世界最高峰の総合格闘技(MMA)団体として、世界最高のMMAアスリートが名を連ねるUFC。U-NEXTでは、2025年8月17日(日本時間)開催の『UFC 319:デュ・プレシ vs. チマエフ』(ユナイテッド・センター)をライブ配信する。
注目のメインイベントは、王座2度防衛中のミドル級王者ドリカス・デュ・プレシ(南アフリカ)に、同級3位でキャリア無敗、UFC8連勝中のハムザト・チマエフ(アラブ首長国連邦)が挑むミドル級タイトルマッチ。また、フライ級15位の朝倉 海が同級11位のティム・エリオット(アメリカ)と戦うフライ級マッチも予定されている。
以下、コーメインイベントでフェザー級6位レローン・ マーフィー(イングランド)と対戦するアーロン・ピコ(アメリカ)の、試合前メディアデーでの言葉をお届けする。
「相手はイングランドから来るんだから、ファンが味方してくれるのはプラスだ」
──長年あなたを取材してきましたが、毎回のように「いつUFCに行くのか?」「UFC王者の○○についてどう思うか?」といった質問が出ていました。ですが今、あと数日で本当に「UFCファイター」と名乗れるようになります。今回のファイトウィークは、どんな気持ちで過ごしていますか?
ピコ:最高だよ。ようやくここに来られたっていう、この非現実的な感覚と、山あり谷ありのキャリアの末にたどり着いたこの場所で、ただこの瞬間を楽しんでる。初めてのスタッフに会ったりして、とにかくいい時間を過ごしてるよ。
──パッチー・ミックスがUFC初のメディアデーの時、「この数年間、MMAをやってるって言うと、ファンから“UFCの選手なんだね”って言われるけど、BellatorやPFLを知らない人が多かった」と話していました。あなたも同じような経験をして、やっと「UFCファイター」と名乗れる状況になったのでしょうか?
ピコ:そうだね、分かってない人に説明するのはいつも面白いよ。面白い話があって、俺の息子は4歳なんだけど、いつも一緒に試合を観てて、“パパがUFCで試合するよ”って言ったら、“わぁ、やっとプロになったんだね”って言ったんだ。俺も“そうだよ、やっとプロになったんだ”って(笑)。普段は外で何してるのって聞かれても“アーティストだよ”って言って細かくは話さない。でも突っ込まれたら“ファイターだ”って答える。
ただ、以前は“この団体で戦ってる”って説明すると“へぇ、じゃあいつかUFCに行くんだね”って言われて、“ああ、いつかね”って答えてた。でも今は“UFCファイターだ”って言える。そうすると“すごいね!”って反応が返ってくる。それは気持ちいいよ。
──マイケル・チャンドラー(ライト級12位)やマイケル・“MVP”・ペイジ(ウェルター級15位)、パッチー・ミックスのように他団体を経由してきた選手と違い、あなたはBellatorとPFLだけで戦ってきて、いわゆる規模の小さい団体を経験していません。Bellator以外のファイトウィークは今回が初めてになるわけですが、この状況は少し特別に感じますか?
ピコ:俺のキャリアはマディソン・スクエア・ガーデンで始まった。あの試合がどうなったかはみんな知ってるよな(笑)。今なら笑えるけど、当時は笑えなかった。でもここまで来る道のりは簡単じゃなかった。本当にこれは自分がやりたいことなのか、何度も自問したけど、答えはいつもYESだった。やめるという選択肢は一度もなかった。UFCに行くことは分かっていたけど、それがいつになるかは分からなかっただけ。
今振り返れば、キャリアの始まりから今に至るまで、全てがこのタイミングのためにうまく噛み合ってきたんだと思う。これからやるべきことはたくさんあるけど、心も体もすべて準備できてる。
──当初はモフサル・イヴロイエフ(フェザー級1位)と7月26日(現地時間)にアブダビで対戦予定でしたが、今はレローン・マーフィー(フェザー級6位)になりました。キャンプの流れとしては、長いひとつの準備期間のように感じますか? モフサル戦に向けてピークを作ってから、また全く別の相手・場所に向けてピークを作る必要があったわけですが。
ピコ:俺のコーチ、グレッグ・ジャクソンは“プロセスに留まれ”って常に言ってる。試合がキャンセルになるのもそのプロセスの一部だ。だからそこまで心配はしなかった。ハンター(UFC幹部)とも話して、“できるだけ早く試合を組む”って言われたんだ。レローンと8月16日(現地時間)に組むかもしれないって聞いてたから、減量も維持しつつ、7月26日用に体重を落としてた分をちょっと戻すために数日休んだ。実際はいいタイミングだったよ。S&Cコーチのサム・カラベдаにも連絡して、カロリー調整やら何やらプランを作った。結果的に、アブダビのカードに向けて準備してた時より今の方がコンディションはいい。
──レローン・マーフィーはUFC無敗で、直近2試合は接戦ながら判定勝ちを収めていますが、一部ではジョシュ・エメット(フェザー級8位)やダン・イゲ(フェザー級14位)の勝ちだったという声もあります。彼をどう評価していますか?
