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Xにて映画紹介などをしているゆいちむが、思わずゾクリとしてしまうヒトコワ映画を厳選して紹介します。
愛が狂気へと変わる瞬間や、善意が呪いへと転じる過程……そんな人間的な怖さには、時に背筋を凍らせるような恐怖が宿ります。
「なんやかんや人間が一番おっかない!」
今回はそんな"ヒトコワ"とも言える作品をピックアップしてみました。
一部ネタバレを含んでいますので、ご了承ください。
1950年代ロンドン。天才仕立て屋として社交界から脚光を浴びるレイノルズは、若きウェイトレスのアルマと出会い、彼女をミューズとして美の世界へと迎え入れる。
理想のモデルと出会い、これまでにも増して情熱的に作品を創り上げていくが、アルマによって完璧だったレイノルズの日常は徐々に崩壊。
やがて二人の関係は愛と依存、支配が絡み合う禁断の領域へと突き進む。
映画好きの間では通称“PTA”として親しまれている映画監督ポール・トーマス・アンダーソンが手がける、美と狂気の交錯するアブないラブストーリー。
主人公のレイノルズは完璧主義者です。例えば、彼にとって朝食の静寂は神聖なものであり、食事中のわずかな雑音ですら強烈なストレスを感じるほど。
この神経質さは単に性格的なものではなく、彼の世界を守るためのものです。
その完璧な世界は、時に愛するアルマさえも拒絶します。
彼女が従順な存在でいることを拒み始めた中盤以降、物語は不穏な空気に包まれます。
なんとアルマは、彼の食事へ毒を盛るのです。
これは自分を彼にとって不可欠な存在へと昇華させる策略。
しかし、本作の恐ろしさはむしろここから、レイノルズはアルマに支配されることに安らぎを感じるのです。
彼の完璧主義が崩れる瞬間、彼は初めて「愛されること」を実感する。
そしてレイノルズはアルマが毒を盛ることを知りながら、それを受け入れる。
愛するがゆえに相手を傷つけ、支配する……それこそが本作における恐怖。
依存を超えた究極のラブストーリーとも言えますが、一歩引けば、そこには愛に名を借りた支配の恐ろしさが透けて見えるのです。
イベント会社に勤める田母神は、合コンで弱小YouTuberのゆりちゃんと出会う。
再生数は伸び悩むものの、ゆりちゃんを手伝う田母神は彼女の良きパートナーとなっていく。
しかしある日、ゆりちゃんは人気YouTuberとの体当たり系コラボによって突然バズってしまう。
恋が芽生える予感から一変、物語は予想外の方向へと転落していく。
田母神演じるムロツヨシが微笑む無害そうなジャケットに騙されると大ヤケドを負うので注意してください。
主人公である田母神は親身になってゆりちゃんを支援するも、彼女は成功を掴んだことによって彼のサポートを必要としないステージへと上昇していく。
田母神の中で善意だったはずのものは歪み、いつしか呪いとなって彼女を攻撃します。
一方のゆりちゃんも単なる被害者ではありません。
彼女は田母神の支援に対して、その恩義に応えることなく彼を切り捨てます。
単に距離を置く行為かもしれませんが、田母神にとっては裏切りなのです。
こういったすれ違いはファンがアンチへと変わる瞬間とも言え、営利目的のサービス提供者は肝を冷やすはずです。
人は誰しも多かれ少なかれ、何かを期待して他者と関わっているのではないか?
そして、その期待が裏切られたとき、人はどこまで醜くなれるのか?
