俳優・阿部寛。多彩な役柄が生み出す唯一無二の魅力とは
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俳優・阿部寛。多彩な役柄が生み出す唯一無二の魅力とは

2025.04.07 20:00

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4月にスタートするTBS日曜劇場『キャスター』で主演の阿部寛さんは、言うまでもなく、日本を代表する実力派俳優のひとりです。シリアスな人間ドラマからコメディ、時代劇、アクションまで、実に幅広いジャンルに出演。その演技は自然体でありながら圧倒的な説得力を持ち、それぞれに異なる魅力で存在感を発揮してきました。

本記事では、出世作となった『トリック』から、2025年4月スタートの『キャスター』まで、阿部寛さんのキャリアを代表する作品ごとにその魅力を振り返ります。

『トリック』『結婚できない男』──コメディで光る存在感

阿部寛さんの名を一躍有名にしたのが、2000年放送のドラマ『トリック』シリーズです。

トリック1
©テレビ朝日・東宝

自称天才物理学者の上田次郎役で主演し、仲間由紀恵さん演じる自称売れっ子マジシャン・山田奈緒子との掛け合いでシュールな笑いを生み出しました。作品としても新しかった本作は、超常現象のトリックを暴くミステリー仕立てのコメディで一世を風靡。阿部さんはプライドが高くどこか抜けている上田をユーモラスに演じ、大ブレイクを果たしました。

コメディアンとしてのセンスを発揮した阿部さんの魅力は、なんといっても絶妙な力の抜き加減。笑いを取ろうと狙いすぎず、あくまで役になりきって自然に演じるからこそ、キャラクターにリアリティと愛嬌が宿ります。計算し尽くさない“生きた演技”で笑いを生み出すセンスの持ち主なのです。

ドラマ『結婚できない男』でも、偏屈で独善的なのにどこか憎めないキャラクター・桑野を演じてリアルに表現しました。背中を丸めて歩く癖や細かすぎる几帳面さも自然体で「本当にいそうな中年男性」に見え、共感と笑いを誘いました。そのさじ加減は絶妙で、13年ぶりに続編が制作された際も「変わらない桑野」を違和感なく再現し視聴者を喜ばせてくれました。

結婚できない男
©関西テレビ/MMJ

映画『自虐の詩』(2007年)ではコメディリリーフとしての才能をさらに発揮。阿部さんが演じた葉山イサオは無口で無職の元ヤクザという設定で、インパクト抜群のパンチパーマ頭にスーツ姿という出で立ち。寡黙ながらもキレるとちゃぶ台をひっくり返す豪快なギャグシーンなど、体を張った笑いを体現しました。

自虐の詩
©2007「自虐の詩」フィルムパートナーズ

そして極めつけは、映画『テルマエ・ロマエ』。古代ローマ人が現代日本の風呂にタイムスリップするという奇想天外な物語で、阿部さんは「顔が濃いから」という理由で堅物な浴場設計技師ルシウスを熱演。ルシウスの困惑ぶりを真面目な顔で演じきり、濃い顔立ちと鍛え抜いた肉体美も相まって「ローマ人そのもの」と評されるハマりっぷり。ついには本作で第36回日本アカデミー賞の最優秀主演男優賞まで受賞してしまいました。

テルマエ・ロマエ
©2012「テルマエ・ロマエ」製作委員会

コメディ映画で同賞を獲得するのは異例で、授賞式では会場がどよめぎ、阿部さん自身も「まさか…こんなことが起きるとは」と驚いたほど。笑いも取れて演技賞も取れる──俳優・阿部寛さんが比類なき喜劇役者である証と言えるでしょう。

『歩いても 歩いても』『海よりもまだ深く』──重厚なドラマで見せる深み

コミカルな役で強烈な印象を残す一方で、阿部さんは抑えた演技で魅せる人間ドラマにも定評があります。是枝裕和監督の映画『歩いても 歩いても』(2008年)では、亡き兄への劣等感を抱える次男を繊細に演じました。派手な演出はなく日常の機微を描く作品の中で、阿部さんは台詞の間や表情の変化だけで内面の葛藤を表現し、高評価を得ました。

歩いても 歩いても
©2008「歩いても 歩いても」製作委員会

続く是枝作品『海よりもまだ深く』(2016年)では、夢破れて冴えない中年男・良多役で、同じく樹木希林さんが演じる母親に依存してしまうダメ息子という役どころでした。前作よりさらに情けない男を演じるにあたり、自身の中の“母への甘え”という感情を意識的に増幅させて役に挑んだそうで、緻密な役作りへのこだわりが伺えます。

