『桐沢たえの トクサツの話がしたい』第4回・第1話が神回の話 ~仮面ライダー編~
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『桐沢たえの トクサツの話がしたい』第4回・第1話が神回の話 ~仮面ライダー編~

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※この連載は私、桐沢たえがスーパー戦隊や仮面ライダーやウルトラマンなど特撮ヒーロー作品について「話したい」ことを好き勝手に話す偏愛なコラムです。

第4回~第6回は、仮面ライダーシリーズでの「個人的に1話が神回だと思う戦隊」について話していきます!(連載を始めるまでの経緯はコチラ

今月は……

『仮面ライダーゼロワン』第1話「オレが社長で仮面ライダー」

「神がかっていた仮面ライダーの1話」と言われて、パッと『ゼロワン』の1話を思い出すライダーファンは結構、いやかなり多いのではないだろうか。ご他聞に漏れず、筆者もこのお題が来た時に真っ先に思い浮かんだのが『ゼロワン』第1話「オレが社長で仮面ライダー」であった。既に内容を知っている人にとっては「何を今更」と言われてしまうかもしれないが、『ゼロワン』の1話は本当にすごかった。放送から丸5年(はや!)が経った今でも、2019年9月1日朝9時に自宅のTVで第1話を観た時のこと、その興奮をありありと思い出すことができる。「やばい。これは、新しい時代が来てしまったかもしれない」と、瞬きも忘れるほど画面に見入ってしまったあの日。

仮面ライダーゼロワン_01
©石森プロ・東映

思い返せば、事前のお披露目の時点から『ゼロワン』はそのタイトルの通りとにかく「新しさ」を全面に押し出していた。平成から令和へと元号が切り替わった2019年。前年2018年に放送された『仮面ライダージオウ』では、一躍ミームと化した「お前たちの平成って醜くないか?」でお馴染み、ライダー映画史においてその存在がもはや伝説的なものとなりつつある『劇場版 仮面ライダージオウ Over Quartzer』を含め、「こんなに元号にこだわるの宮内庁と仮面ライダーシリーズくらいだろ」と思うほどの盛大な「平成」の総決算が行われた。

そして翌年、「令和ライダー1作目」となった『ゼロワン』には様々な変化が起きた。まず、『仮面ライダークウガ』『仮面ライダー響鬼』を除く全ての平成ライダーシリーズで主人公ライダーのスーツアクターを務めてきた「ミスター仮面ライダー」こと高岩成二さんが主人公ライダー役を勇退。『ゼロワン』からは、ジャパンアクションエンタープライズの後輩にあたる縄田雄哉さんが主人公・飛電或人が変身する仮面ライダーゼロワンの役を演じることとなった。

メイン監督としてメガホンを握るのは、スーパー戦隊初となるギャラクシー賞を受賞し大人気作となった『快盗戦隊ルパンレンジャー vs 警察戦隊パトレンジャー』を率いた杉原輝昭さん。仮面ライダーの肝とも言えるバトルシーンを担当するアクション監督には、平成ライダーシリーズで主にサブライダーのスーツアクターとして活躍した渡辺淳さんがご登板となった。ライダーのデザインも、「こんなの仮面ライダーじゃない!」という視聴者からのツッコミをまるで待ち構えていたかのような、ともすれば奇抜とも言える平成ライダーに比べ、ゼロワンは第一義でカッコ良くスタイリッシュなスーツに変わるなど、仮面ライダーの歴史やこれまでの作品で培ってきたノウハウは生かしつつ目に見えて大きな変化を感じる部分もあり、『ゼロワン』は放送前からとにかく話題に事欠かなかったライダーでもある。

