【洋画】市民の目線でみるパレスチナの映画7作品
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【洋画】市民の目線でみるパレスチナの映画7作品

2025.01.24 16:00

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1月19日、停戦が発効。2023年10月7日から約1年3カ月も続いたガザ地区への攻撃と、封鎖による食料危機にやっと終結の光が見えました。ただ、“段階的停戦”という条件付きのものでもあり、壊滅的ともいえる被害を受けたガザ地区の状況や人々の集合的トラウマ、ICJ(国際司法裁判所)により国際法違反と勧告されてるにもかかわらずヨルダン川西岸での暴力的入植行為がガザ停戦後に激しさを増しているという報道も鑑みると、いまだ予断を許さない状況です。恒久的な停戦と平和を願わずにはいられません。

今回ガザ地区がイスラエル軍の攻撃を受けるきっかけとなったのは、2023年10月7日のガザ地区統治組織ハマースによる奇襲でした。しかし、その時より以前、私たちは中東およびパレスチナの市井の人々がおかれた状況をどれだけ知っていたでしょうか?

U-NEXTでは1月24日よりドキュメンタリー映画『忘れない、パレスチナの子どもたちを』(2022)、社会派ヒューマンドラマ『オマールの壁』(2013)を配信開始。これを気に、2023年以前のパレスチナの人々の生活や人生を知る、その一助になるようなパレスチナの市民目線の映画をご紹介したいと思います。

◆パレスチナ自治区の中で生きるということ

壊滅的といえる爆撃と、生活必需品や食料を含む物品の流通停止により甚大な被害を受けたガザ地区。この間の被害の様子は、現地ジャーナリストたちの命がけの尽力によって、私たちの目にするところになっていました。

しかし、そもそも今回の攻撃より前のガザやヨルダン川西岸のパレスチナ自治区での暮らしとは、どのようなものだったのでしょうか?彼らが強いられてきた理不尽な抑圧が描きこまれた映画を、まずご紹介します。

『オマールの壁』(2013:パレスチナ)

オマールの壁

<ストーリー>パレスチナに暮らすパン職人のオマール。彼は生活圏を囲う分断壁を乗り越え、恋人や友人に会いにいく日々を送っていた。そんな状況を打破すべく、仲間と共にイスラエル兵の狙撃を企てたオマールだったが、あえなくイスラエルの秘密警察に捕らえられてしまう。


パレスチナ人監督ハニ・アブ・アサドが、パレスチナ人スタッフとともに、パレスチナ当地で撮影した社会派ヒューマンドラマです。パン屋として働き、友人と語らい、恋をする。分断された壁の中の生活にも普遍的な若者らしい青春と葛藤があり、だからこそ、そんな彼らが「天井のない監獄」とさえ呼ばれる場所で、暴力的な支配により未来や可能性が奪われることへの苛烈な批判と告発が胸に刺さります。

あまりにも多くの理不尽さに浸食された彼らの日常に、言葉を失ってしまうはず。第86回アカデミー賞外国語映画賞にもノミネートされた作品です。

『ガザの美容室』(2015:パレスチナ/フランス/カタール)

ガザの美容室

<ストーリー>パレスチナ自治区・ガザ。ロシア移民のクリスティンが経営する美容室は、わけありの女性客たちでにぎわっている。戦火の中、唯一の女だけの憩いの場で四方山話に興じていると、通りの向こうで銃声が響き、美容室は殺りくと破壊の炎の中に取り残され…。


結婚式を目前に控える女性。離婚間近な女性。保守的で敬虔な女性。臨月の女性。それぞれのバックグラウンドを持つ女性たちが、おしゃべりしながら髪や爪を整える美容院の中と、武装した男たちがいる外。突然電気の供給が切れてもそれが珍しくないことだとわかる描写にも、隔離され支配されている側の受ける日常の理不尽が垣間見えます。男たちが戦っても、私たちはここで精いっぱいのおしゃれをする。女性たちの連帯を描いた作品でもあります。

