「新生活応援特集!!」
この時期、家電量販店のキャンペーンを目にすると、新人の頃を思い出す。コピー機の印刷用紙切れや電動シュレッダーの紙詰まりに右往左往し、電話1本かけること、メール1通送ることすらままならず、入社してからの半年間、ほぼ毎日怒られていた暗黒時代だ。でも、それらの日々を振り返るたび、あの時の苦い経験が今の私をつくったのだと、最終的には感謝の意に浸ることになる。筆者にとって、韓国ドラマ『ミセン-未生-』も、先の謳い文句のような効果を発揮する。
同作は、大手商社の新入社員チャン・グレと、その同期、先輩、上司らを描いたビジネスドラマだ。天国にも地獄にもなり得る社内の人間関係や、時に理不尽さを発揮する社訓など、学校では教えてくれなかった暗黙のルールの数々。仕事が成功した時の達成感や喜び、失敗した時のやりきれない気持ち、その時々によって変わるお酒の味など、身を粉にして働いたことで初めて得られる様々な感覚――。そんな社会人のリアルが細やかに表現されており、登場人物たちに共感を覚え、何かと気づかされることも多い傑作である。
『ミセン-未生-』は昨年末、放送10周年を記念した特別上映会が開催され、シーズン2制作の噂も再浮上している。それを機に再び観てみたが、励まされたり、ヒントを得られたり、襟を正す思いにさせられたりと、やはり心に響く言葉が詰まっている。そこで今回は、あの頃の自分に届けたい、そしてこれからも胸に刻んでおきたい、『ミセン-未生-』の名言を厳選してみた。
主人公チャン・グレ(イム・シワン)はプロ棋士への道を挫折したフリーターであったが、囲碁業界の伝手で大手総合商社ワン・インターナショナルへのインターン入社が決定。対する他のインターンたちは血の滲むような努力をして合格へと漕ぎ着けてきたため、高卒コネ入社のグレを疎ましく思う。不正を許さないタチの上司オ・サンシク課長(イ・ソンミン)も同じ理由でグレのことを認めなかったが、グレが契約社員に決まった際には、このように叱咤激励する。
「正直に言って、俺は歓迎してない。」「だがせっかくだ。試しにあがいてみろ。ここでは忍耐が仕事だ。耐えた人間が完生(ワンセン)になるんだ。知らないだろう。囲碁の言葉だ。未生(ミセン)、完生。俺もまだ、未生だ」
ミセンとは生死が不確かな状態の石で、進め方次第では、完全に生かされた強い石=ワンセンに変わるという。仕事をしていると未熟者だと感じることもある。だが、そこで挫けずに耐え続けることで新しい景色を見られるかもしれない、と鼓舞される、力強い言葉である。
第8話は、健康の大切さを説いた回になっている。オ課長は接待での過度な飲酒も影響してか、業務中に居眠りして鼻血を出したり、脂汗が止まらなくなったりと、はたから見ても明らかな体調不良に陥る。さらには出勤中に姿を消し、部署全体を巻き込んでの捜索騒ぎも起こしてしまう。病院で点滴を受けていたことが明らかになり一件落着するが、部長からは「体調管理も仕事のうちだ」と注意されるのだった。この回の序盤、グレが回想するのは囲碁の師匠による教えだ。
「かなえたい目標があるなら、まず体力をつけなさい。お前が終盤に弱いのは、ダメージからの立ち直りが遅いのは、失敗の挽回が遅いのは、体力がないからだ。体力がないと楽な方向へ進もうとし、忍耐力も落ちる。疲労感に負ければ、勝敗どころではなくなる。勝ちたいなら逆境に耐えうる体をまずは作ることだ。精神力を鍛えたければ、まず体力をつけなさい」
筆者はここ数年、集中力と記憶力の著しい低下を感じているのだが、この台詞から、すべての原因は体力不足ではないかとハッとさせられた。健康第一、そして体力をつけなくてはと身につまされるようなエピソード/台詞である。
元来の真面目さや粘り強さが実を結び、日々、社内評価が高くなっていくグレ。だが、新しく異動してきたパク・ジョンシク課長(キム・ヒウォン)は、グレを「高卒・コネ・契約社員」というスペックで判断し、ネチネチと嫌がらせをする。グレは、先輩社員キム・ドンシク代理(キム・デミョン)から反撃すべきだと忠告を受けるが、あえて何も言わない。そして、昔ノートに書き込んでいた言葉を読み返すのだった。
「果敢な行動だけが勇気ではない。挑んでみたいという誘惑に負けず、我が道を行くのも勇気だ。焦って逆境に対処するのではなく、冷静な態度を崩さないことが、相手にとって逆境となる。自分のペースを崩さないことが、最大の防御であり、攻撃策なのだ」
