300年努力を重ねた吸血鬼が、天才棋士に挑む!異色の将棋マンガ『バンオウ-盤王-』 担当編集者・杉田卓さんインタビュー
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300年努力を重ねた吸血鬼が、天才棋士に挑む!異色の将棋マンガ『バンオウ-盤王-』 担当編集者・杉田卓さんインタビュー

将棋の奥深さに魅了され、300年にわたり棋力を磨いてきた吸血鬼・月山。正体を隠して生きてきた彼が、馴染みの将棋教室を救うため、最初で最後の竜王戦に挑む──!

集英社のマンガ誌アプリ「少年ジャンプ+」で連載中の『バンオウ-盤王-』(以下、『バンオウ』)は、永遠の命を持つ吸血鬼が名だたる棋士たちに挑む異色の将棋マンガです。たゆまぬ努力で強さを手にした凡才・月山、それぞれの人生を背負って対局に臨む天才棋士たち、その激しく熱い攻防が話題を呼び、「次にくるマンガ大賞 2023」ではU-NEXT賞 Webマンガ部門を受賞しました。竜王戦が開幕し、今まさにクライマックスを迎えるこの作品について、担当編集者の杉田卓さんに制作秘話、自身の編集哲学を伺いました。

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永遠の命を持つ吸血鬼が、一生賭けても極めきれない将棋にハマる

──『バンオウ』は、綿引智也(わたひき・としや)さんが原作を、春夏冬画楽(あきない・がらく)さんが作画を手掛けています。そもそもこの作品は、どのようにして生まれたのでしょうか。

杉田:僕は、綿引先生の新人時代から約10年弱にわたり担当させていただいてます。2017年に「ジャンプ+」で読み切り作品『SWORD IN THE CITY』を発表したあと、大変好評だったこともあり同作の連載版を作ろうとふたりで考えていましたが、なかなかうまくいかなくて。そんな中、綿引先生が考えてきてくれた新企画の一つが『バンオウ』でした。

永遠の命を持つ吸血鬼が、将棋という“一生賭けても極めきれない競技”にハマっていくという今までにない切り口が面白く、また何よりも綿引先生が描くキャラクターがとても魅力的で、ぜひこの作品を連載化したいと思いました。

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──春夏冬さんは、どういう経緯で作画を担当することになったのでしょうか。

杉田:春夏冬先生は、これまでずっとおひとりでマンガを作っていてストーリー作りにも長けた先生なのですが、『バンオウ』の企画が立ち上がった時、ちょうどアナログからデジタルに作画を移行するタイミングだったり、進めていた企画が煮詰まっていたところだったんですね。なので、デジタル作画の移行練習という意味も含めて、今回は作画に専念するかたちでの参加を僕からお願いしました。

そもそも僕は、春夏冬先生が描く男性キャラクターが大好きなんです。華と色気があってカッコイイ男性キャラを描ける先生なので、今回の企画にぴったりだと思いました。結果、月山や鈴木はもちろん、作中の天才棋士たちもとても魅力的なキャラクターになりました。

──各話の制作はどのような流れで行われているのでしょうか。

杉田:綿引先生と僕で打ち合わせをしてネームを作り、それを春夏冬先生にお渡しして完成させていきます。春夏冬先生のリネームと言われる描き起こしの段階で、綿引さんの原作ネームのコマ割や演出を磨いていただくことも多いです。また、春夏冬先生から「こういう展開が読みたい」という意見をもらうこともありますし。分業ですが、3人で意見を出し合いながら作品を作っています。

──杉田さんは、ネームづくりにどれくらいコミットしているのでしょうか。がっつり介入するケース、軽くアドバイスするケースなど、マンガ家さんによって関わり方も違うと思いますが、『バンオウ』の場合はいかがですか?

