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第95回アカデミー賞®で作品賞をはじめ、主演女優賞や助演男優賞など最多の7冠を受賞した話題沸騰の映画『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(以下、エブエブ)。
SFやコメディ、アクションなどが入り混じった奇想天外なストーリーの本作を制作したのは、今もっとも勢いのある映画制作・配給会社「A24」。今回はこの『エブエブ』の魅力はもちろん、『ミッドサマー』など画期的な作品を数多く輩出し続けているA24の代表的な作品もピックアップしてお届けします。
『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』は、ダニエル・クワンとダニエル・シャイナート(通称「ダニエルズ」)が脚本・監督を担当し2022年に公開されたアメリカ映画です。物語は、コインランドリーを経営するアジア人女性エヴリン・ワンが、夫ウェイモンドに乗り移った「別のユニバース(宇宙)の夫」にマルチバース(全宇宙)の命運を託されてしまうというもの。カンフーの達人である「別のユニバースのエヴリン」を召喚し、マルチバース最大の脅威であるジョブ・トゥパキとの戦いに挑むエヴリン。しかしジョブ・トゥパキの正体は、なんと別のユニバースの娘・ジョイだったのです。
……と、本作のあらすじを文章にしてみたところで、何のことやらさっぱりわからないかもしれません。でも、一度見始めたら最後、笑いやアクション、SFファンタジーなど、あらゆるジャンルがてんこ盛りになったスピード感あふれるシーケンスの応酬によって、この荒唐無稽かつ複雑怪奇なストーリーが頭にすんなり入ってくるから不思議。気づけば作品世界に没頭し、最終的には「家族とは何か?」について深く考えさせられたうえに涙腺まで緩んでしまうという、油断も隙もない映画なのです。
この映画が画期的と言われるのは、長らく白人中心と言われてきたハリウッド映画界で、アジア人の中年女性を主役に抜擢したのも理由のひとつ。エヴリン扮するミシェル・ヨーは中国系マレーシア人で、『007/トゥモロー・ネバー・ダイ』(1997)のボンドガール、『グリーン・デスティニー』(2000)の剣士を演じたことでも知られています。
ちなみに夫ウェイモンド役のキー・ホイ・クァンは、『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』(1984)でショーティを演じたあの男の子!『エブエブ』で実に約30年ぶりに俳優業に復帰し、素晴らしい演技を見せてくれました。彼らアジア系の俳優をメインキャストに起用することにより、異なる文化的背景を持つ人たちが出会い、共存することの大切さをダニエルズが描こうとしているのは明らかです。
それに、ごく普通の人間が異次元を移動しながらカンフーで宇宙を救うプロットは『マトリックス』シリーズにも通じるし、エンターテインメントと哲学を融合した世界観は、『ファイト・クラブ』(1999)からの影響も感じさせます。とにかくものすごい情報量なので、繰り返し鑑賞して楽しみたい1本です。
『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』
さて『エブエブ』を世に送り出した「A24」は、ここ数年で急速に注目を集めています。2016年アカデミー賞で『ルーム』が主演女優賞に輝いたほか、2017年には『ムーンライト』が作品賞をはじめ3部門を獲得。日本ではアリ・アスター監督による『ミッドサマー』(2019)が大ヒットを記録したのも記憶に新しいところです。
ニューヨークを拠点とするA24は、映画業界出身のダニエル・カッツ、デヴィッド・フェンケル、ジョン・ホッジスにより2012年に設立されました。2008年のリーマンショック以降、観客動員数を確保するため商業的な作品に注力するようになった大手映画スタジオを見ていた彼らは、そこに依存しない独自の映画製作・配給モデルを採用し、これまでの経験を生かしながら多様な映画作品を世に送り出しています。ここからは、そんな「A24」が制作した映画のなかから選りすぐりの5本をご紹介します。
前作『ヘレディタリー 継承』で、カルト教団に侵食され崩壊していく家族を描き、見る者を恐怖のどん底に突き落としたアリ・アスターが、再びホラー映画の新境地を開拓。姉の無理心中により父母をいっぺんに失い、心に深い傷を追った女性が恋人やその悪友たちと共に、スウェーデンのとある孤立したコミューンで経験する世にもおぞましい出来事。明るい夏の日差しと緑豊かな自然風景、その美しい映像や楽しげな音楽と凄惨なシーンのギャップにより、これまでにない感覚を味わえます。主演を務めたフローレンス・ピューの出世作でもあり、以降は『ブラック・ウィドウ』(2021)や『オッペンハイマー』(2023)など話題作に引っ張りだこに。
