夏休みの真っ只中の8月15日。私たちは終戦記念日を迎えます。
戦争を経験として語ることのできる方たちが高齢化し、残念ながらその人数も少なくなってきている現在、「戦争で何があったのかを知ることによって実際の戦争を遠ざけ、平和をめざす」ことは、映画をはじめとする表現作品の持つ可能性のひとつです。
特に生活者の目線で、あるいは戦場にあっても「普通の人」としての目線で、日々の営みの延長として語られる戦争は、現在まがりなりにも平和を享受している私たちにとって、重要な示唆となるのではないでしょうか。
今日はそのような映画の中から7作品をピックアップしてご紹介します。
8月が来るたびに、あるいは「平和」ということを考えるたびに、見直したい作品たちです。
広島県の南西部に位置する呉に嫁いだヒロイン・すずの、戦時下での日常を丁寧に描いたアニメ映画。何気ない日々の暮らしのなかで、戦況の悪化とともに物心ともに切迫していくようすや身近な人が次々に兵隊として戦地に赴く苦しさ、そして広島に投下された原子爆弾の惨さがすず自身の目線で描かれ、戦争がひとりひとりの暮らしと地続きであることが改めて心に突き刺さる作品です。
劇場公開時、当初の63館から口コミで拡大公開され、最終的には200館近い劇場で公開、興行収入も15億円と、たくさんの方の心に響いた作品となりました。
原爆からわずか8年後、「二度と繰り返してはならない」との思いから、被爆者を含む広島市民の協力(エキストラや当時の衣装・小道具提供など)により製作された作品です。
冒頭のシーンは終戦から数年後。生まれ変わった教育制度のもと、県外から来た若い教師に英語を習う生徒たち。復興の兆しを感じさせるなか、原爆から数年後当時の被爆者たち抱えた原爆症(白血病)や被爆者差別などが明示され、そこから1945年8月6日の回想に入っていく構成からは、被爆した方々の当時の痛みがありありと伝わってきます。
あまりにも凄惨な被爆時の状況の再現度、そして登場人物一人ひとりの哀しみの群像劇としての描写も優れており、1955年の第5回ベルリン国際映画祭で長編映画賞を受賞しています。
戦時中初めて「疎開保育園」の実施にこぎつけた保母と子どもたちの物語です。東京・品川の戸越保育所と東京・墨田の愛育隣保館の2つの保育所が、疎開により東京大空襲を免れた実話をベースにした本作。本来ならまだ親元を離れるには幼すぎる子どもたちの生活と教育の全責任を預かる教育者の苦労や、自身も空襲の激しさが増す東京に家族や友人を残している葛藤が丁寧に描かれています。子どもたちを守らなければというプレッシャーと戦時中の大きなストレスを抱えた保母たち自身もまだ若く、疎開先での儚い青春のひとときも。しかし、彼女たちも平和な世の中ならば、まさに青春時代を謳歌できていたはず。一市民に戦争が落とした暗い影と切なさを感じずにはいられません。
長野県の小さな村で育った少女は、幸せな結婚をして、7人の息子たちに恵まれます。夫に早くに先立たれ、息子のうちひとりは養子に出すことになったものの、ひたむきに働いて日々を生き、息子たちはすくすくと育ち、貧しいながらも幸せな生活を送ります。しかし時代は太平洋戦争真っ只中へ。大きくなった息子たちには、次々と召集令状が届くのです。
「お国のために頑張れ」と送り出す一方で、ひとりを戦地に送り出すごとに、無事を祈って1本の木の苗を植える母の姿。木々の背丈は伸びていきますが、戦況は悪くなる一方で…。戦争は、いったいどれだけのお母さんたちに同じような悲痛な思いをさせていたのか。家族の無事を祈り、待ち続け、絶望させていたのかと思うと、胸が締めつけられます。
1944年。帰還した夫は、戦地で爆発に巻き込まれ、両手両足、聴力と声帯も失っていた…。軍からは「不死身の兵士」として勲章を授けられ、村人からは「生ける軍神」と敬われますが、動くことも会話することもできない。ただ三大欲求を妻に満たしてもらう日々。不自由な身体に押し込められた自意識に苦しむ夫と、出征前に夫から受けた支配や暴力の記憶がよみがえり葛藤する妻。やがて2人の関係は捻じれたものになっていき…。このような“帰還兵とその家族の悲劇”もあるのかと衝撃を受ける若松孝二監督作です。
2010年ベルリン国際映画祭コンペティション部門に出品され、主演の寺島しのぶさんが最優秀女優賞(銀熊賞)を受賞しています。
戦地で、人と人が殺しあう惨たらしさ。これに加えて悲惨だったのが、食糧難(飢え)だったといわれています。第二次世界大戦での日本軍の死者約230万人のうち、半数以上が餓死者だったというデータも。本作は、終戦間近なフィリピン・レイテ島で、肺の病気のため軍隊から野戦病院に送られ、食糧難のため野戦病院からも追い出された兵士の、悪夢のような彷徨の日々を描いています。飢えと孤独、ジャングルのどこに誰が潜んでいるか分からない恐怖。飢え。南国の蒸し暑さ。不衛生さ。飢え。あちこちで出会う死体。殺戮。飢え。日本人同士でも信頼することのできない極限状態。飢え。
製作時に出資者が集まらず塚本晋也監督・主演の自主映画として公開されましたが、2014年のヴェネツィア国際映画祭メインコンペティション部門に正式出品されたほか、国内の映画祭も席捲した作品です。完成から9年、今年も劇場でアンコール上映が行われています。
戦地で終戦を迎えても、帰国が叶わない兵士は多くいました。その多くは家族と生き別れ、孤独で過酷な収容所生活を強いられていました。この作品は、敗戦後にシベリアの強制収容所に抑留された男が主人公。理不尽な長期抑留、ギリギリの食料での過酷な労働。自由はまったくなく、軍隊は解体されたはずであるにも関わらず軍隊式での暴力支配。報道によると、すべての抑留者の帰国が完了するまでに11年も掛かっており、その間に約5万8千人が抑留中に亡くなったと言われています。この作品もまた、前線とはまた異なる戦争の理不尽さ、虚しさ、惨たらしさ、そして生き別れた家族の思いが伝わってくる作品です。
原作は辺見じゅんによるノンフィクション『収容所(ラーゲリ)から来た遺書』。
他にも、戦争の悲惨さを描いた映画はたくさんあります。そして、戦争を描くことで平和を願う映画は、戦後まもない時代から脈々と作り続けれられています。時代が変わっても映画は作品としていつまでも残り続けます。
それらの作品を観て感じることを通して、先の戦争で犠牲になった方がたに思いを馳せ、戦争のない未来を選び取っていきたいと思います。
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