後日、同期たちと居合わせた時にも、グレはこの言葉を口に出す。いびられているハン・ソンニュル(ピョン・ヨハン)、出鼻をくじかれているチャン・ベッキ(カン・ハヌル)、こき使われているアン・ヨンイ(カン・ソラ)と、それぞれ上司や先輩との関係に苦しんでいる彼らに、一種の対処法として共有するのである。
仕事では相容れない相手と出会うこともある。頭に血が上る場面も出てくるかもしれないが、そこで対立したところで果たして事態は好転するだろうか?筆者の経験で言うと、9割方ノーである。もちろん許容範囲はあると思うが、仕事人として常に頭の片隅に入れておきたい言葉だ。
オ課長、キム代理、グレの間で、パク課長がやたらと早急に進めたがっているヨルダンの案件が怪しい、という話になる。書類上は問題なかったが、協力会社の利益率が異様に高く、パク課長がリベートをもらっているのではないかと睨んだのである。調査の結果は案の定クロ。だがそれは、オ課長の長年の上司キム・ブリョン本部部長(キム・ジョンス)を含む、判を押した上長たちの責任問題も意味していた。
事態が収束に向かう中、キム代理はグレに今後の展開を説明する。「立場によって責任の重さは違う。部長と常務には大打撃だろうな。役職が上がるほど責任は重い。」「干されるか、取り調べの結果次第では、クビだろうな。」続けて、会社員としての悲哀をこのように語るのだ。
「サラリーマンは歯車だの働き蜂だの言うように、自分ひとりいなくなっても社会も会社も回る。それでも、この仕事が今の俺そのものだ」
おそらく大半の人が、生活のためにお金を稼がねばならない。1週間(168時間)から毎日8時間分の睡眠を抜くと、残りは112時間。平日5日間で各8時間の業務にあたるとしたら、先ほどの残り時間の約半分を仕事に費やしていることになる。キム代理が言うように、たとえ自分が仕事をしなくなったとしても、世界は何とかなる。でも、その自分を自分たらしめているのは仕事でもある。彼の台詞の前半は、辞職・転職などで迷っている人にとっては気持ちを楽にさせてくれる一方で、後半は、現職を続けようと考えている人にとっては今の自分に対する自信や確信をもたらしてくれると思う。読者の皆さんは、今、どのように感じるだろうか?
パク課長は元々仕事熱心な男だったという。人が変わってしまったのは、鉄鋼課で代理だった頃、課の過去最高額となる1億2000万ドルのヨルダン案件を決めてから。現地業者との意思疎通をひとりで担当した貢献者だったのに、会社からの臨時ボーナスはゼロ。上だけが私腹を肥やす組織の仕組みに腹を立て、取引先からの賄賂、そして親族との共同会社を利用した横領へと、悪事に手を染めるようになった。創業以来の不祥事を引き起こしたパク課長の末路が映し出される中、グレは心の中で彼に問う。
「拮抗した戦いで、半目負けに終わると、大きな無力感に襲われる。小さな死活争いを制しても、 コウ争いを制しても、勝負に負ければすべては水泡に帰す。一方で半目勝ちをすれば、別の世界が見えてくる。半目勝ちに至るまでの経緯、戦友である石への感謝が生まれ、すべての一手が貴重に思えてくる。一瞬一瞬の積み重ねが、半目勝ちに導いてくれる。積み重ねを怠れば、結果的には負ける。積み重ねをやめたのはいつですか?」
囲碁は、陣地の広さや取った石の数で競うゲームだ。通常、陣地に関しては「目」という単位で数えるが、「半目」はその半分の差を意味する。つまり、陣地がもう一方よりも“わずかに”広い場合、勝者は「半目勝ち」となり、逆に“わずかに”狭い場合は「半目負け」となる。たとえすぐに大きな結果が出なくても、地道にコツコツと努力を積み重ねていくことが、自身の財産になっていく。日々の業務一つひとつをきちんとこなそう、と背筋を正される思いを抱いた言葉である。
大型案件の社内プレゼンが成功し、パク課長の後任であるチョン・グァンウン課長(パク・ヘジュン)もチームに馴染み、営業3課はこれまでにないほど良い雰囲気に包まれる。大きな心配事もなくなってウキウキと出社するグレだが、社内の噂話で、自身があくまで契約社員であるという現実を突きつけられて落胆。オ次長はそんなグレの気持ちを汲み、ぶっきらぼうに「クリスマスプレゼントだ」と1枚のカードを渡す。そこに書かれていたのは、社内プレゼンの仕事ぶりに対する最大の褒め言葉。グレは、囲碁を練習する幼少時代、プロ棋士を目指す青年時代、掛け持ちアルバイトに追われるフリーター時代、そして就職してから経験した様々な出来事を振り返り、心の中でこう呟く。
