サッカー日本代表は、日本時間9月7日に世界ランク13位のメキシコ、9月10日に同15位のアメリカと強化試合を行う。来年に迫ったW杯の開催地でもある、アメリカに遠征しての連戦。本戦に近い時差や気候、環境の中で戦う、重要なシミュレーションの機会としても注目されている。
多くの選手がプレーするヨーロッパの最前線に自ら足を運び、チームの強化を進める森保一監督は何を見据えているのか。代表監督という仕事の定義から、チーム戦術、そして未来への展望まで。U-NEXTのラ・リーガ中継でもおなじみの小澤一郎が聞き手となり、独占インタビューで訊いた。
──ヨーロッパのリーグが開幕し、多くの日本人選手が活躍しています。監督ご自身も、普段からプレミアリーグやラ・リーガのビッグマッチはご覧になりますか?
森保:見ますね。ビッグマッチは基本的に、日本人選手が出場している試合を中心に見ています。
──そういった試合は、スカウティング用のソフトではなく、ライブでご覧になるのですか?
森保:U-NEXTは本当によく見ています。様々なツールで世界のサッカーを観戦できますが、やはりライブで見ることも大切にしているので、U-NEXTはライブ観戦の際によく利用させてもらっていますね。
──ヨーロッパへ視察に行かれた際のお話も伺わせてください。日本人選手の所属クラブへ足を運ばれると思いますが、最近の視察で「この監督のトレーニングは面白い」あるいは「このクラブはこんなテクノロジーを導入していた」といった発見はありましたか?
森保:実は、最近はトレーニングを見ていないんです。ヨーロッパでは金・土・日とリーグ戦があり、月曜日に試合があるリーグもあります。さらに火・水曜日にはチャンピオンズリーグやヨーロッパリーグ、カンファレンスリーグが開催され、各国のカップ戦もある。ほぼ毎日どこかで試合が行われているので、最近は練習を見させてもらう機会はほとんどないですね。
──たとえば、レアル・ソシエダの育成などは、日本のサッカー界にも大いに参考になる部分があるかと思います。彼らの育成年代のトレーニングや試合をご覧になったことは?
森保:いえ、ないですね。知り合いから情報はもらったりしますが。逆に、どういったところが良いのでしょうか?
──レアル・ソシエダが拠点とするギプスコア県は人口約72万人、ホームタウンのサン・セバスチャンに至っては20万人弱です。日本で言えば、徳島県からJリーグクラブが生まれ、そこからスター選手を輩出しているようなイメージです。そうしたクラブが日本にも出てきたら面白いなと。
森保:トレーニングの内容を具体的に把握しているわけではありませんが、おっしゃる通り、育成からトップチームへ選手を育て上げるプロセスにおいて、日本との違いを感じる部分はあります。もちろん日本でも実践しているチームはありますが、ヨーロッパでは育成が育成年代だけで終わらず、「トップチームで使って初めて育成は完結する」という考え方がより徹底されているように感じます。プロへと続くルートの最終到着点が違う、という印象ですね。
それから、スペインの方々と話していて感じるのは、あらゆる局面における「言語化」能力の高さです。皆さん説明が非常に上手で、わかりやすい。指導者養成の段階から、どのポジションがどういう役割を担うのか、この局面はどう説明できるのか、といった言語化が徹底されています。これは、日本がもっと進めていかなければいけない部分だと感じますね。
──「言語化」という点で興味深いのが、スペインでは代表監督を「Seleccionador(セレクショナドール/選ぶ人)」、クラブの監督を「Entrenador(エントレナドール/指導する人)」と呼び、単語も定義も異なります。森保監督もJリーグの監督を経験され、今は代表監督を務められていますが、ご自身の中で「代表監督の仕事」を改めてどう定義されていますか?
森保:私の中では、クラブの監督も代表監督も本質は同じだと捉えています。どちらも「日本のためになる」という思いが根底にあります。日本代表であれば、チームの勝利と日本サッカーの発展のために仕事をする。Jリーグのクラブであれば、チームの勝利はもちろん、ホームタウンという地域のために戦い、それが結果的に日本のためになっていく。
さらに言えば、監督としての仕事は、選手の価値を上げ、成長を促し、チームの価値を高めること。そして、サッカーというグローバルスポーツを通して、その地域や、おこがましいかもしれませんが、国の価値を上げていくことだと考えています。
──スペイン語の「Seleccionador」が「選ぶ人」を意味するように、代表監督はトレーニングをする時間よりも、選手を選ぶ作業に多くの時間を費やすかと思います。その点は実感されていますか?
