「止める」技術が頂点へ導く——プレミア挑戦の菅原由勢が語る、風間監督から学んだサッカーの真髄
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「止める」技術が頂点へ導く——プレミア挑戦の菅原由勢が語る、風間監督から学んだサッカーの真髄

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高度な技術と戦術が交錯する現代サッカーの世界。その最高峰であるプレミアリーグで奮闘する日本人選手たちの姿に、私たち日本のサッカーファンは熱い視線を送っています。中でも南野拓実、吉田麻也らに続き、2023-24シーズンからサウサンプトンでプレーする菅原由勢選手の活躍には目が離せません。

プレミアリーグデビューを果たしたばかりの菅原選手に、かつての恩師である風間八宏さんが特別インタビューを実施。高校時代に名古屋グランパスのユースで師弟関係を築いた二人の対話からは、日本サッカーの技術的優位性と海外で戦うための心構えが浮かび上がってきました。

恩師との再会に思わず「ビビりました」

「監督、お久しぶりです」

突然の風間さんの声に、菅原選手は驚きを隠せません。

「ちょっと今ビビってます。マジですか?風間さんですか?」

かつて名古屋グランパスで風間八宏監督のもとでプレーし、17歳でプロデビューを果たした菅原選手。オランダのAZを経て、現在はプレミアリーグのサウサンプトンでキャリアを積み重ねています。久しぶりの恩師との対話に、最初は驚きながらも徐々にリラックスした表情を見せていきました。

「あの、僕もこうなりたいとは思ってましたけど、こんな風になれるとはあんまり想像はできてなかったんで」と菅原選手。一方の風間さんは「高校生の時から時間が飛んだけど、すごいプロフェッショナルだったね」と成長を認める言葉を贈ります。

ボールを止める——グランパス時代から変わらない技術の核心

会話が進むにつれ、風間さんからある発見が語られました。

「びっくりしたの。ボールがすごい止まるようになってるね」

風間さんの言葉に菅原選手は「本当ですか?」と少し意外そうな反応。しかし、その後の言葉からは、風間さんから学んだ「ボールを止める」技術の重要性が今も彼のプレーの核になっていることが見えてきます。

「お世辞でもなんでもないんですけど、監督からずっと止めることの重要性とか、ただ止めるっていうことだけが大事じゃないとかっていうのも、やっぱ高校生の時にすごい教えてもらって」

菅原選手によれば、ボールをしっかり止められれば、どんなレベルの高いリーグでプレーしても本質的には変わらないといいます。オランダに移籍した際も、その技術があれば自信を持ってプレーできると実感したそうです。

「もちろんプレミアリーグに来たらプレスももちろん早いし、前とかもやっぱり感覚も違うんですけど、ボールさえしっかり止められて相手を止めて見ることができたら、プレーの選択肢も全然広がるし、プレスが変わっても変わらないなっていう部分もあるんで」

名古屋グランパスでの経験を振り返る菅原

17歳のセンターバックから世界へ——突然のポジション変更が導いた可能性

二人の会話はグランパス時代の思い出へと移ります。菅原選手がトップチームに上がるきっかけとなったのは、当時行われていた沖縄キャンプでの試合。風間さんは試合後半、当時サイドバックだった菅原選手をセンターバックとして起用しました。

「まさか自分がこっからこうセンターバックとしてファーストチームに行くなんて思ってなくて」と菅原選手。ところが、キャンプ終了後にトップチームの練習参加を命じられ、そこでもセンターバックとしてスターティングメンバーに入れられたのです。

「練習前にボードを見た時に、なんか見慣れない番号がそのセンターバックのところにあって。『あ、これ、え、俺なのかな』と思ったら僕で」

風間さんはこう説明します。「やっぱりサイドバックもできるのわかってたけども、そこじゃないところでもやっぱり、頭の中を変えてほしいなっていうのが1つと、それからその後ろのポジションやるとグランパスの場合はどうしてもスピードが必要になるじゃない?そこができるんじゃないかな、と思って」

そして菅原選手は見事にそのチャンスを生かします。デビュー戦で「試合中はもう本当にやばいな、プロのレベル高いなっていうのは、少しは感じながらやってました」と振り返りながらも、「もし失点に絡んだりとか、うまくいってもうまくいかなくても、もうたかがデビュー戦だし、こっから自分の評価は変えていけると思ってた」という冷静な思考も持ち合わせていました。

