演劇「ハイキュー!!」から劇団「ハイキュー!!」へ!演出・須賀健太とキャスト4名が舞台への思いや感触を語る
加藤憲史郎さん、若林星弥さん、熊沢学さん、藤林泰也さんに演出・須賀健太さんを加えた計5人に貴重なお話をうかがいました。
多彩なスター俳優を客演に迎え、時にはド派手に、時にはシリアスで迫力たっぷりな舞台を上演してきた「劇団☆新感線」。1980年の結成から44周年を迎え、今年も44周年興行・夏秋公演いのうえ歌舞伎『バサラオ』の上演を控えています。
一方で、「劇団☆新感線」は、早くから公演の映像化にも着手してきました。2004年に「ゲキ×シネ」を立ち上げ、上演中の公演をカメラワークや音響にも徹底的にこだわって撮影・編集・構成した映像化作品を映画館で上映。劇場の外でも生のステージの迫力を伝えてきました。
そんな「劇団☆新感線」に欠かせない存在が、看板俳優の古田新太さん。『バサラオ』にもゴノミカド役で出演している古田さんに、『バサラオ』のみどころはもちろん、40年以上にわたって受け継がれてきた「劇団☆新感線」ならではの魅力や、生の舞台だけではわからない見どころも聞きました。
──古田さんは『バサラオ』では、幕府に対抗する流刑の帝・ゴノミカド役として出演します。
古田:南北朝時代をモチーフに、いろんな勢力の間でオイラたちが裏切ったり、裏切られたりします。(生田)斗真と(中村)倫也が出て、さらにりょうちゃんとなぁちゃん(西野七瀬さん)も出てくれるので下ネタをやってみたかったんだけど(笑)。剣豪だったり殺し屋だったり、とにかく登場人物全員がアクが強い。だから女性陣の方が大変かな。2人とも線が細くてかわいらしいイメージがあるから、押し出しの強さをどう見せてくるか、期待しています。
──ゴノミカドという役のイメージはいかがでしょう。
古田:新感線は江戸時代が舞台の芝居が多かったんだけど、南北朝時代がモデルなのは珍しいかな。オイラだけが関西弁を話していて「ミカド」だからカリスマ性もあるんだろうけど、劇団のことだから多分イメージするほど賢くないと思います。というのも新感線に登場するキャラクターって、自分では頭が切れるとか腕が立つと思っているけど、全然そんなことはなくて、実は頭が悪くて抜けたところがあるやつらばかりです。少年マンガに出てきそうな。
──公演ビジュアルも派手で格好いいのに、実は“少年マンガ”なんですね。
古田:敵は敵、味方は味方、悪役は悪役とわかりやすくて、主人公はルフィや桜木花道のように、熱いけど思考回路は単純なのがいのうえ歌舞伎。なのに『バサラオ』は、裏切りも続くし戦いも1対1ではなく集団戦だから、台本を読みんで「めんどくせえなあ」と(笑)。戦闘シーンの度にアンサンブルの俳優たちが袖に引っ込んでは出てきて…と楽屋は戦場になりそう。中島さん、絶対劇場のサイズ感わかってないだろうな(苦笑)。
──なるほど。今回も新感線らしい華やかな演出も期待できそうです。
古田:昔は、青山円形劇場で、光GENJIをもじって舞台上でローラースケートで走る演出をやったこともあります。ところが小さい劇場だからオイラたちは曲がり切れなくて客席に落ちて、あげくお客さんとぶつかる、なんてこともありました。こんなふうに、中島さんもいのうえさんも、いい意味で現場を無視したスケールの大きな舞台を考えてくれて、その無茶ぶりに応えてきて、40年以上になりました。
──そして、派手なバトルがありキャラクター同士の友情もあり…と、新感線の舞台は確かにマンガ的なわかりやすさも見どころのようです。
古田:中島さんはもともと「週刊漫画アクション」の編集者をしていました。だけど発想は少年マンガ的で、そこにいのうえさんの演出が加わると、もうジャンプ・マガジン・チャンピオンの三大少年マンガ誌の世界になりますね。ギャグがありバトルもあって、格好いいんだけど抜けているキャラクターが動き出す。ふたりの作風は、マンガに例えると「原作:武論尊、作画:赤塚不二夫」かな。
