【邦画】世界の名監督が絶賛!生誕100年・鈴木清順監督の耽美&スタイリッシュな傑作映画5選
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【邦画】世界の名監督が絶賛!生誕100年・鈴木清順監督の耽美&スタイリッシュな傑作映画5選

2023.05.23 13:00

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  • ツィゴイネルワイゼン
  • 陽炎座
  • 夢二
  • 肉体の門
  • カポネ大いに泣く

代表作『ツィゴイネルワイゼン』、『陽炎座』、『夢二』の「浪漫三部作」では幽玄な世界を紡ぎ出す一方、ポップでコミカルな娯楽映画も多く手掛けた鬼才・鈴木清順。50年代のデビューから2000年代まで、日本の映画界を代表する映画監督として、そして唯一無二の作風を持つクリエイターとして第一線で活躍し、国内外から高い評価を受けました。

原色を多用したポップな色彩感覚、自由で独特なリズムを持つ映像センスは“清順美学”と呼ばれ、ジム・ジャームッシュ、ウォン・カーウァイ、クエンティン・タランティーノなど世界の巨匠にも大きな影響を与えたと言われています。

特に60年代には熱狂的なファンを獲得。その影響力は、所属していた日活からの解雇問題をめぐりデモ行進が行われるほどでした。

そんな鈴木清順は、1923年5月24日生まれ。今年、生誕100年を迎えています。

理屈や理論からは徹底して距離を置き、自由で華やかな作品を生み出し続けた彼の作品アーカイブから、いま観ても色褪せない映像センスあふれる5作品をご紹介します。

『ツィゴイネルワイゼン』(1980)

ツィゴイネルワイゼン
©1980

不穏で、ちょっと怖くて、でも美しくて目が離せない!異世界に連れていかれてしまいそうな鎌倉・釈迦堂切通しや太鼓橋、そして古い洋館。エキゾチックなサラサーテのヴァイオリンの響き。息をのむような耽美と、そこはかとない背徳感。演者たちの息遣いとリアリティを超えた存在感。唯一無二の魅力で多くの映画ファンから愛され、ベルリン映画祭での特別表彰など国内外での映画賞でも高い評価を得た、まごうことなき代表作であり大傑作です。

この12年前に作風の方向性の違いにより所属していた日活を一方的に解雇されたことで映画業界やメディアが立ち上がり、法廷をまきこむ大問題となってから10年。しばらく映画から遠ざかっていた清順監督が、一切の妥協なく自らの作家性を注ぎ込んだ作品。この作品のためにテントのようなドーム型の移動式映画館が作られ、そこで単館上映された、ある種の自主映画でもありました。のちに「浪漫三部作」となるトリロジーの第1作目です。

『陽炎座』(1981)

陽炎座
©1981

「浪漫三部作」の2作目は、こちらも耽美な作風で知られる泉鏡花の小説が原作。1作目に続き物語の展開の難解さには翻弄される作品ですが、画面デザインの美しさには目をみはるはず。特に後半、小さな芝居小屋で展開されるシークエンスでは、多用される深紅や深い紫色と漆黒色の強いコントラストから匂い立つような妖艶さが感じられます。ケレン味とある種の様式美が漂う本作は、“フィルム歌舞伎”とも呼ばれ、絶賛されました。

主演は、今や伝説となった故・松田優作。それまで『蘇える金狼』や『蘇える金狼』などに主演しアクションスターとしての確固たるポジションを築いていた彼にあえてストイックな演技をさせることで新境地を開かせた作品でもあります。

『夢二』(1991)

夢二
©1991

大正ロマンを代表する実在の画家、竹久夢二と彼を取り巻く女性たちをモデルにしたオリジナル作品。「浪漫三部作」の3作目は、前の2作より少しだけ軽やかな仕上がりではありますが、清順美学に、美人画の独特なタッチから“夢二式美人画”と呼ばれた画家の柔らかなテイストが加わり、そこにさらに生と死の要素や水辺のイメージが混ざりあって、独特の暗さと幻想的な雰囲気が魅力を作り出しています。女性たちの鮮やかな和服の着こなしは、夢二の美人画のテイストに加えて、生家が東京・日本橋の呉服屋を営んでいたという清順監督のバックグラウンドも感じられますね。タイトルロールを演じる沢田研二と『ツィゴイネルワイゼン』で主演した原田芳雄の化学反応も素晴らしい一作です。

なお、鈴木清順をリスペクトするウォン・カーウァイ監督は代表作のひとつ『花様年華』の中でこの『夢二』のテーマ曲をBGMとして使っています。

『肉体の門』(1964)

肉体の門
©1964日活株式会社

何度も映像化されている原作も、清順の手にかかると不思議な異世界感を醸し出すのが不思議。徒党を組む娼婦たちはそれぞれのキャラクターごとに色分けされた鮮やかな原色の衣装をまとい、まるでミュージカルでも始まりそうなカメラワークが彼女たちの足取りを追いかけます。地上の闇市のセットは妙にリアルな「ザ・戦後の日本」なのに、彼女たちがアジトにする地下倉庫のセットはモダンな、むしろ少しレトロパンクな雰囲気もあって、まるで彼女たちから敢えて戦後という時代のリアリティをはぎとっているかのよう。コメディのようなセリフまわしの早さや映像リズムの軽やかさもあいまって、観る者のキャラクターの心理への理解が追い付かないよう、共感を突き放してしているようにも感じられます。日活に所属し、「清順美学」と呼ばれる作風を確立した時代の作品のひとつです。

同じ原作の映画化作品で著名な五社英雄版『肉体の門』とはまったく違う手触り。それぞれの魅力があるので、ぜひあわせてお楽しみください。

『カポネ大いに泣く』(1985)

カポネ大いに泣く
©1985松竹株式会社

日活と袂を分かった後、不遇の時代にも単館映画として『ツィゴイネルワイゼン』を発表、高い評価を得た清順が、久しぶりに劇場商業映画に復帰したのがこの作品。「OH!クレイジー!!お前たちに警告する、シスコで騒ぎを起こすな!」「パワフル・コメディ」のキャッチコピー通り、主演のショーケン萩原健一にバンドで浪花節を歌わせ、チャップリンに扮装させ、サムライ好きの米国人女性と紋付袴に帯刀姿で恋愛させ…。あらすじも、あってないような大騒ぎ、そして今の倫理観で観るとNGな表現も多々あるのですが、禁酒法時代のアメリカ西部を清順美学のフィルターを通して表現したポップで色鮮やかな美術、演者を美しく魅せる衣装、独特のカメラワークと映像のテンポ感はさすがです。また、ヒロインに田中裕子、2番手に沢田研二柄本明といった今も活躍する名優がフレッシュな魅力を振りまいているのも見どころ。

そして、「浪漫三部作」で国際的評価を得た後の久しぶりの商業映画で、あえて海外を舞台にした、こんなにハチャメチャコメディを発表する清順監督のある種のパンク精神にも脱帽です。


いかがでしたか?

日本が誇る鬼才監督の作品群、この機会にぜひお楽しみください!

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