マイアミの貧しい地区で、麻薬中毒の母親と暮らす孤独な少年シャロン。抱えるセクシャリティに葛藤しながら、さまざまな人と出会い居場所を見つけていく彼の姿が、幼少期、少年期、青年期の3つの時代に分けられ、美しく色鮮やかな映像と情緒的な音楽により細やかに綴られています。劇作家のタレル・アルヴィン・マクレイニーによる半自伝的な戯曲を、これが長編2本目となるバリー・ジェンキンスが脚本を共著し映画化。第74回ゴールデングローブ賞では作品賞を受賞、第89回アカデミー賞では8部門でノミネートを受け、監督賞ほか3部門を受賞しています。男らしさが過剰に求められやすいと言われるアメリカ社会で、常に生きづらさを感じている黒人男性を主人公にした映画では、音楽の使い方がとにかく斬新な『WAVES/ウェイブス』(2019)もおすすめ。
カリフォルニア州サクラメントにある厳格なカトリック系高校に通う「レディ・バード」ことクリスティンが、過干渉気味の母親や唯一心を許せる親友、何かと気にかけてくれる学校のシスターたちとの交流を通じ、うんざりするような日常のなかに隠れている奇跡や愛に気づいていく、高校生活最後の1年を追った青春ストーリー。「レディ・バード」という、この年代特有の面倒くささを煮しめたような難しい役どころを見事に演じきったのは、『ハンナ』(2011)や『ブルックリン』(2015)で脚光を浴びたシアーシャ・ローナン。後に『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』(2019)で再びタッグを組むグレタ・ガーウィグとのコンビネーションも、カニエ・ウェストやマック・ミラーなどを手がけてきた音楽プロデューサーのジョン・ブライオンによるサントラも最高。
『アメリカン・ビューティー』(1999)や『キッズ・オールライト』(2010)で素晴らしい演技力を見せつけたアネット・ベニングが、15歳の息子を持つシングルマザーを演じ、監督のマイク・ミルズと共に「キャリアベストの仕事」と絶賛された作品。シーンごとに人称が変わり、それぞれの視点で関係性を解き明かしていく構成はまるで小説のよう。セリフもいちいちエスプリが効いていて、登場人物たちと似たような経験を持つ人が見たらグサグサ刺さること間違いなし。息子の親友ドロシーを演じたエル・ファニングが注目されましたが、個人的には『レディ・バード』で監督を務めたグレタ・ガーウィグ扮する、子宮頸がんと闘病する写真家アビーの存在感に目が離せませんでした。第89回アカデミー賞の脚本賞にノミネート。
『エブエブ』のダニエルズが製作し2016年に公開された本作は、攻めた作品がズラリと並ぶA24のなかでもとりわけキテレツなストーリー。無人島に流れ着き、絶望の淵に立たされていた主人公ハンク(ポール・ダノ)は、あるとき浜に打ち上げられたマニー(ダニエル・ラドクリフ)を発見。なんと水死体のマニーは英語を話し、肛門から発する腐敗ガスで水上をジェットスキーのように進み、勃起したペニスが方位磁石の役割をするという、まるでスイスアーミーナイフのように万能な死体だったのです。マニーと奇妙な共同生活を送っていたハンクは徐々に生きる希望を見出し、片思いをしていた女性に会うため故郷を目指す……というもの。あまりにもシュールな展開に最初こそ失笑するものの、気づけばハンクの成長物語にどっぷり感情移入してしまいます。まさに『エブエブ』の原点とも言える怪作。
既成概念にとらわれない才能を次々に世に送り出しているA24。従来の映画販売方法にとらわれず、オンライン配信やストリーミング配信など新しい販売方法にも積極的に取り組んできた彼らが、今後どのような作品を我々に届けてくれるのでしょうか。まだまだ目が離せません。
©2022 A24 Distribution, LLC. All Rights Reserved. ©2019 A24 FILMS LLC. All Rights Reserved. © 2016 A24 Distribution, LLC ©2017 InterActiveCorp Films, LLC. / Merie Wallace, courtesy of A24 © 2016 MODERN PEOPLE, LLC. ALL RIGHTS RESERVED. © 2016 Ironworks Productions, LLC.
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