白黒つかない恋模様。今泉力哉監督オリジナル映画おすすめ5選
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白黒つかない恋模様。今泉力哉監督オリジナル映画おすすめ5選

2024.05.31 18:00

人気テレビドラマの続編として待望されていた劇場最新作『からかい上手の高木さん』が公開中の今泉力哉監督。“恋愛映画の旗手”として映画・ドラマの新作が途切れない日本映画界の超売れっ子監督である一方、自身のSNSで突然「今から〇〇で飲める人!」と募集し、連絡のあった本当に初めて会う人と実際に飲みに行ってしまう飄々とした気負いのないキャラクターも人気です。

最新作はもちろんすべての作品に共通しているのは、今泉監督ならではの誠実さと温かみの伝わる人間描写。とりわけ、自身が脚本を手掛けたオリジナル作品はその作風や人間観・恋愛観が詰まっています。

数あるオリジナル映画の中から、今日は5作品をピックアップしてご紹介します。

最新映画で今泉監督を知ったかたも、テレビで気になったかたも、ぜひ今泉作品の真髄に触れてみてくださいね。

『街の上で』(2019)

街の上で
©『街の上で』フィルムパートナーズ

数多くの小劇場やライブハウス。軒を並べる古着屋、個人経営の喫茶店や飲食店。これからがまざりあって独自の文化を形成し、東京の街のなかでもひときわ個性を放つ街、下北沢。シモキタの街の上で繰り広げられる群像劇…といっても「繰り広げられる」というほどには特別なことが起こるわけではなくて、でも確かにそれは日々のちょっとした事件であり、小さなさざ波であり、「そんな日もあるよ」という時の“そんな日”であり、それが愛おしい映画です。

主人公は古着屋で働く青年・青(若葉竜也)。シモキタで暮らし、働き、古本屋で買った本を喫茶店で読み、ライブを観て、酒をのむ。そんな日々を過ごす彼に、自主映画への出演オファーという予想外の出来事と、さらにちょっとした事件が…。

主人公・青とシモキタの人びとの日常的な対話で成り立つ構成と、原則的に目線の高さでフィックス撮影されるシーンの多用は、観る者もその場にいるような親近感をもたらしてくれます。全体的に日常的な会話の自然さが際立つ作品ですが、特に主人公・青とある登場人物が恋バナをする長廻しのシーン(予告編にも入っています)は、会話のあまりの自然さに「アドリブなのでは」と言われていましたが、実はほぼすべて脚本に書かれているセリフだそう。脚本家としての今泉監督の作家性が存分に発揮されるシーンです。

また、作品のなかでヴィム・ヴェンダースの作品名や“熊切和嘉”“城定秀夫”といった映画人の名前がさらりと登場するのも、映画ファンとしてはニヤリとしてしまうポイント。個人的には、まわりの映画好きの中で「今泉作品でもこれは特別に好き」という声がもっとも多いのは、そのあたりとも関係あるかもしれません。

冷蔵庫にいれてあったケーキがまだ「意外といける」ように、もうダメだと思っていたのに「意外といける」ことって、実はあるのかも。そんな、ほんのちいさな前向きさを貰える映画です。

『サッドティー』(2013)

サッドティー
©ENBUゼミナール

映画製作ワークショップから生まれ、2013年の東京国際映画祭・日本映画スプラッシュ部門で上映された作品です。

恋愛映画において(もしかしたら実際の恋愛でも)、誰かを「好き」という言葉の概念をみんながとりあえず共通認識として持っている、つもりでいるけれど。実際のところ、「好き」という概念のいかに曖昧であることか。怒りとか、悲しみとか、憎しみとか、人がわかりやすく陥りやすい負の感情に比して、「誰かが誰かを好きになる」という感情にはあまりにも多くのバリエーションとグラデーションが存在します。私たちは日頃、それを一旦保留にして恋愛映画を楽しんでいるように思います。

この作品は、そこを「ところで、好きってどういうこと?」というレイヤーから作中で自問自答する恋愛映画なのです。

と言っても決して哲学的だったり深遠だったりするわけではなく、さまざまな「好き」を抱える人々の群像劇として軽やかに語られます。

誰かに恋愛感情を抱きながら、思いと異なる行動と取ってしまうような時。誰かへの思いが、恋愛感情なのか強い共感なのか自分でもカテゴライズできない時。思いがけないところで思いがけない人に強く魅力を感じてしまう時。どんなケースも今泉監督は否定せず、声高にドラマチックに描くわけでもなく、ただそこにあるさまざまな「好き」として、一定の距離感を保って描いていきます。

「好き」の概念を通して描かれること。人と違っていたり、弱かったり、あるべき自分でいられなかったりすること。そんな登場人物たちを、そして観客たちを、誰が正解とか、どれが正義とかジャッジすることなく、今泉監督の目線は包み込んでいます。

なお、この作品の「助監督:平波亘」「撮影:岩永洋」「録音:根本飛鳥」はその後も何度も今泉作品にクレジットされるテッパンチームです。

『こっぴどい猫』(2012)

こっぴどい猫
©2012 DUDES

今泉監督の作品は、登場人物がどんなにお行儀の悪いことをしていても、ある種の品性とを感じさせ、それが観客の心地よさに繋がっているように思います。それはどの作品もどこか、監督の“つつましさ”と“照れくささ”がにじみ出ている印象を受けるからではないでしょうか。

