最新作『破墓/パミョ』で韓国のゴールデングローブ賞といわれる第60回百想(ペクサン)芸術大賞の最優秀主演女優賞を受賞した、キム・ゴウン。女優デビューから現在まで、作品ごとに別人になるような憑依型の演技を見せ、若手実力派として名高い彼女のドラマと映画から厳選した出演作10選をご紹介します。
韓国映画界に彗星の如く現れたキム・ゴウンのデビュー作。物語は、文壇から尊敬されている70代の大物詩人イ・ジョギョ(パク・ヘイル)が、作家として成功した弟子ソ・ジウ(キム・ムヨル)の代わりに、自分の身の回りの世話係として女子高校生ウンギョ(キム・ゴウン)を雇うところから始まる。
初々しくもどこか艶っぽい17歳の女子高生ウンギョの存在は、ジョギョの衰えない創作意欲を刺激し、インスピレーションを得て妄想から小説の筆が進んでいく。しかし、野心家のジウはそんなふたりの様子を見て次第に嫉妬するようになり、歪んだ感情からウンギョに近づいていくようになる。
見どころは、当時大学生だったキム・ゴウンの体当たりの演技、30代のパク・ヘイルが特殊メイクで70代の老詩人となり哀愁ある姿を見せているところ、破綻していく3人の関係性だろう。キム・ゴウンは本作がデビュー作にもかかわらず、無邪気さと大胆さを併せ持つウンギョを演じ切り、堂々と濡れ場にも挑んで、韓国のアカデミー賞といわれる「大鐘(テジョン)賞」ほか、各映画賞の新人賞を総なめにした。
本作を手がけたチョン・ジウ監督は、長編デビュー作『ハッピーエンド』(1999年)で実力派チョン・ドヨンにオールヌードを披露させており、キム・ゴウンにも新人ながらハードルの高いウンギョ役をまっとうさせるなど、その手腕が窺える。後に、キム・ゴウン×チョン・ヘインのセンチメンタルなラブストーリー映画『ユ・ヨルの音楽アルバム』(2019年)でも再度タッグを組んでいる同監督。その始まりでもある『ウンギョ 青い密』は、キム・ゴウンが初めから別格の女優となるであろう兆しが十分に感じられる作品だ。
『ウンギョ 青い蜜』で鮮烈なデビューを飾ったキム・ゴウンが次に選んだのは、アクションスリラー映画『その怪物』。露店商売をしながら、唯一の家族である妹と暮らすパク・ポクスン(キム・ゴウン)は、少々理解力が足りないものの、怒らせると手に負えない。そんななか、殺人鬼テス(イ・ミンギ)のもとから逃げ、偶然、ポクスンの家を見つけた幼い女の子が転がり込んでくる。
道に迷った幼い女の子を送り届けてあげようと、ポクスン姉妹と幼い女の子は霧深い山道を進む道中、忘れ物をして家に帰るポクスン。しかし、妹と幼い女の子のもとに戻った時には、妹はテスに殺されていた。妹の復讐のために立ち上がるポクスンとテスの追撃戦が始まる。
ドラマ『ヒップタッチの女王』(2023)や『私の解放日誌』(2022年)でも安定した芝居を見せるイ・ミンギが演じる冷酷な殺人鬼テスの迫力も圧巻だが、テスに怒りを燃やすポクスンをキム・ゴウンが熱演。本来はおおらかなポクスンが、妹、そして幼い女の子と、守るべきもののために必死で闘っていく様子は、凄まじい。
イ・ビョンホンとチョン・ドヨンという韓国トップ俳優との初共演作。舞台は高麗王朝の末期。圧政の世を変えるためべく、ドッキ(イ・ビョンホン)、ソルラン(チョン・ドヨン)、プンチョン(ペ・スビン)の3人の剣士は、民とたてた志を果たすため、最強とうたわれた3本の剣により反乱を起こそうとしていた。
しかし、土壇場でドッキが敵に寝返ったことにより計画は失敗。ドッキが刃を振り落とされる直前、ソルランも裏切り、プンチョンを斬る。その場に残された、まだ赤ちゃんだったプンチョンの子ホンイ(キム・ゴウン)とともに、ソルランは姿を消した。それから18年。ドッキはユベクと名を変えて国内一の権力者となり、ソルランはウォルソと名乗りながらホンイを最強の剣士として育てていた。
剣士たちの物語ゆえに、多くの剣術シーンが登場するため、剣術やワイヤーアクションを取得することに大変苦労したというキム・ゴウン。自身を育てたウォルソと、武術大会で知り合ったユベクが、父を殺した仇だとウォルソ自身に聞かされてからの絶望と燃えたぎる恨みを全身で表現している。
