あえて物語を動かさない。『VIVANT』福澤克雄監督が語る、制作の舞台裏
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あえて物語を動かさない。『VIVANT』福澤克雄監督が語る、制作の舞台裏

2023年における国内最大ヒット作の一つとなったテレビドラマ『VIVANT』。謎が謎を呼ぶストーリーや壮大な演出、豪華なキャスト陣などが注目を集め、SNS上を中心とした考察も含め話題沸騰となりました。

そんな同作のオリジナル副音声版となる『VIVANT 別版 〜副音声で福澤監督が語るVIVANTの世界〜』が、2023年12月15日よりU-NEXTで独占配信されます。同作を手掛けた福澤克雄監督と演出陣が語る撮影秘話や作品に込めた想いなど、ここでしか聞けない貴重なエピソードが盛りだくさんの内容です。

『VIVANT』がこれほどまでにヒットした裏側には、どのような試行錯誤があったのか。副音声版の収録を終えたばかりの福澤監督にインタビューを行い、錚々たるキャスト陣が揃った背景から「物語を動かし過ぎない」ことを決めた理由まで、お話を伺いました。

“培われたもの”があるからこそ生まれた作品

──『VIVANT』の魅力のひとつとして、個性的な登場人物たちの存在があげられると思います。監督ご自身にとって、特に思い入れのある登場人物はいますか?

福澤:思い入れという意味では全員です。どの人物も、この作品にとっては欠かせない存在だったと思います。

そのうえで、演じるのが最も難しかった役を選ぶとすれば、やはり主人公の乃木憂助でしょう。堺雅人さんには撮影中、別人格であるFと乃木とをカットごとに、行ったり来たりするように演じてもらいました。この二重人格をやり切れる役者の方は、そうはいないはずです。大変だったに違いありませんが、堺さんだからこそ、表現できたことがたくさんあったと感じます。

そして乃木と同じく、ノコルとノゴーン・ベキもまた、演じるのが非常に難しい役だったと思います。

ノコルの場合は、乃木に対しての失妬心がどこか常ににじみ出ている。そして父親であるベキに大きな尊敬の念を抱き、何ともいえない青年らしさも身にまとっている点が特徴です。この独特で複雑なノコルならではの雰囲気を、二宮和也さんがこれ以上ないほど魅力的に演じてくれました。

一方のベキは掴みどころがなく、心の底では何を考えているのかわからない。なんとなく疑わしいような気もするけれど、包容力も持ち合わせている人物です。この役を役所広司さんに演じていただいたことで、現場の全員が迷いなく、まっすぐに撮影に取り組むことができた。役所さんにこの役を引き受けていただき、僕自身もすごく助けられた部分がありました。

──いま名前があがった3人を含め、本作には錚々たるキャスト陣が揃いました。福澤監督の作品だからこそ、集まったメンバーとも言えるのではないでしょうか。

福澤:実力のある方々ばかりに参加いただき、改めてとてもありがたく思っています。ですが、僕の作品だからというより、「日本のドラマをより広く世界へ届けたい」という想いが共通していたからこそ、集まってくれたのではないかと思っています。

『VIVANT』は国内に限らず、国外に向けても日本のドラマを届けたいと考え、それを念頭に作った作品です。もっと世界で話題となり、より多くの人々に見られるようなドラマ作品を、日本からも生み出していきたい。そうした気持ちが一人ひとりに少なからずあったからこそ共感し、参加してくださったのではないでしょうか。

──この作品を国内に限らず、より広く世界へ届けたい。役者の皆さんだけに限らず、制作チーム全体にそうした想いがあったのでしょうか。

福澤:そうですね。少なくとも、僕自身はそれくらいのドラマを作りたいという気持ちを最初から持ち続けていました。

その理由のひとつに、TBSドラマ制作部の存在があります。TBSには、自社の社員が中心となって1本のドラマ作品を作り上げる文化がある。だからこそ培われ、受け継がれてきたノウハウがあるんです。

僕自身、これまでTBSで何本もドラマを作ってきました。そのなかで、大型ドラマを自分たちで作るための仕組みがあり、たしかな技術があることはわかっている。脈々と受け継がれてきた力を、新たな挑戦に活かすべきタイミングに来たのではないかと考えたところから、『VIVANT』の企画はスタートしました。

VIVANT_福澤監督_01
福澤克雄(ふくざわ・かつお):1964年生まれ。1989年TBSテレビ入社。テレビドラマのディレクター・監督、映画監督として数々のヒット作を手掛ける。主なドラマ作品に『半沢直樹』『下町ロケット』『陸王』『VIVANT』などがある。

──本作の制作を通じて培われたものも多くあり、それもまたこの先受け継がれていくのではないかと想像します。

福澤:そうなれば嬉しいですね。実際に『VIVANT』のようにスケールが大きく激しいドラマをやればやるほど、“自信”がつくと思っているんです。少しのことでは動じなくなるし、それが最終的に作品のクオリティにもつながってくる。だからこそ今回の制作でも、次につながる経験値をTBSのなかに積み上げたいという気持ちはありました。