「夢中であれ。常に無我夢中であれ。すべてのヒントで、すべての答えだ。あなたを不安にさせ、あなたの気力を奪う、無常に過ぎる時間を忘れるには、いつも夢中になるしかない。その対象は?酒でも、詩でも、褒美でもいい。対象は何だって構わない。とにかく夢中であれ。時には城の階段で、堀のほとりの草むらで、部屋の片隅で、孤独の中、目覚め、夢から覚めそうになったら、問うがいい。風でも、波でも、星でも、鳥でも、時計でも、過ぎゆくすべて、悲しみを知るすべて、走り去るすべて、歌うすべてに、発信するすべてに何時か聞け。風も、波も、冬も、鳥も、時計も、答えてくれるはずだ。この先は、夢中になるだけだ。」
生きていれば落ち込むこともたくさんあるだろうが、何かに打ち込めば、プラスのエネルギーが生まれ、嫌なアレコレを吹き飛ばせるかもしれない。韓国ドラマであれ、仕事であれ、自身にとって最強の武器へとなり得る。グレのあの言葉は、夢中になることを全肯定しており、明日への活力を与えてくれるものだと思う。
最終回、グレはオ次長が元上司2人と共に立ち上げたベンチャー企業に就職。仕事上でトラブルが発生したため、オ次長とグレはそれぞれヨルダンへと飛び立つ。オ次長は、かつて交易路として栄えたペトラ遺跡で落ち合おうとグレに告げると、アメリカの詩人ロバート・フロストの『歩む者のいない道』を詠む。
「森の中で道がふたつに分かれていた。残念だが両方の道には進めない。私は長い間そこにたたずみ、一方の道の先を見た。そして同様に美しいもう一方を選んだ。足跡のない生い茂った道が、私を呼んでいるような気がした。いずれ違いはなくなるだろう。落ち葉が踏まれた形跡はない。明日のためにもう一方を残そう。戻れたらの話だが…。いつか誰かがどこかで、ため息交じりに語るだろう」
場面は、照明に照らされて神秘的に浮かび上がるペトラ遺跡へ。オ次長は若かりし頃の夢を思い出したと言い、グレにこう伝える。
「たとえ忘れても、夢は夢に変わらない。道が見えなくても、道は道に変わらない。魯迅(ろじん)いわく、“希望とは、もともと、あるともないとも言えない。それはまるで、地上の道のようなものだ。もともと地上に道はない。歩く人が増えれば、それが道になる”」
そしてトラブル解決後、出会った日のやりとりを思い出して笑い合うオ次長とグレ。そこでは、グレの心の声が、ナレーションとして響き渡る。
「道は歩くものではない。切り開くものだ。切り開けないなら、道ではない。道は万人に開かれている。だが切り開けるかは別だ」
この言葉は、第1話でも2度、反復されたものだ。人は一つとて同じ人生にはならない。大企業で出世コースに進む者も、ひとりで事業に勤しむ者も、先人たちを参考にすることはあっても、全く異なる道のりを形成していく。未開の地は危険を秘めているが、もしかしたら美しいかもしれない。グレのこの言葉は、どこか一歩踏み出す前の恐怖心を拭い去り、勇気を与えてくれる言葉ではないだろうか。
今回は7つの言葉を紹介したが、『ミセン-未生-』には他にもたくさんの名言が散りばめられている。前後の物語までは説明しないが、他にグッときた言葉を一部紹介することで、この記事を締めくくりたいと思う。すべてのビジネスパーソンに、幸あれ。
第3話 ハン「人生とは?深く考えることはない。決断の集約こそがすなわち人生だ。どんな選択をするかが、人生の質を決める」
第9話 キム代理「(成功とは)自分がどう意味付けするかじゃないか?契約に至らなくても自分の仕事に納得できる時がある。失敗とは言えない気がする」
第14話 チョン課長「水昇火降(すいしょうかこう)。水が昇り、火が降りる。つまり“頭は冷静に、心は温かく”」
第16話 グレ「試練は、自分で乗り越えるものだ。それでも僕は彼に言いたい。手詰まりになっても対局は続きます、ハン君」
第17話 オ次長「人生はな、誰と出会うかで運命は変わる。それが“ハエ”なら、行き着くのは便所だが、それが“ミツバチ”なら、花畑を飛び回ることになる」
第19話 オ次長「絶対に、負けるな。どんなに無理に思えても諦めるな。生きていれば、終わりを分かって始めることは多々ある」
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