ダルデリがツアー4勝目 イタリア人選手として4人目のタイトルに「信じられない」|ATP250 ウマグ
『ATP250 クロアチア・ウマグ(7月20日~26日/クレーコート)』を制し、ATPツアー4つ目のタイトル、そして2週連続優勝を成し遂げたルチアーノ・ダルデリ(イタリア)。これで決勝に進出した4度すべてでタイトル獲得となり、勝負強さを見せている。試合後のインタビューと優勝スピーチで、喜びを言葉にした。
ATPツアーの中で、グランドスラムやNitto ATP Finalsに次いで大会ランクが高いとされるマスターズ1000。年間を通して9大会行われ、その成績は年間ATP世界ランキングにも大きく影響しうる。
そんな注目のマスターズ1000、今年7大会目となるシンシナティ・オープンが2025年8月7日(木)に開幕を迎える。「二強」と呼ばれるシナーとアルカラスに加え、日本の錦織圭も参戦予定だ。
数々のドラマを生み出してきた同大会、その見どころをテニス解説者の辻野隆三と鍋島昭茂アナウンサーが徹底解説!新時代の勢力図とこの大会ならではの魅力を紐解いていく。
鍋島:マスターズ1000直前特番、シンシナティ編。早速スタートしていきましょう。
辻野:はい、よろしくお願いします。
鍋島:今回は、数あるマスターズの中でも特にシンシナティに絞ってお話を伺います。
年間9つ開催されるマスターズですが、シンシナティはシーズン後半、7大会目になります。
辻野:そうなんですよ。シーズンも後半戦に入り、いよいよ年間王者レース、つまりNitto ATPファイナルズ出場の行方が本格的に注目される時期になりました。もうそんな時期かと、一年の早さを感じますね。
鍋島:U-NEXTの放送でも、最近「レースランキング」※を紹介するようになりました。今年のファイナルズは、出場者の顔ぶれが変わりそうですね。
※その年の1月1日から獲得したポイントのみで算出されるランキング。年末の上位8選手が最終戦「Nitto ATPファイナルズ」への出場権を得る。
辻野:ええ、ですがまだ読めない部分も多いです。いつもそうですが、最後の数枠はシーズン最終盤のパリ大会まで決まりませんから。ここ数年の傾向として、シーズン後半に失速する選手もいるので、前半にポイントを稼いでいても最後までどうなるか分かりませんね。
鍋島:そんな重要な時期に開催されるのが、この歴史あるシンシナティ・オープンです。辻野さんにとっても、様々な思い出がある大会ではないでしょうか。
辻野:たくさんありますよ。たとえば、ロディックとフィッシュの決勝とか。
鍋島:懐かしいですね(笑)。2003年の決勝でしょうか。あの年のアンディ・ロディックは、カナダ、シンシナティ、そして全米オープンと、夏の北米ハードコートシーズンを完全制覇した、まさに無敵の年でした。だからこそ余計に印象深いですね。
辻野:すみません、少し話が古すぎましたかね(笑)。
鍋島:いえいえ。そして、非常に興味深いデータがあります。シンシナティを制した選手はここ2年連続で、その年の全米オープンも優勝しているんです。
辻野:なるほど。
鍋島:一昨年が…
辻野:ジョコビッチ。
鍋島:はい。そして去年が?
辻野:シナーですね。
鍋島:これはもう、シンシナティが極めて重要な大会であることの証明ではないでしょうか。
辻野:その通りです。マスターズですし、トップ選手はみんなここに照準を合わせて調整してきます。
鍋島:選手のコンディション調整、いわゆるピーキングについてお聞きしたいのですが、全米開幕の1週間前に決勝が終わるこの日程は、選手にとってどのような影響があるのでしょうか?