この作品は、2011年にモト冬樹さんの還暦を記念して作られたもの。当然、主演はモト冬樹さんで、“妻の死後、作品を書いていない小説家”というドラマチックな役柄です。主人公が行きつけのスナックで訳ありの若い美女と出会い、距離が縮まって…という話ではあるのですが、このあらすじから想起されるような艶っぽさは控えめ。還暦のモト冬樹さんが初々しく、また彼のまわりの人々のほうが、やれ不倫だ、離婚だ、三角関係だと、主人公よりもダイナミック。その数、人数にして15人、三角関係7コという群像劇ですが、それでもやはり品性を損なわないのは、カメラと登場人物たちの絶妙な距離感と、それぞれちょっとずつダメな彼らすべてを包み込むような今泉監督の「肯定」の目線のなせる技。

モト冬樹さんのアニバーサリ―作品でありながら、大人数の群像劇の構成というつつましさ(でも、見せ場はしっかり用意されています)。そして、ラストまでちょっとダメな大人たちを愛情を持って描き、人生哲学めいたもので締めくくることも出来そうな結末であるにもかかわらず、それを照れたように回避する『こっぴどい猫』というタイトルへの帰結。秀逸です。

『窓辺にて』(2022)

窓辺にて
©2022「窓辺にて」製作委員会

稲垣吾郎さんの主演作であり、あまりにもハマり役、あまりにも素晴らしい演技で絶賛された作品。東京国際映画祭のコンペティション部門で観客賞を授賞したことでも話題になりました。

妻の浮気を知っても怒りが湧かなかった主人公を演じる稲垣さん。ご自身もシネフィルで、雑誌に映画コラムの連載も持っています。かねてから今泉さんの作品を紹介したり、対談をしたりされていたことも奏功しているのでしょう。じっくりと作り上げられたオリジナル作品でおふたりが作りあげた主人公の人物像は、感情をあらわにすることがないにもかかわらず、とても有機的で魅力的です。

自分の感情の動かなさに「好きという気持ちが自分の中には存在しないのかもしれない」とショックを受けている主人公。その状況を知り揺れ動く妻。若くエモーショナルで、本を読まないタイプのボーイフレンドのことが大好きな天才女子高生小説家。それぞれと交わす言葉はさすがの今泉節で、本筋とは関係なさそうな話題や、ほかの作品なら省略されてしまいそうな間合いや、むしろ饒舌に心情を伝える沈黙の時間をゆるやかに蛇行しながら、時にフフッと笑わせてくれ、しかもあとから思えばそれがやけに印象に残っているような、不思議な会話劇です。

冒頭から、常にじんわりと主人公の戸惑いが画面に漂っているような繊細なラブストーリーでもあり、その心情を映し出すかのような陰影のある映像も印象的。撮影は、アカデミー賞国際長編映画賞を受賞した濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』の撮影も手掛けた四宮秀俊さんが担当されています。

『街の上で』の主人公カップル(若葉竜也さんと穂志もえかさん)が、ここでは主人公の友人の不倫カップルの役柄で登場するのも、今泉作品ファンとしてはニヤリとしてしまうポイントです。

『愛なのに』(2021)

愛なのに
© 2021『愛なのに』フィルムパートナーズ

最後にご紹介するのは、ちょっと異色。今泉監督と、『街の上で』で作中で言及されていた城定秀夫監督が、互いに脚本を提供しあってR15指定のラブストーリー映画を製作するコラボレーション企画「L/R15」の一本です。本作は今泉監督は脚本担当、演出は城定監督。もう一本の『猫は逃げた』は逆に城定監督が脚本、演出は今泉監督。

脚本におけるキャラ作りや言葉選びにおいても、演出における画面デザインやルックの作り方においても、おふたりの作風がいかんなく発揮されており、制作過程をクロスさせることで、両作品ともに素敵な化学反応が生まれています。

特に今回の記事では今泉監督自身が脚本を手掛けたオリジナル作品をご紹介するという主旨で『愛なのに』をピックアップ。

主人公である古本屋の店主・多田を演じるのは瀬戸康史さん。彼は、店に来る女子高生になぜか突然求婚されるものの、実はずっと心に秘めた女性がいて、でもその女性は結婚を控えており、しかしその結婚相手はよりによってウェディングプランナーと浮気しており…と一筋縄ではいかない複雑な恋愛模様は、セリフの応酬も含めて、今泉ワールド全開。そんな今泉監督のオリジナル脚本の作家性を感じるとともに、それを城定監督が演出することでファンとしては今泉節に意外性のあるアレンジがされる面白さも楽しめます。

主人公に突然プロポーズする女子高生に河合優実さん、主人公が思いを寄せる女性にさとうほなみさん、婚約中にウェディングプランナーと浮気している男に中島歩さんというキャスティングも絶妙!

ぜひ『猫は逃げた』とセットでご覧ください。ふたつの世界をつなぐ、可愛いギミックにも注目です。

ほかにも、『mellow』『退屈な日々にさようならを』『知らないふたり』など、今泉監督のオリジナル作品はどれもちょっぴりややこしい恋愛模様を描いていますが、その中でも登場人物が違えば無限にラブストーリーが広がることを教えてくれます。

U-NEXTでは、オリジナル作品はもちろん、オリジナル以外の原作のある作品も含めて今泉監督の映画をたくさん配信しています。

白黒つけたり、正解を提示したりしない、何も押し付けない、人間らしい恋愛映画の数々。ぜひお楽しみください。

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