映画『オッペンハイマー』。オッペンハイマーの視点から、栄光と挫折、苦悩と葛藤を描く
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映画『オッペンハイマー』。オッペンハイマーの視点から、栄光と挫折、苦悩と葛藤を描く

2024.07.12 00:00

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『ダークナイト』や『インターステラー』などで知られるクリストファー・ノーラン監督作『オッペンハイマー』は、第96回アカデミー賞で作品賞を含む最多7冠に輝いた。本作は、原子爆弾の開発に世界で初めて成功し、“原爆の父”と呼ばれたアメリカの物理学者ロバート・オッペンハイマーを題材に描いた歴史映画だ。

日本は唯一の戦争被爆国であり、原爆は広島と長崎に甚大な被害をもたらした。そのため、本国アメリカをはじめとする各国で2023年に『オッペンハイマー』が公開され、大ヒットを記録しても、日本での公開はなかなか決まらなかった。紆余曲折を経て、2024年3月に日本でも公開されることとなったが、『ダンケルク』や『TENET テネット』が好きな筆者はノーラン監督に絶大な信頼を置いており、彼が日本人を傷つける内容の映画を作るはずはないと信じていたので、ぜひ見てみたいと思った。先に結果を言うと、原爆を肯定した映画ではなく、オッペンハイマーの功績を称える作品でもなかった。

映画『オッペンハイマー』は、2006年にピュリッツァー賞を受賞した、カイ・バードとマーティン・J・シャーウィンによるノンフィクション「『原爆の父』と呼ばれた男の栄光と悲劇」を基に、オッペンハイマーの栄光と挫折、そして彼の苦悩と葛藤を綴っている。あくまでも、オッペンハイマーの視点から描いており、彼は開発はしても、広島や長崎に原爆を落とす作戦には直接関わっていなかったため、彼の想像によるイメージシーンはあっても、日本への投下シーンはない。

オッペンハイマーという人がどのような人物であったのか、パーソナルな部分を描いたところが多く、原爆開発に至るまでどんな人と関わり、どのような経緯で完成させたのか、そして、投下後の彼の苦悩や、責任の追及などが映し出されていく。政治的な問題も詳細に描かれ、登場人物が非常に多いため、少し複雑で分かりにくい部分もあったが、そこは複数回見ることで補完できると思う。主演のキリアン・マーフィがオッペンハイマーの感情を秀逸に表現しているので、彼に感情移入しながら理解できる構成になっている。

また、オッペンハイマーの人間的な側面として、女性との関わりを描いたところでは、不倫の関係を続けた女性をフローレンス・ピューが演じており、やや驚くべき大胆なセクシーシーンもある。オッペンハイマーの人物描写が赤裸々に描出されていて、科学者としての活躍だけにフォーカスせず、心の闇まで描いているのが興味深い。

本作には、アカデミー賞で主演男優賞を受賞したキリアンや、若手注目俳優のフローレンスのほか、助演男優賞を受賞したロバート・ダウニー・Jr、エミリー・ブラント、マット・デイモンといった人気映画スターが多く出演しているが、筆者が注目したのは『NUMB3RS ナンバーズ』『DEUCE/ポルノストリート in NY』のデヴィッド・クラムホルツや、『ER 緊急救命室』『テッド ザ・シリーズ』のスコット・グライムス、『ホワイトカラー』『カーニバル』のティム・ディケイなど、海外ドラマで人気を博した俳優たちが大勢出演していることだ。海外ドラマファンにとっては本作のような大作で彼らが活躍していることが誇らしいし、この機会にまたこれらのドラマを見返したくなる。

ノーラン監督は、本作でアカデミー賞・監督賞を初めて受賞した。『オッペンハイマー』はアカデミー賞をはじめとする数々の映画賞で栄誉に輝き、高い評価を受けた作品であること、主演のキリアンをはじめ、豪華キャストたちの演技のクオリティの高さ、臨場感あふれるダイナミックな映像、そして天才科学者による功績と被害をしっかりと描いているストーリーなど、本作を見るべき理由となる見どころはとても多いので、ぜひおすすめしたい映画だ。個人的には、海外ドラマスターの大挙出演も、本作を推すべき理由として再度強調したい。

オッペンハイマーの原爆開発当時、アメリカだけでなく、ドイツも競って核開発の成功を目指していた。そして、実は日本も原爆開発を進めていた。恥ずかしながら、筆者は『映画 太陽の子』を見るまで、それを知らなかった。もしも、日本が先に成功していたら……? ぜひ、『オッペンハイマー』を見た後に、参考として『映画 太陽の子』も見てほしい。

そして、原爆の恐ろしさを決して忘れないために、二度と繰り返してはならないと心に刻むために、広島を舞台にしたアニメ映画『この世界の片隅に』と同名のTVドラマの両作、長崎を舞台にした映画『母と暮せば』も、ぜひ見ていただければと思う。

『オッペンハイマー』

デジタルセル:2024年9月4日(水)より
レンタル:2024年9月25日(水)より

公式サイトはこちら

クリストファー・ノーラン監督作はこちら

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