杉田:編集者と作家さんの関係は、人それぞれ違うんですよね。僕は、若手の頃に島袋光年先生の『トリコ』、尾田栄一郎先生の『ONE PIECE』を担当させていただきましたが、おふたりは編集者の介入がほとんど必要ない作家さんでした。島袋先生の場合、一晩飲みながらアイデアを一緒にお話しすると、もう抜群に面白いネームができあがる(笑)。尾田先生は、しっかり打ち合わせをする方ですが、アイデアはご自分で考えるタイプ。尾田先生が話すアイデアを聞いたり、それに対して感想や自分の読みたい展開や希望を言ったりするくらいで、もうネームはできあがります。もしわかりにくい・読みにくいところがあれば、そこだけ修正していただくという流れでした。

その一方で、宮崎周平先生の『僕とロボコ』は企画段階から編集者が参加したケース。企画内容やキャラクターなど様々な試行錯誤を一緒にして出来上がった作品です。毎週打ち合わせも細かいところまでしっかりやることも多いです。最近はおおまかな打ち合わせであとは先生がおひとりで考えることも増えてきました。

『バンオウ』は、その中間くらいの関わり方です。綿引先生が考えた企画やキャラクターをベースにしつつ、よりエンタメとして面白くなるように、より読みやすくなるように
物語の大局&1話単位の構成や展開について意見をお伝えすることが多いです。

──綿引先生、春夏冬先生は、それぞれどのような方でしょう。

杉田:綿引先生は、とても真面目でプロ意識が高く、倫理観のしっかりした真人間です(笑)。それでありながら、ユーモアがある方なんですよね。最初に持ち込んでもらった頃から、キャラクターの真摯さ、ところどころに表れるシュールギャグが大好きです。

春夏冬先生も、優しくて人当りのいい素敵な方です。あと、とても努力家で兄貴肌ですね。僕が担当している新人作家さんに、春夏冬先生のアシスタントに入ってもらっているのですが、僕が何度言っても絵の練習をしなかった新人さんが春夏冬先生の姿やアドバイスに刺激をうけて突然練習を始めたり、新作を描き始めたり、みんなやる気を出すんです(笑)。ただ、集中すると寝食を忘れて描き続けることが多く、会うと激痩せしたりするので少し心配になりますね。なので、よく食事に連れ出してたくさん食べてもらいます(笑)。

チートキャラなのに凡才。努力し続ける主人公・月山に共感

──杉田さんが感じる『バンオウ』の魅力、オリジナリティを感じた点についてお聞かせください。

杉田:最近は天才キャラやチートキャラが流行っていますよね。確かにそういうキャラだと展開が早くて面白くなりやすいのですが、僕はちゃんと努力して一歩ずつ成長していく凡才キャラクターもとても好きだし、共感できるんです。この作品の主人公・月山は、そのどちらも持ち合わせているのが画期的かつ魅力的であるように思います。

月山は永遠の命を持つバンパイアで、300年も将棋を続けているチートキャラ。でも、凄まじい努力と将棋愛で腕を磨いてた凡才なんです。描き方によってはどっちつかずのキャラになりますが、綿引先生の描き方はとてもバランスがよくて。月山は痛快な強キャラでありながら、応援したくなる凡才としての共感性も持ち合わせています。また、同じくバンパイアの鈴木も、綿引先生のシュールなセンスが炸裂したこの漫画の発明の一つだと思います。面白いキャラで読者からの人気も絶大です(笑)。

──読者からも、やはりキャラクターが支持されているのでしょうか。

杉田:もちろん棋戦を通してのドラマもじっくり練り上げているので読み応え抜群なのですが、綿引先生の魅力が存分に発揮されているのはやはり「キャラクター」。謎のコメディセンスも含めて、とても読者の皆さんにキャラクターが愛された作品だと思います。僕も綿引先生のコメディセンスとキャラが大好きなので、先生の魅力がしっかり読者に届いてうれしいです。

──月山が対局する棋士も、一人ひとり背負っているものがあります。彼らが将棋に人生を賭ける理由も丁寧に描かれていますね。

杉田:将棋マンガではありますが、『バンオウ』で描いているのは人間やドラマです。もともと綿引先生はキレキレのドラマを描く方なので、棋士の背景を丁寧に描くスタイルもハマりました。また、ドラマに重きを置くことで将棋初心者の読者の皆さんにも読みやすい物語になったと思います。

──読者に人気があるのは、どの棋士ですか?

