300年努力を重ねた吸血鬼が、天才棋士に挑む!異色の将棋マンガ『バンオウ-盤王-』 担当編集者・杉田卓さんインタビュー
「次にくるマンガ大賞 2023」の特別賞のU-NEXT賞を受賞した『バンオウ-盤王-』について、
2023年6月、コミック誌「月刊アフタヌーン」で念願のマンガ家デビューを果たしたKAT-TUNの中丸雄一さん。初連載作品は、日常に潜む小さな違和感が気になり、心のざわめきを抑えきれない青年の姿をユーモアたっぷりに描いた『山田君のざわめく時間』。その単行本が、2024年1月23日、ついに発売を迎えることになりました。
連載を重ねる中での成長、単行本の見どころ、電子特装版に収録された習作などについて、中丸さんに語っていただきました。
──このたび、『山田君のざわめく時間』が単行本化されることになりました。連載が決まった時とはまた違った感慨があるのではないかと思いますが、今の率直な思いを聞かせてください。
中丸:連載が決まった時は、少年時代からの夢が叶ったという感覚でした。自分のマンガが有名な月刊誌に掲載されるという感動が大きかったですね。単行本化は、数年前にあらためて本格的にマンガを描いてみようと思った時からの目標でした。それを達成できてうれしいです。
──連載が始まる時、「本格的に目指してからは約7年かかりました」とコメントされていました。それだけの年月がかかったのは、なぜでしょう。
中丸:理想を言えば、すぐにでも世に出したかったんです。でも、なかなか納得するレベルに到達しなくて、結果的にここまでかかっちゃいました。どうあがいてもタレントである自分とマンガ家の自分を切り離すことはできません。とはいえ、プロのマンガ家さんの作品と同じ本屋に並ぶわけですから、遜色ないレベルまで持っていかないと、と思って。
──中丸さんはマンガ家デビューを果たしましたが、夢が叶えられないまま大人になり、違う仕事をしている人も多いと思います。そういう方に向けて、どんな言葉をかけたいですか?
中丸:いやいや、そんな偉そうなことは言えないですけど……。僕の場合は、いろいろな偶然が重なったんです。僕が子供の頃に比べると、今はマンガを描くソフトもありますし、間口が広がりましたよね。昔と違って、今は気合でどうにかなるんじゃないかと思って。ありがたいことに、時代が進んだおかげで夢を叶えることができました。
──『山田君のざわめく時間』は、細かいことが気になり、心がざわめく山田君の日常を描いたマンガです。山田君のほかに、ごうわん君、斉藤といったキャラクターが登場しますが、身近な人物をモデルにしているのでしょうか。
中丸:山田に関しては、自分が実際に感じた“ざわっとしたこと”を描いています。それ以外のキャラクターは具体的なモデルはいなくて、山田との対比で生まれました。
──山田君の中に、中丸さんは何%くらいいるのでしょうか。
中丸:90%くらいですね。
──ほぼ中丸雄一ってことですね。
中丸:ゼロからオリジナルストーリーを作る時、知らない領域があれば取材して描くと思うんです。でも、僕はそもそもマンガ家としてそこまで達していなくて。「じゃ、何を描けるの?」となった時に、自分の周りのことじゃないとまだ無理だと思ったんです。そういう理由で、自分中心の話になりました。
──逆にごうわん君は、中丸さんが「うわぁ、こいつ……」と思う人の集合体なのでしょうか。
中丸:いや、それが難しいところで。ごうわんも斉藤も、部分的には僕の要素が入っているんですよ。ごうわんは都市伝説が好きで、友だちに何時間も話しちゃうタイプですが、どちらかというと僕もそっち寄りの人間。周りの人は「めんどくさっ!」と思っているだろうな……と思って、そういうエピソードを描きました。斉藤のパソコンや機材好きなところも、僕に近いですね。ごうわんと斎藤にも、自分の気持ちを3割くらいは乗せています。
──中丸さんの周りには、山田君に共感してくれそうな方はいますか?