壊れていく田母神を通じて支援する側、される側の両者へ痛烈な問いを投げかけています。
フランスの小さな町に暮らす男性フランソワは、美しい妻のテレーズと幼い二人の子供に囲まれ幸福な生活を送っている。
彼の人生は幸福に満ちていて、どこから見ても理想的な家庭像だ。
しかし、郵便局で働く女性エミリーとの出会いが、夫婦に影を落とす。
彼は妻を深く愛しているが、それと同時にエミリーのことも愛してしまったのだ。
この作品の恐ろしさは、主人公の異常なまでの無邪気さにあります。
彼は決して悪意のある男ではありません。
むしろ優しく誠実で家族を愛し、誰かを傷つけようとする意思は無いのです。
「ただ、愛を禁じるのはバカげてる」
しかし、彼の価値観はあまりにも自己中心的で妻の苦しみを理解することはありません。
その結果として妻が死に至ることになっても。
そして極めつけは、彼が新しい女性を妻に迎えても、家族の形が何事もなかったかのように維持されることです。
つまり、テレーズの存在は「代替可能なもの」として扱われ、フランソワの幸福は続いていきます。
世界は死者を悼むことはあっても、やがて何事もなかったかのように回り続けるのかもしれない。
『幸福』はその残酷な真実を色鮮やかに、そして冷徹に突きつける恐ろしい作品です。
東京でファッションデザイナーを目指す小夜のもとに、故郷で暮らす姉から婚約の知らせがあった。
祝福の言葉を送るも相手の名前を聞いた瞬間、彼女は戦慄する。
それは、8年前に小夜をレイプした加害者の男性だった。
混乱の中で帰郷した小夜を中心に、静かな田舎の中で人間の業、過去の罪、抑圧された感情が露わになり、まるで地獄のような光景が広がっていく。
かつて自分をレイプした加害者と、身内が婚約するという衝撃的な設定の本作ですが、まず人々の異常なまでの低俗さにため息が出るはずです。
舞台となる田舎町は、因習村のような排他的な狂信や儀式めいた恐怖とは無縁です。
しかし、彼らの世界はあまりに狭く、澱み、停滞しています。
小夜にとってのトラウマは数年に渡って語り継がれ、酒の席では猥雑なコミュニケーションの道具にされる。
この幼稚で鈍感な感覚は、血を流す暴力とは異なる陰湿な悪意に満ちています。
しかし、特筆すべきは怪物的な人間の恐ろしさです。
虫唾が走るような登場人物が多い上、性被害や贖罪の要素も濃厚で、感情の着地点を見失いそうになりますが、最終盤では物語の核とも言える部分が明らかになります。ここはあまりにグロテスク。
隠されていた別の復讐が露わとなり、物語の再解釈を迫る「ひとこと」の破壊力……ぜひ味わってみてください。
本当の怪物は誰なのか?
純粋な善人は存在したのか?
それは仕組まれた余白と共に、疑問を残し続けるのではないでしょうか。
もしもヒトラーの姿をした男が突如街に現れたら?
現代のドイツに突如現れたヒトラーの姿をした男。
モノマネ芸人と思われた彼は、そのカリスマ的な演説で大衆の注目を集め、SNSやテレビを通じて再び支持を集め始める。
しかし、皆気づいていなかった……彼がタイムスリップしてきた“ホンモノ”であることを。
「もしもヒトラーが現代に転生したら?」というシミュレーションを通じて、人間社会の危うさを描いた作品です。
これほど「冷や水を浴びせる」的な映画体験ができる作品も珍しい。
この映画の最大の恐怖は、「人々がヒトラーの言葉に共感し始める瞬間」にあります。
最初はジョークとして受け入れられていたヒトラーの言葉が、現代の政治不信や社会不満にフィットしてしまい、多くの支持を集めていく。
この過程は、ナチス・ドイツが1920年代から1930年代にかけて国民の支持を得ながら躍進していった歴史とも重ねて見えます。
映画の登場人物たちだけでなく、観客自身もまた彼の言葉に引き込まれてしまう点も恐ろしいです。
ヒトラーは理路整然と語り、時にユーモアを交えながら、いかに現代社会が腐敗しているかを指摘します。
誰しも少なからず共感できる点があったのではないでしょうか。
その感覚こそが、この映画の仕掛けた最大の罠であり、人間が独裁者を生み出してしまう恐ろしさを実感させるポイントと言えます。
ナチズムやファシズムは歴史の遺物などではなく、現代社会にも簡単に復活する可能性があることを、映像体験を通じて容易に証明してしまう最恐ランクの作品と言えるでしょう。
幽霊やクリーチャーに対する恐怖は、存在を否定してしまえばひとまず払拭できます。
しかし、現実と地続きと言える人間の怖さは、私たちが社会に生きている限り完全には切り離すことができない恐怖と言えます。
もしかすると、すでにあなたのすぐ隣にも潜んでいるのかもしれない。
そして、あなた自身もまた……なんてね。
あなたにとって、一番ゾクリとした作品はどれでしたか?
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