な経験でしたね」。
戦争、記憶、愛、そして赦し。様々なテーマが重層的に絡み合う本作。笠松さんは、この物語の最も興味深い点として「善悪の曖昧さ」を挙げます。
「『これって誰が悪くて、誰が正解なんだ』『じゃあ、どうしてれば良かったんだ』っていうのが、もう本当にめちゃくちゃ遡って修正かけていかないと直せない」。
物語に触れることで、観る者もまた、その問いの渦中へと引き込まれていくのかもしれません。
「向こうには向こうの事情があったんだろうし、ということを考えると、『じゃあどうしたら良かったんだっけな』とか、『僕もじゃあどうすればいいんだっけな』みたいなことをすごく感じました」。
だからこそ、この作品を観た人たちと対話がしたい、と彼は願っています。
「見ていただいた方と『どうすればいいんだろう』って話をしていきたいですね。できるだけいろんな方面から、いろんな人の立場に立って物事を見なきゃいけない」。
最後に、これから作品をご覧になる方々へメッセージをいただきました。
「もちろん、見る側の精神状態とかもあると思うんですよ。ただただ笑っていたいみたいな時ももちろんあるし。でも、きっと僕は、こういう作品ってすごく上質な、最高峰のエンターテイメントだと思ってるんです」。
「この作品に関わってる全ての人が、誰も慢心することなく、自分のやるべきことにこの瞬間、すごく集中して作った作品です。是非、皆さんのタイミングで、こういうものに興味を持っていただける時が来たら、見ていただけたらなと思ってます」。
人間の尊厳とは何か。極限の状況で、人はどうあるべきなのか。笠松将という一人の俳優が、全身全霊で挑んだ答えが、この作品には刻まれています。
『奥のほそ道 -ある日本軍捕虜の記憶-』
1943年、太平洋戦争下。オーストラリア軍の軍医ドリゴ・エヴァンス中佐は、日本軍の捕虜として泰緬鉄道の建設に従事する。死と隣り合わせの地獄のような日々の中、ドリゴを支えていたのは、故郷に残してきた禁じられた愛の記憶だった。戦争の残酷さと若き日の情熱を対比させながら、一人の男の人生を通して、希望と人間性の本質に迫る。
原作
リチャード・フラナガン『奥のほそ道』(白水社刊)
キャスト / 日本語吹替キャスト
ドリゴ・エヴァンス役(1940年代): ジェイコブ・エローディ / 小林親弘
ドリゴ・エヴァンス役(1980年代): キアラン・ハインズ / 佐々木勝彦
ナカムラ少佐役: 笠松将 / 笠松将
エイミー・マルヴァニー役: オデッサ・ヤング / 田村睦心
エラ・エヴァンス役(1940年代): オリヴィア・デヨング / 高橋雛子
エラ・エヴァンス役(1980年代): ヘザー・ミッチェル / 磯西真喜
キース・マルヴァニー役: サイモン・ベイカー / 郷田ほづみ
ほか
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