中丸:えー、誰だ……?KAT-TUNのふたりはあまり共感しないかもしれない。「よにの」(YouTubeチャンネル「よにのちゃんねる」。二宮和也、中丸雄一、山田涼介、菊池風磨が出演)のみんなは「わかる」って言ってくれる気がしますね。
──マンガの制作にあたって、執筆環境も整えられたそうですね。お忙しい中、どういった環境でマンガを描いているのでしょうか。
中丸:時間の確保がポイントですかね。基本的には、ちょっと早起きして朝仕事に行くまで描いてますね。「もうちょっと描いたほうがいいな」という時は、場所は関係なく仕事の合間に描くこともあります。タブレットなので、どこにでも持っていけるので。
──締切はキツいですか?
中丸:いえ、まったく。というのも、僕の場合はいくつかストックがある状態でしたし、半年間の短期連載なのでゴールが見えていましたから。今のところは締切に追われることはないですね。これが、ストックもなく行けるところまで行く連載だと全然違うと思いますが。
──早く「ヒーヒー言ってます」という声を聞きたいです。
中丸:どういう性癖ですか(笑)?今は「単行本になるんだ」という希望しかないので、前のめりで書いています。
──身近な方と、ご自身の作品やマンガ観について話すことはありますか?
中丸:なかなかないですね。僕の周りは、基本アイドル業の人しかいないので(笑)。あ、でも、King&Princeの髙橋(海人)もマンガを描くじゃないですか。時間があれば髙橋とはちゃんと話してみたいです。
──作画のテクニックについてもお聞かせください。マンガの中では、山田君の心のざわめきが極端な表情で表現されています。表情を描くうえでのこだわりはありますか?
中丸:基本的には、小学生でも読みたくなるようなかわいらしくてポップな絵柄を目指しているんですけど、ざわっとした内面を描写する時にはリアルなタッチに。そのギャップを出したいというのが、ひとつのテーマでした。なので、いろんなパターンの表情を描こうと毎回工夫しています。
──連載第3話が掲載された時、「以前より納得するポイントまでが遠くなり、絵の完成まで時間がかかるようになりました」とコメントしていました。連載を重ねる中で、作画へのこだわりも深まっていったのでしょうか。
中丸:多分、僕はマンガを描くプロの心構えがわかっていないんですよ。僕としては一生懸命描いたマンガでも、プロにとっては10%の労力しかかけていないようなもの。プロらしくなるには、もっと限界値を上げないといけないんですよね。「もっとこだわって描いたほうが良いものができる。時間をかけるのが普通なんだ」と感覚がアップデートされ、でもまだ不慣れなので非効率的なところもあって、完成までに時間がかかっていたんだと思います。
──となると、今1話を見返すと「自分は未熟だったな」という気持ちもあるのでしょうか。
中丸:あります。ヤバいですよ、1話は。「もっとできたのに」って思います。過去に描いたものも手は入れていないので、単行本を読むと「これは最初の頃に描いたものだな」とその差がわかると思います。
──読者には気づかれないかもしれないけれど、思い入れがある箇所、工夫したポイントがあれば教えていただけますか?
中丸:この連載が決まるずいぶん前に、「よにのちゃんねる」で「未来人とコラボする」という回があったんです。未来人とコンタクトを取って、僕らの将来について聞いたところ、僕は「絵本作家をやっている」と言われて。「どんな作品を描いているんだろう」という話になり、『はらぺこあおむし』のパロディで「『満腹てんとう虫』とか描いているんじゃないですか?」って僕が答えたんです。その伏線回収じゃないですけど、単行本をよく探すとてんとう虫が満腹になっている絵があります(笑)。
──今後は、マンガを通して中丸さんを知るファンも増えるのではないかと思います。新たなファンに向けて、メッセージをいただけますか?
中丸:僕の場合、ちょっとほっこりしたい時、笑いたい時にマンガを読むことが多いんですね。この作品も、そういうマンガになったらいいなと思ってます。1冊目も現状では納得いくレベルで描けたと思いますが、まだまだ発展途上。マンガから僕を知った方には、2冊目以降も優しく見守ってもらえたらうれしいです。
──中丸さんご自身がお好きなのは、どういったマンガでしょう。
中丸:「アフタヌーン」の連載作品で言うと、『ダーウィン事変』です。マンガを描くにあたって流行りの作品、話題作をいろいろ読んだんですが、『ダーウィン事変』に出会って「あ、マンガってこういうことか」と思ったんです。絵柄を見てギャグマンガかなと勝手に誤解していたのですが、実は社会派で、作者の主張をキャラクターに乗せていて。それを見た時、「こういう表現もOKなんだ」とあらためて気づき、自分もそういうことを心がけなきゃと思いました。
──中丸さんを以前から応援しているファンへのメッセージもいただけますか?