森保:そこはおっしゃる通りですね。選手たちの日々のパフォーマンスをいかに見て、頭の中でパズルを組み合わせていくか。そして代表活動に招集し、わずか2、3日後には試合に臨まなければなりません。トレーニングを重ねてチームを熟成させていくクラブとは、その点が大きく異なります。まさしく「選ぶこと」が仕事ですね。
──スカウティングの際、選手が所属クラブで見せているポジションやプレーを、そのまま代表チームに持ち込みたい、というインスピレーションを受けることはありますか?
森保:基本的には、選手が普段やっていることを、いかに代表チームで活かせるかを考えています。もちろん、過去の経験や選手の特性を考慮して、普段とは違う役割を求めることもありますが、慣れ親しんだプレーをしてもらう方が、選手はよりストレスなく、思い切ってプレーできるのではないかと。できる限り、その形を目指したいと思っています。
──メディアはわかりやすさから「3バックですか? 4バックですか?」とシステムを二者択一で問いがちです。しかし現代サッカーでは、試合の中でシステムが可変していくのが当たり前になっています。
森保:そうですよね。特にスペインにいらっしゃれば実感されると思いますが、基本システムが4-3-3や4-2-3-1だとしても、試合の中ではSBの上がり方や6番の関わり方で…など、陣形は常に変化していますよね。
──スペイン現地では、たしかに「システムがどちらか」といった議論はあまりされません。
森保:まず、自分たちが主体的になるために、どの選手がベストなのか。そして、相手との噛み合わせをどう考えるか。相手に合わせるだけ、というのはあまり好きではありませんが、相手を上回るためにどういう選手起用をすべきか、という観点からシステムは自ずと決まってくるものだと考えています。
また、選手たちにはミーティングの段階から、システムが可変することは常に伝えています。スタートのシステムは分かりやすく提示しますが、ピッチ上ではローテーションしながら形が変わっていくことを想像してもらえるように働きかけているので、システム自体に固執しているわけではないですね。
──今回のメンバーでは、ボランチの守田英正選手、田中碧選手が不在です。彼らは即時奪還のキーマンでもあるため、少し不安が残るのですが、今回招集した選手たちで、敵陣でボールを奪い返すことは可能だとお考えですか?
森保:おっしゃる通り、田中碧も守田も、これまで代表を引っ張ってきてくれた中心選手ですから、彼らの不在がチーム力に影響しないわけはありません。ただ、記者会見でもお話ししたように、彼らの怪我は非常に残念ですが、起こってしまったことに対して、次に出てくる選手たちの存在を楽しみにしたいと思っています。
新たにチャンスを得た選手たちが、これまでのコアメンバーを追い抜くかもしれない。あるいは、新たな融合によって化学反応が生まれるかもしれない。ネガティブな出来事ではありますが、ポジティブに転換することは可能だと考えています。
即時奪還、つまり攻から守、守から攻への「切り替え」の部分は、これまでの全ての活動において、最も重要な部分だと選手たちに伝えてきました。どの選手が出ても、そのコンセプトは共有されています。メキシコ、アメリカという強豪相手にどこまでできるかは分かりませんが、トライしていきたいです。
──ワールドカップまで1年を切りました。この9月のアメリカ遠征2試合で、チームとして何を試したいですか?
森保:まずは選手たちが、この舞台でどれだけやれるかです。チーム戦術の中で、選手ができるだけストレスなく思い切って機能できるように促しながら、メキシコ、アメリカという強豪相手に自分の現在地を感じてもらいたいと思っています。
怪我人が多いのも事実ですし、その選手たちが全員戻ってくるかも分かりません。そうした中でチームを底上げしていくことは、日本代表にとっても、日本サッカー界にとっても、絶対にプラスでポジティブなことです。経験の浅い選手たちには、臆することなく自分の特徴をぶつけて、自信を深めてほしいですね。
──ぜひ、またスペインにいらした際にはバレンシアにも遊びに来てください。美味しいパエリアをご馳走しますよ。
森保:ぜひぜひ。できる限り現地の美味しいものは食べたいなとは思っています。レアル・ソシエダの試合に行った時などは、美味しいレストランというより、スタジアムのフットボールバーガーのようなものをかじりながら観戦することが多いですけどね(笑)。
【第1戦:日本 vs. メキシコ】
配信日時:2025年9月7日(日)AM 11:00 K.O
配信形態:U-NEXT月額会員、およびサッカーパック加入者は追加料金なく視聴可能
会場:オークランド・コロシアム(オークランド/アメリカ)
【第2戦:日本 vs. アメリカ】
配信日時:2025年9月10日(水)AM 8:37 K.O
配信形態:無料(U-NEXTアカウントを所持していなくても視聴可能)
会場:Lower.com フィールド(コロンバス/アメリカ)