ピコ:16戦無敗には理由がある。UFCで無敗、タフな相手と戦ってきてる。試合に向けて、俺とチームにはやるべきことが山ほどあるし、相手を軽く見るつもりはない。彼の試合数と俺の試合数はほぼ同じだし、俺は地方団体の裏庭みたいな場所じゃなく、キャリアの最初からビッグステージで戦ってきた。だからこの瞬間のために準備はできてる。あとは試合のためにやるべきことをやって、仕事を片付けるだけだ。
──あなたはトレーニングラボでサム・カラベダとやってきたことについて話していましたよね。そこにはハムザト・チマエフ(ミドル級3位)やアルマン・ツァルキャン(ライト級2位)もいたそうですが、彼らとどんな練習をして、それがあなたのメンタルやファイトスタイルにどう影響しましたか?
ピコ:彼らと一緒に練習できたのは光栄だよ。今なら分かる、なぜ彼らが世界トップなのか。アルマンはライト級2位だし、ハムザトは今回のメインイベントで世界タイトル戦を控えてる。同じ志を持つ人間と一緒にいるのはいいもんだ。ジムに来たら全員が本気で、最高を目指してる。練習やメニューでも競い合って、お互いのレベルを引き上げられた。それに、彼らは本当にいい人たちだ。
ハムザトはケージに入れば人を“壊す”タイプだけど、普段は人への接し方を見ても分かる通り、すごく優しいんだ。それが俺が一番尊敬してるところだよ。アルマンも、“一緒にドリルやらないか?”って聞くと必ず“行くよ”って来てくれる。別に義務じゃないのにね。彼らは自分を限界まで追い込む“キラー”だけど、人間としても誠実で素晴らしい。それが間近で見られたのは本当に良かった。
──あなたはハムザトがこの試合に勝つと信じていると思いますが、どうやって勝つと予想しますか? 実際に練習で見て、そのレスリングがドリカス・デュ・プレシ(ミドル級王者)にとってどれほど厄介だと感じましたか?
ピコ:彼は厄介な相手だよ。ハムザトがサブミッションで勝つ可能性もあると思うけど、5ラウンドになってもドリカスにプレッシャーをかけ続けられるスタミナもある。簡単なことじゃないけど、彼は今回のキャンプを本気でやってきたのが分かる。体を限界まで追い込んでるし、ベストを尽くしてくれるはずだ。俺はハムザトがサブミッションで勝てると思う。
──フェザー級ではタイトル挑戦を主張できる選手が何人かいますが、この試合の勝者もその一人になり得ます。そんな中、アレクサンダー・ヴォルカノフスキー(フェザー級王者)とあなたの煽り合いが注目を集めていますよね。あなたはFOX Sports Australiaに“彼をKOする”と言いましたが、彼は“レスリングでは俺が圧倒できるし、アーロンのチャンスは一発を当てるしかない。それ以外なら俺が完封する”と返しました。この発言への感想は?
ピコ:5ラウンドなら俺は左フックか右を当てて倒せると思う。でも俺はこの団体に入ったばかりだ。彼の注目を集められるのはいいことだけど、今はレローン・マーフィーを倒すことだけに集中してる。そこが全てだ。もちろんヴォルカノフスキーは簡単な相手じゃないのは分かってる。ただ、彼が戦ってきた中で俺ほどのハイレベルなレスラーはいなかった。だから俺との試合が待っているよ、と伝えたい。
──もしこの試合に勝てば、すぐにタイトルマッチがあるという話はUFCからありましたか?
ピコ:特に具体的なことはない。ただ、“仕事を果たせば、その先には大きなことが待ってる”とは言われてる。それだけだし、それに集中してる。
──改めてヴォルカノフスキーについてですが、まず今回の試合が先なのは分かっています。ただ、UFCのベルトをかけて、この階級の歴代最強とも言われる彼と戦える可能性がある。これは特別なことですよね?