辻野:トップ選手にとっては、最高のスケジュールだと思いますよ。
鍋島:ということは、カナダの大会よりもシンシナティの方が、全米に向けては調整しやすいと。
辻野:そこは少し難しいところですね。以前は全仏オープンとウィンブルドンの間隔が2週間だったので、ウィンブルドン後に4週間の調整期間が確保できました。そこでコンディションを整え、カナダの大会から「よーいドン」で後半戦に臨める、という話を聞いたことがあります。ただ、今はその期間が3週間になったので、またスケジュールの組み方が変わってきているかもしれません。
鍋島:今年はカナダのトロント大会にシナー、アルカラス、ジョコビッチが欠場したため、余計にこのシンシナティの比重が大きくなりそうです。
辻野:それは間違いないでしょうね。時期的な重要性に加えて、気候もニューヨークと似ているんです。湿度もあって。カナダから直接ニューヨークに入ると、その蒸し暑さに驚くことがありますが、一度シンシナティを挟むことで、身体を慣らすことができる。そういう意味でも利点があると思います。
鍋島:シンシナティは天候も変わりやすく、雨が試合の流れを左右することもありますね。
辻野:ええ。それから、コートサーフェスが速いというイメージも強いです。近年はサーフェスにも変化が見られるので一概には言えませんが、以前は選手たちも「速い」と口にしていました。象徴的だったのが、フェデラーとジョコビッチの決勝戦です。
鍋島:ありましたね。フェデラーが準決勝で同郷のワウリンカを下し、決勝でジョコビッチと対戦した時ですね。
辻野:その試合、フェデラーがファーストセットをなんと6-0で取ったんです。覚えてますか?わずか20分ですよ。
鍋島:相手はあのジョコビッチですから、信じられないスコアです。
辻野:そのセット、ジョコビッチが奪えたのはたったの10ポイントでした。
鍋島:当時はボールの飛びも、今より速かったのでしょうか。
辻野:サーフェスが速かったのは間違いないと思います。選手たちもそう言っていましたから。今はラリーが長くなる傾向にありますが、それでもツアーの中では速い部類に入るでしょう。春のインディアンウェルズやマイアミは、もっと遅いですからね。
鍋島:去年のシンシナティの結果を振り返ってみましょう。決勝はシナー対ティアフォー。ベスト4にはズベレフとルーネ。そしてベスト8にはルブレフ、フルカチュ、シェルトン、ドレイパーと、今年のツアーを賑わせている選手が顔を揃えています。
辻野:そうですね。当時ノーシードだったのはティアフォーとドレイパーだけですが、その後の活躍を考えれば、この結果も決して意外ではありません。
鍋島:辻野さんは、ドレイパーの才能についてはかなり早い段階から高く評価されていましたよね。「彼は来る」と。
辻野:やはり守備力のある選手は強いです。攻撃力はもちろん重要ですが、現代テニスでは守れなければ勝てません。ドレイパーはその点が非常に優れています。フットワークが抜群で、体幹がブレない。バランスが崩れない選手の一人ですね。
鍋島:パワフルなイメージもありますよね。
辻野:ええ、見た目はそうなんです。ですが、実は非常に繊細な守備力、そしてスムースな動きが持ち味です。キリオスやフェデラーもそうでしたが、まるで波に乗っているかのように、楽に動いているように見える。もちろん、本人は必死で動いているのですが、それほど動きが滑らかだということです。
鍋島:よく分かります。その激戦を去年勝ち抜いたのがシナーでした。今、テニス界ではシナーとアルカラスの“二強時代”と言われていますが、この二人の強さにおける共通点は何だとお考えですか?