──ハードボイルドだけどコミカルな新感線の舞台は、そんなバランスで成り立っているんですね。
古田:いのうえさんの影響の方が強いのか、舞台上にいるのはバカボンのパパとかイヤミのようなキャラクターばかりですね。オイラもそんな役ばかりやってきました。
──『バサラオ』は裏切りが相次いで、久々にシリアスな舞台になるといのうえさんは抱負を語っていますが…
古田:まず中島さんは『太平記』のような大河ものを書いているつもりだと思います。ところが、舞台だからテレビドラマのように何ヵ月、丸々1年と放送できないし時間的な制約があります。だから余分な要素を削ってドラマの核になる場面だけを抜粋しようとなり、いのうえさんによって、派手な音楽や光の演出が加わります。そうなるともう、劇画や時代劇ではなくて日曜日の朝に放送しているような、アニメや戦隊ものに作風が近づいていきます。『バサラオ』もこうやって、初日になれば笑える展開になっていそうです。
──新感線では「ゲキ×シネ」として、過去の作品の上映や配信も行ってきました。一度上演した舞台を、映像で楽しむポイントはありますか?
古田:俳優をドアップで見られること。ガンズ・アンド・ローゼズのライブに行っても、ボーカルのアクセル・ローズの顔をシワの動きまで見届けることは難しいですよね。自分の席とは違うアングルから、それまで見えていなかった動きも視界に入るし、中村倫也や生田斗真が出演してきた『狐晴明九尾狩』(2021年)や『偽義経冥界歌』(2019-2020年)でもツバを飛ばしたり、汗だくになっている彼らを至近距離で捉えた映像が見られます。美しくて格好いい連中を客演に呼んできているからには、映像でしか見られない彼らの美しさも舐めまわすように堪能してほしいです。
──ゲキ×シネに限らず過去の上演作で、映像でも見ごたえがあると思う作品はありますか。
古田:『直撃!ドラゴンロック2・轟天大逆転~九龍城のマムシ』をぜひ見てほしいです。歌もダンスもありつつ、いのうえ歌舞伎ではなくてバカな奴しか出てこない芝居です。うちの橋本じゅんがめっぽう女好きの剣轟天という格闘家を演じていて、ものすごくくだらないことを真剣にやっている彼の顔を大写しにしています。橋本が『激突!殺人拳』の千葉真一さんみたいなメイクをして、アホな轟天を全力でやっている。いい男では全くないけど格好いいです。
──『バサラオ』主演のヒュウガ役の生田斗真さんとカイリ役の中村倫也さんは、それぞれ『偽義経冥界歌』と『狐晴明九尾狩』では主演で活躍されましたが、劇団☆新感線の公演としては、『バサラオ』が古田さんと初めての共演になります。
古田:ふたりとも上品で、クレバーな俳優です。若い頃はまだケツを叩いてあげないと周りが見えていない面もあったけど、40歳近くなって彼らが演者を引っ張っていけるようになりました。倫也なんかはオイラと一緒で「早く帰るに越したことはない」をポリシーにしているから(笑)、オイラの手綱を持ってサッサと仕切ってもらって、早く稽古を上がってお酒を飲みたいですね。
──「早く帰りたい」「省エネ」も古田さんの俳優としてのポリシーであると。
古田:人間みんな、仕事はさっさと終わらせて帰りたいじゃないですか(笑)。手を抜くという訳ではなくて、どんな注文にも応えられる用意をしておくことです。オイラはよく料理人に例えるんだけど、「うちは寿司屋だから寿司しか出せません」なんて言わないで、中華でもハンバーグでもフォアグラでも何でも出すのがプロの仕事だと思っていて。俳優なら「役に備えて3ヵ月特訓しました」じゃなくて、歌でもダンスでも楽器の演奏でも、常日頃から引き出しを増やしておく。斗真も倫也も、この基本に忠実かつ求めるリアクションを早く導き出してくれるという点で、クレバーで信頼できるんです。
──それが古田さんの、オールマイティな俳優としてのスタイルでしょうか。