杉田:“ジャンプ作家あるある”ですが、物語が進むにつれて作家さんもレベルアップしていくんですよね。そういう意味で綿引さんのネーム、春夏冬先生の絵が一段と覚醒した伊津戦、天草戦はとても好評でした。「ジャンプ+」は一度閲覧数が下がると読者がなかなか戻ってこないのですが、『バンオウ』は伊津戦あたりから読者数が一気にまた伸びて。綿引先生は伊津さんが好きなのでノッて描いていましたし、天草戦は少年マンガらしいライバル対決を熱く描けたのではないかと思います。2人とも人気キャラだと思います。

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──作品作りにおいて大切にしている点を教えてください。

杉田:バンオウにおいては将棋初心者の方でも楽しめる作品であること。わかりやすく、読みやすい漫画であること。骨太でしっかりと読み応えのある最低限の文学性がある作品であることを意識しています。

また、綿引先生が大事にしているのは、月山のキャラクターと棋士の皆さんへの敬意です。月山がリスペクトのない人になってしまうと、ただのチート野郎になってしまいますし、綿引先生自身も棋士に対してとても強い尊敬の念を抱いています。僕が「こういう描写、面白くないですか?」と提案しても、「棋士の方々に対して失礼に感じられる描写になってしまうかも」と断られることも。そういった姿勢は一貫していますね。

──今後の見どころについてもお聞かせください。アマチュアから竜王戦を目指す月山ですが、このまま竜王との対局が進んだあと、どんな展開が待っているのでしょう。

杉田:そこで終わる予定です。もともと月山の一度限りの竜王戦を描くマンガなので、そこまでの道のりを一番面白い形でテンポよく出し惜しまず描き切ろうと考えていました。

──え、本当に終わってしまうんですか。もったいない気もしますが……。

杉田:ゴールがはっきりした作品ですし、もったいないと惜しまれるくらいで終わるのがいいのかなと思っています。ただ、本当に終わると思っていないのか、クライマックスだと気づいていない読者も多いんですよね(笑)。「ジャンプ+」ではついに竜王との最後の戦いに突入にしました。最後まで全速力で盛り上げていきますので、ぜひリアルタイムで読んでいただけたら嬉しいです。

──1回戦から勝ち上がっていく過程も、テンポよく進んでいきました。やはり今の時代、テンポ感は大事なのでしょうか。

杉田:今はコンテンツもたくさんありますし、読者もさまざまな物語に触れていますよね。そんな中でペースがゆっくりしていると物足りなく感じますし、他のものに興味が移ってしまいますのでテンポはとても大事な要素だと思います。とはいえ、僕自身は骨太な物語をじっくり読みたい派で、テンポのよさを追うあまりにあっさり進む物語が増えすぎてる昨今の流れには少し疑問を抱いています。しっかりとした読みごたえは担保しつつ、その上でテンポよく読めるマンガがやはり理想ですね。その意味では、綿引先生は省略や取捨選択がうまいので、読み応えのあるドラマを描きつつ、テンポよく進めてられてるのではないかと思います。

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創作は感動の再生産。自分が面白いと思うものしか作れない

──ここからは、杉田さんのエンタメ遍歴をお伺いしたいと思います。これまでどんなマンガ、映画に触れてきたのでしょうか。

杉田:僕がマンガを読み始めたきっかけは、『世紀末リーダー伝たけし!』と当時まだ4巻くらいだった『ONE PIECE』。9歳くらいからジャンプマンガを読み続け、徐々に青年誌も『GANTZ』『カイジ』『寄生獣』などを皮切りに読むようになりました。大学付属の高校に通っていたので、高校の時は受験勉強もせずにずっとマンガ読んでいましたね(笑)。

そもそも僕は平成元年生まれなんですが、僕の世代ってエンタメ大豊作時代の子どもなんですよね。6歳くらいでゲームボーイと『ポケットモンスター』が発売、Nintendo64もその頃ですしジャンプでは『ONE PIECE』から始まる黄金期が8歳の時に始まっています。ハリウッド映画も元気でサスペンスやSF、ヒューマンドラマの名作が多く生まれてて、スタジオジブリも『もののけ姫』から始まる宮崎駿監督の後期の名作が立て続けに公開されていた時期。学生時代にそういうエンタメをどんどん吸収させてもらえたのはとても代え難い経験だったと思います。

──今でもエンタメに触れる機会は多いほうですか?