ホンイはユベクの右腕の武士ユル(ジュノ/2PM)とも知り合い、クライマックスでは驚くべきソードアクションをたくさん披露しているシーンも見どころだが、実はまだホンイの出生には隠された秘密があり、壮絶な運命に生まれついたホンイをキム・ゴウンが切実に演じる復讐劇だ。
キム・ゴウンはまたもや難役を選ぶ。それが韓国・仁川(インチョン)の闇社会に生きる人々を描いたノワール映画だ。地下鉄のコインロッカー10番に、へその緒がついたまま捨てられていた赤ちゃんはイリョン(キム・ゴウン)と名付けられ、チャイナタウンを牛耳る闇金業の「母さん」と呼ばれる女(キム・ヘス)に育てられる。
過酷な環境で育ったイリョンは、組織の一員となり、生きるために何でもするようになった。ある時、母さんに命令され、父親の借金を背負うパク・ソッキョン(パク・ボゴム)のもとに取り立てに行くイリョン。借金を返済させるはずが、食事を用意してもてなされ、あげく顔の切り傷に薬を塗ろうとするソッキョンに驚いて料理を投げつける。苦境にいてもめげない彼の優しさに触れて、初めて感情が動くイリョンだった。
闇社会ではエリートの育ち方といえるのかもしれないが、不幸な生い立ちにより、選択肢がないまま暗黒街を生き抜くイリョンをタフに演じているキム・ゴウン。借金の取り立てで何度もソッキョンに会ううちに、周りにはいない彼の純朴さに惹かれていくイリョンの心の機微を繊細に演じている。
ベテラン女優キム・ヘスの迫力も凄いが、それに押しつぶされることなく、キム・ゴウンだからこそ垣間見せる肝の据わった演技が堪能できる作品だ。ほかに、『遊んでくれる彼女』(2024年)のオム・テグ、『月水金火木土』のコ・ギョンピョの出演も見逃せない。
2023年に急逝した『パラサイト 半地下の家族』でも知られる名優イ・ソンギュンとの共演作。大手法律事務所のエースである弁護士ビョン・ホソン(イ・ソンギュン)は、100%の勝率を誇っていた。ある時、製薬会社の会長から、女子大生殺害の容疑をかけられた彼の運転手キムの弁護依頼が入る。
犯行現場には大量の血痕が残されていたが、肝心の遺体は行方不明。さらに、被告人を目撃した証人も存在し、ビョンはある証拠と偽りの証言を用意していた。しかし、裁判の最終日になり、それまで無実を訴えていた被告人が突然「私が殺しました」と自白し、状況は一変。危険な罠にハマってしまったビョンだったが……。
キム・ゴウンは、自信にあふれる弁護士ビョンと裁判でやり合うチン・ソンミン検事役を演じている。後半はスリリングな展開もあるリーガルサスペンスだが、軽やかにビョンを体現するイ・ソンギュンと対比しても、クランクイン当時23歳だったキム・ゴウンのフレッシュさが際立つ。
デビューしてから初めて専門職の女性を演じるキム・ゴウンは、ビョンとぶつかりながらもともに最後まで正義を貫き、悪を裁く女性検事役を好演。最初はまるで化粧っ気のなかったソンミンが、最後は口紅をひいて凛とした女性になっているのもいい。殺人事件が絡むストーリーながら、テンポよくグイグイと観る者を惹きつける展開のなか、クライマックスのどんでん返しも見どころだ。
若手実力派キム・ゴウンと、韓国きっての名女優ユン・ヨジョンとの共演作。済州島の町で伝説の海女として知られるケチュン(ユン・ヨジョン)は、息子を亡くし、孫娘のヘジとともに自然あふれる島で平和に暮らしていた。ヘジはケチュンばあちゃんにおねだりして買ってもらったクレヨンで、まわりの人たちの似顔絵を描いて大人たちを和ませ、父の墓に無邪気に語りかける優しい子に育っていた。
ある日、ふたりは市場に出かけて買い物をしていると、ケチュンが目を離した隙に、ヘジがいなくなる。全力でヘジを探し続けたケチュンだったが、見つからない状況が何年も続くことに。一方、万引きをしながら生計を立てていたヘジ(キム・ゴウン)は、友人のミニが買ってきてくれた紙パックの牛乳に、自身と同じ名前の少女の捜索願いが印刷されていることに気づく。やがてケチュンとヘジは12年ぶりに再会することとなる。
