【邦画】洗練と愛らしさで観る小津安二郎監督作5選
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【邦画】洗練と愛らしさで観る小津安二郎監督作5選

2023.12.12 12:00

2023年12月12日で生誕120年、没後60年をむかえた名匠・小津安二郎(1903年12月12日~1963年12月12日)。映画がサイレントからモノクロへ、そしてカラーへと進化する時代に活躍。今も変わらず世界中からリスペクトされる、日本を代表する映画監督です。

おもに家族の物語を、時代性を取り込みながら繊細な人間ドラマとして物語った小津監督。その作品は現代でも、映画人のみならず、ファッションやデザインの世界の人びとからも熱い視線を送られています。というのも、色彩感覚や画面デザイン、美術や衣装のひとつひとつがとびっきり洗練されているから!

小津監督本人も、日本映画監督協会のロゴマークのグラフィックデザインや『山中貞雄 シナリオ集』の装丁を手掛けたり、また撮影現場ではいつも白いシャツと短いツバのあるピケ帽をトレードマークのように被っていたお洒落な人物だったそう。

今日は、そんな小津作品のモダンなセンスを切り口に、初めて小津作品に触れる方にもおすすめの5作品をご紹介します。いままで「あまりにも巨匠すぎて、とっつきにくそう」「ちょっと古めかしいのかな?」と思っていたかたも、きっと楽しめるはずです。

『東京暮色』(1957)

東京暮色
©1957 松竹株式会社

小津安二郎のモノクロ映画時代の最後を飾った本作は、かつて自分を捨てた(と思っている)母親との向き合いかたに葛藤する若い女性と、その父親や姉、恋人や友人たちの物語。モラトリアム時期とも重なって悪い友だちとツルみながらも虚しさをぬぐえず、ずっと不機嫌顔のヒロイン明子を演じるのは、宝塚歌劇団を卒業した後、東宝専属を経て松竹の看板女優となっていた有馬稲子。現代的で洗練された雰囲気とアンニュイな魅力が炸裂しています。

ストーリー自体はジェームズ・ディーンの代表作『エデンの東』(1955)の翻案とも言われているように、かなりシリアス。また、特に年長のキャラクターが持つ家族観は古風で、いま観ると窮屈に感じられるところもあるかもしれませんが、だからこそヒロインの鬱屈も理解できるのでは。

若者たちの50年代レトロファッションや、杉村春子演じるヒロインの叔母が自ら化粧品会社を起業しているという設定などはむしろ今日的ですし、本作に限らず小津監督の映画に登場する女性たちはメインキャラクターから脇役までみな個性的で、それぞれ自分の人生をいきいきと歩んでいるのも注目ポイントです。

『彼岸花』(1958)

彼岸花
©1958/2013 松竹株式会社

小津作品における特徴のひとつは、ロー・ポジションと、渋い赤色のポイント使い。『彼岸花』は小津監督初めてのカラー映画ですが、すでにレトロな色調に赤色が映えて美しい、「これぞ小津!」な作品です。

椅子にさりげなく置かれたクッション、女性たちの和服の帯やバッグ、口紅、テーブルの上に置かれた灰皿の柄、ランプシェード。そして、今もシンボリックに語られる、琺瑯の赤いやかん!このやかんを小津はたいそう気に入っていて、撮了後は自宅に持ち帰って愛用したというエピソードもあります。

カラー1作目にして、この後の小津カラーの作風を完全に確立した画面デザインに思わずうっとり。日常的な会話のセリフの多さや、4:3で横幅の狭いスタンダードサイズ、低めのアングルの固定カメラでの視界など、まるで自分も小津映画の世界にいるかのような気分になれる作品でもあります。

メインキャラクターたちの洋装も素敵ですが、京都で旅館を営む母娘(浪花千栄子、山本富士子)やバーのウェイトレス(桜むつ子)のエフォートレスでこなれた和服の着こなしがとても素敵なので、モダン着物に興味のあるかたにもおすすめです。


『お早よう』(1959)

お早よう
©1959/2013 松竹株式会社

郊外の新興の建売住宅で育つ元気な子どもたちが可愛いくて、思わずニコニコしてしまうファミリーコメディ。時代は高度成長期で、家にテレビがあるお友だちがうらやましくて仕方がないメインキャラクターの兄弟が主人公です。男の子同士“おなら”のネタでふざけあったり、お父さんに叱られて「僕たちもう口きかない!」と幼い抵抗をしてみたり…というエピソードも可愛らしい。

