喜怒哀楽の感情を表に出せない人たちの話は、作っていて面白い━━今泉力哉監督『アンダーカレント』インタビュー
豊田徹也さんの伝説的漫画を繊細で情感豊かな傑作を作り上げた今泉力哉監督に、作品に込めた思いや裏話などを聞きしました。
フランスなど海外でも高い人気を誇る豊田徹也の長編漫画を、今泉力哉監督が実写映画化した注目作『アンダーカレント』が、10月6日(金)に公開されます。夫が謎の失踪を遂げるものの、家業の銭湯を気丈に切り盛りする主人公・かなえに扮した真木よう子さんに、その役どころについてうかがいました。
──オファー前から原作の漫画をご存じだったそうですね。
真木:自分が好きそうな漫画をバーッと買う“漫画のジャケ買い”をよくするんですが、だいぶ昔に買った中に「アンダーカレント」があって。でも私、相当心に残っていないと忘れてしまうので、覚えていたこと自体まれなんですよ。それだけすごく印象的で、最初に読んだ時に「映像化できそうだな」とも思いましたね。
──演じた主人公・かなえという人物をどのようにとらえていましたか?
真木:一言で言うのは難しいな。苦しいからこそ、役者としてはすごくやりがいがあるというか。ただ、こういう人物を演じるにあたって自分までつぶれちゃうと大変なので、メンタルをどう保っていくかは課題でしたね。そこはちゃんとやっていかなきゃと、覚悟はしていました。
──過去のあることによる、彼女自身も気づいていなかったような深い心の傷を抱えている女性ですね。
真木:私は過去のことを完全に忘れているとは思っていなくて、たぶんずーっと違和感はあったんでしょうね。でも他人に気を遣わせたくない子だし、きっと普通に笑って生きていたんだと思います。それもすごく辛かっただろうと。自分というものをずっと認められず、というかわからず生きてきた人間で。
だから撮影中、あるシーンで監督と私の思っていることがちょっとずれていることがあった時、「そこの部分をもう少しきちんと考えてあげないと、役がかわいそうです」なんて、監督に泣きながら懇願したこともありました。こういう映画ってやっぱり、私がかなえちゃんの一番の理解者でなきゃいけないから、役の代弁をしちゃうことが多くて。監督は「面倒くさいから真木さんとやりたくない」と思っているかもしれないけど(笑)。私はすごく尊敬していますけど。でもそれぐらい、苦しみや葛藤をちゃんと表現してあげないとかわいそうだなと思いながら一生懸命、自分ではやったつもりです。
──共演者は、銭湯で一緒に働く堀役に井浦新さん、失踪した夫役に永山瑛太さん、友人役に江口のりこさんなど、気心の知れた心強い方々が揃いましたね。
真木:本当に今回は周りに恵まれて、出てくださってありがたい方ばかりでした。新さんは本格的な共演は2回目ぐらいなんですけど、「こんなに優しい人なんだ!」と。現場にいると、全て悟ったような雰囲気にすごく安心感があって“樹齢何千年の木”みたいな、そんな存在でした。
瑛太とは、戦友みたいな感じ。瑛太という役者が私は大好きで、コイツが出てきたらかなわないと勝手に思っているし、食われる覚悟ではいました。
江口も付き合いが長いんですけど、役というより江口にしか見えなくて。江口がベビーカーを押してる時点で「何してんねん」ってなって、もうダメ(笑)。そんな関係性の彼女が友人役だったからこそ、私のかなえちゃんはそこまで暗くない、ワントーン明るいかなえちゃんでいられたんじゃないかなと思うので、江口で良かったなとすごく感謝しています。
『アンダーカレント』
10月6日(金)全国公開
家業の銭湯を継ぎ、夫の悟とともに順風満帆な日々を送るかなえ。しかし突然、悟が失踪する。途方に暮れていたかなえだったが、なんとか一時休業していた銭湯を再開させる。数日後、堀と名乗る謎の男が、銭湯組合の紹介を通じて「働きたい」とやって来る。その日から、住み込みで働くことになった堀とかなえの不思議な共同生活が始まる。友人・菅野から紹介された胡散臭い探偵・山崎とともに期間限定で悟を捜しはじめたかなえは、悟の知られざる事実を次々と知ることに。それでも、堀と過ごす心地よい時間の中で、穏やかな日常を取り戻しつつあったかなえ。だが、あることをきっかけに、悟、堀、そして、かなえ自身も閉ざしていた、心の奥底に沈めていた想いが、徐々に浮かび上がってくる。それぞれの心の底流(アンダーカレント)が交じりあったその先に訪れるものとは——。
■出演:真木よう子、井浦新、リリー・フランキー、永山瑛太、江口のりこ、中村久美、康すおん、内田理央
■監督:今泉力哉『愛がなんだ』『ちひろさん』
■音楽:細野晴臣『万引き家族』『メゾン・ド・ヒミコ』
■脚本:澤井香織『愛がなんだ』『ちひろさん』、今泉力哉
■原作:豊田徹也『アンダーカレント』(講談社「アフタヌーン KC」刊)
■製作幹事:ジョーカーフィルムズ、朝日新聞社
■企画・製作プロダクション:ジョーカーフィルムズ
■配給:KADOKAWA
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