メガホンを撮ったのは、ガザ生まれの双子監督、タルザン&アラブ・ナサール。

◆ガザで育つ子どもたち

1948年のナクバ(イスラエル建国によって70万人以上のパレスチナ人が故郷を追われ難民となった)から時がたち、世代も交代してきています。封鎖され、武力支配された状況の中でも子どもたちは育っています。子どもたちは希望であり、だからこそ民族浄化の標的にされてしまうこともあります。

ここでは子どもたちをとりまく状況を描く映画をご紹介します。

『歌声にのった少年』(2015:パレスチナ)

歌声にのった少年
©2015 Idol Film Production Ltd/MBC FZ LLC/KeyFilm/September Film

<ストーリー>パレスチナ・ガザ地区。紛争の絶えないこの地区で、ムハンマド少年はスター歌手になって世界を変えることを夢見ていた。そしてガラクタで作った楽器を手に、姉・ヌールたちとバンド活動を行う。ヌールにも大きな夢があったが、重い腎臓病に侵されてしまう。


『オマールの壁』のハニ・アブ・アサド監督が、中東やヨーロッパでは絶大な知名度を誇るガザ出身のポップ・シンガー、ムハンマド・アッサーフの実話を映画化した作品です。音楽好きで活発な姉と、美しい歌声を持つ弟。前半ではガザでたくましく育つ子どもたちの姿が活き活きと描かれます。一転して後半では、ガザで生まれた若者たちが夢を叶えることが、それ以前に、ただ壁の外に出ていくことが、いかに難しく危険なことなのかが手に取るように伝わってきます。とはいえ、彼が成功して夢をかなえたことが、ガザの子どもたちにとってどれだけの大きな力になったか、想像に難くありません。

『忘れない、パレスチナの子どもたちを』(2022:イギリス)

忘れない、パレスチナの子どもたちを
©Revolution Films 2022

<ストーリー>2021年5月、イスラエル軍の空爆により少なくとも67人のガザの子どもたちが命を奪われた。ニュースを見たイギリス人監督のマイケル・ウィンターボトムは、パレスチナ人監督のムハンマド・サウワーフと協力し、若い犠牲者を追悼するために取材を始める。


ナクバ以降、パレスチナの非武装の人々は日常的な弾圧と断続的な武力攻撃を受け続け、それでも1987年のインティファーダ運動などで抵抗の意志をしめしてきました。2021年にも大規模爆撃とミサイル攻撃が行われ、この時も一般市民が亡くなり、そこには多くの子どもたちが含まれていました。家族への聞き取りによって犠牲者の生前の人となりを映し出していくのがこのドキュメンタリー映画です。「犠牲者、●●人」と数字にすることで記号化や矮小化してはいけない、失われているのは人間の尊厳であり人生であるということが、強く伝わってきます。

◆隔離と支配はガザ以外でも

1948年のナクバで故郷を追われたパレスチナの人々には、レバノンやシリアに逃れた人々もいました。シリアのパレスチナ難民キャンプの厳しい実態をおさめたドキュメンタリーがこちらです。

『リトル・パレスティナ』(2021:レバノン/フランス/カタール)

リトル・パレスティナ
©Bidayyat for Audiovisual Arts, Films de Force Majeure

<ストーリー>シリアのヤルムーク・パレスティナ難民キャンプ。以前はシリアからの援助があったが、道路が封鎖されて食料にも事欠くように。飢えて死ぬ人々、爆撃で破壊された家々、そんななかでも元気そうに希望を語る子どもたち…。人々はキャンプ内をただ歩くしかない。


2011年にシリア内戦が起き、シリアのパレスチナ難民はそれまで以上に厳しい生活を強いられるようになりました。軍による難民キャンプの包囲と道路の分断により、食べるものに事欠き、子どもたちが野草をつむ姿に胸がつぶれます。

監督のアブダッラー・アル=ハティーブはこの難民キャンプの出身。撮影データの入ったいくつかのハードディスクを没収・破壊されないよう手元には置かずに友人に託し、自分も難民キャンプを脱出して海外を転々としながらたどり着いたドイツで難民申請をし、ここで初めてデータを再入手して編集作業に着手できたとのこと。