ピコ:すごくワクワクするよ。彼の存在は、俺を毎朝ベッドから起こす理由のひとつだ。練習に行くたびに、“いつかヴォルカノフスキーと戦う”って思ってきたからね。“完封してやる”なんて彼の声は、正直、俺にとっては最高の音楽みたいなもんだ。そのまま俺を過小評価しててくれ。その間に俺はどんどん強くなるし、起きた瞬間から“どうやってお前を倒すか”を考えてる。それを想像すると笑顔になるよ。
──ある意味、アレクサンダー・ヴォルカノフスキー(フェザー級王者)は、あなたを名指しすることで“もし勝てば次はこの相手だ”と道を示してくれているようなものですよね。これは変な質問かもしれませんが、あなたは非常に高いスキルを持っていると分かっています。それでもUFCの舞台に少し慣れる時間を取る方が良いと思いますか? それとも彼に呼ばれたらすぐにでも戦いたいですか?
ピコ:いや、今回勝ったら、ヴォルカノフスキーとはすぐ戦いたい。なんでわざわざ回り道する必要があるんだ? 他の相手とやってる間に何かあってタイトルマッチが延期になるリスクだってある。今はいいポジションにいる。勝てばトップに直行できる。上から“ベルトをかけて戦え”って電話が来たら、“もう少し慣れてから”なんて絶対言わない。トレーニングキャンプ含めて、ファイターには常に故障のリスクだってあるんだから、ベルトへの明確な道があるなら迷わず行く。
──UFCデビューではプレッシャーを感じる選手も多いですが、MMAファンの反応という面で聞きたいです。パッチー・ミックスがマリオ・バティスタ(バンタム級8位)とやった時、試合前はパッチーを応援していたファンが、試合後は手のひらを返してブーイングしていました。レローン・マーフィーの前戦もApexでブーイングされていて、今回はファンが“マーフィーに負けてほしい”という空気で、あなたがその役を担うような状況です。ファンの支持が一気に変わる可能性や、そのプレッシャーについてはどう考えますか?
ピコ:正直、プレッシャーはある。俺自身、最高レベルで戦うために大きなプレッシャーを自分にかけてるし、やってきた準備も膨大だ。だからプレッシャーはつきものだけど、ファンがどう思うかはあまり気にしない。全員を満足させることはできないし、MMAファンは容赦ない。だからそういうのはあまり読まないし、自分でコントロールできることに集中する。
大きな勝ちを挙げればファンは喜ぶだろう。もし相手にブーイングがあって俺に声援が飛ぶなら、それは悪くない。アメリカで戦うし、相手はイングランドから来るんだから、ファンが味方してくれるのはプラスだ。
──パッチーやパトリシオ・フレイレがUFCデビュー戦で負けたこともあり、Bellator出身の選手を懐疑的な目で見る人もいます。あなたがUFCフェザー級のトップ戦線では戦えないと思う人へのメッセージはありますか?
ピコ:特にメッセージはない。ただ、パッチーやパトリシオ・“ピットブル”・フレイレは素晴らしいファイターだけど、俺はアーロン・ピコだ。俺の試合を見てくれれば分かる。それが俺のメッセージだ。
──サム・カラベダのトレーニングについてですが、彼は元数学教師で、すべてが数学的かつ詳細にモニターされていると聞きます。様々な数値を毎日計測してくれるそうですが、実際の方法はどうなっていますか?
ピコ:良い質問だけど、それは彼に直接聞いた方がいいな。とても細かいデータ管理で、心肺機能、食事、体の仕上げ方、すべてを最高レベルに持っていきたいなら、トレイニング・ラボに行って彼と一緒にやってみれば分かる。俺から詳しいやり方は説明できないけどね。
──あなたは2017年に“Bellatorの超新星”としてデビューしました。それから8年経ってUFCに来ましたが、この道のりをどう表現しますか?
ピコ:タフな道だった。ここに来るまで楽じゃなかったし、大きな敗戦も経験した。“自分にこれができるのか”と疑った時期もあった。でも諦めずにやり続けて、ブランデン・ギブソン、グレッグ・ジャクソン、サム・カラベダといった最高のコーチたちに囲まれて、ただひたすら練習した。結果、直近10試合はほとんど勝ってるし、2017年の俺とは完全に別人だ。それを今回の試合で見せられると思う。
──最後の質問です。私がこれから言う言葉を完成させてください。“Don’t blink because…”(瞬きするな、なぜなら…)
ピコ:左フックが飛んでくるぜ。