辻野:共通点ですか…。私は、この二人はお互いの存在がなければ、今のレベルには到達していなかったとさえ思っています。先に頭角を現したのはシナーでした。名コーチのリカルド・ピアッティに師事し、「将来は間違いなくトップに来る」と大注目されていましたね。しかし、その後少し伸び悩んだというか、「これからどうなるんだろう」という時期がありました。ピアッティコーチと離れたこともあり、個人的にも心配していたんです。そんな時に、アルカラスが彗星の如く現れたわけです。
辻野:そのアルカラスの登場が、逆にシナーの心に火をつけたのではないでしょうか。「もっと自分を追い込まなければいけない」と、新たなモチベーションのきっかけになったように思います。だから、アルカラスの存在なくして今のシナーはあり得ない。そう強く感じています。そして今、この二人でテニス界に新たなドラマを次々と生み出しているわけです。
鍋島:本当にすごいですよね。ローラン・ギャロスやウィンブルドンの決勝を見ていると、もはや人間の身体能力の限界で戦っているようにさえ感じます。また、素人目線で言うと、二人の共通点は、試合中のチームとの関係性がとても良好に見えることです。いつも和やかな雰囲気ですよね。
辻野:そうですね。シナーは常に冷静にチームと接していて、ラケットを叩きつけたりするようなことはまずありません。一方のアルカラスは、まるで会話を楽しむかのように、実に楽しそうにプレーしています。
鍋島:楽しそうですよね。ポイント間に陣営と語り合うような場面も見られます。その二人に割って入る選手が現れるとすれば、誰になるでしょうか。
辻野:第三、第四の選手が誰になるかですね。かつての「ビッグ4」という言葉が思い出されますが、あの時代も最初はフェデラーとナダルの二強から始まりましたから。
鍋島:おっしゃる通りです。フェデラーとナダルの時代があり、そこにジョコビッチが挑戦し続け、マレーが続き、その4人の支配が3シーズンほど続いた頃、いつしかメディアが「ビッグ4」と呼ぶようになりました。
これから新たな潮流が生まれると思いますが、年齢的にはルーネあたりに期待したいですね。ムゼッティもドレイパーも、2000年代前半生まれの選手たちが上位にひしめいています。彼らの中から、次のジョコビッチやマレーが生まれるのか、注目ですね。
辻野:おそらく、すでにお話に出たドレイパーのような選手たちが、二強の間に割って入ってくる可能性は十分にあるでしょう。
辻野:全くの無名選手ではなく、すでにトップレベルで戦っている選手たちの中から現れるはずです。個人的には、今年のマスターズで優勝経験もあるヤクブ・メンシクにも非常に期待しています。
鍋島:確かにメンシクもいますね。今年はマスターズで初優勝を飾る選手が多かったので、改めてマスターズという舞台の大きさを感じます。
辻野:ええ。グランドスラム直前のマスターズということもあり、まずはシード選手がしっかりと結果を出せるかが一つの注目点です。
最近の大会で、ムゼッティやルブレフが早期敗退を喫しましたが、特にムゼッティは少し結果が出ていない時期が続いているので、トップ10選手としてどう立て直してくるか。トップ選手たちはみんな、怪我なく大会を終え、できるだけ多くの試合をこなして全米に臨みたいと考えているはずです。
鍋島:先ほど話題に出たレースランキングですが、今年の顔ぶれは大きく変わりました。去年までの常連だったチチパス、メドベージェフ、ルブレフらが今シーズンは苦しんでいます。彼らにとっては、ここから巻き返さないとファイナルズ出場が厳しくなってきますね。
辻野:その通りです。特にメドベージェフですね。本人も「自分のプレーができれば戻せる」と語っていますが、まだ少しプレーに波があるように見えます。ただ、シンシナティは2019年に優勝し、その時は準決勝でジョコビッチを破るなど、非常に良いイメージを持っているはず。復調のきっかけにしたいところでしょうね。
鍋島:あの年は、錦織圭選手と西岡良仁選手の日本人対決もありましたね。
鍋島:北米のハードコートシーズンは、会場の雰囲気がとても賑やかですよね。シンシナティは隣に遊園地がある影響で、ナイトマッチの時間になると必ず花火が上がります。
辻野:夜8時か9時、時間が決まっていて、試合展開とは全く関係なく打ち上げられるので、選手が時々驚いています(笑)。そうした周囲の環境に動じないメンタルの強さも、このシリーズを勝ち抜く上では重要なのかもしれません。独特の雰囲気がありますね。
鍋島:さて、ここで先日更新されたばかりの世界ランキングトップ10をご紹介しましょう。1位シナー、2位アルカラス、3位ズベレフ、4位フリッツ、5位ドレイパー、6位ジョコビッチ、7位にシェルトンがキャリアハイで浮上。8位デミノー、9位ルーネ、10位ムゼッティです。この中で、今年のシンシナティで特に期待したい選手は誰でしょうか。
辻野:やはり、最近非常に元気のあるアメリカ勢でしょう。
鍋島:フリッツ、シェルトン、ティアフォー、ポールと、本当にタレントが揃っています。
辻野:ですから、まずは地元アメリカ勢の活躍に期待したいですね。去年もティアフォーが決勝まで進出していますし、誰が勝ち上がってきてもおかしくない。どの選手にもチャンスはあると思います。
鍋島:アメリカ勢はトップ100に13人、200位まで見ると実に25人もランクインしており、層の厚さは群を抜いています。辻野さんが個人的に注目している若手選手はいますか?