杉田:仕事があるので、昔ほどゲームやその他エンタメに触れる時間は減っていますが、世の中の流行りものはもちろんチェックします。ただ、無理して好みに合わないものを観るより好きなものを観ることが多くなりましたね。また、漫画より映像を見ることが多いかもしれません。最近はハリウッド系の海外ドラマはもちろんインド映画や韓国ドラマのクオリティが高いので、よく観ます。海外の脚本は流行りや文法が今の日本と全然違っていて新鮮なのがとても楽しいですし気づきが多く勉強になってます。

尾田先生の影響で、『ゲーム・オブ・スローンズ』を観始めてからアメリカの放送局「HBO」をはじめ海外ドラマは本当にたくさん見るようになりました。

──マンガ家さんともエンタメのお話をされるんですね。

杉田:エンタメの話ばかりしています。創作ではそういう雑談が一番大事な気がします。作家さんも編集者もそうですが、やっぱり自分が面白いと思ったもの以外は作れないんですよね。創作は、感動の再生産。僕は自分が受けた感動を、自分なりに形を変えて焼き直す作業、エンタメのバトンを繋いでいく作業が「創作」なのかなと思っています。

──先ほど、杉田さんは読みごたえのある作品がお好きというお話がありました。その一方で、昨今はテンポのいい作品が求められる時代です。杉田さんが求める“読みごたえ”は、どのようにして作っていくのでしょう。

杉田:そこはもう、小細工なしで愚直に自分が読みたい作品を作家さんと一緒に作って世の中に投げ続けるしかなくて(笑)。もちろんテンポの良さとか今の流行りとかも最低限考慮しますが、僕は僕が心から面白いと思うものを作家さんと一緒に作って世に出すしかないと思っています。うまくいかなければ潔く僕の負けですし、読者に届けば最高に嬉しい。大ヒットと呼ばれるものが生まれるとしたらその先にしかないんだろうなとも思います。それに自分が面白いと思うものを世の中に提案できる、というのが編集者という仕事の特権です。

そういう意味では自分の趣味全開だった『約束のネバーランド』は良くも悪くも怖いもの知らずの若手だったから実現出来た作品だったように思います。

──編集という仕事の楽しさ、やりがいはどういう時に感じますか?

杉田:作家さんが、こちらの予想を超えたものを描いてきてくださった時ですね。「この作品は、もうヒット間違いなし」と、手ごたえのある打ち合わせができても、それをいざ作家さんが形にするとうまくいかないことも多々あります。ですが、僕の想像を上回るすばらしいキャラやストーリーを描いてきてくださるケースもあって。そういう時は、本当にうれしいですね。『バンオウ』もまさにそうでした。

──てっきりヒットを生み出すことが一番の喜びかと思っていましたが、「面白いものを読みたい」という読者寄りの気持ちが強いんですね。

杉田:そっちのほうが断然ワクワクしますね。売れる・売れないは結果論ですから。売れる作品にはちゃんと理由がありますが、逆に「なんでこれが売れないの?」という作品も山ほどあります。

それよりも、納得のいく作品を生み出すことが大事です。たとえその作品は売れなくても納得のいく創作ができていればその経験はいつかの大ヒットの足掛かりになるはず。作家さんのキャリアにおいて意味のある作品を生み出せそうな時、その予感がした時が、何よりも楽しいですね。面白い作品になるのか暗中模索している時、真っ暗なところに光がパッと差すと「うぉー!」とたぎるものがあります。

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サブスク時代だからこそ、面白い作品を見つける感動を味わってほしい

──『バンオウ』が連載されている「ジャンプ+」についても、お伺いします。「ジャンプ+」の特性、このプラットフォームが果たす役割について教えてください。

杉田:世の中には、YouTubeやXなどのSNS、無料アプリゲームなどのコンテンツがあふれていますが、可処分時間には限りがあるので、せっかく面白い作品があっても埋もれてしまいます。でも「ジャンプ+」は、アプリとブラウザ版含めて毎日約200万人、週で500万人以上のすごい数の読者が閲覧する数少ないプラットフォーム。「ジャンプ+」にマンガを掲載して、それが面白ければSNSで拡散され、何十万、何百万の人に届きます。つまり、「ジャンプ+」は、面白い作品であれば必ず見つけてもらえる場所。実力主義の世界ですが、そこがすばらしいと思います。

──マンガがデジタル化されたことで、編集者の意識も変わりましたか?