中丸:ファンの皆さんに「いつか単行本を出します」と宣言することで、逃げ道をふさいだからこそがんばってこられました。「本当にできたぞ。嘘つきじゃないよ。たくさん読んでください」と伝えたいですね。
──できるかできないか不透明なことも、とりあえず口に出して有言実行するタイプなのでしょうか。
中丸:もともとは言わずに実行するのが、美学だと思っていました。でも、10年くらい前に、通信制の大学に入ったんですね。卒業できない可能性もあったので公表していませんでしたが、今のご時世に隠し通すのも無理で、何かのタイミングでバレたんです。でも、思いがけないことに「人に見られているからがんばらなきゃ」という気持ちが湧いてきて、そのおかげで卒業できたんですよね。それがけっこう大きくて。「宣誓して逃げ道を断てばいいんだ」って学んじゃったんですよ。それと同じことをマンガでもやったら、思いのほか時間がかかって“出す出す詐欺”みたいになっちゃいました(笑)。
──電子特装版には、かぐや姫をモチーフにした過去の習作が収録されています。あのマンガは、どのような思いで描いたのでしょうか。
中丸:僕はもともと都市伝説が好きなんです。初めてオリジナルストーリーを描くとなった時、興味があるテーマじゃないと厳しいじゃないですか。そこで思い出したのが、『竹取物語』に関する都市伝説です。『竹取物語』は日本最古のSF作品と言われていますが、あれは実話で、本当に月から生命体がやっていたんじゃないかという説があるんですよ。もちろん何の根拠もないんですけど、ロマンがあって面白いじゃないですか。そこから想像を膨らませたのですが、完成には至りませんでした。
──中丸さんは、ご自身が作詞したソロ曲「ムーンショット」でも月について歌っていました。月や宇宙にロマンを感じるタイプなんでしょうか。
中丸:もともと興味はありましたね。高校生の頃は望遠鏡を買って、宇宙食を食べながら月を見てましたから。ただ、あの歌詞を書いたのはそういうことじゃなくて。マンガが世に出せるかまだ決まっていない時に、マンガと楽曲がリンクしたら面白いなと思ったんです。でも、僕のマンガの技術が追い付かずにソロ曲だけが出て、歌詞を見たファンが「中丸、どうした?」となって(笑)。いつか力がついたら、あのマンガを描くこともあるかもしれません。
──では、今後のマンガ家としての野望をお聞かせください。
中丸:まだ短い期間ですが、今までの経験上、描けば描くだけうまくなると思っていて。もうちょっと伸びしろがあると思うので、なるべく早くうまくなりたいです。
あと、マンガはさまざまなジャンルとコラボできる可能性を秘めていますよね。いろいろなかたちで発展してくれると、マンガの宣伝にもなってありがたいですね。
──「アニメになってほしい」「こういうグッズになってほしい」など、夢見ている展開はありますか?
中丸:全部です。考えられるもの全てとコラボしたい(笑)。
──マンガ家になるという夢を叶えましたが、今後チャレンジしたいことはありますか?
中丸:いろいろありますが、ゲームを作りたいですね。言ってしまえば、逃げ道がふさがるので。「山田」シリーズのゲーム版というか、同じ世界のものを作りたくて。やるとなったら、クリエイターとして企画から深めに関わっていきたいです。
中丸雄一
1983年生まれ。2001年にKAT-TUN結成、2006年にメジャーデビュー。現在は、音楽活動、バラエティ番組出演等に加え、日本テレビ系列『シューイチ』のコメンテーター、ABCテレビ系列『朝だ!生です旅サラダ』生中継コーナーのリポーターを務める。二宮和也(嵐)、山田涼介(Hey!Say!JUMP)、菊池風磨(Sexy Zone)と共に運営するYouTubeチャンネル「よにのちゃんねる」は現在登録者数425万人超。
「次にくるマンガ大賞 2023」の特別賞のU-NEXT賞を受賞した『バンオウ-盤王-』について、
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