◆それでもユーモアを

長く逆境にあっても、パレスチナ人クリエイターはユーモアを諦めていません。その強さ、鋭い観察眼、豊かなクリエイティビティに、驚きと賞賛をせずにはいられません。

『テルアビブ・オン・ファイア』(2018:ルクセンブルク/フランス/イスラエル/ベルギー)

テルアビブ・オン・ファイア
© Samsa Film - TS Productions - Lama Films - Films From There - Artémis Productions C623

<ストーリー>エルサレムに住むパレスチナ人のサラームは、 パレスチナの人気ドラマの制作現場で言語指導として働いていた。毎日面倒な検問所を通らなくてはならないサラームはある日、イスラエル軍司令官・アッシに呼び止められ、ドラマの脚本家だと嘘をついてしまう。


本作はイスラエル生まれのパレスチナ人であるサメフ・ゾアビ監督が、彼ならではの視点で、イスラエルでのパレスチナ人のデリケートな状況をコミカルにあぶりだしたコメディです。エルサレムは国連が管理する国際都市として定めていますが実態的にはイスラエルが支配。かつ西と東にわかれていて特に東エルサレムはパレスチナ自治政府にとっては首都なのですが、イスラエルは併合を宣言し入植を進めているという場所です。

そんなシリアスな事実を下敷きにしているからこそ、主人公がヘブライ語に堪能という設定も効果的で、検問所での不条理なやり取りによって物語が転がっていく。逆境をスマートに逆手にとったようなしたたかさとユーモアに感じ入ってしまいます。第75回ヴェネツィア国際映画祭で高く評価され、主演のカイス・ナシェフがオリゾンティ部門の男優賞を受賞しています。

『天国にちがいない』(2019:フランス/カタール/ドイツ/カナダ/トルコ/パレスチナ)

天国にちがいない
©︎2019 RECTANGLE PRODUCTIONS-PALLAS FILM-POSSIBLES MEDIA Ⅱ-ZEYNO FILM-ZDF-TURKISH RADIO TELEVISION CORPORATION

<ストーリー>映画監督のESは新作の企画を売り込むため、ナザレからパリ、ニューヨークへと旅をする。だがどこへ行っても、いつも何かがESに故郷を思い起こさせる。「我々の“故郷”と呼べる場所とは一体何なのか?」、ESの問いは喜劇となり、物語を動かしていく。


ナザレ出身のパレスチナ人映画監督エリア・スレイマン監督、脚本、主演による喜劇であり、「映画監督のESが新作の企画を売り込む旅」というロードムービーでもあります。“現代のチャップリン”と称されるだけあって、本人のセリフはほとんどなく、ただおかしみを含んだたたずまいと動作、そして観察するようにじっと人間をみつめる目が印象的。対照的に周りの登場人物はよく動きよくしゃべります。パレスチナ人である監督のアイデンティティをジャッジしたり、客体化したり、それはもう、それぞれ勝手なもの。

今回のガザ攻撃を知る前であれば、私たち視聴者はそれに苦笑し、豊かな色彩と美しい画面デザインにうっとりし、本人役で登場するガエル・ガルシア・ベルナルに気を取られていたように思います。しかし、今となっては、もしかしたらこれは世界(私たち)が彼(パレスチナ)に押し付けているものを寓話的に描いているのではないか…という気持ちになるのです。

パレスチナの人々の目線で描かれた映画を7作品、ご紹介しました。

報道で知る海外でのニュースは、とかく「●●問題」(今回であれば「パレスチナ問題」)のように記号的な、あるいは「●●万人が犠牲に」といった数値的な捉えかたになってしまいがちなように思います。俯瞰で物事を見るには必要なことですが、それがどういった実態を伴うのか、という観点をもたらしてくれるものとして、当事者目線の映画はおおきな力を持っています。ぜひご覧ください。

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