辻野:僕は19歳のラーナー・ティエンに注目していますね。今年の全豪オープンで活躍しましたが、彼のプレーには何か特別な雰囲気を感じます。一つ年上で、同じ環境で練習しているミケルセンの存在も、彼にとって良い刺激になっているはずです。
鍋島:そして、日本勢の活躍も期待されますね。
辻野:もちろんです。男子も女子も「今まさにこれから」という選手たちの雰囲気がすごく良いんですよ。良いチームを組んで強化できているので、「来そうだな」という期待感があります。
鍋島:先のトロント大会では、予選で望月慎太郎選手と内山靖崇選手の日本人対決が実現しました。こうしたカードが「珍しい」ことではなく、当たり前になってほしいですね。
辻野:綿貫陽介選手も頑張っていますし、本当に日本の男子テニスは層が厚くなってきています。誰か一人がブレイクスルーすれば、それに続いてみんなが一気に上がっていくような、そんな可能性を感じます。もちろん、西岡良仁選手もその中心にいる一人です。
鍋島:その西岡選手ですが、今週のランキングで131位まで後退し、驚いたファンの方もいるかもしれません。これは、去年優勝したアトランタ・オープンのポイントが失効したためです。ただ体調さえ万全なら、彼は必ずこの位置から返り咲きますよね。
辻野:ええ、心配は無用です。彼は経験豊富ですから、焦ることなく、まずは体調を万全に整えることが最優先だと理解しているはず。ランキングはまたすぐに上がってきますよ。必ずです。
鍋島:改めて、おととしのシンシナティ王者ジョコビッチ、去年の王者シナーは、その年の全米も制しています。この大会の結果が、グランドスラムに直結しているのは間違いなさそうですね。
辻野:そうですね。ただ、カナダ、シンシナティ、全米と3連勝するのは、ツアーがこれだけ過酷になった今、極めて困難でしょうね。
そしてもう一つだけ。シンシナティを語る上で、ズベレフの話は欠かせません。彼は2015年から20年まで、この大会で6年連続初戦敗退。「勝ち方が分からない」とまで言っていたのに、2021年に初勝利を挙げたと思ったら、そのまま一気に優勝してしまったんです。
鍋島:そんな不思議なジンクスもありましたね。私ももう一つありました。ここは、ジョコビッチが史上初の「ゴールデン・マスターズ」※を達成した、記念すべき場所でもあります。
※当時9つあったATPマスターズ1000の全大会を制覇する偉業。
辻野:そうでした。彼が最後に残していたピースが、このシンシナティだった。
鍋島:2018年、決勝でフェデラーを下しての偉業達成でした。歴史的な場所なんですね。
数々の逸話を踏まえると、辻野さん、結論として「シンシナティはドラマが生まれる大会」ということで、よろしいでしょうか。
辻野:はい、その通りです。
鍋島:というわけでみなさん、今年の『マスターズ1000 シンシナティ』もぜひご期待ください。
辻野:ありがとうございました。
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