どんなに愛する者でも、10年以上もまったく別の人生を歩んでいれば、話が食い違うことはよくある話。だが、それが本当の家族か、それとも偽物なのか。ケチュンばあちゃんの大切な存在としてのヘジの複雑な心境をキム・ゴウンが丁寧に表現。
ケチュン役のユン・ヨジョンは映画『ミナリ』でアカデミー賞助演女優賞ほか数々の受賞歴がある実力派だけに、孫娘への一心の愛が画面を超えてひしひしと伝わってくる。本当の家族の絆とは何なのか?人と人との深い愛情を考えさせられる秀作。
社会現象を巻き起こした本作のヒロイン役を務めたキム・ゴウン。高麗時代の英雄キム・シン(コン・ユ)は命を落としたのち、神の力により不滅の命を生きる“トッケビ”となり、その呪縛を解き放てる唯一の人“トッケビの花嫁”を探し世界中をさまよっていた。シンが900年以上生きてきたある時、自身を「トッケビの花嫁」だと主張する女子高生チ・ウンタク(キム・ゴウン)と出会い、数奇な運命が動き出す。
ウンタクは、そもそもトッケビに命を助けられた母親から生まれ、幽霊たちに「トッケビの花嫁が生まれた」と噂されていた。母親の死後、叔母の家で厄介者扱いされて育っていたウンタクは幽霊が見えるため、時に幽霊たちと友達のように話すこともあるほど、この世のものではない存在ともすんなり共鳴できる不思議な女子高生。天涯孤独の身であるウンタクは、シンと出会ってからやっと心の拠りどころができたのだが、背負う運命を神が見過ごすことはなく……。
筆者のNo.1韓国ドラマでもあり、コン・ユ演じるキム・シン/トッケビのカッコよさにノックアウトされた作品。そんなシンに愛されるウンタクを女子高生から社会人になるまで見事に演じ分けたキム・ゴウン。天真爛漫な女子高生から、ある記憶をなくして悲しみをまとう大人になってからのウンタクの佇まいは、葛藤しながらも成長してきた道のりを感じさせる余白のある演技だ。
なかでもトッケビが悪霊からウンタクを守るために自らの剣を抜いて悪霊を滅し、無に帰した屋上で彼女が絶叫するシーンや、幸せの絶頂にいながらも信じがたい出来事が起こりトッケビが悲しみの淵に沈むシーンなど、何度観てもその悲痛さに涙が出る。ファンタジーラブストーリーではあるが、デビュー作から数々の難役をこなしてきたキム・ゴウンだからこそ感情移入させる力がそこにある。
他にも死神役のイ・ドンウク、サニー役のユ・インナ、シンの家臣の子孫ユ・ドクファ役のユク・ソンジェなど、時空を超えた運命の恋をドラマチックに彩るキャストにも注目したい。
キム・ゴウンにしては珍しく、32歳の平凡な会社員役を演じたラブコメディ。3年前、彼氏から一方的に振られるという手痛い経験をしたキム・ユミ(キム・ゴウン)は、それ以降、仕事一筋。誰も家に来ないため、こまめに部屋の掃除をしなくてもいいし、一人暮らしは気楽。ただ、会社の後輩であるチェ・ウギ(ミンホ/SHINee)の存在を意識しだしたユミは、ウギにベッドで優しいキスをされて起こされる夢を見て、ひとりでドキドキしていた。
そんなある日、ウギから気のあるそぶりをされて、ユミの愛細胞は再び目覚める。しかし、ウギからは大学の先輩というク・ウン(アン・ボヒョン)を紹介されて大ショックだったが、思いがけずウギの秘密を共有したユミは、その流れでウンと会うことを約束。いざ会ってみると、ウンはユミに一目惚れし、ユミにもだんだんと恋心が芽生えていくのだった。
同名の人気ウェブトゥーンが原作となる、実写と3Dアニメーションを融合させたストーリーが注目を集め、2021年の本作に続いて翌年もシリーズ2が製作された。ユミの感情を理性、感性、空腹、心配、愛などの細胞として3Dアニメで表現し、日常生活で起こるさまざまな出来事に直面するユミの内面がキュートに表現されている。
恋愛模様で揺れ動く等身大の女性を演じるキム・ゴウンは愛らしいが、2016年の『恋はチーズ・イン・ザ・トラップ』では、ドラマ初出演で初ヒロインに抜擢され、百想芸術大賞の新人賞を受賞したことも。『梨泰院クラス』(2020年)や『軍検事ドーベルマン』(2022年)などのアン・ボヒョンとの甘酸っぱい恋の行方を見守ろう。