そんな『ゼロワン』の第1話は、売れっ子お笑い芸人を目指す主人公・飛電或人が「やっべぇー!遅刻だー!」と叫びながら営業先の遊園地に自転車を爆走させるシーンから始まる。この世界では亡き或人の祖父、飛電是之助が開発した人工知能搭載人型ロボット「ヒューマギア」が人々の仕事や生活をサポートしており、それは所謂エンタメ界でも同様であった。古風なダジャレ芸がまったくウケない或人に比べ、ヒューマギアの芸人がバンバン笑いを取るようになっており、或人は遊園地の支配人からはクビを言い渡されてしまう。途方に暮れる或人だが、そこに社長秘書ヒューマギア、イズが現れ、或人は飛電インテリジェンスの重役会議に急遽参加することとなる。そこでなんと是之助が遺言状の中で、孫である或人を自分の跡取りとして指名していたことが判明。会社経営経験もないお笑い芸人である或人がなぜ!?と狼狽える会社役員らと或人。

そんな折、人類を滅亡させようと企むハッキング集団「滅亡迅雷.net」が、「ゼツメライザー」なる装置で遊園地のヒューマギア芸人を凶暴化させ「マギア」という名の怪人に変えてしまう。楽しさあふれる空間から、一瞬にして惨状と化す遊園地。或人は人々の夢と笑顔を守るため、ヒューマギアを制御できる唯一の対抗手段であり飛電インテリジェンス社長の証でもあるゼロワンドライバーを手にすると、仮面ライダーゼロワンに変身するのだった……。

仮面ライダーゼロワン_03
©石森プロ・東映

ここから始まるこの或人の仮面ライダーゼロワンへの初変身は、もうシリーズ屈指の名シーンと言えるのではないだろうか。主役の或人を演じるのは俳優の高橋文哉さん。今でこそ話題のドラマや映画に多数出演し、日本映像界のスター街道をひた走る人気俳優となった彼だが、当時はこの『ゼロワン』が連続ドラマへの出演としては初という全くの新人であった。しかし、彼の類稀なる演技力はこの時から健在で、人の夢を嘲笑うマギアに「笑うなよ……何も分かってないくせに、人の夢を笑うんじゃねぇよ!」とタンカを切る場面は、いつ観てもハッと息を呑むほどの迫真さだ。「人の夢ってのはな……検索すれば分かるような、そんな単純なものじゃねえんだよ!」顔じゅうに傷をつくり、ボロボロになりながらそう叫ぶ或人。その傍らでゼロワンドライバーを携えるイズが、いささか戸惑いの表情を浮かべながらそれを見守る。「なあ、そのドライバーがあれば、アイツをどうにかできるんだよな!?」或人に問われたイズはプログラム通り「はい。我が社の社長の座に着く者のみ……」と説明しかけるが「いいからそれを俺にくれ!!」と手を伸ばしてきた或人に遮られ、「承知しました。或人様」そう言ってイズは或人にドライバーを渡す。

それを手にしたら、もう二度と元の自分には戻れない。歴代の仮面ライダーたちが辿ってきた、運命的な瞬間に胸が高鳴る。或人がドライバーを腰に装着すると、彼の脳は人工知能と同じ思考速度を持ち、ものの数秒で全てのマニュアルを習得。「ラーニング完了……!」と呟き、変身アイテムであるプログライズキーを展開。現れた巨大な銀色のバッタが彼の周囲を飛び跳ねる中、前を見据えたまま凛々しく「変身!!」と宣してキーをドライバーに装填すると、或人は仮面ライダーゼロワン ライジングホッパーへと変身するのであった。

まず驚くのは、パキッとしたネオンイエローとブラックのカラーリングが目を引くスマートなライダースーツ。そしてそれを見事に着こなすゼロワンのスーツアクター縄田さんの圧倒的なスタイルの良さだ。顔の小ささ、スラリとした腕、そして日常生活ではまずほぼお目にかかることのないレベルの長い脚。マギアに名を問われ、「ゼロワン!それが俺の名だ!」そう言って敵に走り込み強烈なパンチを一発お見舞いするポージングの美しさ……。

だが、「カッコいい」一辺倒なのかと言われればそんなことなく、地面から遠く離れたジェットコースターのレールまで一度ジャンプのひとっ飛びできてしまうことにゼロワン自身が「エーッ!脚のパワー、ハンパね~!!」とふくらはぎをバンバン叩きながら感嘆したり、戦いをサポートしようとイズが投げたアタッシュケースがゼロワンの顔面に直撃してしまい悶絶するゼロワンにイズが「或人様!すみませんでした!」と生真面目に謝るなど、或人の気さくさやイズの可愛らしさが伝わるシーンを加えることで、クールな見た目のゼロワンに親近感やコミカルさを与えているのがいい。

