ドラマ『何曜日に生まれたの』脚本家・野島伸司インタビュー「誰を視点に据えて見るかで全然違う物語に」
5年ぶりに地上波の連続ドラマ『何曜日に生まれたの』を書き下ろした野島伸司氏に、本作誕生の背景や、作品に込めた思いをうかがいました。
8月6日(日)に日曜夜10時にスタートした『何曜日に生まれたの』(ABCテレビ・テレビ朝日系全国ネット)。ひきこもり歴10年になる20代女性の物語で、地上波連続ドラマは5年ぶりになる脚本家・野島伸司によるオリジナル作品です。主人公の黒目すい役で主演の飯豊まりえさんと、彼女を題材にしようとする人気ラノベ作家・公文竜炎を演じる溝端淳平さん、そして、すいの父親で落ち目の漫画家・丈治を演じる陣内孝則さんに、新ドラマにかける意気込みや撮影現場での裏話、野島ワールドの魅力などをたっぷりと語っていただきました。
━━まず、出演のオファーが来た時の率直な感想から聞かせてください。
飯豊まりえ(以下・飯豊):野島さんの作品はファンの方も多いですし、私自身もファンなので、お話をいただいた時は本当に嬉しかったです。物語は引きこもりについてだと伺って、コロナ禍で学校の授業やお仕事がリモートになり、外に出る機会が減った方も多いと思いますし、引きこもりは現代の社会現象ともいえるのかもしれません。台本を読み始めた時、そのような方々の背中を押せるようなドラマになっているのではないかと感じました。
溝端淳平(以下・溝端):野島さんの作品ということで、嬉しい気持ちと、生半可な覚悟ではお受けできないと思いました。自分も今年で34歳になり、いろんな挑戦をしたいと思っていたタイミングだったのですが、まさに今回の作品はすごくチャレンジングでした。台本を読ませていただいた時、一つ一つの言葉に深い意味が込められていると感じました。野島さんは脚本家として当然巨匠ですが、まだまだ新しい引き出しがあるんだと感激しました。
陣内孝則(以下・陣内):実は、僕自身がこもり人になっていたんです。仕事がコロナで打ち切りになってからネガティブになってしまい、スケジュールがあいている時は外出もしなくなっちゃって。朝はテレビで大谷翔平の活躍を見て、昼は韓流ドラマや中国の歴史ものを見て、夜はドキュメンタリーを見ている生活になってしまい、これでもういいやと過ごしていたんです。仕事をして、あいている時はこもりびとという中、今回のドラマの話がきて、これは頑張らなきゃと思いました。気持ちが立ち上がったのは4月ぐらい。体重が90キロぐらいになっていたので、プロデューサーから「売れない漫画家なんで痩せてください」って言われて、マメに犬の散歩をしたりして生活スタイルを変えたら、12キロぐらい落ちましたよ。だから、犬の散歩ダイエットって本でも出そうかなって(笑)。今回の野島さんの本を読んだ時には、俳優と演出が試される本だなと思いました。奇想天外な話だし、ひとつ間違うと、ただの滑稽な話で終わっちゃう。でも、そんな物語のキャラクターに血を通わせるのは俳優の仕事だから、試されているなと思いました。
━━それぞれ役作りをしていく中で、2人、3人での掛け合いなど一緒に演じられるシーンもあると思うのですが、特に話し合われたシーンはありますか。
陣内:すいちゃんは、引きこもりであまりしゃべらない。だから、父親の丈治としては娘の声なき声を聞かなきゃいけないので、そこが難しいといえば難しいところだったかな。
飯豊:お父さんとの関係は良好で、長年寄り添っている夫婦のような空気感があるのですが、陣内さんとは普段からお話もさせていただいて、安心感もありますし、その雰囲気をお芝居にも出せたらいいなと思います。
溝端:あまりお芝居については話していないですね。空気感で通じ合えるものがあるという感じです。
━━劇中、個性豊かなキャラクターがたくさん登場しますが、ご自身と比べて、似てると思ったキャラクターはいますか?
飯豊:強いて言うなら、自分の役(すい)が似ているのかなと思います。私も人から言われた言葉に影響されやすいなと感じますし、頼まれたら絶対に断れない性格なんです。ほかにも、すいに共感できる部分があるので、野島さんに私のことを見抜かれている気がします(笑)。
溝端:僕も飯豊さんと同じで、役に似ていると思います。
陣内:野島さんって、人を見抜く目が鋭いんですよ。今回の僕の役って、本来、僕がやってきた役とは違うんですけど、かなり当て書きだなと感じてます。今回も、フレーズには結構ユーモアがあって。今までだったら、弾けてやると面白いと思っていたんですけど、監督から「抑えてください。小さいお父さんをとりたいんです」って。小市民で小心な、いつもハラハラドキドキしている父親なんですけどね。台本を読んでいると、この役は俺だなって確信をもって言えるんです。
━━実は、野島さんにお話を聞いた時、溝端さんが演じられた公文には野島さん自身がかなり反映されていて、そのことについて溝端さんと話したと伺いました。
陣内:そうですね。公文が「作家は人の心に土足で入り込み、興味があることは根こそぎ取材する。キャラを深掘りしたいから。たとえ傷つけようが、泣かせようが好奇心のほうが勝つ」みたいなことを言うシーンがあるんですが、そこは、野島さん自身の経験に基づいていると伺いました。だから、公文の台詞の中で、ここは完全、野島さんじゃないかなと思うセリフはたくさんあります。
━━飯豊さんが制作発表会見で、「今回のドラマでは高校生のシーンが多くて、学園ドラマを撮っている気分になった」と話されていましたが、印象に残ったことはありますか?