キム・ゴウンが仲むつまじい三姉妹の長女役を演じたサスペンス。フィリピンにいる父親の借金を肩代わりして返済している短大卒でバツイチの長女オ・インジュ(キム・ゴウン)とアルコール依存症のテレビ局報道記者の次女オ・インギョン(ナム・ジヒョン)は、貧しいながらも、芸術学校に通う才能のある三女オ・イネ(パク・ジフ)を修学旅行に行かせてあげるためにお金を工面する。
しかし、母親はそのお金を持ち逃げし、怒りとやるせなさに打ちのめされるインジュ。一方、インジュが職場で唯一心を許せる先輩チン・ファヨン(チュ・ジャヒョン)が突如失踪し、会社の裏金700億円を横領していたことが発覚。インジュをはじめ三姉妹は、大金をめぐる事件に巻き込まれていくこととなる。
脚本家チョン・ソギョンが、アメリカ文学『若草物語』から着想を得たという本作(韓国でのドラマ原題は『若草物語』)。三姉妹それぞれが直面する複雑な現実をキム・ゴウンはじめ三姉妹のキャストが迫真の演技で披露し、富と権力を持つ者たちによる陰謀に巻き込まれていくさまはスリリングで息をのむばかり。
ほかの見どころとして、長女を手助けする役で出演している『卒業』(2024年)や『最悪の悪』(2023年)などのウィ・ハジュンが挙げられる。『最悪の悪』のプロモーションで彼が来日した際、筆者は記者会見に出席。チ・チャンウクらと和気あいあいと過ごし、笑顔いっぱいのウィ・ハジュンの姿が印象に残っている。そして本作は、ヒット作『ヴィンチェンツォ』と同じキム・ヒウォン監督という縁からカメオ出演している、ソン・ジュンギも要チェックだろう。
2024年の韓国No.1ヒットとなったサスペンススリラー『破墓/パミョ』で、キム・ゴウンは現代科学で解明できない現象と向き合う巫堂(ムーダン)を演じている。巫堂のファリム(キム・ゴウン)と、弟子のボンギル(イ・ドヒョン)は、跡継ぎが代々謎の病気にかかるという奇妙な家族から、桁違いの報酬で依頼を受ける。
すぐに病気は先祖の墓が原因だと気づいたファリムとボンギル。そこにお金の臭いを嗅ぎつけた風水師サンドク(チェ・ミンシク)と葬儀師ヨングン(ユ・ヘジン)も合流する。やがて、4人はお祓いと改葬を同時に行なうが、掘り返した墓には恐ろしい秘密が隠されていたのだった。
筆者は、幸運にも本作の宣伝で公式初来日したキム・ゴウンにインタビューし、本人から直接、演技と向き合う心情を聞く機会に恵まれた。演じていない時は、とても可憐な女性という印象を受けたが、彼女はどんな作品のどんな役に対しても分析力が非常に優れている役者ゆえに、作品に入るとそのキャラクターそのものとなる。本作では、キム・ゴウンがファリム役を細部に至るまで想像して挑んだその並外れた集中力と表現力を垣間見た。
2024年10月から日本公開もされた本作は、第74回ベルリン国際映画祭のワールドプレミアとして上映、世界133カ国で公開が決定し、先に公開された韓国では約1200万人の動員を記録。前半と後半でストーリーの感じが変わるのだが、風水や歴史の知識があるかどうかによって、観る人により受け取りかたも異なるはずだ。本作でファリムがお祓いをするシーンでは、緊迫感あるなかで鬼気迫る踊りを披露しており、演技派チェ・ミンシクやイ・ドヒョンとの関わりも見どころだ。
冒頭でもお伝えの通り、キム・ゴウンは本作で百想芸術大賞の最優秀主演女優賞を受賞し、さらに韓国映画界で伝統と権威のある第45回青龍(チョンニョン)映画賞の最優秀女優賞も獲得。12年前のデビュー作『ウンギョ 青い密』では同賞の新人女優賞を受賞し、最新作でも名誉ある賞を受賞と、間違いなく大女優になることを予感させた。
今後も待機作が続々と控えるキム・ゴウンに、これからも期待したい。
キム・ゴウンのその他の出演作もあわせてチェック!
『酔いしれるロマンス』『愛は一歩橋で』『結婚してYOU 』などの新作も続々ランクイン!