海よりもまだ深く
©2016 フジテレビジョン バンダイビジュアル AOI Pro. ギャガ

実は是枝監督から「もし阿部さんが体育会系でドーンとしたタイプの人だったら起用しなかった」と言われたことがあるそうで​、阿部さんの穏やかで繊細な人柄だからこそ監督の生み出す静かな世界観にフィットし、互いに細部まで作り込むことができたのでしょう。その落ち着いた呼吸と演技力が、日常の何気ないシーンにも深みを与え、観客の胸に染み入る名演技へと繋がっているのです。

『新参者』『チーム・バチスタ』──硬派なミステリーやアクションでも揺るがぬ存在感

阿部さんはヒューマンドラマだけでなく、ミステリーやサスペンス作品でも独自の存在感を放ってきました。東野圭吾原作のドラマ『新参者』(2010年)では、人情派刑事・加賀恭一郎を好演。下町・人形町を舞台に、事件の謎を解き明かしながら人々の心の機微にも寄り添う加賀刑事を温かみと確かな洞察力で演じました。

新参者
©TBS ©東野圭吾「新参者」(講談社刊)

また、映画『チーム・バチスタの栄光』(2008年)では医療ミステリーにも挑戦。阿部さんが演じた白鳥圭輔は厚生労働省のエリート官僚で毒舌かつ傍若無人なキャラクターですが、その嫌味な部分さえもユーモラスに演じて憎めないキャラクターに。竹内結子さん演じるバディ役の女医・田口公子とのテンポの良い掛け合いも痛快で、シリアスになりがちな医療サスペンスに軽妙なリズムを生み出しました。

チーム・バチスタの栄光
©2008 映画「チーム・バチスタの栄光」製作委員会

『下町ロケット』『大帝の剣』──熱いヒーローからアウトローまで

俳優・阿部寛の演技の振り幅の広さを語る上で欠かせないのが、熱血ヒーロー的な役柄と個性派アウトロー的な役柄、その両極端を演じ分けている点です。前者の代表が、池井戸潤原作の社会派ドラマ『下町ロケット』。

下町ロケット
©池井戸潤 ©TBS

阿部さんが演じた佃製作所社長・佃航平は、中小企業の町工場を立て直し、亡き父の夢でもあったロケット開発に挑む熱い男です。逆境にも信念を貫いて立ち向かう真っ直ぐな姿や、劇中の名台詞の数々に心を掴まれた視聴者も多かったでしょう。阿部さんは持ち前の堂々とした佇まいと力強い声で主人公のリーダーシップと情熱を体現し、日曜劇場の顔としての存在感を示しました。

一方で、先述した映画『大帝の剣』では下町ロケットの佃とは正反対ともいえる破天荒な剣豪を演じています。万源九郎というこのキャラクターは巨刀を携え天下を目指す豪快な浪人ですが、どこか憎めない三枚目でもあります。荒唐無稽なSF時代劇という難しいジャンルながら、阿部さんの振り切った演技のおかげで不思議な説得力が生まれています。夢と野望にまっすぐ突き進む愚直さと、クセ者ぶりを併せ持つ万源九郎はまさに阿部寛さんだからこそハマった役と言えるでしょう。​

大帝の剣
©2007「大帝の剣」製作委員会

正統派ヒーローから個性的なアウトローまで、どの役にも共通して感じられるのは、役柄への深い愛情とリスペクトです。その人物の信念や魅力を真剣に探求する姿勢があるからこそ、どんな突飛な役柄でも物語に引き込まれてしまうのでしょう。

新ドラマ『キャスター』では型破りな報道マンに挑戦

そんな阿部寛さんが2025年4月から主演を務めるのが、TBS日曜劇場『キャスター』です。テレビ局の報道番組を舞台に、闇に葬られた真実を追求し悪を裁いていく社会派エンターテインメントで、阿部は主人公の型破りなニュースキャスター・進藤壮一を演じます​。

キャスター_メイン
©TBS

進藤壮一は「世の中を動かすのは真実!」という信念を掲げる男で、公共放送の社会部記者・キャスターとして15年のキャリアを積んだ後に民放局へ引き抜かれ、視聴率低迷に苦しむ報道番組『ニュースゲート』のメインキャスターに就任するという設定です。型破りなキャラクターを演じながらも、正義と悪の境界に揺れる報道マンの葛藤を、阿部さんはきっとリアルに演じてくれるはず。還暦を迎え、さらに進化、深化していくチャーミングな俳優・阿部寛さんに今後もさらに注目です。

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