飯豊:一番最初の打ち合わせの際に、大塚監督から「高校時代は、全部モノクロで撮ります」とお話があって、それがとても印象的で面白いと思いました。ドラマでは、すいが高校時代に仲の良かったグループが出てきて、お互いに傷つけるような言葉はないのですが、どこか危うさみたいなものがちりばめられている。そんなシーンを全部モノクロで撮っていて、すごいアイデアだなと思いました。
溝端:色味を変えるとかキラキラしているならわかるんですけど、モノクロですもんね。そのチャレンジは僕もすごいなと思いました。
飯豊:学生時代と現在の世界観がいろんな場面で混じり合うんです。そのコントラストは、このドラマの見どころの一つだと思います。
━━陣内さんが今回の役を演じる上でポイントにされたことはありますか?とくに、先ほど、小市民で小心のお父さんを演じると話されていましたが、今までに演じられたことのない役柄ですよね。
陣内:そうですね。僕は颯爽としてかっこいい役が多かったから(笑)。『愛しあってるかい!』はおバカな教師でしたけど。でも、裏を返せば、みんな逆の一面も持っていると思うんです、人間ってね。野島さんの本って面白いから、テンションを上げて台詞を言おうとするんですけど。その度に、監督の大塚さんが「陣内さん、抑えて、抑えて」って。テストでみんな爆笑しているからいいじゃないかと思うんだけど。それだとリアリティが出ないらしくて。むしろ、小さく演じたほうが作品的には面白くなってくのかな。
━━飯豊さんには監督からどんな要望がありましたか?
飯豊:「すいは咄嗟に自分の気持ちが出せなくなる性格です」とお話があったので、台本にはセリフが書いてありますが、シーンによっては、あえて声に出さないようにして、すいらしさを表現できないか探ってみたり。あと、棒読みのようにしゃべるといいますか、セリフを発する時にあまり強弱をつけないように意識したりしました。
━━和気あいあいとした現場だそうですが、撮影中に印象に残ったシーンは?
溝端:印象に残ったというよりも、ワンシーンが長いんですよ。この間は15ページぐらいあったシーンをほぼ止めずに撮ったんです。チームワークが良くて、みんな和気あいあいとして楽しい現場ですがメリハリがある。キャストもスタッフさんも含め、チームとして一体感が増した瞬間が僕は嬉しくて。とても貴重な体験ができたと思いましたね。
飯豊:達成感がありましたね。
溝端:第2話の中盤ぐらいのシーンが長かった。
陣内:1話も2話も長い所は長い。『愛しあってるかい!』のときは普通でしたけど、今回に限っては、ワンシーンが長い。だから、試されているんだと思います(笑)。
飯豊:そのワンシーンに大事な言葉がちりばめられているといいますか、埋められているなと感じていますし、いろんなことを話すことによって、埋もれていく、なだらかになっていくというのをあえてやっている気がします。
溝端:みんなで謎解きしているみたいなところもあります。
━━1度見ただけじゃわからない、読み取れないところもあのでしょうか?
飯豊:そうですね。あの時の会話は楽しそうだったのに、実はすごくシビアなことを聞いていたんだなど、発見があると思います。話が進むたびに、真相が明らかになっていきますので、そういう展開もお楽しみいただけたら嬉しいです。
━━最後に、それぞれの見どころや、ドラマをご覧になる方へメッセージをお願いします。
飯豊:私は台本をいただいた時に、親子モノの話になるのかなと思っていたら、入口と出口が全然違いますし、まさか、こんな展開になるとは予想もしなかったという展開なので、皆さんがどのように受け止めてくださるのか楽しみです。まずは純粋にこの作品を楽しんでいただきたいなと思います。
陣内:確かに。僕は1、2話を読んだ時は、スペンサー・トレイシーの『花嫁の父』みたいな話なのかなと。主人公のお父さんの役だから、コミカルに立ち回ればいいのかなと思えば、そうじゃなかった。意外と深い意味合いがある。社会性もあるし、軽はずみに演じると、俺、炎上するなと。真面目にやっぱり、より深く取り組まなきゃだめだなと考えてやってますし、そこを見て下さい。
溝端:僕の役は、謎が多く何を考えているのかわからないので、そういう人間をどう演じようか。でも、どこかに人間味や親しみやすさ、愛くるしさみたいなところも出さなくちゃいけないんです。ある種、そこにいるんだけど、そこにいないような存在感になればいいなと思っていますが、今、自分で言っててものすごくハードルをあげましたよね、(笑)。とにかくものすごく面白いキャラで、とりあえず変人です!これまで僕は変人に振り回される役が多かったので、そういう意味では僕自身も新鮮ですし、迷路にいる気分です…(笑)もがき苦しみながら頑張りたいと思います。
5年ぶりに地上波の連続ドラマ『何曜日に生まれたの』を書き下ろした野島伸司氏に、本作誕生の背景や、作品に込めた思いをうかがいました。
主演の飯豊まりえさんはじめ、溝端淳平さん、早見あかりさん、シシド・カフカさん、陣内孝則さんら主要キャスト5名と、脚本を手掛けた野島伸司さんが登壇。
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