先駆者として道を切り拓く——若手選手の活路を開いた菅原の存在

風間さんは当時の菅原選手の存在が、名古屋グランパスにおける若手起用の先駆けになったと振り返ります。「スガ(菅原選手の愛称)が最初に出たことによって、その後みんなプロ続いたよね」という言葉に、菅原選手も「僕の世代でも4、5人そのままプロの世界入りましたし、後輩もかなり続きましたね」と応じます。

菅原選手自身も後輩たちに対し、「風間監督の評価基準というか、本当に練習参加とかしたとしても、なんかいいプレーをしたりとか、やっぱ実力があるってところを見せたら絶対チャンスもらえるから」と伝えていたそうです。

風間さんは「もちろんそのトップが本当の育成だから最後のところね。それはすごく大事なんで、でもそれはそういう選手得ないとできない。で、やっぱり菅がすぐ最初にそれを表現してくれたからね。やっぱりそこの強い心臓がやっぱり一番みんなに影響を与えてくれたと思うよ」と菅原選手の存在の大きさを強調します。

プレミアリーグでの挑戦——同じ技術でも求められる違い

現在プレミアリーグで戦う菅原選手。そこでのサッカー環境についても語りました。

「全然違う感覚はありますね、やっぱり。とにかく選手の質も違うし、サッカーに対するお客さんもそうだし、クラブのお金のかけ方だったり、どれだけサッカーっていうものがイギリスの中で大切なものというか大きいものなのかっていうのもすごい感じますし」

サウサンプトンでは主にウィングバックとしてプレーしている菅原選手。監督からは「とにかく攻守に関わり続けるというか、運動量を持って肺活停止でプレイするっていうところはすごい求められてる部分」だと言います。サイドからのクロスやワンツーでのボックス侵入など、攻撃的な局面でも期待されているようです。

しかし風間さんが「もう少し自由に中入ってくとか、そういうことはあんまり許されない?」と尋ねると、菅原選手は戦術的な制約も感じていると答えます。「戦術的に好まないというか、ウィングバックはウィングバックの位置にいてくれっていう指示というか戦術でもあるんで、葛藤しながらやってる部分もあります」

加入初年度ながら確かな出場機会をつかんでいる菅原
加入初年度ながら確かな出場機会をつかんでいる菅原

成長と挑戦を続ける姿勢——多様な監督から学んだサッカー観

現在まで6人の監督とプレーしてきた菅原選手。それぞれの指導者から学んだものについて「本当に各監督が持っていた、その指導者としての選手の向き合い方の価値観だとかサッカーへの価値観っていうのは毎回新しいなと思って、勉強というか次に持ち越しというか自分の中で吸収させてもらってるので、本当に年々サッカーが楽しくなっていってるなっていうのは感じますね」と語ります。

その言葉から、どんな指導者からも学ぶ姿勢と、自分自身のプレーを常に改良していこうという前向きさが伝わってきます。

そして今もなお、プレミアリーグでプレーする中で「止める」技術の重要性を実感しているといいます。「やっぱプレスも早いしスペースも少ない中で、やっぱちょっとでもズレたりとか、じゃちょっとでもファーストタッチが浮いたりするともう一気に状況が変わるというか。それこそ監督もよくゴール前のとこで止めてから、じゃあ、受け手の外す動きを、その、タイミング合わせるというとこもそうですけど」

その言葉に風間さんも「時間を止めるっていうのは技術だから」と深く頷きました。

「もっとよくやった」と言われるための挑戦

インタビューの最後には温かい言葉が交わされます。風間さんから「みんな応援してるから」という言葉を受け、菅原選手は「風間監督からは多分よくやったって言われることは多分ないとは思うぐらいのパフォーマンスなんで、ちょっとぐらいはよくやったって思われるぐらいのパフォーマンスができるように頑張りたいですね」と返します。

かつて名古屋グランパスで共に汗を流した島岡健太氏や堀尾京介氏らのスタッフも、今は風間さんのもとで働いているといいます。菅原選手は彼らのことも懐かしく思い出し、「居残り練習も本当に死ぬほど付き合ってもらったんで感謝しかないです」と感謝の言葉を述べました。

風間さんの「やった分しかうまくならないからね」という言葉に、菅原選手は「間違いないです、それは嘘じゃないっすね」と力強く応えます。

この対話から、菅原選手が名古屋グランパス時代に風間さんから受けた指導が、プレミアリーグというサッカーの最高峰においても活きていることが伝わってきました。基礎技術を大切にしながらも、与えられた環境で常に成長を続ける姿勢——それこそが真のプロフェッショナルの姿なのかもしれません。

今後も世界の舞台で戦い続ける菅原選手から目が離せません。


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