当時の東京郊外の最新のライフスタイルが生き生きと、そしてお洒落に描写されているのが楽しい作品です。もちろん、インテリアの中におなじみの赤も利いているのですが、それが玄関に置かれたスキー板だったりするのも、時代を反映していますね。

この作品を撮る直前には、小津の代名詞ともいえる名作『東京物語』(1957/後述)、初のカラー映画『彼岸花』(1958/先述)と映画史に残るような名作を世に出しており、しかも連続で高い評価を受けていますが、その次作としてこういう軽快でキュートな作品を出してくるのも粋です!

『淑女と髯』(1931)

淑女と髯
©1931 松竹株式会社

遡って、小津サイレント時代の作品をひとつご紹介します。他の作品と比べるとあまり語られることが少ない印象ですが、「剣道一筋のむさくるしいヒゲ男が、髭を剃ったら突然モテだして…!?」という愉快なコメディです。テンポよく意外な方向に転がっていく展開は、当時洋画で流行していたスクリューボールコメディも連想されます。

主人公を取り巻く女性たちも、西洋化が進んだこの時代を表してそれぞれユニーク。チンザノにフルーツやケーキをあわせるような先進的な男爵家のお嬢さんや、おっとりとしていてもしっかり者で主人公に的確なキャリアアップのアドバイスをする女性、男たちを従えて強がっているけれど実は傷を抱えているモガ(モダンガール)…。彼女たちの髪型や衣装、小道具もキャラクターを表していて魅力的です。

モノクロサイレントなのに、その洗練された構図から、観る者の想像のなかでは豊かな色彩や質感が想像できるほど。現代から見るとお髭があっても素敵に見えますが、その時代ごとの美意識の違いも面白いですね。

小津監督は若い頃にはアートディレクターを志したこともあり、映画の中の小道具や看板のデザインも自ら手掛けるデザインセンスの持ち主ですが、サイレント映画はところどころ文字で挿入されるセリフのフォント含めた小津監督のアートの真髄が感じられるのが楽しいところです。

『東京物語』(1953)

東京物語
©1953/2011 松竹株式会社

小津監督の代表作・最高傑作といえばたくさんありますが、どんな切り口で紹介するにしても『東京物語』を挙げないわけにはいきません。小津作品のなかでは1画面に登場する人数が多いモノクロ作品ですが、演者ひとりひとりの角度や動きのスピードを含めて特有のローポジションの1カット1カットがあまりにもばっちりキマっていて、隙のない美意識が最も感じられる作品です。

そして何と言っても主演の笠智衆・東山千栄子演じる愛すべき老夫婦!成長して東京で暮らす子どもたちに会いに尾道から上京するものの、子どもたちはそれぞれの人生に忙しく、自分たちが築き上げた「家族」の絆はすでにほどけてしまっていることに気づかされる切なさ。

こんなはずじゃなかったとボヤく時にも穏やさを失わず、子どもたちに体よくあしらわれていることに気づいていても卑屈にならず感謝を忘れず、そして「でも、私たち幸せですよ」「幸せなほうですよ」とお互いをかばうように穏やかに海をみつめるふたりの丸い背中。思わず抱きしめたくなります。

テーマとしては、血のつながった息子や娘よりも、血のつながらない義理の娘(亡くなった息子の妻)とのほうが気持ちの交感があったというものですが、演じる原節子の義両親への優しさの表現もさることながら、オフィスで颯爽と働いている姿も素敵です。

セリフの言い回しやタイミングにも強いこだわりがあったという小津監督。老いたふたりが何度も言う尾道弁での「ありがと」(「が」にアクセントがあります)がじんわりと心に残る作品です。

ヴィム・ヴェンダース監督が『東京画』でとりあげ、侯孝賢(ホウ・シャオシェン)監督が『珈琲時光』で、山田洋次監督が『東京家族』でオマージュしています。

生誕120年、没後60年経っても、世界中から愛される小津安二郎監督作品。U-NEXTではほかにもサイレントからカラー映画まで、小津作品をたくさん配信しています。

この機会に、小津ワールドの美意識に触れてみませんか?

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