Xにて映画紹介などをしているゆいちむが、U-NEXTで観られる“とりあえずこれ"なSFホラー映画を厳選して紹介します。
ホラー映画と一口に言っても、殺人鬼にゾンビ、悪霊などさまざまなサブジャンルが存在します。今回はその中でも「SFホラー」に絞って作品をご紹介します。
SFホラーといえば、ジャンルの確立に大きく貢献した金字塔的な作品『エイリアン』(1979)を思い浮かべる方も多いでしょう。
しかし、その魅力は単に地球外生命体による恐怖にとどまりません。
科学技術の暴走、異次元からの脅威、そして現代社会への鋭い警告。
サイエンス・フィクションが生み出す柔軟な世界観は、時に私たちの常識を揺さぶり、新たな刺激と興奮をもたらしてくれる未知なる楽しみが盛り沢山です。
この記事を通じて、そんなSFホラーの世界の水先案内ができましたら幸いです。
平凡なアメリカの高校で、突如として奇妙な異変が起こり始める。
教師たちはまるで別人のように冷酷で不気味な振る舞いを見せるようになり、やがて彼らが正体不明の寄生生物に支配されていることが判明する。
さらに、この寄生生物は人間の人格までも支配し、驚異的な速さで侵略を広げていく。
異変に気づいた数名の生徒たちはこれまで互いに接点がなかったものの、生存のために力を合わせ、この静かな侵略に立ち向かうことを決意する。
ハイスクールという日常的な舞台に潜む未知の恐怖に、ティーンエイジャーならではの葛藤や人間関係を巧みに絡めた真っ当すぎる学園SFホラー。
ホラー版の『ブレックファスト・クラブ』(1985)と言っても良いほどに、キャラクターの成長や人間関係の描写に深みがあるのが特徴です。
隣人はすでに寄生されているのでは?
正常なのは自分たちだけ?
こういった疑心暗鬼はサイレント・インベージョン定番のお楽しみ要素です。
寄生の有無をチェックするための「ブラッド・テスト」ならぬ「ドラッグ・テスト」もあります。
青春映画とホラーが見事に融合した作品で、中盤以降にはややハードなホラー展開があるものの幅広い層におすすめしやすい一本かなと。
未知の恐怖と青春の輝きが交錯するこの作品、ぜひ体験してみてください。
深夜のパトロール中、保安官は血まみれの男を発見し、近くの人里離れた病院へと連れて行く。
だがその病院では次々と異様な現象が発生し、連絡手段は断たれ、さらに外部は白装束のカルト集団に包囲されてしまう。
やがて悲鳴に包まれていく病院……この閉ざされた空間で、果たして何が起こっているのか?
80年代映画への愛とオマージュに満ちた低予算ホラーを世に送り出しているカナダの映像制作集団アストロン6によるハイブリッドホラー。
白装束のカルト集団に包囲されクローズド・サークルと化した病院で、主人公たちがSANチェック(ゲーム用語。クトゥルフ神話TRPGにおける正気度判定のこと)に見舞われまくるというホラー好きの“大好き"が詰まった一本。
病院、クローズド、カルト集団、クリーチャーと、心躍る要素がてんこ盛りです。
画面の暗さや点灯によって、やや見づらいというホラーらしいウィークポイントはありますが、手数の多さで結末まで全く飽きさせません。
きっと想像以上のスケール感に思わずニヤリとしてしまう、およそ90分間の地獄めぐり。
作り手のホラー愛を感じながら、楽しんでみてください。
経済危機で失業したネイダは職を求めてロサンゼルスへと辿り着く。
そこで彼が偶然手に入れた特殊なサングラスを通して目にしたのは、日常の風景に潜む恐ろしい真実だった。
広告掲示板や雑誌には「服従せよ」「消費しろ」「考えるな」などのサブリミナル・メッセージが隠され、支配階級のエリートたちに紛れ込んだエイリアンたちが人間を消費主義に浸らせてコントロールしていたのだ。
真実を知ってしまったネイダは、この陰謀に立ち向かうことを決意する。
「気付いたら侵略されてた」
こんなにゾッとすることってなかなか無いです。
特殊なサングラスを着用したことにより、エイリアンの侵略と陰謀が可視化されるようになってしまった男が直面する恐怖を描いた作品。
エイリアンによるサイレント・インベージョンを描くこの物語は、今もなお社会的メッセージ性を強く感じさせます。
SNSで政治不信や貧富格差に関するポストやプロモーションを目にしない日はない現代、この映画はより一層輝きを増していると言えるかもしれません。