杉田:スマホで読む「ジャンプ+」と紙の雑誌とでは、適正な情報量やコマの大きさ・台詞量が違います。スマホで読まれることを前提とした漫画作りというのは意識として大きな変化だと思います。また、「ジャンプ+」はページ数に制限がありませんし、体調や制作状況に応じて休載するのも紙より自由度が高いです。このへんは紙の週刊連載より描きやすい環境になってると思います。ただ、決まったページ数に収める、締切を絶対に破れないという制約があるからこそ、作品のクオリティが上がり、作家さんがもう一段覚醒し成長するチャンスになることもあります。紙もデジタルも一長一短だと思いますね。

──杉田さんご自身は、マンガ家の皆さんと向き合う時に意識していること、大切にしている考えはありますか?

杉田:作家さんは、幸せになるためにマンガを描いていると思っています。ですから、僕も「これでマンガ家さんが幸せになれるかな」という点は常に意識していますね。

作家さんによって考え方は違いますし、その方なりの幸せがあります。売れることが何よりも幸せだという方もいますし、アニメ化が最大の目標だという方、とにかく納得できるものを描きたいという方も。編集者は作家さんの人生をお預かりしている部分もあるので、できるだけ幸せに納得した状態で創作が続けられるように、何ごとも作家ファーストで考えるようにしています。

──杉田さんが担当した『約束のネバーランド』は、アニメ化、実写化、脱出ゲーム化などさまざまな展開をしていますし、世界進出も果たしました。メディアミックス、そして世界へのアプローチをどう捉えていますか?

杉田:ミリオンセラーを達成したマンガは、間違いなく「ヒット作」ですよね。でも、日本の人口は1億2000万人。世界だと80億人以上ですから、たとえ100万部売れてもその作品を知らない人が大多数です。

実はマンガを読む人の母数って意外と少ないんです。普段マンガを読まない人にも、こんなに面白い作品があって、こんなにすごいキャラクターがいて、こんなに優れた作家さんがいるということを伝えたい。となれば、アニメ化・実写化は避けて通れません。作品の存在を知ってもらうために、メディアミックスは必要だと思っています。

そのうえで、世界中の人たちにひとりでも多く知ってもらうにはどうすべきか、今はその座組や作り方を試行錯誤している段階だと思います。まだ最適化されていませんし、よりよいメディアミックスの形はあるはず。僕も『トリコ』『ONE PIECE』『約束のネバーランド』『僕とロボコ』とアニメから映画や舞台や実写、様々なメディアミックスを進める中でたくさん学びがあったからこそ、これからも試行錯誤を続けていきたいと思います。

──「ジャンプ+」は多くの読者が集まるプラットフォームですが、それでもまだ知られていない作品がある。世の中にはまだバレていない名作がたくさんあるということですね。

杉田:そう思います。『バンオウ』だって、もっともっと多くの人に読まれていいはず。流行りものを追うだけでなく、自分で新しい作品を探す楽しさも味わってほしいんですよね。

僕が学生の頃は、エンタメの値段って高かったんですよ。レンタルショップで少し古い映画が5本1000円で借りれるキャンペーンに「安い!!」と大興奮してましたし、ジャンプが1冊250円で買えるのも超安い感覚でした。

今は無料漫画や名作の全巻無料なども多く、ジャンプですら贅沢品かもしれません。映像もサブスクで1000円程度で無限にコンテンツが観られる。いい時代になりましたよね。ただ、そうしてコンテンツが溢れた分、みんなが面白いというものに乗っかるだけで自分から積極的に探さなくなっている気がします。でも、自分で面白いコンテンツを見つけた感動、それを周りに教える喜びはあるはず。コンテンツに触れる機会に恵まれた時代だからこそ、自分で自分の好きなものを探す、そんな楽しさもおすすめしたいです。

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2012年、集英社入社。「週刊少年ジャンプ」編集部にて『トリコ』『ONE PIECE』を担当。『約束のネバーランド』等の立ち上げを経て、現在『僕とロボコ』『バンオウ-盤王-』(ジャンプ+)を担当。



『バンオウ-盤王- 1-5』

◎写真:長谷部英明

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