「物語を動かし過ぎないようにした」理由

──『VIVANT』という作品を通じて、福澤監督が描きたかったテーマはどのようなものだったのでしょうか。改めて、いま考えることを聞かせてください。

福澤:何より描きたかったのは、やはり“別班”の存在です。人生をかけて国を守るために、僕たちの見えないところで日々活動している人や組織が日本にもある。平和の裏には何があるのか、平和とは何なのか。それらを考えるきっかけを作りたいという気持ちは、いま振り返っても大きくありました。

そのうえで、実は明確に「これを描きたい」といったテーマがあったわけではないんです。それ以上にあったのは「とにかく次の展開が気になって仕方ない」と思ってもらえるドラマを作りたい気持ちでした。

そんな作品を目指したきっかけのひとつに、かつて黒澤明監督の『用心棒』を見た時に覚えた衝撃があります。浪人者が現れたと思ったらあっという間に敵を刀で切り捨てて、それから色々な対立があって、気がついたら町を去っていく……何が何だかよくわからないけれど、とにかくそれまでに感じたことがないほどの面白さを覚えて。気づけば何回も見たくなってしまうような魅力がありました。

夢中で見ていたらいつの間にか終わり、あとにはただ「面白かった」という気持ちだけが残る。『用心棒』を見た時から、いつか自分もそういう作品を作りたいと思い続けてきたんです。

──そうした理想の作品を作り上げるために、『VIVANT』の制作において挑戦したことはありましたか?

福澤:第1話の段階であえて「物語を動かし過ぎない」ことです。

日本のテレビドラマのなかには、主要人物をたくさん登場させたり、さまざまな伏線を張ったり、第1話のなかで「物語を動かす」作り方をしている作品が少なからずあります。次の展開への興味を喚起し、第2話以降も視聴してもらうことが狙いです。

たしかに、継続的に見てもらうためには、第1話を面白いと思ってもらえるかどうかは非常に重要です。一方で、初回の時点で物語を動かし過ぎると、なんとなく第2話以降の展開の予想がついてしまうことがある。特にたくさんの作品を見てきたドラマファンであれば、「次はこうなって、最終的にはこうなるんだろうな」と予測できてしまうんです。

そうなると、僕が今回作りたかった「何がどうなるかはわからないけど、とにかく次の展開が気になる」と思ってもらえるような作品にはならない。だから『VIVANT』ではあえて、第1話で物語を動かし過ぎないことを意識しました。

乃木憂助が別班のメンバーであることを第1話の段階で明かす案も当初はありましたが、そうはしなかった。「ヴィヴァン」という謎のキーワードが最後に出てくるにとどめたんです。この時点で乃木が別班だとわかってしまったら、それは面白くないよなと。それよりも、第4話あたりで一気に展開が変わってくるほうがこの作品は魅力的になると直感していました。

──物語を動かし過ぎることなく、続きが見たいと思ってもらう。そんな第1話を作り上げるために、特に試行錯誤した点はありましたか?

福澤:物語がさほど動かなくとも、見ている人には夢中になってもらいたい。そのために必要なことだと思ったら、どれほど時間やお金がかかってもやると決めていました。

たとえば3000頭もの羊を突進させたり、トラックで警察車両を何台もふっ飛ばしたり。自分が今までやったことのないような演出もたくさんあったので、不安になりながら作っていった部分もありました。そのあたりの試行錯誤については、副音声のなかでも詳しくお話しているので、ぜひ聞いてほしいです。

──制作を進めるなかで、ご自身のなかで手応えのような感覚は増えていきましたか?

福澤:それはあまりなかったですね。モンゴルへ行って第1話のシーンを撮影して、次は第5話を撮って、第7話を撮ったら日本に戻って、また第1話の別のシーンを撮影して……という形で、頭も体もとにかくあっちこっちへ行ったり来たりしながら、必死に制作を進めていました。結果として、色々考える暇もなかったのが正直なところです。「もう、とにかく撮るしかないよな」という気持ちでしたね。

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でもそれくらい開き直れたのが、いま振り返ると逆に良かったのかもしれません。ずっと撮影を続けていると、何が面白いかなんて自分でもわからなくなってくる。だからもう自分を信じるしかないし、結局は自分なりに手探りを続けていくしかありません。「とにかく一生懸命作ったから、どうか見てください」という一心でした。

──続編への期待の声もあると思いますが、福澤監督のなかでは「やりきった」ような感覚もあるのでしょうか。

福澤:実はそれもあまりないんです。先ほども触れたように、今回は世界に出ていけるようなドラマ作品を一つ、じっくり時間をかけて作りたいと考えていました。今後の日本のドラマ制作に、何か少しでも好影響をもたらせたら良いとも思っていた。

そのうえで、終わってみて浮かぶのはやりきった気持ちよりも、これからさらに良い作品が作れるのではないかという想いです。だからこれからも手を止めることなく、僕は作り続けていきたいと思っています。

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『VIVANT 別版 〜副音声で福澤監督が語るVIVANTの世界〜』

『VIVANT』

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