単なる娯楽にとどまらず、不安を掻き立てるメッセージを以て社会への警告を鳴らす一本。
観終わった後、日常の景色がいつもとは違って見えるかもしれませんよ。
また、映画史上においても稀な、約6分にもおよぶ迷プロレスシーンも必見です。
人の意識を乗っ取る暗殺者タシャは、特殊なデバイスを駆使し、ターゲットに近しい人間の意識に入り込むことで暗殺を遂行するプロフェッショナル。
彼女はホストの人格を完全にハックし、ターゲットを排除した後、ホストを自殺に追い込むことで任務を完了する。
しかし、あるミッションをきっかけにタシャ自身の中でアイデンティティが揺らぎ始め、現実と自身の存在が次第に崩壊していく。
本作は『ビデオドローム』(1982)や『ザ・フライ』(1986)で知られる巨匠デヴィッド・クローネンバーグの息子、ブランドン・クローネンバーグによる作品です。
自分が「誰なのか」分からなくなる恐怖と、人間の意識やアイデンティティの脆さを描き、観る者の想像を容易に超えてくる世界観が魅力的です。
ホラー版の『インセプション』(2010)などと形容されることも多いですね。インセプションがこんなに便利な単語だと感じたのはこれが初めてかもしれません(笑)。
他者になり代わる行為が主人公の精神に与える影響や、そこから生じる苦痛と葛藤が物語の根幹を成しています。
テーマのみならず、感覚的にもかなり新しい試みをやっている作品ですが、特筆しておきたいのは“回転する白いほこり"の描写。
あのゾワゾワしてしまうような嫌悪感はしばらく忘れられませんでした。あの時感じたストレスは他ではなかなか体験出来ないかと。
タイトル「POSSESSOR=所有者」の意味に考えを巡らせながら、他者との境界が曖昧になる恐怖と、自分自身を見失う絶望感を体験してみてください。
見渡す限り氷に囲まれた白銀の大雪原をヘリコプターに追われる一匹の犬。
逃げ込んだアメリカの南極観測基地では、追跡してきたノルウェー隊員が犬に向かって銃を乱射。
混乱の末に彼を撃ち殺した隊員たちは、やがてその行動の理由を知ることになる……。
南極観測基地という極限のクローズド環境へ、人間に擬態しなり代わるタイプのエイリアンが異物混入してしまうホラー色の強い一本。
極限まで高まる人間不信と疑心暗鬼、卓越した特殊メイクが観る者を恐怖と緊張の沼へと誘います。
冒頭に映し出される「1982年冬 南極大陸」のテロップ、その瞬間から漂い始める不穏な空気にきっと引き込まれてしまうはず。
思わずギョッとしてしまう暴れん坊な特殊メイクと、水面下で徐々に仲間が侵略されていく動と静のコントラストが、凄まじい緊張感を生んでいます。
とりわけ「ブラッド・テスト」と呼ばれる寄生チェックの場面などはまさに一触即発、身構えていようともビクリとしてしまう名シーンとなっています。
これから先も色褪せることなく、SFホラー基準の一本として語り継がれるであろう不朽の名作です。
ちなみに前日譚にあたる『遊星からの物体X ファーストコンタクト』(2011)もU-NEXTにて配信中ですので、気に入った方はこちらもチェックしてみてくださいね。
SFホラーはモンスターパニックのように圧倒的な娯楽性を有する作品から、社会風刺を巧みに織り交ぜた現実への警鐘、さらには『ポゼッサー』のような思考実験的な物語で人間の深層心理を揺さぶる作品まで、多種多様な魅力に富んだジャンルです。
今回ご紹介した『ポゼッサー』(2020)を手掛けたブランドン・クローネンバーグ監督は、この後『インフィニティ・プール』(2023)というまたまた挑戦的な作品を発表しています。
「いかなる罪もクローンに肩代わりさせることが出来る」という、倫理観を根底から揺さぶる架空のリゾート島を舞台にした物語は、ジャンル映画の新たな地平を切り開いたようにさえ思えます。
あらゆる病巣が露わになりつつある現代、SFホラーの未来は、エンタメとしての快楽か、それとも深遠なテーマへの挑戦か……その進化からも目が離せませんね。
最高の娯楽でありながら、未知の体験と鋭い問いを私たちに投げかけ続けるSFホラーというジャンル。
これから生まれる未来の名作に期待を込めつつ、ぜひ今回ご紹介した作品群を通じて、その多彩な魅力に触れてみてください。
2024年に観た作品の中で、最も記憶に残っている、人におすすめしたい作品を岡村美波(BEYOOOOONDS)さんに聞きました!