古田:小学生の頃にはもう舞台俳優になろうと決めていたから、楽器もやってクラシックにタップもやって、大学でもミュージカルの舞台づくりを学んで…と、役者になる基礎を若いうちにすべてマスターしてきましたから。時代劇が好きだしヌンチャクもマネしていたら、後年ある現場で突然「ヌンチャクできますか?」とむちゃ振りされて(笑)。最初は棒術のシーンだって言われていたのに。言われたままにその場でヌンチャクをやったら共演の賀来賢人にまで「古田さん何でもできるんですね」と驚かれました(笑)。
──多芸ですね。そして同業の俳優の方々にもなかなかマネできないことかもしれませんが……
古田:でもやっていることはシンプルで、オイラは下手に自分の色を出そうとしていません。素直だと思います。役者の側があれこれ考えるより、言われたことに応えてその結果、お客さんに評価してもらえる舞台になればいいんです。どんなオーダーにも応えられるために日頃の積み重ねがいるんだけど、「とりあえずタップとクラシックダンスはマスターしておけ。振り入れがすぐ終わるから」と若い俳優さんには思います。
──そんなポリシーで、ジャンルを問わず長く俳優として活動してこられたと。
古田:まだまだこの業界で実現したいことがいっぱいあるんです。自分が役をやるだけでなく、人を集めて興行をプロデュースすることも好きで、客演で好きな俳優たちを招いています。ついでにお客さんも呼べますし(笑)。ただ携わりたいのはキャスティングまでで、もし演出や監督をやるとオイラは「早く帰りたい主義」だから、役者からのレスポンスを待つより自分で演技を実践したくなってしまう。それでは全体を俯瞰した仕事はできないから、現場では俳優に徹しています。
──となると、これからも、古田さんの感覚を活かした舞台がたくさん見られそうです。
古田:うちみたいな小劇場発祥の劇団って、普通はこんなに長く続かないんです。やりたいことをやりきったら解散してしまうことがほとんどなんだけど、皆「もっとできるはずだ」という期待感を持ち続けている。だからまったく解散できそうになくて、バカなことをやり続けています。『バサラオ』も楽屋は大忙しだし、客席降りもある。演出側のむちゃな要求に応えつつ(笑)、怪我なくやりきろうと思います。主役級の斗真たちはもちろん、皆代えのきかない存在ですからね。
(プロフィール)
古田新太(ふるた・あらた)
大阪芸術大学在学中の1984年から「劇団☆新感線」に参加。「劇団☆新感線」公演以外の近年の主な出演作品に、舞台『ラヴ・レターズ』(24)、『パラサイト』(23)、『ロッキー・ホラー・ショー』(11・17・22)、『衛生』(21)、映画『サイレントラブ』(24)、『ヴィレッジ』(23)、ドラマ『不適切にもほどがある!』(24)、『となりのナースエイド』(24)、『お別れホスピタル』(24)などがある。現在バラエティ番組「EIGHT-JAM」(EX)にレギュラー出演中。2024年には第45回松尾芸能賞優秀賞を受賞した。
ヒノモトと呼ばれる国幕府と帝が相争う時代を舞台に、自分自身の美しさを武器に天下取りを目指す男、そんな男の参謀としてバディとなる謎多き男、そしていきすぎた自分の信念のために裏切り裏切られる人々の物語。コロナ禍以降、意識的に明るい作品を上演してきた新感線が、久しぶりに楽しいばかりではない、今までとはひと味違ったダークなトーンの作品を上演する。
作:中島かずき
演出:いのうえひでのり
出演:生田斗真 中村倫也/西野七瀬 粟根まこと/りょう/古田新太 ほか
ヘアメイク/田中菜月 スタイリスト/渡邉圭祐 衣裳協力/カーディガン¥28,600、パンツ¥22,000/共にパゴン(問パゴン本店Tel075-322-2391)
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