仮面ライダーゼロワン_04
©石森プロ・東映

そしてやはり何と言ってもこの回一番の見どころは、OP主題歌「REAL×EYEZ」をバックにゼロワンがマギアと遊園地の駐車場で戦うクライマックスのバトルシーンであろう。かまいたちのような切れ味のマギアの波動攻撃を次々と避けていくゼロワン。美しい宙返りでそれらをかわしたかと思えば、空中に浮き上がった車を足場にして、なんと宙を舞う路線バスの中にフロントガラスを破って突っ込んでみせるのだ。バスの中では手すりを両手で掴んで懸垂のようにぐるりと一回転してみたり、狭い車中を縦横無尽に飛び回ったりと、ゼロワンのどこまでも軽やかで自由な動きに圧倒させられる。ジャンプの拍子にゼロワンの足の裏が降車ボタンを押し、「ツギ、トマリマス」というアナウンスを残しながらバスが大爆発するシーンは、第1話のハイライトとして特に記憶に残っている視聴者も多いはずだ。

「お前を止められるのはただ1人、俺だ!」番組を代表するキメ台詞と共に、上空で必殺技のライダーキック「ライジングインパクト」で敵の身体を貫くゼロワン。まぶしい青空をバックにマギアのネジや部品、オイルがスローモーションで飛び散る中、キックの余韻を残すキリリとしたゼロワンの横顔……もうやばい。イケメンすぎる。

極め付けは画面の縦と横に次々と表示される「ラ・イ・ジ・ン・グ・イ・ン・パ・ク・ト」の文字。ゲームの必殺技エフェクトを思わせるこの文字演出は、『ゼロワン』を代表する映像と言って過言ではないだろう。「なんだこれ!めちゃくちゃカッコいい!」と驚いたのをよく覚えている。無事にマギアを撃破し遊園地を守り抜いたものの、その代わりに半ばなし崩し的に祖父の跡を継ぎ大企業の社長になってしまった或人。彼はこれからイズ、そして対人工知能特務機関「A.I.M.S.」のメンバーたちと、人間と人工知能の「夢」を巡る滅亡迅雷を始めとする大きな「悪意」との戦いに身を投じていくことになるのだが、それはまだ先の話だ。

仮面ライダーゼロワン_02
©石森プロ・東映

『ゼロワン』は放送途中に新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、一時放送休止になるなど未曾有の事態に襲われ困難も多かった作品だが、新進気鋭のスタッフとキャストたちの熱意によって完結まで導かれた意欲作でもある。特に『劇場版 仮面ライダーゼロワン REAL×TIME』はTVシリーズの真の最終章とも呼べる名作なので、本編を最後まで観た方は是非とも劇場版もチェックしてほしい。

また、『ゼロワン』のメイン監督である杉原輝昭さんは、9月から放送が始まったシリーズ最新作『仮面ライダーガヴ』でもメイン監督を務めており、人間をお菓子に変えて食べる一族に生まれながらも人間を守る心やさしきお菓子の仮面ライダー、ガヴのスーツアクターは縄田さんがご担当されている。

そして『ゼロワン』でA.I.M.S.の技術顧問 刃唯阿が変身する仮面ライダーバルキリーのスーツアクターを務めた藤田慧さんは『仮面ライダーガヴ』では『仮面ライダーギーツ』に続きアクション監督として『ガヴ』のバトルシーンを抜群の映像センスでポップかつダークにクリエイトしている。『ガヴ』から仮面ライダーを見始めたという方も是非この機会に『ゼロワン』も視聴してみてはいかがだろうか。令和ライダーの新時代を切り拓いた『ゼロワン』の勇敢さと情熱は、歴史の最先端を今まさに走り出した『ガヴ』にも確かに受け継がれている。

※スーツアクター情報は本人調べ

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